ダンジョンマスターは魔王ではありません!?

静電気妖怪

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4章〜崩れて壊れても私はあなたの事を——〜

82話「崩壊の光1」

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 眠るとは不思議な事象だ。

 人間の三大欲求の一つ睡眠欲。
 疲労や痛みの感覚を消し去り、休息や治療の時間を生み出す。
 ただ、それは暗い闇の中で一秒か一分か、はたまた一時間か一日か。

 闇の中で過ごす時間は果てしなく、それは果たして本当に生きているのか。

 一週間か、一ヶ月か、一年か、十年か。

 昏睡状態の願われる者、植物人間となってしまったか弱き者。

 極論を言えば、目が覚めるならそれは生きているだろう。意識があろうと無かろうと。
 目が覚めないならそれは死と同じかも知れない。呼吸が続きようが続かなかろうが。

 そして——

「⋯⋯ここは?」

 レイジ は薄暗い部屋の中知らない天井を見て呟いた。

「⋯⋯いっ!」

 周囲を見ようと上半身だけ起こすが、背部に鋭い痛みを感じる。
 だが、手を伸ばせば治療の跡。全身には包帯が丁寧に巻かれ止血は勿論、骨折の治療までしてあった。

「⋯⋯っ」

 薄暗くてよく見えなかったが自分が今いる場所はベットの上。そして——

「ゼェ、レ⋯⋯?」

 レイジ の頬に一つ時の涙が通った。
 ベットの端、そこには自分の両腕を枕に穏やかな寝息を立てている ゼーレ の姿があった。

「⋯⋯」

 レイジ は流れる涙を片手で拭いながらもう片方の手で ゼーレ の頭を優しく触れた。

「⋯⋯ん⋯⋯ぅ」

 ゼーレ が身動ぎし反応したが直ぐに穏やかな寝息を立てた。レイジ は優しく、優しくその白い頭を撫でた。
 冒険者と騎士団との戦いの中では考えることもできなかった平穏な時間。そして、無粋にも邪魔する者がいた。

「よぉ、起きたか?」
「——ッ!」

 突然だった。誰もいないと思っていた昏い場所から声を掛けられた。
 レイジ は咄嗟に立ち上がろうとしたが背中の痛みが強く、思った通りに動けない。

「まぁまぁ、そんな慌てるな。別に取って食おうだなんて思っちゃいねえよ」
「お、お前は⋯⋯!」

 コツコツ、と靴音を鳴らし両肩を竦めながら一人の男が姿を見せた。

「⋯⋯マーダ」
「久しぶりだな。数ヶ月ぶりか?」

 レイジ は目を見開いた。驚きで彩られたその表情に マーダ はまるで旧友に会った時のようにカラカラと笑顔を向けた。

「何故お前がここにいる!」
「そりゃあ、ここが俺の今の拠点だからだぜ?」
「きょ、てん⋯⋯だと?」
「そうだ。せっかく助けてやったのにその挨拶はあんまりだぜ?」
「助けてって⋯⋯まさかッ!」
「そうそう、あの時、お前が冒険者と騎士団の連中に囲まれたところを助けてやったのは俺だぜ? ちなみに治療もな」

 レイジ は再度驚いた。
 追いかけ、殺すつもりでいた相手にまさか助けられて治療までしてもらったこの状況に。故に——

「⋯⋯なにが目的だ?」

 疑わざるを得ななかった。
 今直ぐにでも巻かれている包帯を全て取り毒か何かが塗られていないか、飲まされていないか調べたいくらいだ。だが、今この状況では得策ではないことを レイジ は理解していた。

 動けない体、手元から離れている武器はそもそもどこにあるかわからない。そして決め手は ゼーレ を連れて逃げず、下手に外に出ても脳裏に映る数秒前までの出来事。

「目的、ねぇ⋯⋯ま、確かに打算ありきで動いたのは確かだな」
「やっぱりかッ!」
「だがそう身構えるな。さっきも言ったが別に俺はお前達を⋯⋯いや、お前を殺すつもりはねぇよ」
「その言い方じゃあ、俺は生かすが ゼーレは殺す、と言っているように聞こえるぞ」
「俺は殺さねぇよ。殺すかどうかは——」

 そう言って マーダ は レイジ に近ずき、人差し指を レイジ に向かって指した。

「——お前次第、だ」
「俺次第⋯⋯だと?」
「ああ」
「なら殺さない」
「かー、一応は説明を聞いてから結論を出せよ」
「結論は変わらない。俺が殺すのは ゼーレ じゃなくてお前だ!」
「俺を殺すか? プハハハハ、その体でか?」

 マーダ は片手で口を押さえながら大きな声で笑った。
 笑っている最中、 レイジ の視線に気づき 「わるい わるい」と言って笑い声を収めた。
 しかし、目尻には何がそんなに面白かったのか涙がわずかに浮かんでいるほどだ。

「で、俺を殺すか。あの影魔法の嬢ちゃんから呪印を解くためか?」
「⋯⋯そうだ」
「いいぜ、ホイっと。これで解けたぞ」
「⋯⋯は?」

 マーダ は軽い口調で指を一回鳴らすとそう主張した。対して、 レイジ は目が点になった。

「⋯⋯ふざけているのか?」
「遊んじゃあいねぇよ。もうあの呪印に意味はねえし、本当に解けてる。嘘だと思うなら今すぐダンジョンに戻って確かめて見な」
「⋯⋯」

 巫山戯た様子もなく真剣な表情で マーダ は答える。
 レイジ は何処か胡散臭さを感じるが確かめようがない限り何とも言えないし、この状況では マーダ を殺すこともできない。

「⋯⋯なら、仮に解かれたとして、何の意味があって呪印を施した?」
「あー、ま、そうするわな。理由は簡単だ、そこの嬢ちゃんを殺してもらおうと思ってだよ」
「——ッ!」

 マーダ の台詞に レイジ は反応し ゼーレ を僅かに引き寄せ、両手で守る形をとった。それと同時に、鋭い眼差しを マーダ に送りつけた。

「そう怖い顔するな。もう用はねぇって言ったろ?」
「なぜ⋯⋯ゼーレを狙う?」
「俺的には大して意味がねぇんだ。ただチャンスがあったから殺そうかと思っただけだよ」
「チャンス⋯⋯? 意味が無い? どう言う意味だ!」
「あー、簡単に言うとだな⋯⋯俺はお前を助けようと思ったわけだ」
「俺を⋯⋯助ける?」
「そう、助けるためだ」

 聞き返す レイジ に マーダ はゆっくりと続けた。

「ソイツは特殊な魔物だろ?」
「⋯⋯」
「沈黙は肯定と考えるぞ? 俺も理由はわからんがお前達ダンジョンマスターにとってソイツ等のような特殊な魔物は不利益になるらしいぞ」
「ゼーレ が不利益だとッ!」

 レイジ は声を張り上げ抗議した。
 思え返す中で ゼーレ が不利益に原因になったことは一度も無い⋯⋯たまに言い忘れて面倒ごとになったことはあったが、些細な事だとレイジは思った。

「ま、俺も大して知っているわけじゃあねぇからこれ以上は言わねぇし、手も出さねぇよ。だから——」

 そう言って マーダ は何処からか取り出した一本のナイフをベットの脇に突き立てた。

「お前次第だ」

 場を沈黙が支配する。
 マーダ は一際真剣な表情で レイジ を見ていた。その表情からは嘘を言っているようには感じなかった。だが——

「⋯⋯悪いがゼーレを殺すくらいなら俺はその不利益を被った方がマシだ。だから、これは要らない」

 そう言って レイジ は脇に刺さったナイフを抜き、マーダ に返した。

「⋯⋯そうかい」

 ナイフを返された マーダ はどこか納得の表情で受け取り、何処かにそのナイフを消した。

「それじゃあ、その話はいいとしてここからが本題だ」
「本題だ?」
「お前を助けた理由だよ」
「打算ありき、って言ったか」
「そうだ。背中の痛みはあるかも知れんがすぐに動けるようになる。ま、一ヶ月近くも寝てたんだからな」
「い、一ヶ月だとッ!?」

 マーダ の発言に レイジ は声をあげた。
 流石に何度も起きな声を上げたせいかベットの脇で寝ていた ゼーレ が目を覚ました。

「⋯⋯ふぇ、もう朝⋯⋯?」

 眠い目を擦りながら寝言のように口を開き、そのハッキリしない目でキョロキョロと周囲を見渡した。

「⋯⋯あれ?」

 寝起きの顔...口元に垂れたヨダレを拭きながら レイジ を視界に入れた。

「お兄⋯⋯ちゃん⋯⋯?」

 ゼーレ は拭う手の動きを止め レイジ に飛び付いた。

「大丈夫っ!? お兄ちゃん起きても大丈夫なのっ!」
「あ、ああ」
「お兄ちゃんっ! お兄ちゃんっ!⋯⋯本当に、心配したんだから⋯⋯!」

 何度も何度も呼ぶその声は段々とと弱くなっていき——、

「本当に⋯⋯良かったよぉ」

 涙をボロボロと流しながら、抱きついた手の力も弱くなりながら——

「うわああああああああああああぁぁんっ!!」

 ゼーレ は口を大きく開け大声で泣いた。
 枯れてしまうのでは無いかと心配するほどの泣き声は治らず、顔を レイジ の胸に押し当てる。

 再度、腕を腰に回し力を強める。
 もう二度と離れたく無い、そんな思いを感じるほどに。

「⋯⋯ゼーレ」

 レイジ も ゼーレ の背中に手を回し、空いている手で優しく ゼーレ の後ろ頭を撫でる。
 普段はサラサラと指が通るその髪も今は何処か行き詰まり、それだけずっとそばに居てくれたことを感じさせる。

「おにいぢゃんっ! おにいぢゃんっ! 生ぎてでよがったよっ!ほんどに死んじゃっだがどおぼったよっ!」
「あぁ、生きてるよ⋯⋯ありがとな」
「うわあああああああああぁぁんっ!」

 何度も何度も流す涙に熱を感じ
 何度も何度も返す力に絆を感じ
 何度も何度も呼ぶ声に命を感じ

 そうして、レイジ と ゼーレ は暫くの間、生きていることを感じた。
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