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第31話 調査任務

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「あれって、聖剣騎士団だな」
「うん、青赤緑ってことは……えーっと誰だっけ?」
「七聖剣第二席、トルステン・ヘーザー、第五席、アーベル・ネルリンガー、第六席、ルナ・サロモン」

 気づくとノエルがクロエの横に立ってコメントしている。こいつらに男の部屋に入ることに対する抵抗感は存在しないらしい。まあいいんだけどね。今さら気にしたところでしょうがない。それよりも今は聖剣騎士団の動きの方が気になる。

「聖剣騎士団はどこに向かってるんだろうな」
「わからないけど、あちらの方角では、戦争っていうわけではなさそう。恐らくモンスターの討伐、それも七聖剣が三人も出張るようなモンスターというと……」

 そう言われて思い浮かぶものは一つしかない。俺の中では既に確信に近いものがあった。だが一応確認のために口を開く。

「ドラゴン……とかかな……」

 すると、クロエは待ってましたとばかりに目を輝かせる。

「そうだよね!? ドラゴンだよね!? よし、今すぐみんなを集めて対策会議だよ!」
「いやなんでだよ。仮にドラゴンだとしても聖剣騎士団に任せておけばいいだろ?」
「でも、ルナちゃんを放っておけなくない? ドラゴンの討伐なら冒険者にも依頼が来てるかもだし」
「聖剣騎士団は王国の機密事項に近いから、共闘するのは同じく聖剣騎士団の別部隊のみ。冒険者に声がかかることはないと思うぞ」
「でも、ドラゴンを倒すためには協力しないと!」

 クロエはそう言って身を乗り出すが、ノエルにやんわりと止められる。

「ダメだよクロエ。ドラゴンはデスナイトとは格が違うから。もし私達が戦っても負けるのは必至、下手をすれば全滅の可能性すらある」
「むぅ……」

 クロエは悔しそうに下唇を噛んで俯く。そんな彼女にノエルは優しい声で語りかける。

「だからここは大人しくしよ。ね?」

 クロエは少しの間思案していたが、やがてゆっくりと顔を上げる。

「バカ乳の言うとおりかもしれないわね。それに、私たちの目的は聖フランシス教団の壊滅であってドラゴンの討伐じゃないし」
「そうそう、やっと分かってくれたか。俺たちは俺たちにできることをやるぞ」

 俺はそう言ってクロエを諭すと、彼女は渋々といった感じではあったがなんとか了承してくれた。
 ……しかしこのとき俺は見落としていたのだ。俺の言葉を聞いたノエルの表情に一瞬だけ暗い影が差したことを。


 その後、俺たち四人は再びクエストを受注しに冒険者ギルドを訪れた。俺たちが建物に入った瞬間、中にいた冒険者たちがザワめいた。

「なあ見ろよ。あれが昨日ジャイアント・デスナイトを討伐した『月の雫』だぜ」
「嘘だろ、ガキばっかりの四人パーティーじゃねぇか」
「あぁ、なんでも結成したばかりの新人ギルドらしい」

 とか何とか話しているのが聞こえる。
 どうやら俺達のことはもうすっかり噂になっているようだった。まあ目立つことをしてしまえばこうなることも想定していたのだが、実際にそうなってみると居心地が悪いものだ。

「なんだか注目されてるな。さっさとクエストを受けちゃおう」
「うん」
「オッケー!」

 俺は相変わらず暇そうにしていた受付嬢のエリノアに声をかける。

「すみません、ちょっと聞きたいんですけど」
「男と話す気はねーんですけど?」

 と相変わらず塩対応だ。俺は気にせず続ける。

「また緊急クエストとか来てたりしませんかね?」
「緊急クエストがそんな頻繁に来るわけないでしょ。バカなんじゃないのこの男」
「ですよねぇ……」

 と残念がっていると、背後にいたクロエが「あの……実は」と言って口を挟む。

「聖剣騎士団が王都を出ていったみたいなんですよ。エリノアさんは何か情報掴んでたりします?」
「あのね、情報っていうのはタダでもらえると思わない方がいいわよ? 欲しいならそれなりの対価を差し出さないとね」

 とか言いながらこの変態はどうせ対価としてクロエやノエルの身体を触りたがっているに違いない。

「対価? お金ですか?」
「あたしがお金で満足すると思う? 優秀なギルド受付嬢として多額の報酬を受け取っているこのエリノア・クルーゲが?」

 そう言ってドヤ顔をするエリノア。するとクロエが困ったように呟く。

「だったら……」
「決まってるでしょう! 身体よ身体! クロエちゃん、お姉さんといいことしましょう!」
「……っ!?」

 エリノアのセクハラ発言を真に受けたのか、クロエは頬を赤らめて固まってしまった。このやり取り以前も似たようなことをやったはずなんだけどなぁ。たまらず俺は助け舟を出す。

「あの、あんまりウチのメンバーに変なことしないでもらえます?」
「うっさい! 黙れ! 男はすっこんでろ!」

 と怒鳴られる始末。
 仕方ないので無視してクロエに話しかける。

「クロエはエリノアさんの相手はしなくていいからな」
「……うん」
「はぁ、つれない子ねぇ……」

 とか何とかいいながら、エリノアはどさくさに紛れて、近くに立っていたノエルの大きな胸に触れていた。全く油断も隙もない。すると、ノエルが「……んッ」と甘い吐息を漏らす。その色っぽい反応を見た周囲の冒険者どもがゴクリと唾を飲み込む。
 これ以上騒ぎが大きくなる前にさっさと用件を伝えよう。

「じゃあエリノアさん、俺たちにちょうどいいクエストを見繕ってもらえますか?」
「仕方ないわね。賄賂もいただいたし、特別よ?」

 エリノアはそう言いながらまだノエルの胸をワシワシとしている。賄賂を渡したというか、こいつが勝手に受け取ってるだけのような気がする。すると彼女は名残惜しそうにしながらもようやくノエルの胸から手を離した。

「そうねぇ、あなたたちにピッタリなのはコレかしら」

 彼女がカウンターの下から取り出してきた紙には、大きな文字で『緊急クエスト』と書いてあった。

「なんだ、緊急クエストあるんじゃねぇかよ!」
「まあ、緊急クエストなんて探せばいくらでもあるのよ。依頼主が緊急だと判断したらそれは緊急クエストになるんだから」

 さっきと言っていることが真逆である。全く信用ならない女だ。まあいいや、とにかく今はコイツの言葉を信じるしかない。
 俺は依頼内容を確認しようと紙を手に取る。

「えっとなになに……? 調査任務?」

 そこにはこう書かれていた。

【急募】ドラゴンに関する調査任務
 場所:南の街ハーフェン周辺
 概要:休眠中のドラゴンの巣穴に聖フランシス教団の手の者が出入りしているという情報あり。至急真偽の確認を要請します。なお、もしこれが本当であった場合、聖フランシス教団の目的を明らかにしてください。
 報酬:金貨50枚
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