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一章
太極図
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ジシヌが消えた後、扉が開いた。
僕らは何も会話はせずに部屋を出た。
「お、お前ら!倒したのか?」
「あぁ、でも、今は話をする気分になれない。イヤ、また今度な」
「あ、あぁ」
イヤは驚いた表情をしつつも多少困惑していた。
それから初めの町に戻り、宿で寝ていた。
宿の中には外の雨音が木霊していた。
そんな雨音を一つの声がかき消した。
「ねぇ、兄さんはどう思う?」
「何がだ?」
「ジシヌさんのこと」
「まあ、可哀そうだと思ったよ。ずっとあの場所に一人だったんだから。最強故の孤独。強すぎる力は時に自分を苦しめるんだな」
そこで僕はある疑問が思い浮かんだ。
力と言えば僕の中にいるこの男、なぜこんなにも強いのだろうか。
僕は能力を発動しその男がいる空間に入る。
だが、
「うっ、」
途端に凄い吐き気がし、能力を解いた。
頭の中に様々な感情が流れ込んでくる。
憎悪、恐怖、後悔、罪悪感、殺意、嫌悪、苦しみ、怒り、絶望、
そして、欲。
「はぁ、はぁ、はぁ、」
「ど、どうしたの?!兄さん!」
「水月さ!、大丈夫ですか?!」
感情が渦のようにその空間を支配していた。
ジシヌとの戦いと同等、もしくはそれ以上の激しさだった。
そんなことになっている以上その空間に入ることは難しい。
だが、僕はもう一度その空間に入る。
なぜなら、この男は僕の中にいる。
いつから僕の中にいるかは分からないが、この男は小学二年生以前の記憶が無い理由を知っているかもしれない唯一の人間だからだ。
僕はもう一度能力を発動し、その空間に入る。
「鬱になりそうだな。うっ!」
吐き気で立つことすらもままならない。
だが、僕はここであの男を見つけ、話したいことがある。
「こんなところで止まっている場合じゃないぞ!水月!」
そう自分に言い聞かし、立ち上がる。
暗闇の中、右も左も分からないが、とにかく歩き始める。
「どこだー!どこにいるんだー!返事をしてくれー!」
返事は帰ってこない。
だが、探し続ける。
僕は死ぬまで探し続ける。
助けてという欲があの男にはあった。
そんな欲がある限り僕はあの男を助けたい。
そんな時、頭に入ってくる感情が少なくなった感じがした。
「まさか、」
僕は北方向を戻る。
予想通り、頭に入ってくる感情が多くなった。
この先にいるんじゃないか?そう思い歩き始める。
どんどん感情が濃くなっていき立てなくなるが、立てなくなっても這いつくばり進み続ける。
やがて微かに聞こえる声があった。
ありとあらゆる感情をかき分けその声の発生源にたどり着いて僕は驚いた。
なんとその声は鳴き声だったのだ。
「大丈夫か?」
その問いかけに大丈夫じゃないと返事をするように頭に入ってくる感情が濃く、多くなってくる。
「ッ!つー!いてー!」
頭の中がぐちゃぐちゃになり頭痛、吐き気、ダルさが頂点に達している。
能力を発動しているのが奇跡なほどだ。
体を動かすなんて正直厳しい。
だが、僕は奇跡を起こすため能力を限界まで使い四肢に力を入れる。
そして、僕はその男を抱きしめた。
「?!」
その時このその男を取り巻く感情が一瞬にして消えた。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、安心してくれ。僕がいる、今は僕に頼ってくれ」
「すい、げつ?大丈夫?」
「僕は何とも無い。大丈夫だ」
今までシルエットみたいに隠れていて性別ぐらいしか分からなかったが、見えなかったその男の外見が見えてくる。
そこにいたのは、小学生の時の僕だった。
だが、今はそんなこといい、それよりも、
「どうした?凄い感情だったぞ?」
「それはごめん。水月、嫌いな人はいるか?」
「まぁ、いるけど」
「俺もいる、過去の俺が嫌いだ。強い力を手にしたのにも関わらず、身近に確かにいる人間を守れなかった自分が嫌いだ」
「そんな強い力どこで手に入れたんだ?」
「この力はお父さんがくれた。お母さんがいないことは水月も知ってるだろ?」
「あぁ、気づいたときにはいなかったな」
「お母さんが死んでからだった。お父さんは俺に戦う術を教えてくれた。暗殺術もだ。どこを狙えば確実に殺れるか、とかな」
「それから、お父さんは突然消えたんだ」
「消えた?」
「う、うん」
段々声が震えてく。
「もういいよ、話さなくて」
それに気づき僕は話を止めた。
「え?」
「話したくないんだろ?」
「ん、ま、まぁ、話せる自信が無い」
僕は話題を変える。
「さっきまで出ていた感情は何だったんだ?」
「それは、さっき話していたことをジシヌとの戦いの最中に思い出してしまって、それで自分に怒りがわいたんだ」
「そうだったんだな」
「相談、乗ってくれるか?」
「あぁ、いいぞ」
「俺はこの力が憎いんだ。大切な人を守れもしなかったこんな力、欲しくなかった、この力で苦しんだんだ」
「いや、お前の力は役に立ったよ。お前の力が無かったら恋月と陽向を守れなかった、ありがとう」
「大切なものを守れなかった自分が憎い、自分が嫌いだ。俺なんていなければ良かった。水月、お前が最初から生きてくれれば良かったのに」
「そんなこと言うもんじゃないぞ、お前がいてくれたおかげで今の恋月がいる。お前のおかげだ。ありがとう」
「もう一度、お父さんに会いたい」
「あぁ、分かった。このゲームから出たら探すよ俺が」
「...ありがとう、ありがとう」
「それと、ジシヌから能力を貰ってな」
「能力を貰った?」
「ありがとうだってさ」
「?!...ありがとう」
「じゃあ、意識変わるぞ」
「え?」
僕は強制的に水月君の意識を覚醒させた。
俺は思った。
水月、ほんとお前は強引だな。
そう思い能力の玉を取り出す。
そして、
(能力取得)
そうして俺は意識を変わり眠りに落ちた。
それから六日が経過したある日、
僕たちは現実世界に強制的に戻されたのだった。
僕らは何も会話はせずに部屋を出た。
「お、お前ら!倒したのか?」
「あぁ、でも、今は話をする気分になれない。イヤ、また今度な」
「あ、あぁ」
イヤは驚いた表情をしつつも多少困惑していた。
それから初めの町に戻り、宿で寝ていた。
宿の中には外の雨音が木霊していた。
そんな雨音を一つの声がかき消した。
「ねぇ、兄さんはどう思う?」
「何がだ?」
「ジシヌさんのこと」
「まあ、可哀そうだと思ったよ。ずっとあの場所に一人だったんだから。最強故の孤独。強すぎる力は時に自分を苦しめるんだな」
そこで僕はある疑問が思い浮かんだ。
力と言えば僕の中にいるこの男、なぜこんなにも強いのだろうか。
僕は能力を発動しその男がいる空間に入る。
だが、
「うっ、」
途端に凄い吐き気がし、能力を解いた。
頭の中に様々な感情が流れ込んでくる。
憎悪、恐怖、後悔、罪悪感、殺意、嫌悪、苦しみ、怒り、絶望、
そして、欲。
「はぁ、はぁ、はぁ、」
「ど、どうしたの?!兄さん!」
「水月さ!、大丈夫ですか?!」
感情が渦のようにその空間を支配していた。
ジシヌとの戦いと同等、もしくはそれ以上の激しさだった。
そんなことになっている以上その空間に入ることは難しい。
だが、僕はもう一度その空間に入る。
なぜなら、この男は僕の中にいる。
いつから僕の中にいるかは分からないが、この男は小学二年生以前の記憶が無い理由を知っているかもしれない唯一の人間だからだ。
僕はもう一度能力を発動し、その空間に入る。
「鬱になりそうだな。うっ!」
吐き気で立つことすらもままならない。
だが、僕はここであの男を見つけ、話したいことがある。
「こんなところで止まっている場合じゃないぞ!水月!」
そう自分に言い聞かし、立ち上がる。
暗闇の中、右も左も分からないが、とにかく歩き始める。
「どこだー!どこにいるんだー!返事をしてくれー!」
返事は帰ってこない。
だが、探し続ける。
僕は死ぬまで探し続ける。
助けてという欲があの男にはあった。
そんな欲がある限り僕はあの男を助けたい。
そんな時、頭に入ってくる感情が少なくなった感じがした。
「まさか、」
僕は北方向を戻る。
予想通り、頭に入ってくる感情が多くなった。
この先にいるんじゃないか?そう思い歩き始める。
どんどん感情が濃くなっていき立てなくなるが、立てなくなっても這いつくばり進み続ける。
やがて微かに聞こえる声があった。
ありとあらゆる感情をかき分けその声の発生源にたどり着いて僕は驚いた。
なんとその声は鳴き声だったのだ。
「大丈夫か?」
その問いかけに大丈夫じゃないと返事をするように頭に入ってくる感情が濃く、多くなってくる。
「ッ!つー!いてー!」
頭の中がぐちゃぐちゃになり頭痛、吐き気、ダルさが頂点に達している。
能力を発動しているのが奇跡なほどだ。
体を動かすなんて正直厳しい。
だが、僕は奇跡を起こすため能力を限界まで使い四肢に力を入れる。
そして、僕はその男を抱きしめた。
「?!」
その時このその男を取り巻く感情が一瞬にして消えた。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、安心してくれ。僕がいる、今は僕に頼ってくれ」
「すい、げつ?大丈夫?」
「僕は何とも無い。大丈夫だ」
今までシルエットみたいに隠れていて性別ぐらいしか分からなかったが、見えなかったその男の外見が見えてくる。
そこにいたのは、小学生の時の僕だった。
だが、今はそんなこといい、それよりも、
「どうした?凄い感情だったぞ?」
「それはごめん。水月、嫌いな人はいるか?」
「まぁ、いるけど」
「俺もいる、過去の俺が嫌いだ。強い力を手にしたのにも関わらず、身近に確かにいる人間を守れなかった自分が嫌いだ」
「そんな強い力どこで手に入れたんだ?」
「この力はお父さんがくれた。お母さんがいないことは水月も知ってるだろ?」
「あぁ、気づいたときにはいなかったな」
「お母さんが死んでからだった。お父さんは俺に戦う術を教えてくれた。暗殺術もだ。どこを狙えば確実に殺れるか、とかな」
「それから、お父さんは突然消えたんだ」
「消えた?」
「う、うん」
段々声が震えてく。
「もういいよ、話さなくて」
それに気づき僕は話を止めた。
「え?」
「話したくないんだろ?」
「ん、ま、まぁ、話せる自信が無い」
僕は話題を変える。
「さっきまで出ていた感情は何だったんだ?」
「それは、さっき話していたことをジシヌとの戦いの最中に思い出してしまって、それで自分に怒りがわいたんだ」
「そうだったんだな」
「相談、乗ってくれるか?」
「あぁ、いいぞ」
「俺はこの力が憎いんだ。大切な人を守れもしなかったこんな力、欲しくなかった、この力で苦しんだんだ」
「いや、お前の力は役に立ったよ。お前の力が無かったら恋月と陽向を守れなかった、ありがとう」
「大切なものを守れなかった自分が憎い、自分が嫌いだ。俺なんていなければ良かった。水月、お前が最初から生きてくれれば良かったのに」
「そんなこと言うもんじゃないぞ、お前がいてくれたおかげで今の恋月がいる。お前のおかげだ。ありがとう」
「もう一度、お父さんに会いたい」
「あぁ、分かった。このゲームから出たら探すよ俺が」
「...ありがとう、ありがとう」
「それと、ジシヌから能力を貰ってな」
「能力を貰った?」
「ありがとうだってさ」
「?!...ありがとう」
「じゃあ、意識変わるぞ」
「え?」
僕は強制的に水月君の意識を覚醒させた。
俺は思った。
水月、ほんとお前は強引だな。
そう思い能力の玉を取り出す。
そして、
(能力取得)
そうして俺は意識を変わり眠りに落ちた。
それから六日が経過したある日、
僕たちは現実世界に強制的に戻されたのだった。
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