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7話・デートの後
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しおりを挟むもういい時間になってきたことだし帰ったらすぐに夕食にしようと思っていたがそうはならなかった。ルイスの部屋には先客が居て、ソファに座っている彼女はスリットから覗く艶めかしい足を惜しげもなく晒し、帰って来た私たちの姿に気付いて顔を上げる。
う、美しい・・・。
「おかえり。結構遅かったな」
「母様、どうしたのこんな時間に」
思わずため息が出るほど美しい王妃様は私の顔を見てニヤリと口角を上げた。その唇を彩る真っ赤な紅もよく似合っている。
「ようやく時間ができたから、ルイスの彼女と食事でもと思って」
しょ、食事!?今から王妃様と!?なんの準備もしてないのに!どうしよう!
頭の中パニックになっている私をよそにルイスは小さくため息を吐きだしてから笑う。
「なにそれ、僕抜きなの?」
「女同士ってのは話したいことが山のようにあるもんなんだよ」
「同席してもいいじゃん」
「女子会に男はいらないもんなの」
「仕方ないなあ」
ハキハキと言いたいことを言う押しの強い王妃様に、ルイスは仕方ないなと意見を飲み込んでしまった。ってそんなにあっさり諦めないで!もっと粘りなさいよ!
私の願いも虚しく話がまとまってしまい、ルイスは笑顔で連行されていく私を手を振りながら見送った。私は王妃様にガッチリと腕を掴まれてされるがままの半強制連行。
「ごめんな。もうちょっと早く誘いたかったんだけど、今決算期でね、ずっと忙しかったんだ」
「あ、はい。秋は収穫の時期ですし」
この時期の国はどこもてんやわんやだろう。グレスデンも例に漏れず今頃は大忙しに違いない。
「そうなんだよ~。レオナードも城出てっちゃってるからさ、ようやく時間ができたんだよね」
レオナードとはどなたかしら、と疑問に思ったのは一瞬、すぐにそれがドローシア国王陛下の名だということを思い出した。妻と言えど国王の名前を呼び捨てにするなんて噂に違わずとても仲が良い夫婦のようだ。まるで普通の恋人のよう。
「はあ、それにしてもお腹空いた。ねえ、ドローシアの食事って口に合ってる?ちゃんと食べれた?」
「はい、もちろん。とても美味しくいただいております」
「良かったー。さあ、早く食べよ食べよ」
王妃様に半ば強制的に連れてこられた場所はルイスの部屋からずいぶん近かった。廊下を少し行って、階段を上ったらすぐ近くにある大きな扉の部屋。趣はほとんど変わらなかったけど、半分開いた扉から見える部屋は何十人分のベッドが並べられるんだろうというくらいえげつない広さだった。ルイスの部屋の倍はある。
「どうぞ座って」
既に侍女たちが整列し食事もテーブルの上に綺麗に並べられていた。しかしちゃんとお料理からは湯気が立っていて出来立てだということがわかる。タイミング見計らい過ぎでしょ。プロだわ。
「お邪魔します」
緊張して変なことを口走りませんように、と自分を戒めながら椅子に座る。あんなに一緒に居るのが嫌だったルイスも今は一緒に居て欲しいと思うくらいなんだか心細かった。王妃様は気さくで優しくてとてもいい方だけど、言いたいことはすぐに仰るからいつも押され気味なのだ。
「いただきまーす」
グラスにワインを注がれると王妃様はその細い体からは想像できないくらいにスルスルと食べ始めた。っていうかその量よ。ルイスより多いかもしれない。
「いただきます」
私も彼女に習って遠慮がちにブロッコリーをフォークに刺す。ただの添え物だと思っていたがしっかり味付けされており驚いた。煮る時に味をつけているんだろうか、芸が細かい。
「シンシアはワイン飲めるの?」
「はい。グレスデンは飲み物は果実酒が主流なので。ドローシアは成人前の飲酒が禁じられているのでこちらでは口にしていませんが・・・」
「そうなんだ。私は普段からあまりアルコールは飲まないんだけどね。グレスデンの果実酒は有名だってことくらいは知ってるよ」
「ありがとうございます」
言い換えれば、それしか特に名の知られているものはない。世間でグレスデンと言えば雪と果実酒くらいのものだ。
「それでね、オリヴィアのドレスの件なんだけどね。覚えてる?」
わざわざ王妃様と会う機会を設けられた理由はあの件を話すためだったのかと気づき、私ははっとして背筋を正した。
「はい、もちろん。あの時は私のためにわざわざ開いていただいた夜会であのような真似をしてしまい―――」
「あー、いいのいいの」
申し訳ありませんでした、と続けようとした言葉は見事に遮られた。では何だろうかと私は控えめに顔を上げて王妃様の顔を見る。
「オリヴィアのドレスからもシンシアのドレスからも何も出なかった。目撃している人も居なかったし、調べてみても何が起こったのかちょっと分からなくてね」
気味が悪い。あんなにザックリとドレスが裂けるなんて自然に起こるものではない。引っかけるような突起物も周辺には無かったと思う。
「ごめんなー、全然力になれなくて。あたしらが気付くのがもう少し早かったら何かわかってたかもしれないのに」
「いいえそんな、王妃様に謝っていただくことなんて何も・・・」
「結果的にシンシアには助けられたよ。あの場で無実を証明しなかったらシンシアが犯人扱いされていたのは確実だろうから」
そっか。まあ頭がカッとなってやってしまっただけなんだけど、結果オーライだわ。ルイスの嫌味を受ける羽目になったけど良かった良かった。
王妃様は責任を感じているのかううっと項垂れて申し訳なさそうに言う。
「嫁入り前に裸を人目に晒すなんて本当可哀そうなことをしちゃって。大丈夫、ルイスに責任は取らせるからな」
「いいえ!そんな!お気遣いなく!」
今までにないほど冷や汗がダーッと流れた。責任って何ですか。怖いんだけど!
「え?結婚しないの?」
「結婚!?」
きょっとん、と目を丸くして不思議そうに尋ねてくる王妃様。
やっぱりそうなるかー!責任って言葉を聞いたときに嫌な予感がしたのよね!なんとかして体よく断らなければ!
「わ、わた、わた、わたしたちは愛し合っているとは言え一目惚れでそし!」
めちゃくちゃ噛んでしまった。
「あの、今はまだお互いを知る大事な時間だと思っていますし!十分幸せですからその先はまだ考えていなくてっ・・・!」
「うーん、でも好き合ってるんだし結婚しちゃった方が国としてはいいんじゃないかな?曖昧な今の状況よりずっとマシになると思うけど」
その通りなんですーーー!!
私は心の中で涙を流した。よりにもよって一番考えたくなかったところを突っ込まれてしまうとは。ルイスと結婚、ええ、考えるだけで恐ろしいですとも。国のためにお父様が決めたのなら従うけど、あのルイスも賛成するとは思えない。私としてはそもそも考えたくない。
「た、大変光栄なことです。そのうち、ルイス・・・殿下と話してみます」
「そんな遠慮しなくたって私が話つけてあげるのに」
「あの!恋の三段活用と申しまして!」
私はガタッと大きな椅子の音を立てて勢いよく立ち上がった。
「物事には順序と言うものが・・・!」
パニックになり過ぎて自分で何を言っているのかよくわからなかった。ってか恋の三段活用ってなによっ!
「三段活用?なんのことだ」
私に突っ込みを入れたのは王妃様でも侍女達でもなく、新たに扉からやって来た人物のものだった。聞き覚えのある声に吃驚する。
「レオナード!帰って来たのか!おかえり!」
まさかの陛下の登場に私は立ったまま硬直する。王妃様はにこーっと嬉しそうに笑って真っ先に陛下に向かって飛び付いて行った。
広い広い部屋の奥の方にあるベッドに枕が2つ並んでいることに気付いて納得する。そうか。ここ、夫婦で使っている部屋なのね。んで、タイミング悪く帰って来ちゃったのね。
「ただいまヴィラ。変わりはなかったか?」
「無かったよー」
そのままちゅーっと当たり前のように自然にキスをする2人。私は慌てて両手で顔を覆った。まさか他人のラブシーンをこんな間近で見ることになるなんて。
例えようのない居心地の悪さとちょっとだけの好奇心、他人のキスを目撃したことのなかった私には刺激が強すぎてどうすればいいのかわからない。すぐに終わるかと思いきやお2人の絡みは更にエスカレートした様子で(見てはいないが察した)、ますますどうすればいいかわからなくなった私は助けを求めて周りの人々を見た。しかし、侍女の皆さんはごく普通の表情をして当たり前のように綺麗な整列を保ったまま。
え?なにこれドローシアでは普通なの?
長すぎるキスに居たたまれなさの限界が見えて来たその時、また別の人物が部屋に訪れた。
「あ、やっぱり帰って来てたんだ」
ルイスだわ!救世主!
「ちょっ!ちょっ!ルイス!」
息子がやって来たというのにドローシアの陛下と王妃様は気にも留めず、未だにちゅっちゅちゅっちゅと仲良くやっている。私は助けを求めてルイスに駆け寄った。
「どうすればいいの!?」
小声で彼に詰め寄れば、ルイスはなんてことない表情で言う。
「いつもの事だから気にしなくていいよ」
「ドローシアの夫婦ってこんな感じなの!?」
「そうなんじゃないの?」
ドローシアは令嬢の貞操にえらく厳しいって聞いていたから男女の交際はかなり厳格なんだろうと思っていた。既婚者に限ってはオープンなのかしら。
「そ、そう・・・」
ルイスにとってはこの2人が恋人の基準なのね。通りで人前でのスキンシップが過剰なわけだ。納得。むしろファーストキスを死守できただけ有難いのかもしれない。
ルイスは私の腰に手を回すとさり気無くソファの方へ誘導した。
「しばらく時間かかりそうだし、僕たちもゆっくりしてようか」
「そ、そうね」
帰りたい!けど断りもなく勝手に部屋に戻るわけにもいかないし、今王妃様に話しかけることもできない。陛下の前だからちゃんとルイスの恋人のフリをしなければ。
にしても気まずいわ。なんてったってすぐ側でちゅっちゅしている人たちがいるんだもの!
私の両親も仲が良い方だと思うけれど、人目がある場所でイチャイチャするような人たちではなかった。想像しようとしてもできないくらい。
「それで、母様とは何を話してたの?」
ソファに座るとさっそくルイスから質問が来る。
「夜会でのオリヴィアさんのドレスのことを話してくださったわ。それくらいよ」
もちろん後半の件くだりは端折った。
「それだけ?」
「ええ」
「ふーん・・・」
なによその返事。何か言いたいことがあるならはっきり言えば?と言いたくなるような何かを濁した返事だった。
「それにしても、あの、どれくらい時間がかかるものなのかしら」
「さあね。満足すれば終わるんじゃないかな」
「いつもあんなに仲が良いのね」
「そうだよ。周りのことなんて眼中になし」
眼中になし、かあ。やっぱり恋をすると周りが見えなくなるものなのかしら。
「父様と母様は子どもも大事にしてるけど、一番はお互いなんだよ。世界に2人しか居なくても構わないんだろうね」
「へえ、ロマンチックね」
「どうかな。結構周りは迷惑しているよ」
ええ、まあ、それはそうでしょうけれど。私は苦笑した。
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