5 / 79
4 マルタ食堂
しおりを挟む
『マルタ食堂』と木の看板が飾られている。見たところ大衆食堂のようだ。香ばしい香りや何かを似ている、確実に美味しい香りがする……!
自称料理研究家としても、単純にめちゃめちゃ食べたい俺としても、入らざるを得ない。鼻をフンと鳴らし、気合いを入れた。
扉を押して中に入る。ガチャガチャ、ザワザワ……と、人が生活をする音が聴こえる。何人かは入り口の俺をチラりと見て、また食事に戻って行った。
あ、今こっちを見た人のご飯美味しそう……。
友達はいないが、人見知りではない俺は男性の背後に近付き声をかける。
「あのーお食事中すみません、今ちょっとお時間よろしいですか?」
大体は「よろしくないです」とお断りされるような声掛けをした俺に、座ったまま、体ごと振り返ってこちらを見てくれた。
「なんだ貴族の坊ちゃん。一人でこんなところまで来て大丈夫なのか?」
「えぇーヤダなぁ。貴族じゃないですよ。どこにでもいる商人の息子ですよ」
事前に考えていた、ウソかホントか分からない、その場では調べようのないことを口実にその質問をサラリと躱す。
「お兄さんの食べてる料理が美味しそうで、どんな味がするのかとか、どんな食材使ってるのかとか知りたくて。チラッと見せてもらえるだけでも嬉しいんだけど」
「人が食べてる料理見たいとか変わってんな……。良いとこの坊ちゃん感は隠せてないけど……まぁ良い。これは魔獣の肉をホロホロになるまで煮込んで今が旬の野菜を入れて更に似たもんだ。味付けは知らんが美味い。詳しくは店主に聞いてみな」
「わー美味しそう! 教えてくれてありがとうございます!」
「貴族のお坊ちゃんが冷やかしに来たのかと思ったら、本当に飯食いたくて来たんだな。俺はダン、冒険者をしている」
「へー冒険者……! 初めて見ました」
「ばっか! お前、ここいら辺にいる平民で冒険者見た事ない奴いるか。黙っとけ」
「はい……」
見た目はゴツイが優しい人のようだ。
「えーと、俺の名前はー。えーと」
「気付かない振りも回数制限あるからな。はよ言え」
「えー、エー、エレン、です!!」
なんとか絞り出した偽名を答えた。
貴族街でも平民街でも馴染むように、丁度良い服を選んで着て、『おうおうおう、そこの兄ちゃん、ここはお貴族様が来るような場所じゃないぜぃ。帰りな! (輩のイメージ)』って絡まれた時用に理由まで考えて準備したけど、偽名のことまでは頭に無かった……。
「その……なんだ。まぁここ座れ。飯食うんだろ?」
俺が名前を答えるだけで疲れてしまった様子を、またもや気付かないフリをして、隣の空いた席を引いてくるダン。や……優しい……。気付かないでいてくれるその回数券は何枚綴りですか……!
ありがたく、引いてくれた椅子に座る。
「注文はどうやってするんですか?」
「んなもん、こっから大声で叫ぶんだよ。『肉炒めくれー! 麦酒付きで!』って」
「え、それでよくちゃんとテーブルに料理が届きますね」
「まぁここに来るやつらは大体が常連で、似たようなもんばっか頼んでるし、店主もその嫁さんも元冒険者だから気が知れててやりとりにも慣れてんのさ」
「なるほどー」
「で、常連以外のやつはここにある紙に食べたいもん書いて店主に渡す」
「あるじゃないですか。一般向けの注文方法あるじゃないですか。何で常連向けの方を教えちゃってるんですか。一見さんがさも常連のように振る舞うってハードル高い以前に冷めた目で見られますよ」
「今はオレといるし構わないと思うが」
「店主の方にもお会いしたいので、ちゃんと書いて渡します」
先程ダンが食べていた料理の名前を聞き、その名前を書く。カウンターでずっと忙しそうにフライパン鍋を振り回している男性に近付く。
「お忙しいところすみません。こちらの注文良いですか?」
邪魔にならないような場所に紙を置き、こちらをチラッと見た男性に会釈しながらその場を離れた。
ムキムキだ! 冒険者はみんなムキムキなんだ……! 極大のフライパン鍋を振り回すのはもはやトレーニングの一貫では……?
ダンが経験した冒険の話を聞きながら、料理が届くのを楽しみに待った。
自称料理研究家としても、単純にめちゃめちゃ食べたい俺としても、入らざるを得ない。鼻をフンと鳴らし、気合いを入れた。
扉を押して中に入る。ガチャガチャ、ザワザワ……と、人が生活をする音が聴こえる。何人かは入り口の俺をチラりと見て、また食事に戻って行った。
あ、今こっちを見た人のご飯美味しそう……。
友達はいないが、人見知りではない俺は男性の背後に近付き声をかける。
「あのーお食事中すみません、今ちょっとお時間よろしいですか?」
大体は「よろしくないです」とお断りされるような声掛けをした俺に、座ったまま、体ごと振り返ってこちらを見てくれた。
「なんだ貴族の坊ちゃん。一人でこんなところまで来て大丈夫なのか?」
「えぇーヤダなぁ。貴族じゃないですよ。どこにでもいる商人の息子ですよ」
事前に考えていた、ウソかホントか分からない、その場では調べようのないことを口実にその質問をサラリと躱す。
「お兄さんの食べてる料理が美味しそうで、どんな味がするのかとか、どんな食材使ってるのかとか知りたくて。チラッと見せてもらえるだけでも嬉しいんだけど」
「人が食べてる料理見たいとか変わってんな……。良いとこの坊ちゃん感は隠せてないけど……まぁ良い。これは魔獣の肉をホロホロになるまで煮込んで今が旬の野菜を入れて更に似たもんだ。味付けは知らんが美味い。詳しくは店主に聞いてみな」
「わー美味しそう! 教えてくれてありがとうございます!」
「貴族のお坊ちゃんが冷やかしに来たのかと思ったら、本当に飯食いたくて来たんだな。俺はダン、冒険者をしている」
「へー冒険者……! 初めて見ました」
「ばっか! お前、ここいら辺にいる平民で冒険者見た事ない奴いるか。黙っとけ」
「はい……」
見た目はゴツイが優しい人のようだ。
「えーと、俺の名前はー。えーと」
「気付かない振りも回数制限あるからな。はよ言え」
「えー、エー、エレン、です!!」
なんとか絞り出した偽名を答えた。
貴族街でも平民街でも馴染むように、丁度良い服を選んで着て、『おうおうおう、そこの兄ちゃん、ここはお貴族様が来るような場所じゃないぜぃ。帰りな! (輩のイメージ)』って絡まれた時用に理由まで考えて準備したけど、偽名のことまでは頭に無かった……。
「その……なんだ。まぁここ座れ。飯食うんだろ?」
俺が名前を答えるだけで疲れてしまった様子を、またもや気付かないフリをして、隣の空いた席を引いてくるダン。や……優しい……。気付かないでいてくれるその回数券は何枚綴りですか……!
ありがたく、引いてくれた椅子に座る。
「注文はどうやってするんですか?」
「んなもん、こっから大声で叫ぶんだよ。『肉炒めくれー! 麦酒付きで!』って」
「え、それでよくちゃんとテーブルに料理が届きますね」
「まぁここに来るやつらは大体が常連で、似たようなもんばっか頼んでるし、店主もその嫁さんも元冒険者だから気が知れててやりとりにも慣れてんのさ」
「なるほどー」
「で、常連以外のやつはここにある紙に食べたいもん書いて店主に渡す」
「あるじゃないですか。一般向けの注文方法あるじゃないですか。何で常連向けの方を教えちゃってるんですか。一見さんがさも常連のように振る舞うってハードル高い以前に冷めた目で見られますよ」
「今はオレといるし構わないと思うが」
「店主の方にもお会いしたいので、ちゃんと書いて渡します」
先程ダンが食べていた料理の名前を聞き、その名前を書く。カウンターでずっと忙しそうにフライパン鍋を振り回している男性に近付く。
「お忙しいところすみません。こちらの注文良いですか?」
邪魔にならないような場所に紙を置き、こちらをチラッと見た男性に会釈しながらその場を離れた。
ムキムキだ! 冒険者はみんなムキムキなんだ……! 極大のフライパン鍋を振り回すのはもはやトレーニングの一貫では……?
ダンが経験した冒険の話を聞きながら、料理が届くのを楽しみに待った。
2
あなたにおすすめの小説
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
転生エルフの天才エンジニア、静かに暮らしたいのに騎士団長に捕まる〜俺の鉄壁理論は彼の溺愛パッチでバグだらけです〜
たら昆布
BL
転生したらエルフだった社畜エンジニアがのんびり森で暮らす話
騎士団長とのじれったい不器用BL
発情薬
寺蔵
BL
【完結!漫画もUPしてます】攻めの匂いをかぐだけで発情して動けなくなってしまう受けの話です。
製薬会社で開発された、通称『発情薬』。
業務として治験に選ばれ、投薬を受けた新人社員が、先輩の匂いをかぐだけで発情して動けなくなったりします。
社会人。腹黒30歳×寂しがりわんこ系23歳。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
龍の寵愛を受けし者達
樹木緑
BL
サンクホルム国の王子のジェイドは、
父王の護衛騎士であるダリルに憧れていたけど、
ある日偶然に自分の護衛にと推す父王に反する声を聞いてしまう。
それ以来ずっと嫌われていると思っていた王子だったが少しずつ打ち解けて
いつかはそれが愛に変わっていることに気付いた。
それと同時に何故父王が最強の自身の護衛を自分につけたのか理解す時が来る。
王家はある者に裏切りにより、
無惨にもその策に敗れてしまう。
剣が苦手でずっと魔法の研究をしていた王子は、
責めて騎士だけは助けようと、
刃にかかる寸前の所でとうの昔に失ったとされる
時戻しの術をかけるが…
【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】
彩華
BL
俺の名前は水野圭。年は25。
自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
新訳 美女と野獣 〜獣人と少年の物語〜
若目
BL
いまはすっかり財政難となった商家マルシャン家は父シャルル、長兄ジャンティー、長女アヴァール、次女リュゼの4人家族。
妹たちが経済状況を顧みずに贅沢三昧するなか、一家はジャンティーの頑張りによってなんとか暮らしていた。
ある日、父が商用で出かける際に、何か欲しいものはないかと聞かれて、ジャンティーは一輪の薔薇をねだる。
しかし、帰る途中で父は道に迷ってしまう。
父があてもなく歩いていると、偶然、美しく奇妙な古城に辿り着く。
父はそこで、庭に薔薇の木で作られた生垣を見つけた。
ジャンティーとの約束を思い出した父が薔薇を一輪摘むと、彼の前に怒り狂った様子の野獣が現れ、「親切にしてやったのに、厚かましくも薔薇まで盗むとは」と吠えかかる。
野獣は父に死をもって償うように迫るが、薔薇が土産であったことを知ると、代わりに子どもを差し出すように要求してきて…
そこから、ジャンティーの運命が大きく変わり出す。
童話の「美女と野獣」パロのBLです
劣等アルファは最強王子から逃げられない
東
BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。
ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる