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1章〜異世界の地に立つ者達〜
19話「襲撃者2」
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パンドラが作り出した魔法陣からは次々と様々な形を持つ『概念』が現れた。
「行きなさい!」
パンドラの号令で『概念』は狼達を襲う。
しかし、戦況は覆らなかった。
そもそも、『概念』の大きさは様々であった。
大きくて人型、小さくて一体の虫。対して狼達は1匹1匹がそれなりの大きさと俊敏さを兼ね備えている。
初期の戦闘能力の差が出てしまっていたのだ。
さらに、数的有利も狼達の方が上だった。
数百の何かを呼び出しても倍の狼が何かを襲った。
結果、パンドラ本人も戦闘に参加することで徐々に押される、と言う形で戦況は動き続けた。
◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾
レイスが目で追いつくことのできない速度でマルコシアスを切り続ける。
そして、ファントムが狙いを集中して数十の影の槍を撃ち放つ。
その攻撃をマルコシアスは避けることをしなかった。
「かた、い⋯⋯!」
「(フー、フー!)」
「フンッ!貴様らのような脆弱な存在に我を傷つけることができるものか!」
マルコシアスが口から灼熱の炎を吹き散らす。
レイスは炎の隙間を縫うように移動し、ファントムは体を地面の影と同化することで避けている。
「主よ!絶対にワシの前に出るんじゃないぞ!」
「わ、わかった!」
マルコシアスの炎は地面を溶かしながらレイジを襲おうとするが餓鬼によって全て食べ尽くされてしまう。
各々が役割を果たしながらの状況が少しの間だけ続いた。
そして、戦況は変化した。
「ぬぅ!」
ファントムの槍が一本、マルコシアスの皮膚を貫いたのだ。
客観的に見れば気づくことができたはずだが、レイスに注意を向けていたマルコシアスは気付くことができなかった。
ファントムの影の槍はかなり限定した場所を狙い撃ちしていたことに。
「おのれぇ!羽虫の様に飛び回りおってッ!」
マルコシアスは更に火力を上げ、より広範囲に撒き散らした。
「魔王様より頂いたこの体を!下等種族風情がッ!」
しかし、一瞬で背後に回る速度とモグラ叩きの容量で移動する相手にとっては効果は薄かった。
レイスのククリナイフが開いた傷に追い討ちをかけるように裂傷を与えた。
ファントムの槍がさらに鎧のような毛皮を削りとる。
刻一刻とマルコシアスの傷は増えていき、増える傷からは目に見えて血が流れている。
「貴様らァ、許さん!」
「シャアアアアアァ!」
今までの攻防で参加していなかった尾の蛇が動き出した。
「出てきたばかりの雑魚だと考えていたがもう容赦はせん!消し炭にしてくれる!」
マルコシアスは先と同様に膨大な熱量を吐き出す。その色は憤怒しているマルコシアスを象徴するかのような暗褐色だった。
その色合いに嫌な予感がしたレイジは叫ぶ。
「れ、レイス!ファントム!あの炎はなんかマズい!絶対に当たるんじゃないぞ!」
レイスとファントムも同じように直感していた。この炎は君が悪い、と。
同じ要領で炎を避けようとするがーー
「逃がすものか愚か者がッ!」
ーー尾の蛇は人の頭を一回りも二回りも大きくした火球を撃ちななった。
ファントムが居たであろう地面に向けて。
「(ーーッ)」
放たれた火球はたった一撃で地面をえぐり取り大きなクレーターを作り出した。
「ファントム!」
レイジがファントムの安否を確認するために叫ぶ。
するとクレーターのできた地面の少し離れた所からニュルリ、と影が這い出てきた。
「よ、よかっ...!」
だが、ファントムの右足と右腕がなかった。
「なっ!?」
ファントムは崩れ落ちた。
そして、それを待っていたとばかりに周囲にいた狼達が駆け出した。
「ファ、ファントム!」
レイジは駆け出そうとするが、
「待つのじゃ!」
餓鬼が間一髪のところでレイジの服の一部を掴み制止した。
「離せ餓鬼!このままだと!」
「グッ!ま、待つのじゃ!まだファントムは死んでおらぬ!よく見るのじゃ!」
ファントムは無理矢理にだが立ち上がろうとする。
そして、駆け寄ってくる狼達を影の槍で一掃していく。
「クハハハハハハッ!これでまずは1人。サァ死ぬがよ...グヌッ!」
動きが鈍いファントムにトドメを刺そうとマルコシアスが前足を振り上げる。
しかし、レイスがマルコシアスの顔面を横から殴打することで狙いを外させた。
「また貴様か!羽虫の分際で喚きおって!」
マルコシアスはレイスに照準を合わせ火球と暗褐色の炎で攻撃を開始した。
だが、その攻防は長くは続かなかった。
「どうしたどうした?動きが見えてきたぞ!」
そう、レイスの動きが目に見えて遅くなってきたのだ。
連戦、幾ら技能(スキル)の裏を突き体力や魔力が減らないとしても元々持っていた体力には限界が近づいていた。
そしてーー
「も、申し訳ありません貴方様!」
パンドラがすぐそこまで追い詰められてきてしまっていた。
もう、周囲の狼を抑えきれていない。ジリジリと戦線が後退し続けている。
レイジは周囲を見渡した。
戦線を保てなくなり物量で押されているパンドラ。
右半身を失い、それでも戦闘を続けるファントム。
体力の限界を感じ始め徐々に押され始めているレイス。
「な、なんでだよ⋯⋯」
レイジの中で一つの実感が湧いたーー『死』という実感が。
満身創痍な仲間と無力な自分。こんな無力な自分ができることは祈ることと懇願することだけだろうか。
そう思いマルコシアスに目を向けるがーー
「フハハハハッ!貴様らを殺す!我が魔王様の安寧と安息を守るのだ!」
狂気と憤怒で染まった凶悪な狼が暴れまわっていた。
とても懇願するための勇気が出ない。すくむ足の震えを止めることすら叶わない。
絶望的。文字通り逆転の望みは微塵も考えられず絶たれてしまった。
「⋯⋯俺は、ここで死ぬのか」
少し前までは敵だったパンドラと笑い合えた。
帰ってゼーレに報告して一緒に祝勝会でも開こうと考えていた妄想は走馬灯になりつつあった。
「⋯⋯嫌だ⋯⋯死にたくねえよぉ」
ダンジョンマスターになった時には感じなかった悲壮感が、喪失感が一気に押し寄せてきた気がした。
見苦しくも嗚咽の混じった泣き言を言うレイジを責める者はいなかった。
だが、諦める者もいなかった。
「のう、お主ーー生きたいか?」
餓鬼は言った。それはまるで、泣きじゃくる孫をあやす祖父の様に温かくレイジを包み込んだ。
「行きなさい!」
パンドラの号令で『概念』は狼達を襲う。
しかし、戦況は覆らなかった。
そもそも、『概念』の大きさは様々であった。
大きくて人型、小さくて一体の虫。対して狼達は1匹1匹がそれなりの大きさと俊敏さを兼ね備えている。
初期の戦闘能力の差が出てしまっていたのだ。
さらに、数的有利も狼達の方が上だった。
数百の何かを呼び出しても倍の狼が何かを襲った。
結果、パンドラ本人も戦闘に参加することで徐々に押される、と言う形で戦況は動き続けた。
◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾
レイスが目で追いつくことのできない速度でマルコシアスを切り続ける。
そして、ファントムが狙いを集中して数十の影の槍を撃ち放つ。
その攻撃をマルコシアスは避けることをしなかった。
「かた、い⋯⋯!」
「(フー、フー!)」
「フンッ!貴様らのような脆弱な存在に我を傷つけることができるものか!」
マルコシアスが口から灼熱の炎を吹き散らす。
レイスは炎の隙間を縫うように移動し、ファントムは体を地面の影と同化することで避けている。
「主よ!絶対にワシの前に出るんじゃないぞ!」
「わ、わかった!」
マルコシアスの炎は地面を溶かしながらレイジを襲おうとするが餓鬼によって全て食べ尽くされてしまう。
各々が役割を果たしながらの状況が少しの間だけ続いた。
そして、戦況は変化した。
「ぬぅ!」
ファントムの槍が一本、マルコシアスの皮膚を貫いたのだ。
客観的に見れば気づくことができたはずだが、レイスに注意を向けていたマルコシアスは気付くことができなかった。
ファントムの影の槍はかなり限定した場所を狙い撃ちしていたことに。
「おのれぇ!羽虫の様に飛び回りおってッ!」
マルコシアスは更に火力を上げ、より広範囲に撒き散らした。
「魔王様より頂いたこの体を!下等種族風情がッ!」
しかし、一瞬で背後に回る速度とモグラ叩きの容量で移動する相手にとっては効果は薄かった。
レイスのククリナイフが開いた傷に追い討ちをかけるように裂傷を与えた。
ファントムの槍がさらに鎧のような毛皮を削りとる。
刻一刻とマルコシアスの傷は増えていき、増える傷からは目に見えて血が流れている。
「貴様らァ、許さん!」
「シャアアアアアァ!」
今までの攻防で参加していなかった尾の蛇が動き出した。
「出てきたばかりの雑魚だと考えていたがもう容赦はせん!消し炭にしてくれる!」
マルコシアスは先と同様に膨大な熱量を吐き出す。その色は憤怒しているマルコシアスを象徴するかのような暗褐色だった。
その色合いに嫌な予感がしたレイジは叫ぶ。
「れ、レイス!ファントム!あの炎はなんかマズい!絶対に当たるんじゃないぞ!」
レイスとファントムも同じように直感していた。この炎は君が悪い、と。
同じ要領で炎を避けようとするがーー
「逃がすものか愚か者がッ!」
ーー尾の蛇は人の頭を一回りも二回りも大きくした火球を撃ちななった。
ファントムが居たであろう地面に向けて。
「(ーーッ)」
放たれた火球はたった一撃で地面をえぐり取り大きなクレーターを作り出した。
「ファントム!」
レイジがファントムの安否を確認するために叫ぶ。
するとクレーターのできた地面の少し離れた所からニュルリ、と影が這い出てきた。
「よ、よかっ...!」
だが、ファントムの右足と右腕がなかった。
「なっ!?」
ファントムは崩れ落ちた。
そして、それを待っていたとばかりに周囲にいた狼達が駆け出した。
「ファ、ファントム!」
レイジは駆け出そうとするが、
「待つのじゃ!」
餓鬼が間一髪のところでレイジの服の一部を掴み制止した。
「離せ餓鬼!このままだと!」
「グッ!ま、待つのじゃ!まだファントムは死んでおらぬ!よく見るのじゃ!」
ファントムは無理矢理にだが立ち上がろうとする。
そして、駆け寄ってくる狼達を影の槍で一掃していく。
「クハハハハハハッ!これでまずは1人。サァ死ぬがよ...グヌッ!」
動きが鈍いファントムにトドメを刺そうとマルコシアスが前足を振り上げる。
しかし、レイスがマルコシアスの顔面を横から殴打することで狙いを外させた。
「また貴様か!羽虫の分際で喚きおって!」
マルコシアスはレイスに照準を合わせ火球と暗褐色の炎で攻撃を開始した。
だが、その攻防は長くは続かなかった。
「どうしたどうした?動きが見えてきたぞ!」
そう、レイスの動きが目に見えて遅くなってきたのだ。
連戦、幾ら技能(スキル)の裏を突き体力や魔力が減らないとしても元々持っていた体力には限界が近づいていた。
そしてーー
「も、申し訳ありません貴方様!」
パンドラがすぐそこまで追い詰められてきてしまっていた。
もう、周囲の狼を抑えきれていない。ジリジリと戦線が後退し続けている。
レイジは周囲を見渡した。
戦線を保てなくなり物量で押されているパンドラ。
右半身を失い、それでも戦闘を続けるファントム。
体力の限界を感じ始め徐々に押され始めているレイス。
「な、なんでだよ⋯⋯」
レイジの中で一つの実感が湧いたーー『死』という実感が。
満身創痍な仲間と無力な自分。こんな無力な自分ができることは祈ることと懇願することだけだろうか。
そう思いマルコシアスに目を向けるがーー
「フハハハハッ!貴様らを殺す!我が魔王様の安寧と安息を守るのだ!」
狂気と憤怒で染まった凶悪な狼が暴れまわっていた。
とても懇願するための勇気が出ない。すくむ足の震えを止めることすら叶わない。
絶望的。文字通り逆転の望みは微塵も考えられず絶たれてしまった。
「⋯⋯俺は、ここで死ぬのか」
少し前までは敵だったパンドラと笑い合えた。
帰ってゼーレに報告して一緒に祝勝会でも開こうと考えていた妄想は走馬灯になりつつあった。
「⋯⋯嫌だ⋯⋯死にたくねえよぉ」
ダンジョンマスターになった時には感じなかった悲壮感が、喪失感が一気に押し寄せてきた気がした。
見苦しくも嗚咽の混じった泣き言を言うレイジを責める者はいなかった。
だが、諦める者もいなかった。
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