19 / 79
18 この世界と知らない世界
しおりを挟む
この世界……? サーリャさんの話していることがよく理解出来ない。
「レオンにも、あまり詳しくは話していないの。私は呪師と呼ばれているけど、大層なことは出来ないの。昔趣味で齧ったタロット占いを少しばかりしててね。カードも手作りで。一応初対面の時にレオンには呪師だと話したけど…。特別な能力はないのだけど、ただ……あなたのことは知っている」
突然のことに、どういう反応をしたら良いのか分からず、口を開いたまま何も言葉が出ず、また閉じた。レオンはじっと成り行きを見守っている。
「怖がらせるつもりはないの。信じられないかもしれないけど、まずは私のことを話すわ」
サーリャさんから聞いた話は、まさに信じられない内容だった。彼女は生まれた時に前世の記憶があった。だが、年齢と共にその前世の記憶は薄れていったという。小さい頃は文字も書けないし、残っている記憶を書き留めることは出来なかったと。だがある日、急に強烈な既視感を覚えた。旅先でナルカデア王国に寄った際に幼いレオンを見た時だった。その時初めて、前世で自分が読んだ物語の世界にいるのでは、という可能性に気付いたという。その時、彼女は50歳を超えていた。
「驚いたわ。知っている物語が始まる大分前に生まれたものだから、登場人物もストーリーも全然関係ないし。ただ、この先何が起こるのかは少し分かっていた。ただ、私はもう50歳を過ぎていて、事前に誰かを救ったり、国を守ったり、そういうことが出来るほどの体力もなかった。元々私が介入せずとも、そのままにしておけば主人公は問題を解決してエンディングを迎えるの。それまで元気で過ごすことが私の目標の一つだった。ただ、自分自身が何十年も生きてきて、両親に育てられ、結婚し、子供を産み、孫が出来たからこそ分かるの。ここはただの物語の中じゃないって。だから、可能なら、一人でも少ない犠牲で、少しでも早く救える人がいたらと思って……レオンに声を掛けた」
俺はレオンを見ると微笑まれ、頷かれる。
「急に近付いてきて、オレの秘密や過去の出来事を話し始めた。驚きで固まってる間に、畳み掛けるように今後起こりうる未来のことを言われた。そして、もし自分を信じるのなら、この雑貨屋に来いと言ってきたんだ。十歳の子どもにそんなこと言うか?」
「ふふ……賭けだったの。レオンが頭の良い子だと知っていた。もしレオンが来なければ諦めようと思っていた。何もせず、この世界のサーリャとして人生を全うしようと。でもレオンは来た。だから、少しだけ、物語を変えることにしたの」
「その……実際に物語は、未来は変えることが出来たんですか?」
「ええ。その証拠が今ここにあるの」
「え?」
「本来、ここにはあなた一人が来るはずだった。本来のあなたが」
エレンではなく、エルティアのことを言っているのだろうか……。
「エレンのことは、実は物語で詳しく描かれていないの。ただ、私が気になっていた子だった。私が唯一直接関わるはずの子だったから」
「……レオンはこの事、知っていたの……?」
物語も気になったが、聞きたかったことは別にあった。マルタ食堂からずっと優しくしてくれたレオン。それはサーリャさんに言われて行動し、ここに連れてきたのだろうか……。もし、そうだとしたら……少し悲しかった。優しくされて、嬉しかったのに、それが義務感や演技だったとしたら、それはとても辛かった。
「ふふ。安心して。レオンにエレンに関することは何も話してないし、連れてこいなんて言ってない。何もしなければあなたは私の所にくる予定なんだから、そんなこと言わないわ。レオンの意思であなたと仲良くなってここに一緒に来たの。だからそんな顔をしないで」
俺がどんな顔をしているというのか。これまでのことは、レオンの意思であることが分かって安心していたところをグイッと横から引っ張られる。
「エレンは可愛いなぁ。オレがエレンを可愛がるのはオレがただ好きでやっていることだよ。拗ねるだなんて、随分懐いてくれて嬉しいよ」
横からぎゅーっと抱き締められ、レオンの頬が俺の頭にグリグリと押し付けられた。急に恥ずかしくなり、離れようとするが力が強くてレオンの腕が離れない。さ、流石A級冒険者……!
「拗ねるとか可愛いとか言うな!」
「なんで? すごい可愛いよ。そっかー、悲しませてごめんね。オレのエレンを想う気持ちはホンモノだよ」
「誤解を招く言い方をするな!! それに子ども扱いするな!」
「大人の扱いするとレオンは持たないと思うけど大丈夫?」
「……え、な、なにが……?」
カチャリ。
お茶の入ったカップがソーサーに置かれた音がした。
「その話、後でお願いしてもよろしいかしら?」
「は、はい。すみません」
「悪い」
サーリャさんの身の上話が終わり、いよいよ今回俺たちがやってきた目的の根幹に関わる話が始まった。
「レオンにも、あまり詳しくは話していないの。私は呪師と呼ばれているけど、大層なことは出来ないの。昔趣味で齧ったタロット占いを少しばかりしててね。カードも手作りで。一応初対面の時にレオンには呪師だと話したけど…。特別な能力はないのだけど、ただ……あなたのことは知っている」
突然のことに、どういう反応をしたら良いのか分からず、口を開いたまま何も言葉が出ず、また閉じた。レオンはじっと成り行きを見守っている。
「怖がらせるつもりはないの。信じられないかもしれないけど、まずは私のことを話すわ」
サーリャさんから聞いた話は、まさに信じられない内容だった。彼女は生まれた時に前世の記憶があった。だが、年齢と共にその前世の記憶は薄れていったという。小さい頃は文字も書けないし、残っている記憶を書き留めることは出来なかったと。だがある日、急に強烈な既視感を覚えた。旅先でナルカデア王国に寄った際に幼いレオンを見た時だった。その時初めて、前世で自分が読んだ物語の世界にいるのでは、という可能性に気付いたという。その時、彼女は50歳を超えていた。
「驚いたわ。知っている物語が始まる大分前に生まれたものだから、登場人物もストーリーも全然関係ないし。ただ、この先何が起こるのかは少し分かっていた。ただ、私はもう50歳を過ぎていて、事前に誰かを救ったり、国を守ったり、そういうことが出来るほどの体力もなかった。元々私が介入せずとも、そのままにしておけば主人公は問題を解決してエンディングを迎えるの。それまで元気で過ごすことが私の目標の一つだった。ただ、自分自身が何十年も生きてきて、両親に育てられ、結婚し、子供を産み、孫が出来たからこそ分かるの。ここはただの物語の中じゃないって。だから、可能なら、一人でも少ない犠牲で、少しでも早く救える人がいたらと思って……レオンに声を掛けた」
俺はレオンを見ると微笑まれ、頷かれる。
「急に近付いてきて、オレの秘密や過去の出来事を話し始めた。驚きで固まってる間に、畳み掛けるように今後起こりうる未来のことを言われた。そして、もし自分を信じるのなら、この雑貨屋に来いと言ってきたんだ。十歳の子どもにそんなこと言うか?」
「ふふ……賭けだったの。レオンが頭の良い子だと知っていた。もしレオンが来なければ諦めようと思っていた。何もせず、この世界のサーリャとして人生を全うしようと。でもレオンは来た。だから、少しだけ、物語を変えることにしたの」
「その……実際に物語は、未来は変えることが出来たんですか?」
「ええ。その証拠が今ここにあるの」
「え?」
「本来、ここにはあなた一人が来るはずだった。本来のあなたが」
エレンではなく、エルティアのことを言っているのだろうか……。
「エレンのことは、実は物語で詳しく描かれていないの。ただ、私が気になっていた子だった。私が唯一直接関わるはずの子だったから」
「……レオンはこの事、知っていたの……?」
物語も気になったが、聞きたかったことは別にあった。マルタ食堂からずっと優しくしてくれたレオン。それはサーリャさんに言われて行動し、ここに連れてきたのだろうか……。もし、そうだとしたら……少し悲しかった。優しくされて、嬉しかったのに、それが義務感や演技だったとしたら、それはとても辛かった。
「ふふ。安心して。レオンにエレンに関することは何も話してないし、連れてこいなんて言ってない。何もしなければあなたは私の所にくる予定なんだから、そんなこと言わないわ。レオンの意思であなたと仲良くなってここに一緒に来たの。だからそんな顔をしないで」
俺がどんな顔をしているというのか。これまでのことは、レオンの意思であることが分かって安心していたところをグイッと横から引っ張られる。
「エレンは可愛いなぁ。オレがエレンを可愛がるのはオレがただ好きでやっていることだよ。拗ねるだなんて、随分懐いてくれて嬉しいよ」
横からぎゅーっと抱き締められ、レオンの頬が俺の頭にグリグリと押し付けられた。急に恥ずかしくなり、離れようとするが力が強くてレオンの腕が離れない。さ、流石A級冒険者……!
「拗ねるとか可愛いとか言うな!」
「なんで? すごい可愛いよ。そっかー、悲しませてごめんね。オレのエレンを想う気持ちはホンモノだよ」
「誤解を招く言い方をするな!! それに子ども扱いするな!」
「大人の扱いするとレオンは持たないと思うけど大丈夫?」
「……え、な、なにが……?」
カチャリ。
お茶の入ったカップがソーサーに置かれた音がした。
「その話、後でお願いしてもよろしいかしら?」
「は、はい。すみません」
「悪い」
サーリャさんの身の上話が終わり、いよいよ今回俺たちがやってきた目的の根幹に関わる話が始まった。
12
あなたにおすすめの小説
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
転生エルフの天才エンジニア、静かに暮らしたいのに騎士団長に捕まる〜俺の鉄壁理論は彼の溺愛パッチでバグだらけです〜
たら昆布
BL
転生したらエルフだった社畜エンジニアがのんびり森で暮らす話
騎士団長とのじれったい不器用BL
発情薬
寺蔵
BL
【完結!漫画もUPしてます】攻めの匂いをかぐだけで発情して動けなくなってしまう受けの話です。
製薬会社で開発された、通称『発情薬』。
業務として治験に選ばれ、投薬を受けた新人社員が、先輩の匂いをかぐだけで発情して動けなくなったりします。
社会人。腹黒30歳×寂しがりわんこ系23歳。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
龍の寵愛を受けし者達
樹木緑
BL
サンクホルム国の王子のジェイドは、
父王の護衛騎士であるダリルに憧れていたけど、
ある日偶然に自分の護衛にと推す父王に反する声を聞いてしまう。
それ以来ずっと嫌われていると思っていた王子だったが少しずつ打ち解けて
いつかはそれが愛に変わっていることに気付いた。
それと同時に何故父王が最強の自身の護衛を自分につけたのか理解す時が来る。
王家はある者に裏切りにより、
無惨にもその策に敗れてしまう。
剣が苦手でずっと魔法の研究をしていた王子は、
責めて騎士だけは助けようと、
刃にかかる寸前の所でとうの昔に失ったとされる
時戻しの術をかけるが…
【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】
彩華
BL
俺の名前は水野圭。年は25。
自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
新訳 美女と野獣 〜獣人と少年の物語〜
若目
BL
いまはすっかり財政難となった商家マルシャン家は父シャルル、長兄ジャンティー、長女アヴァール、次女リュゼの4人家族。
妹たちが経済状況を顧みずに贅沢三昧するなか、一家はジャンティーの頑張りによってなんとか暮らしていた。
ある日、父が商用で出かける際に、何か欲しいものはないかと聞かれて、ジャンティーは一輪の薔薇をねだる。
しかし、帰る途中で父は道に迷ってしまう。
父があてもなく歩いていると、偶然、美しく奇妙な古城に辿り着く。
父はそこで、庭に薔薇の木で作られた生垣を見つけた。
ジャンティーとの約束を思い出した父が薔薇を一輪摘むと、彼の前に怒り狂った様子の野獣が現れ、「親切にしてやったのに、厚かましくも薔薇まで盗むとは」と吠えかかる。
野獣は父に死をもって償うように迫るが、薔薇が土産であったことを知ると、代わりに子どもを差し出すように要求してきて…
そこから、ジャンティーの運命が大きく変わり出す。
童話の「美女と野獣」パロのBLです
劣等アルファは最強王子から逃げられない
東
BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。
ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる