極悪令息と呼ばれていることとメシマズは直接関係ありません

ちゃちゃ

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16 心通う友達

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 良い目覚めだ……。
 差し込む陽の光で自然と意識が浮上した。こんなに気持ちよく起きれたのはいつぶりだろう。体調も抜群に良い。
 昨夜の記憶が無くて、俺が上半身裸じゃなければ本当に何の問題も無かったのに……。
 旅先の料理に舌鼓を打ったことは覚えている。正確に言うとそこしか覚えていない。ベッドで横になったまま、うーんと考えているとシーツが動いた。隣に顔を向けると、レオンさんが目を覚ましていた。
 
「エレンくんおはよう。体調大丈夫?」
「はい、大丈夫です。その……昨日俺何か……ご迷惑を……?」
「あぁ、覚えてない?」
「その……すみません」
「いや、大丈夫だよ。エレンくんが早々に酔ったから、そのまま宿に戻っただけだよ。ラキくんが宿の主人に酔いに効く薬を貰ってエレンくんに飲ませたんだけど、頭痛いとか気持ち悪いとかない?」
「大丈夫です。そうか、ラキくんにもお礼言わなきゃ。レオンさんご面倒お掛けしました。ありがとうございます。服着てないのはもしかして吐いちゃいました……?」
「いや、水が服に掛かったから脱がしたんだ。そこに掛けて乾かしてある。エレンくんの鞄を開けて良いのか迷って止めたんだ」
「そうだったんですね。重ね重ねありがとうございます。」
「……君はオレを随分信頼してくれてるんだね」
「……? もちろんですよ。俺のために呪いのことを教えてくれて、わざわざここまで一緒に来てくれる人なんて他にいませんよ」
「まぁ警戒されるより良いか。お酒大分弱いみたいだから今後は控えようね」
「うぅ……はい……」
 
 レオンさんが顔を洗っている間に目薬をさしておく。今日はいよいよ呪術師に会える日だ。無事に出会えればだけど。服を着替え、俺も顔を洗って準備をして部屋を出た。宿で軽く食事をとり、馬車へと向かう。シドとラキくんは既にいるようだ。
 
「おはようシド、ラキくん。昨日はごめんね」
「エレンさん! おはようございます。体調大丈夫ですか?」
「うん平気。ラキくんが薬を貰ってくれたんだね。ありがとう!」
「本当は介抱もしたかったんですが……」
「十分だよ、助かった。シドも、昨日俺が迷惑掛けなかった?」
「いや、特に何も無かったよ。酒を勧めて悪かったな」
「いやいや! 自分から飲んだし、お酒に弱いなんて知らなかったし! 今後は飲むの止めとくよ」
「そうしとけ」
 
 
 馬車が動き出す。半日掛からずアルテナに着くはずだ。そしたらシドとラキくんとはお別れか……。寂しいなぁ……。同世代や年下の友人はもちろん初めてで、一緒に過ごした時間はとても楽しかった。一人しんみりしていると、ラキくんが近づいてきた。
 
「エレンさん、アルテナでの用事が済んだらまたアキュレに戻るの?」
「うん、そうなるね。ラキくんたちは今後どうするの?」
「オレたちはしばらくアルテナに滞在する。アルテナで人と待ち合わせをしているんだ」
「そっか……」
 
 俺は二人と友達になれたと思っている。姿も名前も隠していることが心苦しく、だが、もし本当のことを話して離れていったら……と思うと言い出せなかった。だが、自分の気持ちだけは嘘偽りなく話しておきたかった。
 
「俺、ずっと友達がいなくて……。ある事がきっかけで、幼なじみたちに嫌われて……。でも、そのことを話すのはまだ怖くて……。みんなに嫌われるんじゃないかって怖くて……。けど、みんなのこと、本当に好きで、友達だと思ってるから……ごめん……」
 
 こんな自分が彼らを友達だと思っても良いのだろうか……。
 
 
「エレンくん」
「はい……」
「誰にだって、触れられたくないことや、話せない秘密の一つや二つあるものだよ。オレにだってある」
「レオンさんにも?」
「あぁ。今はまだ話せない……。話せる時が来たら……いつになるかは分からない。それでも、オレと友人でいてくれるか?」
「はい……! その……嬉しいです」
 
 シドとラキくんも近付いてきた。
 
「エレン。オレは、お前が何を隠してるのか、知られたくないのか知らねぇ。……でもな、この2、3日でオレが知ったエレンは、どこか抜けてるけど優しくて、礼儀正しくてお酒に弱い、ただの良い奴だよ。エレンがオレに言った言葉も、表情も、全部嘘だったのか?」
「!! 嘘じゃない! むしろ、シドと話している間は、みんなと話している間は、素の自分でいられたと思う。だから……楽しかった」
「分かってるよ。というかお前、嘘付くの下手だと思うぞ」
「え? そう?」
 
「エレンさん。僕、エレンさんのこと全部は知らないけど、本当に大好きだよ。お兄ちゃん以外で仲良くしたいと思ったの、エレンさんだけなんだ。アルテナでの用事が終わったら、手紙を書くよ。会いにも行くよ。だから僕のこと忘れないでね」
「ラキくん……!」
 
 思わずラキくんに抱きついた。『大好き』だなんて、もう家族以外で言われることは無いだろうと思っていた。
 
 エルティアとして、人から好かれることはとうに諦めていた。エレンになったのは、混乱を招かぬよう、買い物がしやすくする為のはずだった。だが、今思うと他の理由があったのかもしれない。
 一度、リセットしたかったのかもしれない。いちから人との関係を築いて、愛し愛されたかったのかもしれない。存在を認めて欲しかったのかもしれない。エルティア自身は黒い髪も目も嫌いじゃないし、友人も欲しいとは思わなかった。それは本当だ。だって黒いというだけで忌避され恐れられているのだから、そんな人たちと関係を築きたいとは思わない。
 黒い色じゃ無かったら違っていたのだろうか……? いや、キールたちは俺の料理のせいで倒れたからどちらにしろ悪童と言われていたかもしれない、それは分からない。
 ただ、欲していた。生まれたままの黒い髪と目で、人を避け、壁を作り、本来の自分を出せないエルティアと、髪と目の色を変え、気持ちも言動もそのままに出せるエレン。姿は違っていても、ありのままの俺自身を見てくれる人を。本来の見た目と関係なく、心を見て、好きになってくれる人を、欲していた。
 
 
「俺も、ラキくん大好きだよ。嬉しい……ありがとう……! 大好き……!」
 
 ぎゅうぎゅうと抱き締める。嬉しい……寂しい……。
 ふと頭を触れられる。顔を上げる。レオンさんの手が置かれて撫でられていた。
 
「君は僕の前でよく泣くね」
 
 そう言っていつの間にか流れていた涙を指でぬぐってくれた。呆れられたのかな……? と思ったが、微笑んでいたので違うと思いたい。
 
「オレも一生懸命でどこか危なっかしいエレンくんのことが可愛くて大好きだよ」
「え!!?」
 
「オレだって……エレンのこと、と、友達として好きだからな! アキュレにもいつか寄るから、その時はちゃんと時間作れよ」
「うん! うん!」
 
 嬉しくてまたポロリと涙を零すと、ラキくんが顔を近付けてペロリと舐めた。……!!? な、舐め……!?
 
「え!? なんでラキくん舐めたの!?」
「愛情表現として、涙で濡れた頬に口付けするんだ。僕の国ではそうなの」
「え……あ、そうなんだ」
「お前、マジで人から騙されないように気をつけろよ」
 
 
 シドとラキくんとの別れを寂しく思っていたが、また会えると思うと気持ちが浮上した。そのままアルテナに着くまでみんなとたわいも無い話を続けていた。
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