俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流

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第36話 契約

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「『クリムゾン・フレア』ッ!」

 フローラがそう叫びながら炎剣を振り抜く。ドラゴンの放った炎とフローラの炎はその中間地点で激しくぶつかり合い、相殺された。だがその衝撃でフローラの身体は吹き飛ばされ、後方へ転がっていく。

「ナイスフォロー!」

 身を呈して隙を作ってくれたフローラに感謝しつつ、さらに距離を詰めていく。あともう少しだ。その時。
 ガアァッ!!  再びドラゴンが大きく吠えた。その直後、周囲に暴風が巻き起こり、俺は一瞬にしてその渦中へと巻き込まれてしまう。

「──なにこれ!?」

 クロエが叫ぶ。俺は風の抵抗を受けながらもなんとか声を出した。

「風属性魔法だ……っ!」

 ルナが使っていたものよりもさらに強力な風の刃をまとった竜巻。
 まずい。非常にまずい状況だ。おそらくこのままではこの竜巻によって全員バラバラにされてしまう。どうにかしなければ。
 だが、考えれば考えるほどに思考は空回りし、何も思いつかない。やがて俺たちは、それぞれ別々の方向に飛ばされた。そして──


  ──気づけば、俺は真っ暗な空間に一人立っていた。
 周囲は何も見えない。だが不思議と恐怖心はなかった。まるで、俺の心にぽっかりと空いた穴を埋めるように何か暖かいものが流れ込んでくる感覚がある。すると。


『やっと一つになれたね……』


 という誰かの声が頭に響いた。聞いたことのあるようなないような声。誰のものなのかもわからないのに、なぜか懐かしさを感じる不思議な少女の声だった。俺の目の前にはぼんやりとした人影のようなものが浮かんでいる。あれは……一体……? ……まさか!

「……お前は?」
『私は聖魔龍『リンドヴルム』。今はあなたと会話をするために人間の姿をとっている』
「リンドヴルム? この魔剣の名前か?」
『いいえ、正確にはその魔剣はかつてドラゴンだった私の牙を錬成して作られたもの。私の魂はずっとその魔剣に宿っていた』
「……ってことは、お前はつまり、この剣そのものだって言うのか!?」

 俺の言葉を聞いたリンドヴルムは小さく微笑んだ。

『今はそうなるね』
「……じゃあ、なんで今まで俺の前に現れなかったんだ?」

 俺が尋ねると、リンドヴルムは再び微笑んで答える。

『私を手にした者は皆貧弱だった。私が力を発揮するために体力を吸い取ると、気味悪がって手放すか、力に溺れてそのまま破滅した。でも、あなたはそのどちらにもならなかった。──そうやってあなたの体力を吸っているうちに、私もあなたのことがよく理解できるようになってきた』
「俺のことがよく理解できたから、こうして出てきたっていうこと?」
『ピンチみたいだから取引をしようと思って。今ならあなたの望む力を貸せる』

 なるほど。それで俺が弱るのを待って、姿を現したというわけか。なかなか食えないやつじゃないか。

『ねぇ、どうするの? 今戦ってる相手は邪龍『アムルタート』っていって私の古い知り合い。ちょっと気に食わないやつだから私としても力を貸すのはやぶさかではない』
「契約の条件は?」
『あなたが死ぬまで、ずっと私に体力を吸わせること。握ってない時も傍において力を捧げ続けること。──私を手放したらあなたは死ぬ。その代わり私は全力であなたを守る。それでどう?』

 確かに、ここでこいつの力を借りることができればドラゴンを倒せるかもしれない。だが、ここで断れば下手すれば仲間は全滅する。
 なるほど、最初から俺が断れないことを見越しての交渉か。これは一本取られた。さすがは伝説のドラゴンというべきか。ならば。

「よし、契約しよう」

 俺が決断すると、リンドヴルムと名乗った少女は嬉しそうに顔を綻ばせた。直後、暗闇の中に眩い光が生まれる。


 その光が収まると、目の前には先程のドラゴンが今にも俺に襲いかかろうとしていた。リンドヴルムが『アムルタート』と呼んでいたやつだ。どうやら現実世界に戻されたらしい。ということは契約は成立したのだろうか?
 今は考えている時間はない。とにかくやるしかない! 俺は剣を構える。アムルタートが雄叫びをあげてこちらへ突っ込んできた。そしてその勢いのまま、鋭利な爪を振り下ろしてくる。──だが! 

 キィン!

 アムルタートの攻撃を弾く音が洞窟内に響き渡る。アムルタートの一撃は、俺に届くことはなかった。代わりに俺の手に伝わってきた感触は、とても軽いものだった。嘘だろ? 最強種ドラゴンの一撃を余裕で防げている!
 俺は、思わず目を疑う。魔剣『リンドヴルム』が今まで見たことの無い光を放っていたのだ。

「くらえぇぇぇっ!!」

 俺はそのままリンドヴルムを横薙ぎに振り抜く。体力が急激に吸われる感覚と共に刀身から一瞬大きなドラゴンの幻影のようなものが見えた気がした。次の瞬間。
 ズドンッッッッッ!!!!! 凄まじい手応えと共に俺はアムルタートの攻撃をリンドヴルムで弾き返していた。

「今だクロエっ!!」

 俺が叫ぶとほぼ同時にクロエがアムルタートの背後から現れ、ユニークスキルを発動させる。

「──『ライフドレイン』!」

 クロエの放つ緑のオーラに包まれたアムルタートは見る間にその動きが鈍くなり、やがてその場に倒れた。やったか!? 

 だが。

 グオォッ!! 突然、アムルタートが起き上がりクロエを振り払うと、その巨体からは想像できないほどの俊敏さで洞窟の奥に逃げてしまった。

「逃げられたか……」

 俺が悔しそうに呟くとクロエは静かに言った。

「ええ、でもみんな生きてる。それでいいじゃない」

 そうだな。俺はクロエの言葉に大きく首肯した。そして同時に思った。
 俺はまだ、この仲間たちと一緒に旅を続けたいと強く願った。──もう二度と大切な人を失いたくない。
 俺の心の穴を埋めてくれた彼女たちのためにも、俺ももっと強くなりたい。この命尽きるまで、必ず守れる強さを手に入れると心に誓ったのだった。


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