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ダンピールの章
可愛い大事な3
しおりを挟む微妙な沈黙を乗せて車は祥子の自宅マンションに到着した。吸血鬼らしくがらんとした室内。その中央に異彩を放つ物体が鎮座している。艶々に加工された美しいマホガニー製の棺が一基。吸血鬼の象徴とも言えるそれに昢覧のテンションも上がる。
「おお! あれで寝てるの?」
「まさか。それより首を戻して……」
あれだけ実力差を体感したらこれ以上は逆らわないだろうと判断し、昢覧は首を返してやった。傷口が塞ぎきるのを待たず、祥子が棺の蓋を外しにいく。納められていたのは契約型吸血鬼だった。サテンのフリルとリボンが盛沢山な、ガーリーな下着のセットアップがよく似合う十四・五歳の美少女。
「よかった……いい子でお留守番できたわね。偉いわ、和花奈」
抱き起して頬に口付けると少女は薄っすらと目を開けた。
「返して……私の……心臓……」
「まだだめ。もう少し我慢してね。朝になったら返してあげる」
祥子は額にキスをして、起き上がろうとする和花奈を棺に押さえつけた。和花奈の胸には、心臓がある筈の場所にぽっかりと穴が開いていた。そのせいでかなり衰弱しているが、そうでなくとも弱そうだ。逆に、とても弱いはずの伝染型吸血鬼である祥子はまあまあ強い。
「おまえはなんなの? 人外よね?」
祥子は絢次の正体がわからず、頭のてっぺんから爪先までじろじろと睨みつけた。余計なことを言わないように躾けられている絢次は、困ったように昢覧を見る。
「こいつは人狼だよ。珍しいだろ」
「ふぅん。あんまり和花奈に近付かないでよね。この子処女なの。悪戯したら承知しないから」
「しねーよ。こいつは俺とおば……こ、こいつはおばちゃんにしか興味ないから安心しろ! それより祥子はどうやって吸血鬼になった?」
「自分のことなんて覚えてないけど、儀式以外に方法ある?」
「儀式ってなに?」
「あんたほどの吸血鬼が知らない訳ないじゃない。私を試してるの?」
「内臓使うあれのこと言ってる? 試すってどういうこと?」
ある程度の強さを手に入れた吸血鬼なら、例の儀式について必ず知っている。悪魔の贈り物と言われていて、啓示のように下りてくるのだそうだ。そんなRPGでレベルが上がって魔法が閃くみたいな不思議体験ができるなんて初耳だ。たぶん先に知ってしまったせいでイベントが流れてしまったのだろう。
「嘘だろ、そっちから先に教えてくれれば俺だって……」
「もし力の足りない吸血鬼が儀式をやるとよくないことが起こるんですって」
「なにそれ。それも初めて聞いた」
「だから普通は教えないのよ。あんた嫌われてんじゃない?」
「嫌われてねえわ!」
昢覧が自分の内臓を出すのは無理だ。それができないなら危ない目にも遭わない。あのとき明日紀が言っていた「どうせ」はそういう意味だったのだろう。それはさておき、悪魔や儀式を知っている祥子も契約型吸血鬼ということになる。
「棺桶ん中のやつも普通の吸血鬼だよな?」
「そうよ。私が儀式をしてあげたの。かわいいでしょ。私たちは特別な関係なの。愛し合ってるのよ」
「あんたが普通の吸血鬼なら、なんで生理があるんだ?」
「うふふ、これね、この子の血なの。生理じゃない」
祥子は血で汚れたスカートと下着を脱ぎ捨て、棺の縁に片足を置いた。血塗れの股間を広げて指を突っ込む。
「特別に見せてあげる。んっ……」
ぐちゅぐちゅと中を探っていた指が奥に入っていた目当ての物を掴んだ。ぬぽんと肉の塊が引っ張り出される。祥子は垂れ下がる管を咥えて頬をすぼめ、自分の愛液と血が混じりあった液体を飲み干した。
「見て、この子の心臓。この子ったら、こうして私が心臓を預かっておかないとお留守番ができないの。困った子でしょう? でもそういうとこも可愛いのよぉ」
「へー」
変わったことをするなぁ。ただそう思った。明日紀や壱重にいちいち反応する普段の昢覧が異常であり、本来性的対象外の同族同士で多少の痴態を見せられてもどうとも思わないのが正常だ。
「返して……お母さん……」
「おかあさん!?」
やっぱり妊娠できるのかと思ったら吸血鬼化の前に産んだ娘だった。祥子と和花奈は昢覧と同じ契約型の吸血鬼である。二人は血の繋がった実の母娘であり、吸血鬼としても母娘で、肉体関係にあった。娘が逃げられないように夜は心臓を抜き取り、昼は棺に入れて南向きの部屋に置く。祥子は和花奈を大人にするつもりがない。食事も、苦痛も、快楽も、全て自分の手から与えると決めている。いつまでも無知で頼りない、自分だけの少女でいてほしかった。
祥子は台所に行って、いつものようにケーキスタンドに心臓を載せ硝子の蓋を被せた。その隙に和花奈が呟く。
「助けて……」
和花奈は祥子から自由になりたかった。心臓を質に服従を強いられているだけで、こんな生活は望んでいない。でもずっと囲い込まれている未熟な和花奈には、ただでさえ立場の強い親吸血鬼に逆らえるだけの力がなかった。昢覧は母より強そうで、母の味方というわけでもなさそう。彼なら自分を逃がしてくれるかもしれない。
「なんで? 面白いかーちゃんじゃん。どうせ弱いんだしこのまま守られてたら?」
「そうよ~、和花奈。我儘言っちゃだぁめ」
望みを断ち切られた和花奈は静かに涙を流した。
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