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8 ミカ視点
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シェリーちゃんには申し訳ないことをしたし、可哀想に思ってベアトリクスに助言もしたし、上手くいってからはご丁寧に性教育まで施した。俺って本当に偉い。素晴らしい真っ当な人間だ。だから目の前の光景に対して文句の一つや二つ言っても良いと思う。
「ベアトリクソ、至る所でイチャイチャイチャイチャ、邪魔なんだよ!」
「ふん、何と言われようが私はもうシェリーと離れん」
「恋人同士が言う『ずっと離れず傍にいようねハート』っていうのは心の距離とか結婚するとかの意味であって、物理的に常に皮膚接触してるって意味じゃねーんだよ!!」
名前を弄っても何を言っても、構わずシェリーちゃんとイチャコラしつづけるベアトリクスは、人が変わったかのように学校内で独占欲を発揮しだした。元々シェリーちゃんに悪い虫が付かないよう目を光らせていたが、もはや他者に対する牽制ではなく、自分がただシェリーちゃんにくっついていたいだけだ。
たった数ヶ月離れていただけで、シェリーちゃんはベアトリクスを諦めようとしたことがトラウマにでもなったのか、鳥のフンのように……いや雛のようにくっ付いて過ごしている。
クラスが違うため流石に授業中は離れているが、休憩の度に隣のクラスへと赴き、蜜月具合を見せつけ、クラスメイトたちを複雑な気持ちにさせ、微妙な雰囲気にしたあとチャイムが鳴り終わったらこちらのクラスへと戻ってくる。チャイムが鳴る前に来い。実質毎回遅刻だぞ。
やっぱりトラウマとかじゃなくてただ一緒に居たいだけだと思う。
俺はラシュカ殿下と婚約したが、学年が違うだけでなく、ラシュカが学生ながら王族として政務を行ったり、近衛騎士団の訓練に参加したりすることも度々あるため、学校にいない日も多い。
つまり今の俺は恋人不足でイライラしていた。
今日の夜はラシュカと共に過ごせるはずだと自分に言い聞かせながら、ベアトリクスがシェリーちゃんから昼食のデザートのプリンを「あーん」してもらうのを見ていた。その顔はにやけていて、元は美形なのに原型を留めていない情けない顔をしている。そんな男に対してもシェリーちゃんはにこにことしているから天使だ。
だがベアトリクス、お前本当にベアトリクスか……? いや、でもシェリーちゃんがベアトリクスから気持ちが離れたと思った時はべそべそジメジメしてたしこんなものか。
学校の生徒たちは次第に慣れつつあるが、この稀代のバカップルたちをどう見てどう感じるのが正解なのか分からない。羨ましがれば良いのか!? でも正直羨ましい!!
現実逃避のために、ラシュカと初めて会った時のことを思い浮かべる。
俺は小さい頃に両親が亡くなり、その後は孤児院で過ごした。昔から要領と頭の回転は良く、上手く生きてこられた。今年の初め頃、孤児院で暮らしている子どもの一人が大怪我を負い、今から病院に行っても間に合わないと思った俺は魔法で治癒を施した。
孤児院に引き取られた頃から、自分が魔法を使えることは分かっていたが、周りの人が誰も魔法らしきものを使っていないと察し、黙っていた。
俺が魔法で人を治癒したと分かると、あれよあれよという間に王宮へと連れていかれた。そこで出会ったのだ。愛しいラシュカに。
一目で自分の理想の人だと思った。三白眼気味の目は切れ長で、少し陽に焼けた肌は触り心地が良さそうだ。鍛えられた体は引き締まっていて、自分より10cmは高い身長は彼のスタイルを完璧なものとしている。だが、彼の性根は柔らかいものなのだろう、纏っている優しい雰囲気を隠せずにいる。
「好きです。付き合ってください」
「……えっと……?」
「絶対に幸せにします。結婚してください」
「聖者よ……私の話を聞いておったか?」
「申し訳ございません。今まさに運命と出会ってしまい、それどころではありませんでした。聞いていませんでした。息子さんを私にください」
「聖者の気持ちは分かった。とりあえず私の話を聞いてからその件も話し合わないか」
「やむを得ませんね。聞きましょう」
正直この魔法の力にも権力にもお金にも興味がなく、というか大抵のことに興味を持てなかった冷めた人間である俺が初めて強く惹かれたラシュカ殿下。この人を手に入れる為ならなんでもする所存だ。
「聖者よ。そもそも魔法自体使える人がこの世にほぼいない。貴族・平民に関わらず、魔法が使える人間は数十年に一度、急に現れるのだ。魔法を使いこなすには才能が必要で、君にはそれがある。聖魔法を使ったと聞いたが、他の魔法も使えるのか?」
「はい、幼い頃から聖魔法以外に火や水、風など、あらゆる性質の魔法が使えました。本能で感覚的に使い方が分かりました」
自分が想像するよりも珍しい力だったらしい。これは俺を売り込むチャンスでは?
「陛下、私はこの力を隠して生きてきました。悪用しようと考えたこともなく、理性的に自分を制御してきました」
なんとなく面倒臭いことになりそうだから魔法を使わなかっただけだが、盛って話す。
「ですが、私が唯一理性を無くす可能性がたった今、出てきました……」
「そ……それは……?」
なんとなく俺がこの先言おうとしていることが分かるのか、集まっている陛下や宰相、政務を行う高位貴族たちはチラチラとラシュカ殿下を見ているが、当の本人は未だに混乱しているのか心細そうな表情で俺を見ている。可愛いなぁ。
「ラシュカ殿下が私の伴侶に出来ないと分かった瞬間に、うっかり国中にメテオを降らしてしまいそうです」
「よし、交渉だ」
半分以上脅しだが、持ってるカード全てを使ってでもラシュカ殿下を手に入れたい。初めは形だけでも構わない。外堀を埋めるのが最優先だ。
「ラシュカ殿下とのお付き合いをお許し頂けるならば、私はこの国のために、ラシュカ殿下のために力を尽くすことをお約束します。それ以外にラシュカ殿下との結婚をお許し頂く条件などあれば教えて頂きたい」
謁見の間はザワついているも、陛下の反応は良さそうだ。ラシュカ殿下はびっくりして口を開けているが。近くにいたらその開いた口に指を入れてたかもしれない。
「陛下、宜しいですかな?」
「ランドルフ卿、何か」
「聖者様が本当にラシュカ殿下を愛し、ご結婚を希望されるようでしたら貴族籍がある方が良いでしょう。私は伯爵家で家格も高すぎず低すぎず、反発も起きづらいかと思います。聖者様を我が伯爵家の養子として迎えても問題ありません」
ちょちょいと国の利益になることをして、適当に貴族籍を貰おうと思っていたが、養子にしてくれるならこれほど手っ取り早いことはない。
「ふむ……。聖者よ、先程の約束を果たしてくれると言うならば、我が息子ラシュカと自由に会える許可を与えよう。ラシュカと結婚出来る条件はこちらで整えよう。ただ、結婚となると、それはラシュカの意思を尊重する。この子が聖者と共にありたいと思わなければ、結婚を許可する訳にはいかない。これは王ではなく父親としての願いだ」
聡明な王だと聞いていたが、親として子どもに愛情を持って大事にしていることが分かる。俺は俄然やる気に満ちた。
「勿論でございます。必ずやラシュカ殿下の心を射止めるよう心を尽くします」
「うむ。しかし、今日初めて会ったであろうラシュカに何故そこまで熱を上げるのだ? どこを好きになったのだ?」
「顔と体と雰囲気です!」
謁見の間は微妙な空気が漂い、ラシュカ殿下の顔は真っ赤に染まった。
ランドルフ伯爵と養子縁組について詳しく話し合い、すぐに手続きを行った。
「聖者様が、いえ、ミカが私を親として見てくれるならそれでも嬉しいが、君は精神が成熟しているようだから、どちらかといえば同僚とか戦友の方が良さそうだ」と笑ったランドルフ卿は、まだ三十代の若さだと言うのに短時間で俺の考えを汲み取ってくれた。頭も人柄も良い人だ。
養子にするなど、いくら反発は少なそうだとはいえ大変なことだろうにありがたい。卿と伯爵家の人たちはみな俺を歓迎してくれ、特にランドルフ伯爵夫人や、今後俺の妹になる伯爵家のまだ幼い令嬢たちは、俺のラシュカ殿下へのプロポーズについて興奮気味に聞いてきた。
伯爵家総出で俺の運命の恋を応援してくれるらしい。
それから毎日のようにラシュカに会いに行った。彼は突然求婚した俺をぞんざいにあしらうこともなく、言葉は少なく、照れながらも俺という人間がどういう人なのか知ろうとしてくれた。その誠実さもまた彼の魅力を更に増す理由となり、日々を追うごとに彼のことが好きになった。
ラシュカが訓練する際にはその場に赴き、怪我をしたら直接肌に触って治癒をした。実は触らなくても治癒は出来るがそれは言わなかった。腕や足に触れただけで切れ長の目をギュッと瞑り、耐えるように治癒が終わるのを待っているラシュカが可愛すぎた。
目を瞑っているのを良いことにキスしようか迷ったが思いとどまった。だが、怪我をしていないお腹や背中もこっそり触った。早く体中、ラシュカの全てに触れたい。
春から俺も学校に入ることになり、あの時謁見の間にいた、俺とラシュカのことを知っている貴族の一人、カバルターナ公爵の次男に学校での過ごし方を教わることになった。政務などは行わず、聖者としての役割を求められている俺には勉強はそこまで重要ではないが、将来は王太子を支えたいと願うラシュカ殿下と並び立つにはある程度の教養は必要だろうと頑張った。
ベアトリクスのせいで俺を悪く言う子息たちがいたが、その度に躾けていったらいつの間にかファンクラブが出来た。俺のする事なす事全肯定するだけの奴らなので、邪魔にならないならと放っておいている。
毎日ラシュカに愛を囁き、治癒と称してこっそり肌に触れ、ラシュカの好きな部分を伝えていった。押しまくった俺は遂にラシュカから結婚の承諾を得て、そのまま初夜に突入した。
早急に体は繋がず、初心なラシュカの体をゆっくりと溶かし、何日か夜を明かす頃にはラシュカ自ら素直に脚を開くまでになった。俺は脳が焼き切れそうなほど熱くなり、朝まで抱いた。
ベアトリクスの愚策に付き合わされた夜は、その現場を見たらしいラシュカがベッドの中で泣いていた。自分が悪いと反省しながらも、ヤキモチを焼いてしとしとと涙を流すラシュカが可哀想で可愛くて、週末は殆どラシュカの中にいた。「孕み薬を飲まなくても子どもが出来そうだね」と言いながらラシュカの鍛えられた腹筋を撫でると、恥ずかしそうにしながらも幸せそうな顔で笑う姿に、絶対に幸せにすると誓ったのだ。
婚約が決まり、陛下にゴリ押しして王宮内に俺とラシュカだけの別邸を用意して貰っている。学校から帰宅すると、ラシュカが体に包帯を巻いていた。
「ラシュカ、その怪我どうしたの?」
「ミカ、おかえり。訓練中にヘマして相手の剣が思いっきり入っちゃったんだ。木刀だからそれ程酷くはないけど内出血してて」
「見せて」
途中まで巻いていた包帯を解き、状態を見る。確かにお腹から脇腹にかけて紫に変色している。
「そこまで痛くないから、放っておけば大丈夫……」
「ラシュカ、ダメだよ、すぐに治療しよう」
ラシュカをベッドに倒し、変色した部分に唇を寄せキスをする。そのまま舌でなぞりながら治癒の魔法をかけていく。流石に今はラシュカも直接触らなくても治癒が出来ることを知っているが、直接触る方が俺もラシュカも負担が少ないと言いくるめている。本当に優しくて無垢な人だ。
一通り治癒を終え、関係ないへそや下生えに舌を移動させるとラシュカが気付き止める。
「ミカ、あの、そこは怪我してないから……」
「俺以外の人から痕を付けられたんだから、今日はおしおきしないと……」
言いながら鍛えられた腹筋にキスをして強く吸い付いた。出会った時は傷だらけだったラシュカの体中を舐めて治癒をした。その綺麗な体に今は俺の痕だけが付いている。満足してラシュカの乳首に触れるとラシュカは声を抑えて震えつつ、期待の籠った目で俺を見る。期待には応えないと。
数年後、俺は稀代の魔法師と呼ばれたが、その力が戦力として使われることは無かった。陛下も王太子も、戦争ではなく聖魔法でしか助からない人々の救いとなって欲しいと願ったからだ。戦争となればラシュカも戦う可能性があるので、そうなった場合は俺が魔法で対戦国をぶっ壊すつもりだったから手間が省けた。
ラシュカ殿下に何かあれば魔法師ミカが出てくると国内外に周知され、ラシュカが危ない目に合うことは無かったが、つい最近、身重の体で野外訓練に出ようとしたところを騎士たちに止められ俺に連絡が入った。暫く屋敷で軟禁して可愛がって何とか納得してもらった。
「ラシュカ。愛しているよ、私の運命」
生きがいも無く、淡々と生きていた自分に唯一光を灯したラシュカ。彼に会うために、俺は生まれてきたのだ。この力を使うことなく、彼との子、その孫の孫まで平和な世が続くよう、ラシュカと生まれてくる我が子と、ラシュカの愛するこの国のために力を尽くそう。
聖者と第三王子殿下との間に生まれた子は幼い頃から魔法に秀で、国の平和と発展に寄与した。
「ベアトリクソ、至る所でイチャイチャイチャイチャ、邪魔なんだよ!」
「ふん、何と言われようが私はもうシェリーと離れん」
「恋人同士が言う『ずっと離れず傍にいようねハート』っていうのは心の距離とか結婚するとかの意味であって、物理的に常に皮膚接触してるって意味じゃねーんだよ!!」
名前を弄っても何を言っても、構わずシェリーちゃんとイチャコラしつづけるベアトリクスは、人が変わったかのように学校内で独占欲を発揮しだした。元々シェリーちゃんに悪い虫が付かないよう目を光らせていたが、もはや他者に対する牽制ではなく、自分がただシェリーちゃんにくっついていたいだけだ。
たった数ヶ月離れていただけで、シェリーちゃんはベアトリクスを諦めようとしたことがトラウマにでもなったのか、鳥のフンのように……いや雛のようにくっ付いて過ごしている。
クラスが違うため流石に授業中は離れているが、休憩の度に隣のクラスへと赴き、蜜月具合を見せつけ、クラスメイトたちを複雑な気持ちにさせ、微妙な雰囲気にしたあとチャイムが鳴り終わったらこちらのクラスへと戻ってくる。チャイムが鳴る前に来い。実質毎回遅刻だぞ。
やっぱりトラウマとかじゃなくてただ一緒に居たいだけだと思う。
俺はラシュカ殿下と婚約したが、学年が違うだけでなく、ラシュカが学生ながら王族として政務を行ったり、近衛騎士団の訓練に参加したりすることも度々あるため、学校にいない日も多い。
つまり今の俺は恋人不足でイライラしていた。
今日の夜はラシュカと共に過ごせるはずだと自分に言い聞かせながら、ベアトリクスがシェリーちゃんから昼食のデザートのプリンを「あーん」してもらうのを見ていた。その顔はにやけていて、元は美形なのに原型を留めていない情けない顔をしている。そんな男に対してもシェリーちゃんはにこにことしているから天使だ。
だがベアトリクス、お前本当にベアトリクスか……? いや、でもシェリーちゃんがベアトリクスから気持ちが離れたと思った時はべそべそジメジメしてたしこんなものか。
学校の生徒たちは次第に慣れつつあるが、この稀代のバカップルたちをどう見てどう感じるのが正解なのか分からない。羨ましがれば良いのか!? でも正直羨ましい!!
現実逃避のために、ラシュカと初めて会った時のことを思い浮かべる。
俺は小さい頃に両親が亡くなり、その後は孤児院で過ごした。昔から要領と頭の回転は良く、上手く生きてこられた。今年の初め頃、孤児院で暮らしている子どもの一人が大怪我を負い、今から病院に行っても間に合わないと思った俺は魔法で治癒を施した。
孤児院に引き取られた頃から、自分が魔法を使えることは分かっていたが、周りの人が誰も魔法らしきものを使っていないと察し、黙っていた。
俺が魔法で人を治癒したと分かると、あれよあれよという間に王宮へと連れていかれた。そこで出会ったのだ。愛しいラシュカに。
一目で自分の理想の人だと思った。三白眼気味の目は切れ長で、少し陽に焼けた肌は触り心地が良さそうだ。鍛えられた体は引き締まっていて、自分より10cmは高い身長は彼のスタイルを完璧なものとしている。だが、彼の性根は柔らかいものなのだろう、纏っている優しい雰囲気を隠せずにいる。
「好きです。付き合ってください」
「……えっと……?」
「絶対に幸せにします。結婚してください」
「聖者よ……私の話を聞いておったか?」
「申し訳ございません。今まさに運命と出会ってしまい、それどころではありませんでした。聞いていませんでした。息子さんを私にください」
「聖者の気持ちは分かった。とりあえず私の話を聞いてからその件も話し合わないか」
「やむを得ませんね。聞きましょう」
正直この魔法の力にも権力にもお金にも興味がなく、というか大抵のことに興味を持てなかった冷めた人間である俺が初めて強く惹かれたラシュカ殿下。この人を手に入れる為ならなんでもする所存だ。
「聖者よ。そもそも魔法自体使える人がこの世にほぼいない。貴族・平民に関わらず、魔法が使える人間は数十年に一度、急に現れるのだ。魔法を使いこなすには才能が必要で、君にはそれがある。聖魔法を使ったと聞いたが、他の魔法も使えるのか?」
「はい、幼い頃から聖魔法以外に火や水、風など、あらゆる性質の魔法が使えました。本能で感覚的に使い方が分かりました」
自分が想像するよりも珍しい力だったらしい。これは俺を売り込むチャンスでは?
「陛下、私はこの力を隠して生きてきました。悪用しようと考えたこともなく、理性的に自分を制御してきました」
なんとなく面倒臭いことになりそうだから魔法を使わなかっただけだが、盛って話す。
「ですが、私が唯一理性を無くす可能性がたった今、出てきました……」
「そ……それは……?」
なんとなく俺がこの先言おうとしていることが分かるのか、集まっている陛下や宰相、政務を行う高位貴族たちはチラチラとラシュカ殿下を見ているが、当の本人は未だに混乱しているのか心細そうな表情で俺を見ている。可愛いなぁ。
「ラシュカ殿下が私の伴侶に出来ないと分かった瞬間に、うっかり国中にメテオを降らしてしまいそうです」
「よし、交渉だ」
半分以上脅しだが、持ってるカード全てを使ってでもラシュカ殿下を手に入れたい。初めは形だけでも構わない。外堀を埋めるのが最優先だ。
「ラシュカ殿下とのお付き合いをお許し頂けるならば、私はこの国のために、ラシュカ殿下のために力を尽くすことをお約束します。それ以外にラシュカ殿下との結婚をお許し頂く条件などあれば教えて頂きたい」
謁見の間はザワついているも、陛下の反応は良さそうだ。ラシュカ殿下はびっくりして口を開けているが。近くにいたらその開いた口に指を入れてたかもしれない。
「陛下、宜しいですかな?」
「ランドルフ卿、何か」
「聖者様が本当にラシュカ殿下を愛し、ご結婚を希望されるようでしたら貴族籍がある方が良いでしょう。私は伯爵家で家格も高すぎず低すぎず、反発も起きづらいかと思います。聖者様を我が伯爵家の養子として迎えても問題ありません」
ちょちょいと国の利益になることをして、適当に貴族籍を貰おうと思っていたが、養子にしてくれるならこれほど手っ取り早いことはない。
「ふむ……。聖者よ、先程の約束を果たしてくれると言うならば、我が息子ラシュカと自由に会える許可を与えよう。ラシュカと結婚出来る条件はこちらで整えよう。ただ、結婚となると、それはラシュカの意思を尊重する。この子が聖者と共にありたいと思わなければ、結婚を許可する訳にはいかない。これは王ではなく父親としての願いだ」
聡明な王だと聞いていたが、親として子どもに愛情を持って大事にしていることが分かる。俺は俄然やる気に満ちた。
「勿論でございます。必ずやラシュカ殿下の心を射止めるよう心を尽くします」
「うむ。しかし、今日初めて会ったであろうラシュカに何故そこまで熱を上げるのだ? どこを好きになったのだ?」
「顔と体と雰囲気です!」
謁見の間は微妙な空気が漂い、ラシュカ殿下の顔は真っ赤に染まった。
ランドルフ伯爵と養子縁組について詳しく話し合い、すぐに手続きを行った。
「聖者様が、いえ、ミカが私を親として見てくれるならそれでも嬉しいが、君は精神が成熟しているようだから、どちらかといえば同僚とか戦友の方が良さそうだ」と笑ったランドルフ卿は、まだ三十代の若さだと言うのに短時間で俺の考えを汲み取ってくれた。頭も人柄も良い人だ。
養子にするなど、いくら反発は少なそうだとはいえ大変なことだろうにありがたい。卿と伯爵家の人たちはみな俺を歓迎してくれ、特にランドルフ伯爵夫人や、今後俺の妹になる伯爵家のまだ幼い令嬢たちは、俺のラシュカ殿下へのプロポーズについて興奮気味に聞いてきた。
伯爵家総出で俺の運命の恋を応援してくれるらしい。
それから毎日のようにラシュカに会いに行った。彼は突然求婚した俺をぞんざいにあしらうこともなく、言葉は少なく、照れながらも俺という人間がどういう人なのか知ろうとしてくれた。その誠実さもまた彼の魅力を更に増す理由となり、日々を追うごとに彼のことが好きになった。
ラシュカが訓練する際にはその場に赴き、怪我をしたら直接肌に触って治癒をした。実は触らなくても治癒は出来るがそれは言わなかった。腕や足に触れただけで切れ長の目をギュッと瞑り、耐えるように治癒が終わるのを待っているラシュカが可愛すぎた。
目を瞑っているのを良いことにキスしようか迷ったが思いとどまった。だが、怪我をしていないお腹や背中もこっそり触った。早く体中、ラシュカの全てに触れたい。
春から俺も学校に入ることになり、あの時謁見の間にいた、俺とラシュカのことを知っている貴族の一人、カバルターナ公爵の次男に学校での過ごし方を教わることになった。政務などは行わず、聖者としての役割を求められている俺には勉強はそこまで重要ではないが、将来は王太子を支えたいと願うラシュカ殿下と並び立つにはある程度の教養は必要だろうと頑張った。
ベアトリクスのせいで俺を悪く言う子息たちがいたが、その度に躾けていったらいつの間にかファンクラブが出来た。俺のする事なす事全肯定するだけの奴らなので、邪魔にならないならと放っておいている。
毎日ラシュカに愛を囁き、治癒と称してこっそり肌に触れ、ラシュカの好きな部分を伝えていった。押しまくった俺は遂にラシュカから結婚の承諾を得て、そのまま初夜に突入した。
早急に体は繋がず、初心なラシュカの体をゆっくりと溶かし、何日か夜を明かす頃にはラシュカ自ら素直に脚を開くまでになった。俺は脳が焼き切れそうなほど熱くなり、朝まで抱いた。
ベアトリクスの愚策に付き合わされた夜は、その現場を見たらしいラシュカがベッドの中で泣いていた。自分が悪いと反省しながらも、ヤキモチを焼いてしとしとと涙を流すラシュカが可哀想で可愛くて、週末は殆どラシュカの中にいた。「孕み薬を飲まなくても子どもが出来そうだね」と言いながらラシュカの鍛えられた腹筋を撫でると、恥ずかしそうにしながらも幸せそうな顔で笑う姿に、絶対に幸せにすると誓ったのだ。
婚約が決まり、陛下にゴリ押しして王宮内に俺とラシュカだけの別邸を用意して貰っている。学校から帰宅すると、ラシュカが体に包帯を巻いていた。
「ラシュカ、その怪我どうしたの?」
「ミカ、おかえり。訓練中にヘマして相手の剣が思いっきり入っちゃったんだ。木刀だからそれ程酷くはないけど内出血してて」
「見せて」
途中まで巻いていた包帯を解き、状態を見る。確かにお腹から脇腹にかけて紫に変色している。
「そこまで痛くないから、放っておけば大丈夫……」
「ラシュカ、ダメだよ、すぐに治療しよう」
ラシュカをベッドに倒し、変色した部分に唇を寄せキスをする。そのまま舌でなぞりながら治癒の魔法をかけていく。流石に今はラシュカも直接触らなくても治癒が出来ることを知っているが、直接触る方が俺もラシュカも負担が少ないと言いくるめている。本当に優しくて無垢な人だ。
一通り治癒を終え、関係ないへそや下生えに舌を移動させるとラシュカが気付き止める。
「ミカ、あの、そこは怪我してないから……」
「俺以外の人から痕を付けられたんだから、今日はおしおきしないと……」
言いながら鍛えられた腹筋にキスをして強く吸い付いた。出会った時は傷だらけだったラシュカの体中を舐めて治癒をした。その綺麗な体に今は俺の痕だけが付いている。満足してラシュカの乳首に触れるとラシュカは声を抑えて震えつつ、期待の籠った目で俺を見る。期待には応えないと。
数年後、俺は稀代の魔法師と呼ばれたが、その力が戦力として使われることは無かった。陛下も王太子も、戦争ではなく聖魔法でしか助からない人々の救いとなって欲しいと願ったからだ。戦争となればラシュカも戦う可能性があるので、そうなった場合は俺が魔法で対戦国をぶっ壊すつもりだったから手間が省けた。
ラシュカ殿下に何かあれば魔法師ミカが出てくると国内外に周知され、ラシュカが危ない目に合うことは無かったが、つい最近、身重の体で野外訓練に出ようとしたところを騎士たちに止められ俺に連絡が入った。暫く屋敷で軟禁して可愛がって何とか納得してもらった。
「ラシュカ。愛しているよ、私の運命」
生きがいも無く、淡々と生きていた自分に唯一光を灯したラシュカ。彼に会うために、俺は生まれてきたのだ。この力を使うことなく、彼との子、その孫の孫まで平和な世が続くよう、ラシュカと生まれてくる我が子と、ラシュカの愛するこの国のために力を尽くそう。
聖者と第三王子殿下との間に生まれた子は幼い頃から魔法に秀で、国の平和と発展に寄与した。
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感想ありがとうございます!
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ありがとうございました!