ダンジョンマスターは魔王ではありません!?

静電気妖怪

文字の大きさ
59 / 106
2章〜光は明日を照らし、鬼は大地を踏みしめ、影は過去を喰らう〜

59話「湧き立つ希望、溢れる光、その後に7」

しおりを挟む
 暗い、昏い闇の中で彼女は目を覚ました。

 ——ここは?

 上も下も分からない。足元の感覚もなく、フワフワとした無重力が体を包む。もがこうと体を動かす。

 ——いたい。

 動かそうとする意思を否定するかのように痛みが彼女の全身を駆け巡った。

 ——⋯⋯。

 彼女は動こうとすることを辞めた。痛みが止まるのならそれでいい。
 痛みを振り払ってでも動こうとする理由がわからなかった。

 ——⋯⋯こわい?

 闇の中、彼女の中に込み上げてきたのは恐怖だった。一寸先をも見渡させない闇が彼女の心を蝕んだ。

 ——こわい⋯⋯こわい⋯⋯コワイよ⋯⋯

 彼女は必死になった。痛いのを堪えながら、避けながら必死に明かりを求めた。

 そして、見えた光芒が映し出したのは——


「アヒャヒャヒャぁ!」


 身丈を超えた大きな金棒を振りかぶった少女と、振り下ろされる少年の光景。

 ——⋯⋯ぇ?

 少女の中で何かが切れた。

 ——⋯⋯だめ!

 少女は動き出した。
 痛みに抗う理由を思い出した。
 恐怖を払う理由を思い出した。
 光を求める理由を思い出した。

 ——ダメ、だめ、それだけは⋯⋯!

「ダめエエエえええええええぇぇ!!」

 少女はいつの間にか走っていた。
 その影を終えるものは誰一人と居なく。

 少女はいつの間にか叫んでいた。
 その声を聞き入れぬものは誰一人と居なく。

 少女はいつの間にか変わっていた。
 その姿を魅入らぬものは誰一人と居なく。

 そして、少女は——

 ◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾

「アヒャヒャヒャぁ!」

 レイジ の目の前には死が体現していた。
 振りかぶられた金棒は生者を刈る凶器に。
 向けられた笑顔は死者を迎え入れる手招きに。

 レイジ はその死に抗うことができなかった。
 予想以上の魔力欠乏による疲労。強者との剣の交え。反応が追いつかない理由としては十分だった。

「⋯⋯あぁ」

 レイジ にできた最後の抵抗は目を瞑る、だった。
 この闇の中で、その痛みを埋めよう。そんな些細な抵抗だった。

 そして、金棒が振り下ろされる——

「⋯⋯?」

 ——前に壁に何かが激突する音が響き渡った。

「⋯⋯え?」

 レイジ が目を開けばそこには一人の少女がいた。

 腰まで真っ直ぐに伸びた赤い髪。
 その所々には黒の斑点が浮かんでおり、妖しくも妖艶さがある。
 背丈は レイジ の腰ほどで、その白い肌を一枚の擦り切れたローブが包んでいた。
 手には振り抜かれた二本のククリナイフ。その様子は以前よりも更に毒々しさがましている。

「まさかお前⋯⋯レイス か?」
「うん⋯⋯ますたー⋯⋯ケガ、ない?」

 振り返り愛おしそうに見つめる少女。瞳には今にも溢れそうなほどに涙が溜まっており、優しくレイジを見つめていた。
 不覚にも、レイジはその美しさに声がどもった。

「あ、ああ大丈夫だ⋯⋯助かったよ」
「よかった⋯⋯ほんとう、に⋯⋯よかった」

 そして、少女は涙を拭い壁側を向いた。
 そこには瓦礫から這い上がる一体の赤鬼の少女の ロート の姿があった。

「ア⋯⋯ヒャ⋯⋯?」

 ロート は自身に何が起きたか理解できなかった。
 確実に仕留められる時に、確実に仕留めなくてはならない相手を殺した。そう思ったら次の瞬間は瓦礫の上。

 理解はできなかった。しかし、原因は見つけた。

「ヒュゥ⋯⋯」

 ロート は静かに目を細め、原因少女を睨みつけた。先ほどまでの獲物を狩るのとは違い対等な敵と認識したようだ。

「ますたー、あいつは⋯⋯私が⋯⋯る。だから⋯⋯」
「ああ、任せるよ」
「⋯⋯え?」
「俺はもう動けない。パンドラ も深手。 ハクレイ は行方不明だが、多分無事だ。どっかで休んでんだろ」
「⋯⋯」
「エイナ が危ないかもしれない。だから、早めに片付けてくれ」
「⋯⋯わかった」

 少女はそう返事をした直後——

「⋯⋯アヒャ?」

 ロート の金棒を握っていた右腕が肩から落ちた。

「——ア⋯⋯アヒャヒャヒャグアギャアギャギャアァァッッ!!??」

 ロート は驚きと疑問に支配された。
 いつ切られたのか?
 なぜ切られたのか?
 どうやって切ったのか?
 誰が切ったのか?

 わからない、理解できない、納得できない。
 ただただ、その恐怖が次の瞬間への絶望が一瞬にして ロート に植え付けられた。

「アヒャ⋯⋯あひゃ、あひ⋯⋯あぁ⋯⋯」

 痛みか、恐怖か。ロート の様子は次第に変化していった。

 纏っていた雰囲気は年相応のものに変わり、
 変化していた体は人間そのものに変わり、
 映し出す眼は恐怖を与えるモノではなく、恐怖を感じる者に変わっていた。

「あぁ⋯⋯い、いや⋯⋯いだい、いたいぃ⋯⋯!」
「つぎで⋯⋯おわり」
「い、や⋯⋯ぁ」

 宣告通り少女の不可視の攻撃が放たれた。
 いつ切られるのか分からない。どこから切ってくるのか分からない。必ずやって来て、逃げることができない死への恐怖が体を蝕む。
 ロートは固く目を瞑った。訳もわからない恐怖から逃げるために。

 そして、大きな金属音が耳をすり抜ける。

「⋯⋯ッ」

 いつまで経っても何も感じなかった。それが逆に恐ろしく、それでも不思議に思ったロートはゆっくりと目を開いた。

「⋯⋯え?」

 前に立っていたのは大きな鎌を盾にした ブラウ だった。

「お、おねえ⋯⋯ちゃん」
「良かった⋯⋯間に合ったわ⋯⋯」

 ブラウ は予測した。
 次に狙われるのは首であるだろうと。直感にも等しいその賭けに ブラウ は賭け、勝った。

 だが——

「お姉ちゃん!」
「⋯⋯!」

 次は防げない。

 ロート は嬉しさのあまり涙を流しているが、ブラウ には分かっていた。感動の再会をしている暇などはない。
 だから——

「——え?」

 ブラウ は ロート を大鎌の柄で殴り飛ばした。

「うっ⋯⋯!ケホッ!」

 殴り飛ばした方向は ブラウ 達が入ってきた入り口。殴り飛ばされた ロート は咽ながらもそこまで痛みはなかった。

「な、何する——」
「逃げなさい⋯⋯」
「⋯⋯え?」
「逃げなさい、って言ってるのよッ!」

 ブラウ の叫びにも似た大声が響いた。

「——ッ! マズイ! レイスッ!」
「うん⋯⋯!」
「行かせないッ!」

 ロート に逃げられる。それはダンジョン内の情報が伝わることを示していた。
 そのことに一早く気づいた レイジ は 少女に命令したがそれよりも ブラウ が行動を起こすのが早かった。

「ハアアアアアァ!!」

 ブラウ の気合とともに現れたのは風の結界。
 半球場のそれは入り口にいた ロート 以外を包む程の大きさを作った。

「⋯⋯」

 少女は抉じ開けようとククリナイフを振るうが金属音が響くだけで壊れることはなかった。

「無駄よ⋯⋯これは、私の全力の結界⋯⋯」
「なら⋯⋯!」

 そう言って少女は ブラウ の胸部をククリナイフで貫いた。

「ゴフッ⋯⋯!だから⋯⋯いったでしょ⋯⋯?全力だって⋯⋯もう、私には⋯⋯何も残っていない⋯⋯」

 ブラウ は血を吐きながらそう言った。
 周囲の結界は ブラウ の生命状況に関わりなく存在していた。まるで、ブラウの最後の意思のように残り続けている。

「お姉ちゃんッ!」
「⋯⋯ロート⋯⋯まだいたの⋯⋯?」
「だって⋯⋯約束⋯⋯アイス作るって⋯⋯!果物一杯って——」
「そんなの⋯⋯もう、むりよ⋯⋯」
「でも⋯⋯でも⋯⋯!」
「いきなさい⋯⋯」
「い、いやだ⋯⋯!⋯⋯いや!」
「行きなさいッ!」
「ヒッ⋯⋯」

 ブラウ の叫び。その表情は優しい姉の面影はなく、弱者を喰らう鬼の様だった。

「⋯⋯う、うぅ⋯⋯うわああああああああぁあぁぁ!」

 ロート は走った。
 涙を流し、痛みに抗い、振り返りたい気持ちを押さえ込めながら。

「そう⋯⋯それでいい、のよ⋯⋯」
「⋯⋯」
「レイス!」
「だめ⋯⋯ますたー⋯⋯もう、死んでる」
「何?」

 レイジ が見ると ブラウ の息は止まっていた。しかし、改めて周囲を見るが風の結界は健在だった。

「クソッ!」
「たぶん⋯⋯時間で、きえる」
「それまで足止めってことか⋯⋯クソッ!」

 その後、風の結界が消えたのは レイジ がの反応がダンジョン内から消えたのを確認した後だった。

 ◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾

 ーーーーー
 名前:神ノ蔵 レイジ
 種族:霊人族
 性別:男
 Lv:34 → 59
 HP:E → D
 MP:E → D
 技能:ダンジョンマスター(3→5)、霊体化(1)、憑依(1)
 称号:霊族のダンジョンマスター、勇者殺し(New)
 DMP:257,952,000 → 98,933,000
 ーーーーー

 ーーーーー
 名前:エイナ
 種族:霊種
 性別:女
 Lv:38 → 44
 HP:E→ D
 MP:D → C
 技能:影魔法(6)
 称号:影の主
 ーーーーー

 ーーーーー
 名前:ーーー
 種族: 霊種
 性別:女
 Lv:45 → 60
 HP:C → B
 MP:C→B 
 技能:神速(3 → 5)、剣術(4)(New)
 称号:変異種、闇の主 → 闇の支配者、神風(New)
 ーーーーー

 ーーーーー
 名前:パンドラ
 種族:概念種
 性別:女
 Lv:43 → 55
 HP:D→ C
 MP:C →B
 技能:闇魔法(5→6)、厄災(-)、美貌(-)、剣術(5)(New)
 称号:闇の主、厄災の概念、美貌の概念
 ーーーーー

 ーーーーー
 名前:ハクレイ
 種族:妖種
 性別:女
 Lv:1 → 33
 HP:G→ D
 MP:E → D
 技能:束縛封印(-)、地縛(-)、鞭術(4)
 称号:迷える者、封印されし者
 ーーーーー

 ーーーーー
 名前:ーーー
 種族:妖刀
 性別:男
 Lv:1 → 38
 HP:G → D
 MP:E→ D
 技能:思念操作(-)、忘我の呪い(-)
 称号:宿る魂
 ーーーーー
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

雷王、大いに懊悩す~ラスボス魔王、使命を果たして元の世界に戻りたくない異世界転移チート勇者によって全力で延命させられるの巻~

朽縄咲良
ファンタジー
 ――「要するに、アンタには死なれちゃ困るんだよ。俺が、この異世界で幸せな一生を送って、天寿を全うするまで、な」  魔族を統べる魔王イラ・ギャレマスは、自身の城へと攻め込んできた“伝説の四勇士”の三人、ジェレミィア・ファミィ・エラルティスを、その圧倒的な力を以て圧倒する。  残るは、黒髪黒目の冴えない男――シュータ・ナカムラのみ。  だが……シュータは、魔法陣で三人の仲間を魔王城の遥か彼方へと吹っ飛ばし、ただひとりで魔王と対峙する。  ――そして、二十分後。  不様に大理石の床に這いつくばっていたのは、魔王ギャレマスの方だった。  シュータの繰り出す圧倒的なチート攻撃の前に為す術もないギャレマスは、自身の敗北と迫りくる死を覚悟するが、そんな彼に対し、シュータは不敵な笑みを浮かべながら、意外な提案を持ちかけるのだった――。 「なぁ、魔王。ここはひとつ、手を組もうぜ……!」  『地上最強の生物』だが、めっぽうお人好しで、バカが付くくらいに娘の事を溺愛している中年オヤj……ナイスミドル(忖度)の魔王が、反則級のチートマシマシ異世界転移勇者をはじめとした周囲の者たちに翻弄されまくるコメディファンタジー、ここに開幕!  哀れな魔王の、明日はどっちだ……? (表紙イラストは、ペケさんから戴きました) *小説家になろう・ノベルアッププラスにも、同作品を掲載しております。

『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

鈴白理人
ファンタジー
北の辺境で雨漏りと格闘中のアーサーは、貧乏領主の長男にして未来の次期辺境伯。 国民には【スキルツリー】という加護があるけれど、鑑定料は銀貨五枚。そんな贅沢、うちには無理。 でも最近──猫が雨漏りポイントを教えてくれたり、鳥やミミズとも会話が成立してる気がする。 これってもしかして【動物スキル?】 笑って働く貧乏大家族と一緒に、雨漏り屋敷から始まる、のんびりほのぼの領地改革物語!

捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ

月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。 こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。 そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。 太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。 テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...