極悪令息と呼ばれていることとメシマズは直接関係ありません

ちゃちゃ

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68 虫の知らせ

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 自分で歩けると俺が主張したものの、その言葉と実際の体の状態が伴っていなかったため、家までレオに抱きかかえられて帰るか、馬車に乗って帰るか選ばされ、仕方なく馬車を選んた。結局馬車乗り場までは姫抱きだったが。
 
 馬車の中では周りの目が無いのを良いことにレオが労わるように俺の腰や背中を撫でたり唇を合わせたりしてきた。俺もレオと触れ合うのは嬉しかったのでその行為を歓迎し、そのままイチャイチャして過ごすことにした。
 
 最後まで結ばれて、恥ずかしいところも全部さらけ出したからか、レオになら何でも受け入れてもらえるという確信みたいなものが出来たし、レオの全てが欲しいという欲求も生まれた。
 そうなると今度はレオが俺のこと嫌いになったらどうしよう……という不安も生まれるが、広い馬車の中で俺を自身の膝に載せて満足気なレオを見るとそんな不安は払拭された。
 
「レオ、大好き」
 
 自分からレオに口付けすると、レオが体のことを気遣ってか俺を優しく抱き締めて、俺の言った愛の告白の何倍もの愛の言葉を俺に聞かせる。その愛の深さと重さに安心して涙を零す俺にレオがキスをしてくれた。話さなくても通じている、心が繋がっている存在がいることに、これ以上無いほどの幸せを感じながら帰宅したのだった。
 
 
「ティア大丈夫?」
「うん、歩くくらいなら平気だよ」
 
 流石に家の中まで抱っこされながら移動するのは恥ずかしい。お母様や屋敷の使用人に盛大に見送られ、昨日何があったか既に明白であっても居た堪れない。貼り薬とか出されたらどうしよう、貼るか。この後のことを考えながら扉を開けた。
 
「ただいま」
「お帰りなさいませ」
 
 俺たちが屋敷に入ったらすぐにジェイムズが現れた。外泊のことやレオのことで何か言われるかと思って少し身を固くしたが、ジェイムズは真面目な表情で口を開いた。
 
「お帰りになったところ申し訳ございませんが、マルタ食堂のガルロ様がいらっしゃっています」
 
 その言葉が意味することは何か。俺は隣にいるレオと目を合わせ、心を落ち着かせるためにレオの手を強く握った。
 
 
 
 
 
 
「よお、この間ぶりだな。レオン、エレン」
 
 応接間でソファーに座る俺とレオの向かいに座ったガルロさんが、その大きな図体に似合わない可愛らしいティーカップを持って挨拶をした。俺がエルティア・クロスフェードだと分かった上で、伯爵邸に来ても尚いつもと変わらないガルロさんにほっとする。だが、ここに来たと言うことは……。
 
「ガルロさん、ナターシャさんが出産したばかりで大変なのにここまで来てくれてありがとう」
「問題ない。ナターシャも元気だし、今日はダンや常連たちにも子どもたちの世話をお願いしたから大丈夫だ」
 
 ガルロさんのお嫁さんであるナターシャさんと息子さん含めた親族は無事にアキュレに着き、生活を始めていた。先月ナターシャさんが元気な女の子を出産し、しばらくしてレオと共にお祝いを渡しに行った。以前お土産で渡したタオルを使ってくれていて、改めてお礼を言われた。ナターシャさんと同じ赤茶の髪色の赤ちゃんが眠っていて可愛かった。ガルロさん譲りの緑色の瞳らしいので、また今度行けたら起きている時に会いたい。ガルロさんの話によっては次がいつになるか分からないけど……。
 
 
「ガルロさん。あんたがここに来たってことは何かあったのか」
「ああ。冒険者ギルドに大量に依頼が入ってる。レナセール国までの護衛依頼や物資配達依頼。あと、色んな国の傭兵が雇われているようだ。雇い主が市民派かガルダニア派かは分からない。既に賃金は払われているが、その場に留まるように言われているらしい」
「それは……」
「内戦が近い」
 
 心臓に重石おもしを乗せられたような感覚に陥り、息苦しくなる。レオに手を握られ、一度ゆっくりと呼吸した。
 
「ここで問題なのはただ物資や戦力を集めている、訳じゃないってことだ」
「どういうこと?」
「レナセール国から離れたアキスト王国にまでギルド依頼が来てる。届くまで時間も掛かるのにわざわざ依頼を出してる。それほど切迫した状況なら、近隣国のギルドは更に多くの依頼があるはずだと思って調べた」
「……どうだったんだ」
「……無かったよ。レナセール国やガルダニア帝国に関する依頼は周辺のギルドに一つも入って無かった。アキスト王国にだけ狙ったかのようだ。分かりやすくな」
「狙っているのは……エルティアか」
「向こうは隠す気が無いということらしい」
 
 レオがガルロさんに敢えてエルティア・・・・・と呼ぶのを聞きながら、整理がつかない頭で懸命に考える。つまり相手は何をどうしようとしているのか。俺は今後どうすれば良いのか……。
 
「傭兵の方は分からないが……ギルドに依頼しているのはレナセール国にいるガルダニア派、またはガルダニア帝国の可能性が高い。アキスト王家への揺さぶりも兼ねているだろう。隠す気が無い工作は、現時点で絶対的強国である帝国のやりそうなことだ。恐らくだが、エレンをアキスト王国から出したいんだろう」
「どうやって俺をアキスト王国から出すつもりなんでしょう……」
「帝国からアキスト王家に直接圧力を掛けて差し出させるか、アキスト王国の冒険者たちにレナセール国の依頼を受けさせ、人質にしてティア自らの意思で離れさせようとしてる……とか……」
 
 帝国の意図は分からないが、俺がいるせいで関係ない人を内戦に巻き込む訳にはいかない……。偶然起こった内戦を利用しているのか、リティーダの愛し子に何かする為に内戦を起こそうとしているのかも分からない。だけど、自分は無関係ではないことだけは分かる。
 
「ちょうどナターシャの出産と育児が重なってギルドの動きを知るのが遅かった。ダンたちからその話を聞いた時には既に何組もレナセール国に度だった後だった。割の良い仕事で、依頼料が段違いだったから、紛争のことを知っている冒険者たちも腕に覚えがある奴は向かっちまったらしい……。本当に……すまない」
「ガルロさんは悪くないよ!! 俺が……俺がアキスト王国に……ここにいるから……」
「ティアのせいでもないよ。ほら、一口お茶飲んで」
「ふ……う…うん……」
 
 辛くて悲しくて泣きそうになるが堪える。自分の想いも願いも届かず結局はこうなってしまった。レオと過ごす日々が幸せで穏やかで、ずっとそれだけが続けば良いと思っていた。悪い予感を無視して、今の幸せだけを享受していたかった。わがままでいたかった。
 ズズ……と鼻をすすり、ティーカップに入ったお茶をこくりと飲み込んだ。
 
「やっぱり……帝国の狙いは俺だと思う……。状況証拠でしか判断出来ないけど」
「うん、オレもそうだと思う。とにかく、しばらくは家から出ないこと。クロスフェード卿とすぐにでも話そう。あと、彼らは強いから大丈夫だとは思うが、念の為オルフェス殿も国内に戻るよう早馬を出す。」
「うん……。…レオ……」
「ん?」
「もし帝国が俺を殺そうとしていても、迷惑かけても一緒にいてくれる?」
「当たり前だよ。ティアはオレの生涯のパートナーなんだから。なんなら鎖でお互いを縛っても良い。片時も離れない。トイレに行くのも一緒だ。大丈夫、絶対守るよ」
「レオが怪我するのも、ダメだよ」
「もちろん」
 
 俺はレオの言葉と抱擁に幾分か心が解れた気がした。やっぱりレオの傍が俺にとって一番心安らげる場所だ。
 
「トイレまで一緒なのはどうかと思うが、とりあえずオレが知っていることはこれが全てだ。国内で隠れるか、先手で国外に逃れるか、他に策があるのか……。伯爵様とも相談して決めると良い。協力出来ることは何でもしよう。うちの常連たちもエレンのこと心配してたから、手伝ってくれるだろう」
「そっか……みんな……」
 
 ほとんど顔を出さなくなったというのに、相変わらず優しい食堂の冒険者たちの顔を思い浮かべ、嬉しくなる。
 
「ガルロさん、オレのことはみんな何か言ってた?」
「レオンのことは『みんなのエレンを攫っていった鬼悪魔クソ畜生野郎』って毎日のように話題に出してる」
「……悲しいけど、可愛いティアを攫ったのは事実だからある程度言われても仕方ないな」
「え、え……」
 
 二人がいつもの調子に戻って軽口を言い合う。自分を気遣ってわざとそうしてくれているんだと思う。本当にレオが周りから鬼畜生とか言われて……無いよね……? 多分。
 
「さて、オレは帰る。もし何かあれば屋敷の人を寄越せ。俺から来る。手紙でも良い。レオンは出来るだけエレンの傍にいてやれ。ただ、レオンは一度ギルドに行ってみてくれ」
「何故だ」
 
 ガルロさんは少し眉を顰めて息を吐いた。
 
「レオンに指名依頼が入っているらしい」
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