ダンジョンマスターは魔王ではありません!?

静電気妖怪

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4章〜崩れて壊れても私はあなたの事を——〜

83話「崩壊の光2」

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「えっぐ、ひっぐ⋯⋯」

 大泣きしていた ゼーレ も時間が経つにつれ落ち着きを取り戻してきた。
 泣き声が収まったからだろうかいつの間にか部屋から出ていた マーダ が部屋に戻ってきた。

「落ち着いたか?」
「⋯⋯気を遣わせたか」
「いやいや、感動に再開だ。別に構いやしねぇよ」
「おじさん、ありがとうね」
「おう、俺も死なれちゃあ困るからな」

 ゼーレ がお礼を言うと マーダ は片手を振りながら気さくに返した。

「そう言えばさっき一ヶ月寝ていたって言ったよな」
「ああ」
「そうだよお兄ちゃん! もうずっと寝てたから起きないと思ったんだよ!」
「怪我自体は回復魔法や回復薬ですぐ治したんだが脊髄を傷つけちまったみてぇでな、それで昏睡状態ってわけだ」

 マーダ は両肩を軽くすくめた。言外にやれやれ、と言っているかのようだ。
 レイジもマーダの対応に驚きながらも、一っヶ月にしては早い傷の治りに納得した。

「それでねお兄ちゃん、このおじさんがねお兄ちゃんを助けてくれて全部治してくれたんだよ!」
「そうか⋯⋯ところで ゼーレ」
「ん?」
「コイツが俺達が追ってる マーダ って知ってたか?」
「⋯⋯え?」

 レイジ の言葉に ゼーレ は頭を傾げた。その様子から本当に初耳で知らなかったのがよく分かる。
 レイジ はそんな ゼーレ の様子を見て目頭に手を当てた。そして、当の本人である マーダ はケラケラと笑いながらベットに近づいてくる。

「⋯⋯本当なのおじさん?」
「本当だねぇ」
「おじさんが エイナちゃんに呪印をかけた人なの?」
「そうだな」
「ならッ——」
「待て待て、もう呪印の方は解いた。それに騙してたには悪かったよ。本当のことを言ったら信用しなかったろ?」
「うっ⋯⋯」
「俺もお前のお兄さんを助けたかったんだよ。許してくれねぇか?」

 マーダ は両手を合わせ拝むようにして ゼーレ を見た。
 ゼーレ も レイジ を助けてくれたのは事実であり、信用もしていたために言葉が出なかった。

「はぁ⋯⋯いいよ ゼーレ」
「え?」
「コイツに助けられたのは事実だし、俺がもっと正確に言わなかったのも悪かった。いや、言わなかったら死んでたかもな」
「お兄ちゃんが言うなら⋯⋯わかった」
「よし、じゃあ話すを戻すぞ」

 ゼーレ も渋々とした様子だが納得をした。しかし、先程までとは変わって微妙な視線を マーダ に向けている。
 一方、マーダ は手を一度叩き本来の話に戻せてホッとしているようだ。まるで、あまり時間がないようにも伺える。

「俺を死なせなかった理由か?」
「そうそう。いやー、そろそろお前の所のダンジョンに勇者が行くんだよ」
「⋯⋯は?」
「ゆ、勇者!?」

 三者三様。
 友人との待ち合わせに寝坊した、と言って遅れてきた気分で言う マーダ。

 勇者の存在は知っているが実際にどれだけ強いかイマイチ把握していない レイジ。

 勇者がどれだけ強大な存在であるかをある程度把握しその事実に驚きを隠せない ゼーレ。

 部屋の中は先程とは打って変わり緊張が走った。

「あー、その勇者ってのはどれだけヤバイんだ?」

 話の流れについて行けないと感じた レイジ は ゼーレ に視線を落としながら聞いた。

「えっと⋯⋯勇者ってのはね⋯⋯魔王と対立するためだけに生まれた存在なの。当然、その強さは他の追随を許さないくらい⋯⋯だよ」
「まぁ、確かにその表現であってるな。より具体的に言うならお前が苦戦していたあの連中を一人で相手どれるくらいかな」
「はぁ!?」

 散々苦戦を強いられやっとの思いで一人しか討ち取れなかったあの戦いを思い返しながら レイジ は声をあげた。

「んで、俺にとってお前の所ダンジョンに勇者が行ってくれないと困るわけだ」
「⋯⋯意味がわからねえ。お前は結局、俺達を殺したいのか?」
「いいや逆だな」
「は?」
「俺が殺したいのは勇者だけだ」

 マーダ は一切のお巫山戯の雰囲気を脱ぎ捨てそう言った。
 真剣⋯⋯そんな様子どころではない。
 狂気⋯⋯勇者を殺す、ただそれだけの為に生きている、そんな風にも取れてしまうほどに マーダ は取り憑かれていた。

「⋯⋯お前の目的はわかった。つまり、俺を生かし、ダンジョンの準備を整えさせ勇者を迎え撃って欲しいわけだ」
「そうだな」
「そして、お前は俺達の戦いに乱入をして勇者を殺したいわけだ」
「あー、確かに俺に手で確実に殺したいが別に誰が殺しても問題ないわな。勇者が死んだ、その事実さえあれば」
「⋯⋯ならお前は俺達と一緒にダンジョンで迎え撃つのか?」
「いや。俺は俺で動く。その方がお互いのためになるだろ?」
「確かにな」
「質問は以上か?」

 考える レイジ に マーダ が教師の様な態度でそう言った。
 そして、レイジ と マーダ を交互に見ていた ゼーレ が手を挙げた。

「おじさんはどうすればいいの?」
「ん?どうすればいいってどう言うことだ?」
「ゼーレたちの味方? 敵? どっちかなって思って」

 ゼーレの疑問はもっともであった。
 仮に勇者がダンジョンに入る前にマーダが暗殺するなら関係ないが、ダンジョンの中で会うならマーダの立ち位置は微妙だった。

「あー、なるほどなぁ。出来れば見逃して欲しいんだが⋯⋯ま、俺は勇者しか狙わねぇからいないと思ってくれて構わんぞ」
「んー、よく分かんないけど分かった!」
「おう!」

 挙げた手をそのままに ゼーレ は笑顔で返事をした。
 多分、本当に分かってないんだろうな、と思わずにはいられない レイジ を残し マーダ も手を挙げて返事を返している。

「⋯⋯まぁ、お前の立ち位置はわかった。で、問題の勇者はいつ来るんだ?」
「確か⋯⋯三日後だな」
「み、三日!?」

 レイジ は頭の中でその短い時間でどうやってダンジョンへ帰るかを考えた。

 そもそも、一ヶ月も時間が経ったからと言って年の警戒網が引いているとは思えない。結局、自分は助けられ、その現場を見られているのだから騎士団や冒険者達が血眼になって探しているのは容易に想像ができた。

 そうなると、都市から出る電車は恐らく使えないだろう。電車でソコソコの時間がかかったため、歩くならかなりの時間がかかる。

「ど、どうするか⋯⋯」
「ん? どうした? 帰る手段か?」

 図星を突かれた レイジ だが、ここまで世話になってこれ以上失うものはなかったため、開き直ることにした。

「そうだ。流石に、三日で帰る方法を俺は知らない。何かないか?」
「んー、そうだなぁ」

 マーダ も 最初から分かっていたと言う様子で指を二本立てて口を開いた。

「帰る手段は二つだ。一つ、年の警戒網を突破し徒歩で帰る。だがまぁ、あんまりお勧めできないな」
「だろうな⋯⋯で、二つ目は?」

 マーダ は指を折り、含みのある笑みを浮かべた。


「俺が送って行ってやるよ」


 胡散臭さ漂うその様子に レイジ と ゼーレ は目を見合わせた。

 ◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾

 ー冒険者ギルド最上階ー

 最上階では三人の影があった。

 一人は机に向かい両手で頭を抱える姿の大男——ギルドマスターその人。
 一人は手元の書類に向かい淡々と報告を述べる女性。
 一人は小指で耳をほじりながらバツの悪そうに部屋の隅を眺めている男——ボールス。

「——報告は以上です」
「⋯⋯はぁ、要はダンジョンマスターは依然として見つかっていないわけだ」
「そうですね」
「「「⋯⋯」」」

 戦闘から一ヶ月。一切の目撃情報も無く、噂すらも立たない。
 住民からも不安と不満が募る毎日。ギルドマスターの隈は日を追うごとに深くなって行くのは言うまでもない。

「あー、あん時取り逃したのはマジで悪いと思ってるよ」

 ボールス が本当に申し訳なさそうにそう言った。

「でも流石によ⋯⋯」
「分かってる。邪魔が入ったんだろ? だがよぉ⋯⋯はぁ」

 理解し、納得しているがやはりギルドマスターは深いため息をついた。

「お前な問題ないと思ってたからなぁ」
「だから悪いって言ってるだろ。それに奴は⋯⋯かなりデキるぞ」
「マーダ⋯⋯暗殺ギルド幹部、ね。名前は聞いたことある程度だが⋯⋯」

 そう言いながらギルドマスターは虚空を見つめた。
 今も瞼の裏で焼き付いている過去の出来事。鮮烈な日々を過ごしたあの頃を思い出しながら呟く。

「どーも、引っかかるんだよな⋯⋯その マーダ って奴。昔の彼奴に似てるんだよな。特に影魔法とか」
「そいつ本人じゃねえのか?」
「それはない⋯⋯と思うんだよな」
「なんでだ?」
「そりゃあ、俺と勇者が必死こいてぶっ殺したんだからよ」

 ギルドマスターはそう言いながらるはずの無い現実を否定してみせた。
 そして、ずっと黙っていた女性は再度報告書を見直し会話に割って入った。

「で、最後の報告ですが⋯⋯」
「何があんだ?」
「勇者が戻られます」
「マジか! 何時だ!」
「およそ、三日後。近辺にある町からの目撃情報です」
「あー、これでこの一件も全部終わるかな」

 ギルドマスターは気怠そうな足取りで立ち上がりダンジョンのある方角に目を向けた。

「勇者がダンジョンコアを破壊する⋯⋯それでダンジョンマスターは終わりだ!」

 最大の目の上のタンコブがようやく片付く。そう思って疑わないギルドマスターはようやく安息を手に入れられると確信していた。

 ◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾

 ーとあるダンジョンー

 無機質なその広場には三人の人影があった。
 涼宮 零、立花 香、八雲 響。三人はテーブルを一つ挟み座っていた。

「指示通り魔物達を⋯⋯戦力強化をやったぞ」
「そう、ご苦労様」
「ゴメンね響君」
「いや大丈夫だよ。結局稼働しているダンジョンは俺のだけだから」

 香 の申し訳なさそうな言葉に 響 ははにかんだ笑顔で応えた。

「⋯⋯遂に攻め込むんだね」
「ええ」
「結局、半年も待ったけど潰れなかったね」
「⋯⋯上手くやってたんだろうな」

 半年。
 零達が直ぐに攻め込まなかった理由は レイジ のダンジョンの弱体化を狙っていたからだ。
 少なくなったダンジョンなら冒険者が集中すると踏んでいたが結局消耗は無く、ギリギリまで待つ結果となのだ。

 そして、順調に成長している レイジ の現状を羨ましそうに 響 は歯噛みした。

「どのみち関係ないわ。襲撃する時間が伸びただけ。それに、その分こちらも戦力を強化した」
「そうだね。ようやく皆んなで話し合えるんだね!」
「⋯⋯」

 零 は淡々と、香 は嬉しそうに レイジ への襲撃を語る。
 響 はその様子をただ黙って見ているしかできなかった。

「⋯⋯それで襲撃はいつになるんだ?」

 詳しくは聞かされていないその情報に 響 は質問した。


「襲撃は⋯⋯三日後。そこで決着をつけるのよ」


 零 は全てを賭けた決死の表情でそう言った。
 まるで、この戦いで死ぬことすらも予想し、それでも構わない、そう言っているかのようだ。
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