2 / 4
せんぱい! 事件が起きました!
しおりを挟む
「へ?」
「堕ろしなさい今すぐ! いや、何言ってるのか私も分からないけれど、とにかくそれは認められないわ! お金なら出してあげるからはやく!」
「いやいや、赤ちゃんができたことは別に問題じゃなくてですね!」
「問題でしょう!」
「せんぱい! 落ち着いてください!」
「いやいや、落ち着くのはあんたのほうでしょうが!」
「この前せんぱいにもらったメダカちゃんの赤ちゃんの話です!」
発狂寸前になってしまった私に、慌てた陽向がそうつけ加えたので、私の頭は急速に冷却された。そうだ、そういえばそんなことあったな。……冷静に考えて女同士で赤ちゃんできるわけないだろまったく……私のバカ。
「……それを先に言いなさい」
「ごめんなさい、ちょっとからかっただけですけど、まさかせんぱいがこんなにパニックになるなんて……」
陽向の申し訳なさそうな顔が見れるのは百年に一度かもしれない。とにかくレアだ。
「……メダカに子供ができたのね。おめでとう。ちゃんと赤ちゃんは水槽分けてる?」
メダカのような飼育が楽な小魚は、一人暮らしで寂しいけど犬や猫などのペットは飼えない独身女子の嗜みのようなものだ……と勝手に思っている。陽向にも「私にベタベタしてくるのはきっと寂しさの表れに違いない」と思って、4月の早い段階でウチで飼っていたメダカのつがいを分けてあげたのだ。
おまけに、水槽の掃除用の『シマカノコガイ』というタニシのような貝をつけて……
結局、「この子たちをせんぱいだと思って大切にしますね!」みたいな謎コメントをしてきただけで、陽向のベタベタが治ることはなかった。
「はい……せんぱいの言いつけ通りやってるんですけど……」
仕事もよくできる陽向のことだから、きっと私の言ったとおり、水草も濾過装置もしっかり取り付けて、子供が産まれたらすぐに別の水槽に移しているのだろう。
「何か問題でも……?」
「わたしとせんぱいがラブラブすぎてちょっと増えすぎちゃって……大きな水槽と中くらいの水槽と、小さな水槽の三つに分けているんですけど……」
「……ん?」
なんか聞き捨てならないことを聞いたような気がするけど、いちいちつっこんでいたら休み時間が終わってしまうので、軽く首を傾げるだけにしておく。
「なかなか増えないんですよぉ!」
「はぁ? 増えすぎたんじゃないの?」
「えーっと、赤ちゃんをどんどん入れてもなかなか数が増えない水槽があって……」
「不思議ね」
「不思議ねじゃないですよ! 赤ちゃん死んじゃってるんですよ!? わたしとせんぱいの愛の結晶が!!」
ほんとにそんなもんがあるんだとしたらどんどん死んでくれて問題ない。
が、メダカの赤ちゃんはれっきとした生き物であり、その命が無為に失われているというのは私も少し気になった。もしかしたら陽向が変なことしてるのかもしれない。だとしたら止めさせないと。
「あっ、今『もしかしたら陽向が変なことしてるのかもしれない。止めさせないと』って思いましたね!? わたしちゃんとやってますからね! せんぱいの子供に酷いことするわけないじゃないですか!」
「思考読むのやめてくれる?」
ムスッと膨れてしまった陽向。私はそんな彼女に質問を投げかけてみた。
「……その水槽、ちゃんと濾過装置つけてるのよね?」
「全部の水槽につけてますけど」
だとすれば一つ気がかりなことがある。
「稚魚吸い込み防止用のフィルターはつけてる?」
「……なんですかそれ?」
はぁ、やっぱりか。言ったことはしっかりできるが、それ以上のことは望めないのが陽向の欠点だ。予め指示しておけばよかった。
「初心者がやりがちなミス……というかありがちな事故というか。濾過装置の吸い込み口に稚魚が吸い込まれちゃうことがあるのよ。だからフィルターをつけないといけなかったの」
「そうだったんですね! じゃあ早速帰りにホームセンターに寄って買ってみます!」
「……これでよくなるといいわね」
私が答えると、陽向は満面の笑みで立ち上がり、「ありがとうございます~! るんたったるんたった~」と上機嫌にスキップをしながら去っていった。――私の前に手作りのお弁当を残して。うるさいのが去ったのはいいけれど……はぁ……これどうしよ。
♪。.:*・゜♪。.:*・゜♪。.:*・゜
翌日、朝出勤すると、早速隣の席の陽向が話しかけてきた。
「せんぱいせんぱい! 買いましたよフィルター! ほら、これですよね!?」
ハイテンションで私にスマートフォンの画面を見せつけてくる。そこには確かにホームセンターで買ってきたと思われる稚魚吸い込み防止用のフィルターがパッケージに入った状態で写っていたのだが……なんで陽向自身がピースサインしながら写りこんでるんだろう。……こういうところ「自分はかわいい」って自覚しているようでムカつく。
「あー、それよそれ。いちいち見せつけなくてもいいのよ。みんな注目してるから」
朝っぱらから密着する陽向と私は視線を向けられがちだ。身体を無理やり押しのけるとまた陽向は頬を膨らませてしまった。
「だってぇ……こっそり送ろうにもせんぱいわたしにRINNE《りんね》教えてくれないじゃないですかぁ!」
RINNEとは最近若者の間で流行っているメッセージアプリで、私も当然やっているのだけど、そんなものの連絡先をこいつに教えてしまっては24時間365日ずっとクソどうでもいいメッセージが送られてきて、時間を無駄にすることになるのは火を見るより明らかである。死んでも教えるかボケ。
まあこれでメダカのお世話に集中して私へのマークが薄くなってくれればそれに越したことはないのだけど……
――そんな私の願いは呆気なく打ち砕かれた
「堕ろしなさい今すぐ! いや、何言ってるのか私も分からないけれど、とにかくそれは認められないわ! お金なら出してあげるからはやく!」
「いやいや、赤ちゃんができたことは別に問題じゃなくてですね!」
「問題でしょう!」
「せんぱい! 落ち着いてください!」
「いやいや、落ち着くのはあんたのほうでしょうが!」
「この前せんぱいにもらったメダカちゃんの赤ちゃんの話です!」
発狂寸前になってしまった私に、慌てた陽向がそうつけ加えたので、私の頭は急速に冷却された。そうだ、そういえばそんなことあったな。……冷静に考えて女同士で赤ちゃんできるわけないだろまったく……私のバカ。
「……それを先に言いなさい」
「ごめんなさい、ちょっとからかっただけですけど、まさかせんぱいがこんなにパニックになるなんて……」
陽向の申し訳なさそうな顔が見れるのは百年に一度かもしれない。とにかくレアだ。
「……メダカに子供ができたのね。おめでとう。ちゃんと赤ちゃんは水槽分けてる?」
メダカのような飼育が楽な小魚は、一人暮らしで寂しいけど犬や猫などのペットは飼えない独身女子の嗜みのようなものだ……と勝手に思っている。陽向にも「私にベタベタしてくるのはきっと寂しさの表れに違いない」と思って、4月の早い段階でウチで飼っていたメダカのつがいを分けてあげたのだ。
おまけに、水槽の掃除用の『シマカノコガイ』というタニシのような貝をつけて……
結局、「この子たちをせんぱいだと思って大切にしますね!」みたいな謎コメントをしてきただけで、陽向のベタベタが治ることはなかった。
「はい……せんぱいの言いつけ通りやってるんですけど……」
仕事もよくできる陽向のことだから、きっと私の言ったとおり、水草も濾過装置もしっかり取り付けて、子供が産まれたらすぐに別の水槽に移しているのだろう。
「何か問題でも……?」
「わたしとせんぱいがラブラブすぎてちょっと増えすぎちゃって……大きな水槽と中くらいの水槽と、小さな水槽の三つに分けているんですけど……」
「……ん?」
なんか聞き捨てならないことを聞いたような気がするけど、いちいちつっこんでいたら休み時間が終わってしまうので、軽く首を傾げるだけにしておく。
「なかなか増えないんですよぉ!」
「はぁ? 増えすぎたんじゃないの?」
「えーっと、赤ちゃんをどんどん入れてもなかなか数が増えない水槽があって……」
「不思議ね」
「不思議ねじゃないですよ! 赤ちゃん死んじゃってるんですよ!? わたしとせんぱいの愛の結晶が!!」
ほんとにそんなもんがあるんだとしたらどんどん死んでくれて問題ない。
が、メダカの赤ちゃんはれっきとした生き物であり、その命が無為に失われているというのは私も少し気になった。もしかしたら陽向が変なことしてるのかもしれない。だとしたら止めさせないと。
「あっ、今『もしかしたら陽向が変なことしてるのかもしれない。止めさせないと』って思いましたね!? わたしちゃんとやってますからね! せんぱいの子供に酷いことするわけないじゃないですか!」
「思考読むのやめてくれる?」
ムスッと膨れてしまった陽向。私はそんな彼女に質問を投げかけてみた。
「……その水槽、ちゃんと濾過装置つけてるのよね?」
「全部の水槽につけてますけど」
だとすれば一つ気がかりなことがある。
「稚魚吸い込み防止用のフィルターはつけてる?」
「……なんですかそれ?」
はぁ、やっぱりか。言ったことはしっかりできるが、それ以上のことは望めないのが陽向の欠点だ。予め指示しておけばよかった。
「初心者がやりがちなミス……というかありがちな事故というか。濾過装置の吸い込み口に稚魚が吸い込まれちゃうことがあるのよ。だからフィルターをつけないといけなかったの」
「そうだったんですね! じゃあ早速帰りにホームセンターに寄って買ってみます!」
「……これでよくなるといいわね」
私が答えると、陽向は満面の笑みで立ち上がり、「ありがとうございます~! るんたったるんたった~」と上機嫌にスキップをしながら去っていった。――私の前に手作りのお弁当を残して。うるさいのが去ったのはいいけれど……はぁ……これどうしよ。
♪。.:*・゜♪。.:*・゜♪。.:*・゜
翌日、朝出勤すると、早速隣の席の陽向が話しかけてきた。
「せんぱいせんぱい! 買いましたよフィルター! ほら、これですよね!?」
ハイテンションで私にスマートフォンの画面を見せつけてくる。そこには確かにホームセンターで買ってきたと思われる稚魚吸い込み防止用のフィルターがパッケージに入った状態で写っていたのだが……なんで陽向自身がピースサインしながら写りこんでるんだろう。……こういうところ「自分はかわいい」って自覚しているようでムカつく。
「あー、それよそれ。いちいち見せつけなくてもいいのよ。みんな注目してるから」
朝っぱらから密着する陽向と私は視線を向けられがちだ。身体を無理やり押しのけるとまた陽向は頬を膨らませてしまった。
「だってぇ……こっそり送ろうにもせんぱいわたしにRINNE《りんね》教えてくれないじゃないですかぁ!」
RINNEとは最近若者の間で流行っているメッセージアプリで、私も当然やっているのだけど、そんなものの連絡先をこいつに教えてしまっては24時間365日ずっとクソどうでもいいメッセージが送られてきて、時間を無駄にすることになるのは火を見るより明らかである。死んでも教えるかボケ。
まあこれでメダカのお世話に集中して私へのマークが薄くなってくれればそれに越したことはないのだけど……
――そんな私の願いは呆気なく打ち砕かれた
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
せんせいとおばさん
悠生ゆう
恋愛
創作百合
樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。
※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。
春に狂(くる)う
転生新語
恋愛
先輩と後輩、というだけの関係。後輩の少女の体を、私はホテルで時間を掛けて味わう。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5251id/
カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330654752443761
放課後の約束と秘密 ~温もり重ねる二人の時間~
楠富 つかさ
恋愛
中学二年生の佑奈は、母子家庭で家事をこなしながら日々を過ごしていた。友達はいるが、特別に誰かと深く関わることはなく、学校と家を行き来するだけの平凡な毎日。そんな佑奈に、同じクラスの大波多佳子が積極的に距離を縮めてくる。
佳子は華やかで、成績も良く、家は裕福。けれど両親は海外赴任中で、一人暮らしをしている。人懐っこい笑顔の裏で、彼女が抱えているのは、誰にも言えない「寂しさ」だった。
「ねぇ、明日から私の部屋で勉強しない?」
放課後、二人は図書室ではなく、佳子の部屋で過ごすようになる。最初は勉強のためだったはずが、いつの間にか、それはただ一緒にいる時間になり、互いにとってかけがえのないものになっていく。
――けれど、佑奈は思う。
「私なんかが、佳子ちゃんの隣にいていいの?」
特別になりたい。でも、特別になるのが怖い。
放課後、少しずつ距離を縮める二人の、静かであたたかな日々の物語。
4/6以降、8/31の完結まで毎週日曜日更新です。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
身体だけの関係です‐原田巴について‐
みのりすい
恋愛
原田巴は高校一年生。(ボクっ子)
彼女には昔から尊敬している10歳年上の従姉がいた。
ある日巴は酒に酔ったお姉ちゃんに身体を奪われる。
その日から、仲の良かった二人の秒針は狂っていく。
毎日19時ごろ更新予定
「身体だけの関係です 三崎早月について」と同一世界観です。また、1~2話はそちらにも投稿しています。今回分けることにしましたため重複しています。ご迷惑をおかけします。
良ければそちらもお読みください。
身体だけの関係です‐三崎早月について‐
https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/500699060
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる