夜行性の暴君

恩陀ドラック

文字の大きさ
62 / 119
ダンピールの章

可愛い大事な3

しおりを挟む
 


 微妙な沈黙を乗せて車は祥子の自宅マンションに到着した。吸血鬼らしくがらんとした室内。その中央に異彩を放つ物体が鎮座している。艶々に加工された美しいマホガニー製の棺が一基。吸血鬼の象徴とも言えるそれに昢覧のテンションも上がる。


「おお!  あれで寝てるの?」

「まさか。それより首を戻して……」


 あれだけ実力差を体感したらこれ以上は逆らわないだろうと判断し、昢覧は首を返してやった。傷口が塞ぎきるのを待たず、祥子が棺の蓋を外しにいく。納められていたのは契約型吸血鬼だった。サテンのフリルとリボンが盛沢山な、ガーリーな下着のセットアップがよく似合う十四・五歳の美少女。


「よかった……いい子でお留守番できたわね。偉いわ、和花奈」


 抱き起して頬に口付けると少女は薄っすらと目を開けた。


「返して……私の……心臓……」

「まだだめ。もう少し我慢してね。朝になったら返してあげる」


 祥子は額にキスをして、起き上がろうとする和花奈を棺に押さえつけた。和花奈の胸には、心臓がある筈の場所にぽっかりと穴が開いていた。そのせいでかなり衰弱しているが、そうでなくとも弱そうだ。逆に、とても弱いはずの伝染型吸血鬼である祥子はまあまあ強い。


「おまえはなんなの?  人外よね?」


 祥子は絢次の正体がわからず、頭のてっぺんから爪先までじろじろと睨みつけた。余計なことを言わないように躾けられている絢次は、困ったように昢覧を見る。


「こいつは人狼だよ。珍しいだろ」

「ふぅん。あんまり和花奈に近付かないでよね。この子処女なの。悪戯したら承知しないから」

「しねーよ。こいつは俺とおば……こ、こいつはおばちゃんにしか興味ないから安心しろ!  それより祥子はどうやって吸血鬼になった?」

「自分のことなんて覚えてないけど、儀式以外に方法ある?」

「儀式ってなに?」

「あんたほどの吸血鬼が知らない訳ないじゃない。私を試してるの?」

「内臓使うあれのこと言ってる?  試すってどういうこと?」


 ある程度の強さを手に入れた吸血鬼なら、例の儀式について必ず知っている。悪魔の贈り物と言われていて、啓示のように下りてくるのだそうだ。そんなRPGでレベルが上がって魔法が閃くみたいな不思議体験ができるなんて初耳だ。たぶん先に知ってしまったせいでイベントが流れてしまったのだろう。


「嘘だろ、そっちから先に教えてくれれば俺だって……」

「もし力の足りない吸血鬼が儀式をやるとよくないことが起こるんですって」

「なにそれ。それも初めて聞いた」

「だから普通は教えないのよ。あんた嫌われてんじゃない?」

「嫌われてねえわ!」


 昢覧が自分の内臓を出すのは無理だ。それができないなら危ない目にも遭わない。あのとき明日紀が言っていた「どうせ」はそういう意味だったのだろう。それはさておき、悪魔や儀式を知っている祥子も契約型吸血鬼ということになる。


「棺桶ん中のやつも普通の吸血鬼だよな?」

「そうよ。私が儀式をしてあげたの。かわいいでしょ。私たちは特別な関係なの。愛し合ってるのよ」

「あんたが普通の吸血鬼なら、なんで生理があるんだ?」

「うふふ、これね、この子の血なの。生理じゃない」


 祥子は血で汚れたスカートと下着を脱ぎ捨て、棺の縁に片足を置いた。血塗れの股間を広げて指を突っ込む。


「特別に見せてあげる。んっ……」


 ぐちゅぐちゅと中を探っていた指が奥に入っていた目当ての物を掴んだ。ぬぽんと肉の塊が引っ張り出される。祥子は垂れ下がる管を咥えて頬をすぼめ、自分の愛液と血が混じりあった液体を飲み干した。


「見て、この子の心臓。この子ったら、こうして私が心臓を預かっておかないとお留守番ができないの。困った子でしょう?  でもそういうとこも可愛いのよぉ」

「へー」


 変わったことをするなぁ。ただそう思った。明日紀や壱重にいちいち反応する普段の昢覧が異常であり、本来性的対象外の同族同士で多少の痴態を見せられてもどうとも思わないのが正常だ。


「返して……お母さん……」

「おかあさん!?」


 やっぱり妊娠できるのかと思ったら吸血鬼化の前に産んだ娘だった。祥子と和花奈は昢覧と同じ契約型の吸血鬼である。二人は血の繋がった実の母娘であり、吸血鬼としても母娘で、肉体関係にあった。娘が逃げられないように夜は心臓を抜き取り、昼は棺に入れて南向きの部屋に置く。祥子は和花奈を大人にするつもりがない。食事も、苦痛も、快楽も、全て自分の手から与えると決めている。いつまでも無知で頼りない、自分だけの少女でいてほしかった。

 祥子は台所に行って、いつものようにケーキスタンドに心臓を載せ硝子の蓋を被せた。その隙に和花奈が呟く。


「助けて……」


 和花奈は祥子から自由になりたかった。心臓を質に服従を強いられているだけで、こんな生活は望んでいない。でもずっと囲い込まれている未熟な和花奈には、ただでさえ立場の強い親吸血鬼に逆らえるだけの力がなかった。昢覧は母より強そうで、母の味方というわけでもなさそう。彼なら自分を逃がしてくれるかもしれない。


「なんで?  面白いかーちゃんじゃん。どうせ弱いんだしこのまま守られてたら?」

「そうよ~、和花奈。我儘言っちゃだぁめ」


 望みを断ち切られた和花奈は静かに涙を流した。







しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

王様の恥かきっ娘

青の雀
恋愛
恥かきっ子とは、親が年老いてから子供ができること。 本当は、元気でおめでたいことだけど、照れ隠しで、その年齢まで夫婦の営みがあったことを物語り世間様に向けての恥をいう。 孫と同い年の王女殿下が生まれたことで巻き起こる騒動を書きます 物語は、卒業記念パーティで婚約者から婚約破棄されたところから始まります これもショートショートで書く予定です。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

処理中です...