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2章〜光は明日を照らし、鬼は大地を踏みしめ、影は過去を喰らう〜
63話「罪深きゲッケイの落とし子4」
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レイジが悪戦苦闘の末に辿り着いたのは『ミサキ』という名前だった。
「ミサキ⋯⋯ミサキ⋯⋯」
名前が『ミサキ』と決まった少女は表情こそ分かりにくいが、その言葉尻が弾んでいることから喜んでいるのが伝わる。
その証拠に口元が僅かにだが上がり、頬が少しだが朱色に染まっている。
「お、終わった⋯⋯」
対する レイジ はようやくの思いで恐怖から解放された。その目は遥か遠くを見つめ、顔色は蒼白になっている。
「お疲れー」
そんな レイジ の様子を見て慰めに来たのか茶化しに来たのか ゼーレ がやって来た。
「⋯⋯あ! ゼーレ、お前!」
「いやー、中々面白かったよ!」
ミサキが不機嫌になった時に真っ先に逃げた挙句、脅されている間は隠れながら様子を窺っていたゼーレ。その事をレイジは気づいていたし、終わった直後に素知らぬ顔で来るので余計に腹が立つ。
「面白いわけあるか! 死ぬかと思ったわ!」
「良いじゃん良いじゃん! コレがレイ——ミサキちゃんの愛の表現だよ!」
「嫌だよそんな愛の表現! 気に入らないからって理由で『どこ切って欲しい?』って聞かれんだぞ!?」
「もー、それが可愛いじゃないかー」
「最初は爪を剥ぐって言い始め、次は指を切るって言うし、終いには⋯⋯食べるって」
ミサキの脅しは拷問に近かった。
実際には傷一つないのだが、チラつくククリナイフと不機嫌度マックスの眼光で十分追い詰められた気分になる。
「あはははっ!愛されてるねぇ」
「コレが愛なのか?! 絶対 ミサキ は俺のこと——」
「なに⋯⋯?ますたー⋯⋯?」
「——ヒッ」
自分の名前が呼ばれた瞬間、技能を使ってまでして レイジ のことへ戻って来た。本当に一瞬で。
レイジとしては地獄耳まで技能化してしまったと後悔してしまうほどに。
「ミサキちゃん 良かったね!」
「⋯⋯うん」
「ところでさっき言ってた食べるってお兄ちゃんの何を食べるの?」
「⋯⋯ぜんぶ」
「全部?」
「そう⋯⋯ぜんぶ⋯⋯ぶつりてきに⋯⋯」
「物理的に!? 何、俺調理でもされるの!?」
「ますたーを⋯⋯かんじる⋯⋯ずっと⋯⋯いっしょ⋯⋯」
「⋯⋯もうやだ」
「それに⋯⋯あ、これ⋯⋯いってよかったっけ⋯⋯?」
ミサキはエイナの入っているカプセルを一瞥した。何かを確認するかの様なそぶりだが、本人はカプセルの中ですやすや寝ているため可愛らしく「⋯⋯うーん」と悩んだ。
「ま⋯⋯いっか⋯⋯エイナも⋯⋯ますたーの⋯⋯髪とか、爪とか⋯⋯あつめてた⋯⋯」
「え、エイナッ!?」
「道理で最近見ないと思ったらそういうことだったのか!」
「ゼーレ お前もか!?」
レイジ は以前爪を切りたいけどゴミはどこに捨てれば良いかと ゼーレ に相談した時『ダンジョンが勝手に吸収するからそこらへんに捨てておけば良いよー』と言っていたことを思い出した。
実際に、ダンジョンが飲み込んでいる瞬間を目にしたため、便利だなと思いながらゴミ捨て場を設けて捨てていた。
「⋯⋯まさかそんなことになってたとは」
「あとは⋯⋯パンドラも⋯⋯」
「はい、私がどうかしましたか?」
ミサキ が パンドラ の名前を出した丁度の時、偶々やってきた パンドラ が食いついた。ミサキが暴露大会を始めていることなど露とも知らずにやってきてしまったのだ。
「ますたーの⋯⋯ふく⋯⋯においかいでた⋯⋯」
「パンドラさん!?」
「——ッ!? な、なななぜそれを、ではなくそ、そんなことしてまませんわ!」
明らかに動揺する パンドラ。その態度だけで十分自白したようなものなのだが、毅然と取り繕うとする。
そして、さながら名探偵を気取った様に ミサキ は言い放つ。
「私の⋯⋯目は⋯⋯ごまかせ⋯⋯ない⋯⋯!」
「⋯⋯パンドラ、今後の洗濯当番を話し合おうか?」
「そ、そんな!貴方様!信じてください!無実でございます!」
「何やってるんすか? やけに騒がしいっすよ」
騒ぎにつられてか ハクレイ までもがやってきた。
楽しいことが大好きな彼女の性分から見つけてしまったら野次馬根性が出てくるのは仕方ないと言えるが⋯⋯ハクレイがそう言ったことをしていないことを祈るばかりだ。
「は、ハクレイか⋯⋯そうだ! お前は変なことしてないよな!?」
「へ、変なことっすか?」
「そうだ! 俺の髪や爪を集めたりとか」
「しないっすね」
「服の匂いを嗅いだりとか」
「やらないっすね」
「俺を調理して食べたいとか」
「思ったこともないっす」
「は、ハクレイッ!」
レイジ は色々な意味で歓喜した。
やっとマトモな人材がいたことに、ハクレイ の重要性に今になって気づいた。
だが——
「この前⋯⋯ますたーの⋯⋯おふろ⋯⋯のぞいてなかった⋯⋯?」
——ミサキ の一言に ハクレイ に抱きつきそうになっていた レイジ の動きが止まった。
「——ッッッッッ!?」
「は⋯⋯ハクレイ⋯⋯?」
「はくれいの⋯⋯のうりょく⋯⋯だんじょんない、なら⋯⋯どこでも⋯⋯みほうだい⋯⋯」
「な、何故それを!?」
「私は⋯⋯知ってる⋯⋯ますたー⋯⋯まもるため⋯⋯」
「な、なら先輩達だって——!」
そう言って誰かが誰かに罪をなすりつける戦いが始まった。
この時 レイジ は強く思った。
一日も早くダンジョンを出ようと。
一日でも早く強くなろうと。
理由は——怖いから。いつかこの少女達に取り返しのつかない事をされるのではないかと不安になったから。
(ま、頑張りぃや旦那)
(妖刀⋯⋯)
(そうは言っても、旦那も案外嫌じゃないんやろ?)
(⋯⋯)
そう、レイジ の中では ミサキ達を憎むことも嫌うこともなかった。
純粋に嬉しかった、という気持ちは強かった——が、怖いと感じる部分もある。大いにある。
だから レイジ はより一層に エイナ を早く救い出したいと思った。
◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾
ー異世界某所ー
冒険者ギルドの最上階ではギルドマスターの大男と秘書の私、そしてボロボロになりながらも1人帰還したロートで集まっています。
「う、うっぐ⋯⋯ひっぐ⋯⋯」
「マジかよ⋯⋯」
「ギルドに所属するAランクが事実上の負け、騎士団の副団長は死亡、暗殺ギルド幹部は行方不明、ですか」
私達は泣きぐずるロート から今回の以来の結果を聞いていました。
ロート が片腕を失い、一人で帰ってきたと聞いた時点で嫌な予感はしていました。しかし、こうも最悪の結果を生み出しているとまでは考えていなかったために驚愕の度合いは大きかったです。
「だって! 意味わがんないんだもん! なんなのあいづ!」
ロート は戦った相手を思い出しているのか涙を流し、手近にある物に怒りをぶつけています。ぶつけられた品々は当然ロートの怪力に耐えられることはなく、軽々と破壊されてしまいます。
「「⋯⋯」」
これ以上、部屋のものを破壊されては堪らないと思いつつも、肉親の1人である姉を目の前で失ったロートの心情を察すると強くは言えません。
どうしようか、と思っていたところ大男からの目配せに気付いてしまいました。
(私になんとかしろと!?冗談でしょう!?)
そのデカイ図体は飾り物ですか?!と叫びたくなりますが、なんとか平常心を保ちます。
本当に叫びたかったです。目の前に悪党も泣いて逃げ出す怪物が暴れ回っているのにどうして自分で行かないのかとヒステリックを起こしたいくらいですが⋯⋯仕方ありません。
「ロート様、あなたは頑張りました。辛かったでしょう。今は少しでも良いから落ち着きなさい」
「ぞんなの!ぞんなのむりだよ!」
「⋯⋯わかりました。では、下に行って休んで下さい。腕の方も回復魔法をかければ治るでしょう」
「⋯⋯⋯⋯」
「ロート様?」
「⋯⋯わがっだ」
そう言って ロート は渋々だが部屋から出て行った。
案外あっさり引き下がってくれたことに驚きましたが、今の彼女には、私のようなか弱い女性の圧に耐えられるだけの気力もなかったのでしょう。
「⋯⋯はあああぁぁ」
デカブツがわかり易いくらいに緊張の糸を緩めます。
私としては、生贄にさせられて分の怒りで生命線を切ってあげたいくらいです。
「随分⋯⋯長いため息ですね」
「そりゃあ深いもんを吐きたくなるでしょ」
「でしょうね」
「まさかまさかとは思っていたが、ここまでとはな⋯⋯」
デカブツの表情は次に起きることを予想しているのか、より一層の疲れが見えます。
当然と言えば当然でしょう。勝算を上げるために方々の精鋭を呼んでパーティーを組んだのにも関わらず、結果が全滅の一歩手前。名の知れた精鋭達の死を目の前に誰が好き好んで依頼を受けてくれるでしょうかね。
しかも——
「⋯⋯もう止めらんねぇぞ」
「止められませんか?」
「ああ、無理だね。この世界でアイツを止められるやつなんて居やしねえよ」
「本当に無理なのですか?元勇者パーティー騎士である貴方でも?」
——犠牲に出した人物の1人が厄介この上なかった。
このデカブツ、見かけによらずか、見かけ通りか勇者パーティーの盾役をしていました。その盾役でも止められない存在は当然います。
「⋯⋯ああ、無理だね。幼馴染として言ってやれるくらいはできるが現役退いて15年。流石に止めるには歳食い過ぎただろ」
幼馴染、と言っていますが勇者のこと。
勇者という呼び名はかなりありふれていますが、私たちの業界では最も強い者をそう呼んでいます。
「お前はどの位でアイツが戻ってくると思う?」
「勇者一行は今、魔王のダンジョンの中腹にいるでしょう。遅くて一年ほどかかるのでは?」
「はぁ⋯⋯そうだよな、一年しかねぇんだよな。一年であのダンジョン潰せると思う?」
「無理でしょうね。騎士団はこの件を切っ掛けに動かないでしょう。暗殺ギルドも同様。冒険者ギルドとしてもAランク以上を集め総攻撃しても良いでしょうが話を聞く限りでは割に合わない被害が出るでしょう」
ロート様の話を聞く限りでは、ロート様を圧倒した骸骨の魔物——途中から少女の姿になった魔物、マーダと同系統の珍しい影魔法を使う女型の魔物、ブラウ様を『鬼化』まで使わせた鎖使いの魔物、ラルカ様の手の内を全て出させた『概念種』に⋯⋯奇妙な剣を使うダンジョンマスター。
実力者揃いの上に、ダンジョンマスターの能力が今一つ割れていない今の現状では不安要素が多すぎます。
「だよなぁ⋯⋯どうするかな」
「勇者一行に挑んでもらえれば良いのではないですか?」
「⋯⋯そりゃあ、アイツ等に任せれば一番楽だ。娘を殺されたんだ。アイツだって怒り狂いながらやってくれるだろうが⋯⋯」
短くない付き合いなので何となくこのデカブツが思っていることがわかります。おそらく、幼馴染の勇者のことを思っているのでしょう。
「あんまし⋯⋯恨みを買う様なことしねぇで欲しいんだわな⋯⋯」
「⋯⋯」
恨み。それは恐怖とも言い換えられるのでしょう。
魔王を倒そうが、ダンジョンマスターを倒そうがそれだけ強力な存在は最初こそ賞賛されたとしても、その後にどのような扱いを受けるか⋯⋯勝っても地獄、負けても地獄とは救いようのない話です。
「世界が滅びなけりゃあ⋯⋯いいんだがな」
冗談と捉えにくい不吉な言葉を予言者のように言わないで欲しいです。本当に⋯⋯本当に世界が滅んでしまうと思ってしまうのですから。
「ミサキ⋯⋯ミサキ⋯⋯」
名前が『ミサキ』と決まった少女は表情こそ分かりにくいが、その言葉尻が弾んでいることから喜んでいるのが伝わる。
その証拠に口元が僅かにだが上がり、頬が少しだが朱色に染まっている。
「お、終わった⋯⋯」
対する レイジ はようやくの思いで恐怖から解放された。その目は遥か遠くを見つめ、顔色は蒼白になっている。
「お疲れー」
そんな レイジ の様子を見て慰めに来たのか茶化しに来たのか ゼーレ がやって来た。
「⋯⋯あ! ゼーレ、お前!」
「いやー、中々面白かったよ!」
ミサキが不機嫌になった時に真っ先に逃げた挙句、脅されている間は隠れながら様子を窺っていたゼーレ。その事をレイジは気づいていたし、終わった直後に素知らぬ顔で来るので余計に腹が立つ。
「面白いわけあるか! 死ぬかと思ったわ!」
「良いじゃん良いじゃん! コレがレイ——ミサキちゃんの愛の表現だよ!」
「嫌だよそんな愛の表現! 気に入らないからって理由で『どこ切って欲しい?』って聞かれんだぞ!?」
「もー、それが可愛いじゃないかー」
「最初は爪を剥ぐって言い始め、次は指を切るって言うし、終いには⋯⋯食べるって」
ミサキの脅しは拷問に近かった。
実際には傷一つないのだが、チラつくククリナイフと不機嫌度マックスの眼光で十分追い詰められた気分になる。
「あはははっ!愛されてるねぇ」
「コレが愛なのか?! 絶対 ミサキ は俺のこと——」
「なに⋯⋯?ますたー⋯⋯?」
「——ヒッ」
自分の名前が呼ばれた瞬間、技能を使ってまでして レイジ のことへ戻って来た。本当に一瞬で。
レイジとしては地獄耳まで技能化してしまったと後悔してしまうほどに。
「ミサキちゃん 良かったね!」
「⋯⋯うん」
「ところでさっき言ってた食べるってお兄ちゃんの何を食べるの?」
「⋯⋯ぜんぶ」
「全部?」
「そう⋯⋯ぜんぶ⋯⋯ぶつりてきに⋯⋯」
「物理的に!? 何、俺調理でもされるの!?」
「ますたーを⋯⋯かんじる⋯⋯ずっと⋯⋯いっしょ⋯⋯」
「⋯⋯もうやだ」
「それに⋯⋯あ、これ⋯⋯いってよかったっけ⋯⋯?」
ミサキはエイナの入っているカプセルを一瞥した。何かを確認するかの様なそぶりだが、本人はカプセルの中ですやすや寝ているため可愛らしく「⋯⋯うーん」と悩んだ。
「ま⋯⋯いっか⋯⋯エイナも⋯⋯ますたーの⋯⋯髪とか、爪とか⋯⋯あつめてた⋯⋯」
「え、エイナッ!?」
「道理で最近見ないと思ったらそういうことだったのか!」
「ゼーレ お前もか!?」
レイジ は以前爪を切りたいけどゴミはどこに捨てれば良いかと ゼーレ に相談した時『ダンジョンが勝手に吸収するからそこらへんに捨てておけば良いよー』と言っていたことを思い出した。
実際に、ダンジョンが飲み込んでいる瞬間を目にしたため、便利だなと思いながらゴミ捨て場を設けて捨てていた。
「⋯⋯まさかそんなことになってたとは」
「あとは⋯⋯パンドラも⋯⋯」
「はい、私がどうかしましたか?」
ミサキ が パンドラ の名前を出した丁度の時、偶々やってきた パンドラ が食いついた。ミサキが暴露大会を始めていることなど露とも知らずにやってきてしまったのだ。
「ますたーの⋯⋯ふく⋯⋯においかいでた⋯⋯」
「パンドラさん!?」
「——ッ!? な、なななぜそれを、ではなくそ、そんなことしてまませんわ!」
明らかに動揺する パンドラ。その態度だけで十分自白したようなものなのだが、毅然と取り繕うとする。
そして、さながら名探偵を気取った様に ミサキ は言い放つ。
「私の⋯⋯目は⋯⋯ごまかせ⋯⋯ない⋯⋯!」
「⋯⋯パンドラ、今後の洗濯当番を話し合おうか?」
「そ、そんな!貴方様!信じてください!無実でございます!」
「何やってるんすか? やけに騒がしいっすよ」
騒ぎにつられてか ハクレイ までもがやってきた。
楽しいことが大好きな彼女の性分から見つけてしまったら野次馬根性が出てくるのは仕方ないと言えるが⋯⋯ハクレイがそう言ったことをしていないことを祈るばかりだ。
「は、ハクレイか⋯⋯そうだ! お前は変なことしてないよな!?」
「へ、変なことっすか?」
「そうだ! 俺の髪や爪を集めたりとか」
「しないっすね」
「服の匂いを嗅いだりとか」
「やらないっすね」
「俺を調理して食べたいとか」
「思ったこともないっす」
「は、ハクレイッ!」
レイジ は色々な意味で歓喜した。
やっとマトモな人材がいたことに、ハクレイ の重要性に今になって気づいた。
だが——
「この前⋯⋯ますたーの⋯⋯おふろ⋯⋯のぞいてなかった⋯⋯?」
——ミサキ の一言に ハクレイ に抱きつきそうになっていた レイジ の動きが止まった。
「——ッッッッッ!?」
「は⋯⋯ハクレイ⋯⋯?」
「はくれいの⋯⋯のうりょく⋯⋯だんじょんない、なら⋯⋯どこでも⋯⋯みほうだい⋯⋯」
「な、何故それを!?」
「私は⋯⋯知ってる⋯⋯ますたー⋯⋯まもるため⋯⋯」
「な、なら先輩達だって——!」
そう言って誰かが誰かに罪をなすりつける戦いが始まった。
この時 レイジ は強く思った。
一日も早くダンジョンを出ようと。
一日でも早く強くなろうと。
理由は——怖いから。いつかこの少女達に取り返しのつかない事をされるのではないかと不安になったから。
(ま、頑張りぃや旦那)
(妖刀⋯⋯)
(そうは言っても、旦那も案外嫌じゃないんやろ?)
(⋯⋯)
そう、レイジ の中では ミサキ達を憎むことも嫌うこともなかった。
純粋に嬉しかった、という気持ちは強かった——が、怖いと感じる部分もある。大いにある。
だから レイジ はより一層に エイナ を早く救い出したいと思った。
◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾
ー異世界某所ー
冒険者ギルドの最上階ではギルドマスターの大男と秘書の私、そしてボロボロになりながらも1人帰還したロートで集まっています。
「う、うっぐ⋯⋯ひっぐ⋯⋯」
「マジかよ⋯⋯」
「ギルドに所属するAランクが事実上の負け、騎士団の副団長は死亡、暗殺ギルド幹部は行方不明、ですか」
私達は泣きぐずるロート から今回の以来の結果を聞いていました。
ロート が片腕を失い、一人で帰ってきたと聞いた時点で嫌な予感はしていました。しかし、こうも最悪の結果を生み出しているとまでは考えていなかったために驚愕の度合いは大きかったです。
「だって! 意味わがんないんだもん! なんなのあいづ!」
ロート は戦った相手を思い出しているのか涙を流し、手近にある物に怒りをぶつけています。ぶつけられた品々は当然ロートの怪力に耐えられることはなく、軽々と破壊されてしまいます。
「「⋯⋯」」
これ以上、部屋のものを破壊されては堪らないと思いつつも、肉親の1人である姉を目の前で失ったロートの心情を察すると強くは言えません。
どうしようか、と思っていたところ大男からの目配せに気付いてしまいました。
(私になんとかしろと!?冗談でしょう!?)
そのデカイ図体は飾り物ですか?!と叫びたくなりますが、なんとか平常心を保ちます。
本当に叫びたかったです。目の前に悪党も泣いて逃げ出す怪物が暴れ回っているのにどうして自分で行かないのかとヒステリックを起こしたいくらいですが⋯⋯仕方ありません。
「ロート様、あなたは頑張りました。辛かったでしょう。今は少しでも良いから落ち着きなさい」
「ぞんなの!ぞんなのむりだよ!」
「⋯⋯わかりました。では、下に行って休んで下さい。腕の方も回復魔法をかければ治るでしょう」
「⋯⋯⋯⋯」
「ロート様?」
「⋯⋯わがっだ」
そう言って ロート は渋々だが部屋から出て行った。
案外あっさり引き下がってくれたことに驚きましたが、今の彼女には、私のようなか弱い女性の圧に耐えられるだけの気力もなかったのでしょう。
「⋯⋯はあああぁぁ」
デカブツがわかり易いくらいに緊張の糸を緩めます。
私としては、生贄にさせられて分の怒りで生命線を切ってあげたいくらいです。
「随分⋯⋯長いため息ですね」
「そりゃあ深いもんを吐きたくなるでしょ」
「でしょうね」
「まさかまさかとは思っていたが、ここまでとはな⋯⋯」
デカブツの表情は次に起きることを予想しているのか、より一層の疲れが見えます。
当然と言えば当然でしょう。勝算を上げるために方々の精鋭を呼んでパーティーを組んだのにも関わらず、結果が全滅の一歩手前。名の知れた精鋭達の死を目の前に誰が好き好んで依頼を受けてくれるでしょうかね。
しかも——
「⋯⋯もう止めらんねぇぞ」
「止められませんか?」
「ああ、無理だね。この世界でアイツを止められるやつなんて居やしねえよ」
「本当に無理なのですか?元勇者パーティー騎士である貴方でも?」
——犠牲に出した人物の1人が厄介この上なかった。
このデカブツ、見かけによらずか、見かけ通りか勇者パーティーの盾役をしていました。その盾役でも止められない存在は当然います。
「⋯⋯ああ、無理だね。幼馴染として言ってやれるくらいはできるが現役退いて15年。流石に止めるには歳食い過ぎただろ」
幼馴染、と言っていますが勇者のこと。
勇者という呼び名はかなりありふれていますが、私たちの業界では最も強い者をそう呼んでいます。
「お前はどの位でアイツが戻ってくると思う?」
「勇者一行は今、魔王のダンジョンの中腹にいるでしょう。遅くて一年ほどかかるのでは?」
「はぁ⋯⋯そうだよな、一年しかねぇんだよな。一年であのダンジョン潰せると思う?」
「無理でしょうね。騎士団はこの件を切っ掛けに動かないでしょう。暗殺ギルドも同様。冒険者ギルドとしてもAランク以上を集め総攻撃しても良いでしょうが話を聞く限りでは割に合わない被害が出るでしょう」
ロート様の話を聞く限りでは、ロート様を圧倒した骸骨の魔物——途中から少女の姿になった魔物、マーダと同系統の珍しい影魔法を使う女型の魔物、ブラウ様を『鬼化』まで使わせた鎖使いの魔物、ラルカ様の手の内を全て出させた『概念種』に⋯⋯奇妙な剣を使うダンジョンマスター。
実力者揃いの上に、ダンジョンマスターの能力が今一つ割れていない今の現状では不安要素が多すぎます。
「だよなぁ⋯⋯どうするかな」
「勇者一行に挑んでもらえれば良いのではないですか?」
「⋯⋯そりゃあ、アイツ等に任せれば一番楽だ。娘を殺されたんだ。アイツだって怒り狂いながらやってくれるだろうが⋯⋯」
短くない付き合いなので何となくこのデカブツが思っていることがわかります。おそらく、幼馴染の勇者のことを思っているのでしょう。
「あんまし⋯⋯恨みを買う様なことしねぇで欲しいんだわな⋯⋯」
「⋯⋯」
恨み。それは恐怖とも言い換えられるのでしょう。
魔王を倒そうが、ダンジョンマスターを倒そうがそれだけ強力な存在は最初こそ賞賛されたとしても、その後にどのような扱いを受けるか⋯⋯勝っても地獄、負けても地獄とは救いようのない話です。
「世界が滅びなけりゃあ⋯⋯いいんだがな」
冗談と捉えにくい不吉な言葉を予言者のように言わないで欲しいです。本当に⋯⋯本当に世界が滅んでしまうと思ってしまうのですから。
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この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
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