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せんぱい! 謎解きの時間です!
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♪。.:*・゜♪。.:*・゜♪。.:*・゜
さらにその翌日の朝のこと。
「せ、せんぱぁぁぁぁいっ!」
「何よまったく……」
切羽詰まったような様子の陽向に私は面倒くさそうに応じた。すると彼女はマシンガンのようにまくし立て始めた。
「あの、あのあの! せんぱいに教えてもらったとおり、濾過装置にフィルターをつけてしばらく様子を見てみたんですけど、やっぱりいくら赤ちゃん入れても増えないというか、前とあまり変わらないみたいな状態で! もっとせんぱいとの愛を育みたいわたしとしてはなんとしてもこの状況をなんとか――」
「――はいストップ」
止めたら止まってくれた。素直な子は好きです。
「順を追って説明してくれる? まずフィルターつけたのよね?」
「はい! ちゃんとつけました。そして、『これでもう大丈夫だろ』って思ってその後も赤ちゃんを入れていったんですけど、また少しずつ減っているようで……いくら入れても増えないんです」
「なるほどねぇ……だったらフィルターが原因じゃないか……エサは? ちゃんと稚魚用のあげてるわよね?」
「当たり前ですよ。ちゃんとせんぱいがオススメしてくれたのをあげてます1日3回!」
メダカの稚魚はこまめに餌をあげる必要がある。働いている私たちは家族にお願いしたり、タイマーつきの自動エサやり機を使ったりするのだが、陽向の場合は自ら決められた時間にあげているらしい。それでも、3回あげていれば問題はないはずだ。第一、一つの水槽だけに被害が出ているということからも、エサやりの頻度が問題ではないことがうかがえる。
一つの水槽にだけ……これがヒントかもしれない。
私は陽向に質問を投げかけてみた。
「ちなみにその、被害が出ている水槽ってどんな水槽?」
陽向は左手の人差し指を顎に当てて考えるような仕草をしていたが――
「――一番小さい水槽です」
「小さい水槽?」
「はい、大中小のうち、小の水槽です」
……だとすれば考えられるのはこれかな。
「……水温」
「えっ?」
「だから水温。最近暑くなってきたでしょ? だから温度変化に弱い稚魚はやられやすいのよ。小さい水槽だとその分入っている水も少ないから、温度変化も激しい。――水槽、直射日光が当たるような場所に置いてない?」
「……あ、置いてるかもです。水草があるので」
やっぱり。それが原因か。
「水草は種類にもよるけど、市販のライトで照らしてれば枯れないから。一回日陰に移してみたら? あと温度計入れて水温が28度超えないように気をつけなさい」
「はーい、やってみまーす! あ、水草はせんぱいにオススメされた『アナカリス』っていう水草を入れているので……」
「なるほど、それなら室内灯だけでも十分ね」
「はい! ありがとうございますせんぱい!」
言いたいことだけ言って、彼女は自分のパソコンに向かって猛然とキーボードを叩き始めた。まったく、都合のいいやつだ。
翌日、陽向は「水槽の場所を移しましたぁ!」と報告してきて、それを数日の間彼女がメダカの話をすることはなかった。私はてっきり問題は解決したのかと思った。……のだが。
♪。.:*・゜♪。.:*・゜♪。.:*・゜
「せんぱい!」
「今度はどうした……」
陽向の表情はいつになく真剣なものだった。
「やっぱり、わたしとせんぱいの愛は実らないのでしょうか!」
「当たり前でしょ! 諦めて誰かいい男探しなさいよ」
何を言うかと思えば……。しかし、いつも不気味なまでにポジティブな陽向からは信じられない、何か変なものでも食べたのではなかろうか。
「嫌です!」
「声がデカい」
そろそろ無視してやろうか。いい加減「なんでいつもあいつが陽向ちゃんと一緒におるの?」っていう周囲の視線が痛いのだけど。まわりの男衆、陽向《こいつ》は多分お前らにはなびかないから諦めろよー?
「……実は」
「なによ?」
「まだ小さい水槽に入れた赤ちゃんが死んじゃってるみたいで……」
なるほど、それで落ち込んでいたのか。
「もう諦めて別の水槽買ったら?」
「嫌です! わたしとせんぱいの愛はそんな呪われた水槽ごときで打ち砕かれるようなヤワなものではないはずです!」
「いや、あんたのそんなふざけたプライドのために無為に死んでいくメダカの赤ちゃんのこと考えてみ!?」
「はっ、せんぱいもわたしとの愛の結晶を大切だと思って――」
「ない! 私は一匹の生物としてメダカを心配してるの!」
「まーたまた照れちゃってー!」
ほんとうるさいなこいつ。
「でも、さすがにメダカ博士のせんぱいもそろそろお手上げですよねー?」
フィルターでもない、エサでもない、水温でもないとすると……あと考えられるのは病気とかだけど、だとしたら徐々にではなく一気に病気にかかるはず。うーん……でもこういう言い方されたら本気で考えないと私のプライドに関わる。
「もう少し、何かない? 気づいたこと」
「うーん……特には?」
「例えばそうね。……赤ちゃんが減り始めたのは最初から?」
「いいえ、寂しいかなと思って水草を入れた時からです」
「じゃあそれが原因じゃない!」
「でも、なんで水草がいけないんですかぁ? 水草がメダカを食べるんですか?」
「水草そのものに問題はなかったとしても、農薬とかがついてたりするのよ」
いや、これは違うな。言いながら私は気づいた。そんな残留農薬ごときでメダカが死ぬことは稀だし、濾過してるうちにどんどん薄くなるはずなので、未だに被害が続いているのは説明がつかない。
「三つの水槽全部同じ店で買った同じ水草を入れてるんですよ? やっぱり――」
「……ごめんさっきのなし」
私は必死に頭を働かせた。今わかっている情報を整理してみる。
①水槽に入れた赤ちゃんメダカが少しずつ減っている
②被害があるのは小さな水槽
③水草を入れた時から被害が始まった
④濾過装置のフィルターのせいではない
⑤エサはしっかりあげている
⑥水温のせいでもない
⑦病気のせいでも残留農薬のせいでもない
ここから導き出されることは……?
――ん?
私はふと、とある可能性が残っていることに気づいた。かなり稀だけれど可能性としては有り得る。これなら全ての説明がつく!
答えは――さっき陽向が言ってたじゃん!
さらにその翌日の朝のこと。
「せ、せんぱぁぁぁぁいっ!」
「何よまったく……」
切羽詰まったような様子の陽向に私は面倒くさそうに応じた。すると彼女はマシンガンのようにまくし立て始めた。
「あの、あのあの! せんぱいに教えてもらったとおり、濾過装置にフィルターをつけてしばらく様子を見てみたんですけど、やっぱりいくら赤ちゃん入れても増えないというか、前とあまり変わらないみたいな状態で! もっとせんぱいとの愛を育みたいわたしとしてはなんとしてもこの状況をなんとか――」
「――はいストップ」
止めたら止まってくれた。素直な子は好きです。
「順を追って説明してくれる? まずフィルターつけたのよね?」
「はい! ちゃんとつけました。そして、『これでもう大丈夫だろ』って思ってその後も赤ちゃんを入れていったんですけど、また少しずつ減っているようで……いくら入れても増えないんです」
「なるほどねぇ……だったらフィルターが原因じゃないか……エサは? ちゃんと稚魚用のあげてるわよね?」
「当たり前ですよ。ちゃんとせんぱいがオススメしてくれたのをあげてます1日3回!」
メダカの稚魚はこまめに餌をあげる必要がある。働いている私たちは家族にお願いしたり、タイマーつきの自動エサやり機を使ったりするのだが、陽向の場合は自ら決められた時間にあげているらしい。それでも、3回あげていれば問題はないはずだ。第一、一つの水槽だけに被害が出ているということからも、エサやりの頻度が問題ではないことがうかがえる。
一つの水槽にだけ……これがヒントかもしれない。
私は陽向に質問を投げかけてみた。
「ちなみにその、被害が出ている水槽ってどんな水槽?」
陽向は左手の人差し指を顎に当てて考えるような仕草をしていたが――
「――一番小さい水槽です」
「小さい水槽?」
「はい、大中小のうち、小の水槽です」
……だとすれば考えられるのはこれかな。
「……水温」
「えっ?」
「だから水温。最近暑くなってきたでしょ? だから温度変化に弱い稚魚はやられやすいのよ。小さい水槽だとその分入っている水も少ないから、温度変化も激しい。――水槽、直射日光が当たるような場所に置いてない?」
「……あ、置いてるかもです。水草があるので」
やっぱり。それが原因か。
「水草は種類にもよるけど、市販のライトで照らしてれば枯れないから。一回日陰に移してみたら? あと温度計入れて水温が28度超えないように気をつけなさい」
「はーい、やってみまーす! あ、水草はせんぱいにオススメされた『アナカリス』っていう水草を入れているので……」
「なるほど、それなら室内灯だけでも十分ね」
「はい! ありがとうございますせんぱい!」
言いたいことだけ言って、彼女は自分のパソコンに向かって猛然とキーボードを叩き始めた。まったく、都合のいいやつだ。
翌日、陽向は「水槽の場所を移しましたぁ!」と報告してきて、それを数日の間彼女がメダカの話をすることはなかった。私はてっきり問題は解決したのかと思った。……のだが。
♪。.:*・゜♪。.:*・゜♪。.:*・゜
「せんぱい!」
「今度はどうした……」
陽向の表情はいつになく真剣なものだった。
「やっぱり、わたしとせんぱいの愛は実らないのでしょうか!」
「当たり前でしょ! 諦めて誰かいい男探しなさいよ」
何を言うかと思えば……。しかし、いつも不気味なまでにポジティブな陽向からは信じられない、何か変なものでも食べたのではなかろうか。
「嫌です!」
「声がデカい」
そろそろ無視してやろうか。いい加減「なんでいつもあいつが陽向ちゃんと一緒におるの?」っていう周囲の視線が痛いのだけど。まわりの男衆、陽向《こいつ》は多分お前らにはなびかないから諦めろよー?
「……実は」
「なによ?」
「まだ小さい水槽に入れた赤ちゃんが死んじゃってるみたいで……」
なるほど、それで落ち込んでいたのか。
「もう諦めて別の水槽買ったら?」
「嫌です! わたしとせんぱいの愛はそんな呪われた水槽ごときで打ち砕かれるようなヤワなものではないはずです!」
「いや、あんたのそんなふざけたプライドのために無為に死んでいくメダカの赤ちゃんのこと考えてみ!?」
「はっ、せんぱいもわたしとの愛の結晶を大切だと思って――」
「ない! 私は一匹の生物としてメダカを心配してるの!」
「まーたまた照れちゃってー!」
ほんとうるさいなこいつ。
「でも、さすがにメダカ博士のせんぱいもそろそろお手上げですよねー?」
フィルターでもない、エサでもない、水温でもないとすると……あと考えられるのは病気とかだけど、だとしたら徐々にではなく一気に病気にかかるはず。うーん……でもこういう言い方されたら本気で考えないと私のプライドに関わる。
「もう少し、何かない? 気づいたこと」
「うーん……特には?」
「例えばそうね。……赤ちゃんが減り始めたのは最初から?」
「いいえ、寂しいかなと思って水草を入れた時からです」
「じゃあそれが原因じゃない!」
「でも、なんで水草がいけないんですかぁ? 水草がメダカを食べるんですか?」
「水草そのものに問題はなかったとしても、農薬とかがついてたりするのよ」
いや、これは違うな。言いながら私は気づいた。そんな残留農薬ごときでメダカが死ぬことは稀だし、濾過してるうちにどんどん薄くなるはずなので、未だに被害が続いているのは説明がつかない。
「三つの水槽全部同じ店で買った同じ水草を入れてるんですよ? やっぱり――」
「……ごめんさっきのなし」
私は必死に頭を働かせた。今わかっている情報を整理してみる。
①水槽に入れた赤ちゃんメダカが少しずつ減っている
②被害があるのは小さな水槽
③水草を入れた時から被害が始まった
④濾過装置のフィルターのせいではない
⑤エサはしっかりあげている
⑥水温のせいでもない
⑦病気のせいでも残留農薬のせいでもない
ここから導き出されることは……?
――ん?
私はふと、とある可能性が残っていることに気づいた。かなり稀だけれど可能性としては有り得る。これなら全ての説明がつく!
答えは――さっき陽向が言ってたじゃん!
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