極悪令息と呼ばれていることとメシマズは直接関係ありません

ちゃちゃ

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4 マルタ食堂

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『マルタ食堂』と木の看板が飾られている。見たところ大衆食堂のようだ。香ばしい香りや何かを似ている、確実に美味しい香りがする……!
 自称料理研究家としても、単純にめちゃめちゃ食べたい俺としても、入らざるを得ない。鼻をフンと鳴らし、気合いを入れた。
 
 扉を押して中に入る。ガチャガチャ、ザワザワ……と、人が生活をする音が聴こえる。何人かは入り口の俺をチラりと見て、また食事に戻って行った。
 あ、今こっちを見た人のご飯美味しそう……。
 友達はいないが、人見知りではない俺は男性の背後に近付き声をかける。
 
「あのーお食事中すみません、今ちょっとお時間よろしいですか?」
 
 大体は「よろしくないです」とお断りされるような声掛けをした俺に、座ったまま、体ごと振り返ってこちらを見てくれた。
 
「なんだ貴族の坊ちゃん。一人でこんなところまで来て大丈夫なのか?」
「えぇーヤダなぁ。貴族じゃないですよ。どこにでもいる商人の息子ですよ」
 
 事前に考えていた、ウソかホントか分からない、その場では調べようのないことを口実こうじつにその質問をサラリとかわす。
 
「お兄さんの食べてる料理が美味しそうで、どんな味がするのかとか、どんな食材使ってるのかとか知りたくて。チラッと見せてもらえるだけでも嬉しいんだけど」
「人が食べてる料理見たいとか変わってんな……。良いとこの坊ちゃん感は隠せてないけど……まぁ良い。これは魔獣の肉をホロホロになるまで煮込んで今が旬の野菜を入れて更に似たもんだ。味付けは知らんが美味い。詳しくは店主に聞いてみな」
「わー美味しそう! 教えてくれてありがとうございます!」
「貴族のお坊ちゃんが冷やかしに来たのかと思ったら、本当に飯食いたくて来たんだな。俺はダン、冒険者をしている」
「へー冒険者……! 初めて見ました」
「ばっか! お前、ここいら辺にいる平民で冒険者見た事ない奴いるか。黙っとけ」
「はい……」
 
 見た目はゴツイが優しい人のようだ。
 
「えーと、俺の名前はー。えーと」
「気付かない振りも回数制限あるからな。はよ言え」
「えー、エー、エレン、です!!」
 
 なんとか絞り出した偽名を答えた。
 貴族街でも平民街でも馴染むように、丁度良い服を選んで着て、『おうおうおう、そこの兄ちゃん、ここはお貴族様が来るような場所じゃないぜぃ。帰りな! (輩のイメージ)』って絡まれた時用に理由まで考えて準備したけど、偽名のことまでは頭に無かった……。
 
「その……なんだ。まぁここ座れ。飯食うんだろ?」
 
 俺が名前を答えるだけで疲れてしまった様子を、またもや気付かないフリをして、隣の空いた席を引いてくるダン。や……優しい……。気付かないでいてくれるその回数券は何枚つづりですか……!
 
 ありがたく、引いてくれた椅子に座る。
 
「注文はどうやってするんですか?」
「んなもん、こっから大声で叫ぶんだよ。『肉炒めくれー! 麦酒付きで!』って」
「え、それでよくちゃんとテーブルに料理が届きますね」
「まぁここに来るやつらは大体が常連で、似たようなもんばっか頼んでるし、店主もその嫁さんも元冒険者だから気が知れててやりとりにも慣れてんのさ」
「なるほどー」
「で、常連以外のやつはここにある紙に食べたいもん書いて店主に渡す」
「あるじゃないですか。一般向けの注文方法あるじゃないですか。何で常連向けの方を教えちゃってるんですか。一見いちげんさんがさも常連のように振る舞うってハードル高い以前に冷めた目で見られますよ」
「今はオレといるし構わないと思うが」
「店主の方にもお会いしたいので、ちゃんと書いて渡します」
 
 先程ダンが食べていた料理の名前を聞き、その名前を書く。カウンターでずっと忙しそうにフライパン鍋を振り回している男性に近付く。
 
「お忙しいところすみません。こちらの注文良いですか?」
 
 邪魔にならないような場所に紙を置き、こちらをチラッと見た男性に会釈しながらその場を離れた。
 ムキムキだ! 冒険者はみんなムキムキなんだ……! 極大のフライパン鍋を振り回すのはもはやトレーニングの一貫では……?
 
 ダンが経験した冒険の話を聞きながら、料理が届くのを楽しみに待った。

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