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4章〜崩れて壊れても私はあなたの事を——〜
88話「崩壊の招き人1」
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ー『暗黒』階層円形広場ー
「フゥ⋯⋯ハァ⋯⋯」
ゆっくりと深呼吸を行う レイジ。
忌避感も、嫌悪感も、憎悪感も、その全てがゆっくりと吐き出されて行く気がする。次第に顔色も落ち着き、震えていた指先も元の調子を取り戻した。
「よし」
「貴方様、大丈夫ですか?」
気合いを入れ直す レイジ に心配そうな表情で パンドラ が声をかけてきた。
見渡せば声をかけてきたのは パンドラ だけだが全員が不安そうな趣で レイジ を見ていた。
「ああ、問題ない。だいぶ落ち着いた」
「そうですか? あまり無理をしないでくださいまし」
「ああ。だがそれよりも——」
そう言って レイジ は開いている半透明の画面に目を落とした。
そこには様々な階層で夥しい程の侵入者の数を示すマーク。そして、『暗黒』階層でダンジョンを攻略する侵入者のマーク。
「今、全階層で戦闘が起きている」
「本当ですか!?」
「ど、どういうことっすか?」
「そのままの意味だよ。どっから湧いて出て来たか分からないが、全ての階層でドンパチ始まってるよ」
「じゃ、じゃあ、ここにもすぐ来ることっすか!?」
「いや、それだが——」
そう言って再度画面に視線を落とした。
進んでいる。確かに進んでいる。それも最短経路で言っているのは間違いないだろう。だが——
「一直線にこっちに向かって来ているのは間違いないが、速度が遅いな。これなら⋯⋯10分位で到着と考えた方がいいな」
「あ、意外と長いっすね」
「いや10分はおかしいからな? ダンジョンの意味がないんだぞ?」
「それもそうっすね。それで、敵さんがやって来るまで何かするんっすか?」
「そこなんだが⋯⋯」
そう言って レイジ は ミサキ と ハクレイ を順に見つめる。
(進行途中を狙った奇襲するか? だが、通路は広くはない。一人二人位なら殺れるかも知れんが最悪二人が孤立する可能性もある⋯⋯)
「へ? 自分がどうかしたっすか?」
「⋯⋯はずかしい」
レイジ に見つめられ自分の顔をペタペタと探り変じゃないかを確認する ハクレイ。
一方、ミサキ は頬を若干赤くし レイジ からの視線を逃げる様に視線だけを下に向けた。
(そもそも勇者達を相手に一体多数になるのは危険だ。なら奇襲は止めておくか⋯⋯ん?)
他に打てる手を考えている時 レイジ はふと疑問を感じた。
(勇者、騎士、聖女、賢者、斥候が主軸として、他にもいると考えれば7、8人くらいか?だとすると、どういうことだ?)
レイジ は目を凝らし何度か侵入者を示すマークを数える。
しかし、どんなに数えても数が合わない。最悪、他に来る人間の数を抜いても主力である五人に届いていない。
(ちょっと待て⋯⋯コイツら——)
レイジ は背中に嫌なものを感じた。
今までずっと勇者だとばかり思っていた侵入者。しかし、今となって己の知性がそれを真っ向から否定する。
(——誰だ?まさか、勇者達じゃ⋯⋯ないのか?)
レイジ の額から一筋の粒が地面へと自由落下する。
「⋯⋯ハクレイ」
「どうかしたっすか?」
「ちょっと下行って映像を確認して来てもらえるか?」
「へ? 何をっすか?」
「今『暗黒』階層にいる奴等だ!」
想定外の事態に語尾を荒げてしまうレイジ。
びくり、と体を硬めるハクレイ。しかし、画面を見ていないのでレイジの焦る要因に見当がつかない。
「 それって勇者じゃないんっすか?」
「わからない⋯⋯ただ、何かが違う気がするんだ」
「え? そ、そうなんっすか!?」
「だから急いでくれ!」
「りょ、了解っす!」
ようやく緊張感が伝わったハクレイ はすぐに行動した。
技能の瞬間移動により『暗黒』階層に移動する。そして、暫くすると瞬間移動の時に起きるモーションの一種なのか、鎖が地面から生え、中心に ハクレイ が現れた。
「た、大変っすっ!」
その表情は驚きと焦り。
額には大粒の汗をいくつも付け、事の重大さを伝えようとしているのか手をブンブン振って現れる。
「やっぱり勇者じゃなかったか?」
「そ、それどころじゃないっす!」
「落ち着いてください ハクレイ様」
「お、落ち着いてられないっす!」
宥めるレイジ達を置いてけぼりに、ハクレイは続ける。
「お兄さんの言ってた通り今この階層にいるのは勇者じゃなかったっす!」
「じゃあ、何者だったんだ?」
「ダンジョンマスターっす!この階層に向かってるのはダンジョンマスターなんっす!」
「⋯⋯は?」
興奮気味のハクレイから発せられた意外な侵入者。
あまりの想定外の事態にレイジはもちろん、他のメンバーも開いた口が塞がらない。そして、侵入者の決定的根拠をハクレイは告げる。
「ゼーレ先輩も確認してもらったっす! しかもいるのは三人! 上の階層の方も確認したら魔物同士で戦っている状況っす!」
「ど、どういう事だ!?」
進行が早い侵入者にばかり気を取られていた レイジ の目が開かれる。
向かってくる三人のダンジョンマスターと、同時に侵入してきた魔物の軍勢。信じ難い状況に レイジ の頭の回転に拍車がかけられる。
(ダンジョンマスターがここに来てるだと!?それも三人!?と言うことは今回攻めているのは魔物を引き連れたダンジョンマスター? 何の目的だよ?!)
「ちょっと待て、その三人の特徴はどんなだ?!」
「え、えっと⋯⋯黒い髪の女の人と緑色の女の人、それに獣人の男の人がいたっす!あ、あと人型の魔物を連れてたっす!」
「黒髪⋯⋯」
ダンジョンマスターの特徴を聞きながら レイジ の頭の中にあある人物達の面影が浮かぶ。
(まさか立花達か⋯⋯? 男一人に女二人なら数が合うな)
そう考え、見下ろすのは自分の姿。
ダンジョンマスターになる前とは大きな変化は感じないものの肌や髪が明らかに白くなっている。
(多少の変化はあると考えれば獣人や緑の肌は判断材料にはならないと考えるべきだろう)
「ど、どうするっすか?」
事情を知らない ハクレイ は不安な表情で レイジ を見つめた。他の面々もレイジの次なる言葉に不安を寄せている。そして——、
「⋯⋯一度会ってみよう」
レイジとしてもこれが正しい判断なのかはわからない。しかし、もし向かってきているのが同郷の者達なら、危険を冒してまで来るにはそれなりの理由があると思った。
当然、この判断に仲魔達は反発する。
「あ、会うんっすか!?」
「貴方様それは⋯⋯」
「⋯⋯きけん⋯⋯かも⋯⋯」
「ああ、わかっている。だが、そいつらは俺の知り合いの可能性がある」
「え!? お兄さん知り合いいたんっすか!?」
ここへ来てハクレイ が妙な場所で反応した。
「⋯⋯ハクレイ⋯⋯それは⋯⋯」
「何ということを⋯⋯」
「ハクレイ⋯⋯どうか無事でいてくださいねぇ」
「え? なんのことっすか?」
話の流れを見守っていた少女達は ハクレイ を哀れな目で見る。
当の本人は状況を飲み込めず少女達を見回すばかりだ。そして——、
「なぁ、ハクレイ⋯⋯その言葉は戦争の合図か?」
「へ?⋯⋯あっ! 」
レイジ の言葉と表情を見てようやく気づく ハクレイ。
さっきまで興奮し赤くなっていた顔は冷や水をかけられたかの様に一気に血の気を引かせた。
「そ、そそそう言う意味じゃ無いっすよ!」
「⋯⋯この件が片付いたらお仕置きだな」
「そ、そんな!?」
「⋯⋯あわれ」
「こういう時、ゼーレ様が確か⋯⋯そうですわ! なむなむ⋯⋯」
「そうですのぉ? では、私も⋯⋯なむなむ」
「いっ!やああああああああああああああああああああああああああああああっっっっっすっ!!」
己の愚かさと大いなる過ちに叫ぶ ハクレイ。
パンドラ と エイナ がそんな ハクレイ に向かって憐憫の気持ちを込めて両手を合わせた。
緊迫していた空気は何処へやら、レイジ達に緩みが生まれたとき——ギィィ、と扉の片方がゆっくりと動き出した。
「失礼するわ」
そう言って黒い髪を綺麗に短く切り揃えた氷のような少女が顔を覗かせた。
◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾
ー『暗黒』階層ー
デコボコした足場にしっとりとした空気、そして一寸先が見えない暗闇はお世辞にも過ごしやすい空間ではなかった。
そんな洞窟の中を零たち三人は懐中電灯を頼りに進んでいた。
「ダンジョンの割に魔物に合わないね」
静まり返り、足音だけの時間に飽きたのだろう 香 がポツリと呟いた。
「先行して魔物を倒してもらっているのよ」
「えっ!そうだったの?」
「そうよ」
「知らなかった~!ありがとうね!」
「気にしなくていいわ」
香たちが戦わなくてもすむのは配慮なのか手間を省きたかったのかわからないが、香は嬉しかった。
そして、話題が切れて間もなく 零 の前に機械仕掛けの少女が戻ってきた。
「マスター、進行方向の魔物の討伐が終了しました」
「そう。エネルギーの方は?」
「問題ありません」
「なら急ぐわよ」
「承知しました」
零 と 機械仕掛けの少女 の短い会話が終わる。すると、零はある提案⋯⋯というより、手段を強制した。
「これから速度を上げるわ」
「速度を上げる? 走るの?」
「いいえ、私が皆様を連れて行きます。捕まってください」
そう言うと、少女は背中を向けた。疑問に思う香と響だが、次の瞬間に少女の背中から左右一対の腕が這い出てきた。
「ええっ!?」
「⋯⋯は?」
いきなりの光景に驚く 香 と 響。
まさか服か腕に捕まるかと思っただけに、腕そのものが増えるとは予想だにしなかったのだろう。
「失礼します」
「え? え?」
「あ、ちょっ⋯⋯!」
まるで阿修羅の一歩手前のように左右二対の腕を持つことになった少女は、香 と 響 の戸惑いを他所に二人の手を片方ずつしっかりと握った。そして——
「では、参ります」
バンッ!、と言う大きな音と共に四人はまるでジェットコースターのような速度で疾走することになった。
「きゃああああああああああああああああっっ!!??」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!??」
「離しませんので気をしっかり持ってください」
あまりの急発進と高速に 香 と 響 は叫びの声を上げる。
強い風圧をできるだけ軽減しようと少女は自身の体を壁にするような形で二人を釣れているがそれでも叫び声は止まらない。
「きゃはははははははははははっっ!!」
「ぬおおおおおおおおおおおおおっっ!!」
間もなくして慣れてしまったのか 香 の叫びは笑い声に、響 はより奮闘するような声を上げるようになった。
そして、少女の報告通り魔物に会うことなく、大きくそびえ立つ両開きの門の前にやって来た。
「うわ~!ここがボスの部屋? 神ノ蔵君がいるのかな?」
修学旅行のような気分で門の前で飛び跳ねる 香。
その場にそぐわないその様子をよそに 零 はスタスタと門の片方に手をつくと——
「失礼するわ」
無機質で無表情。
ただ淡々と己の目的を遂げるためだけの、感情を伴わないその言葉が崩壊の始まりとなった。
「フゥ⋯⋯ハァ⋯⋯」
ゆっくりと深呼吸を行う レイジ。
忌避感も、嫌悪感も、憎悪感も、その全てがゆっくりと吐き出されて行く気がする。次第に顔色も落ち着き、震えていた指先も元の調子を取り戻した。
「よし」
「貴方様、大丈夫ですか?」
気合いを入れ直す レイジ に心配そうな表情で パンドラ が声をかけてきた。
見渡せば声をかけてきたのは パンドラ だけだが全員が不安そうな趣で レイジ を見ていた。
「ああ、問題ない。だいぶ落ち着いた」
「そうですか? あまり無理をしないでくださいまし」
「ああ。だがそれよりも——」
そう言って レイジ は開いている半透明の画面に目を落とした。
そこには様々な階層で夥しい程の侵入者の数を示すマーク。そして、『暗黒』階層でダンジョンを攻略する侵入者のマーク。
「今、全階層で戦闘が起きている」
「本当ですか!?」
「ど、どういうことっすか?」
「そのままの意味だよ。どっから湧いて出て来たか分からないが、全ての階層でドンパチ始まってるよ」
「じゃ、じゃあ、ここにもすぐ来ることっすか!?」
「いや、それだが——」
そう言って再度画面に視線を落とした。
進んでいる。確かに進んでいる。それも最短経路で言っているのは間違いないだろう。だが——
「一直線にこっちに向かって来ているのは間違いないが、速度が遅いな。これなら⋯⋯10分位で到着と考えた方がいいな」
「あ、意外と長いっすね」
「いや10分はおかしいからな? ダンジョンの意味がないんだぞ?」
「それもそうっすね。それで、敵さんがやって来るまで何かするんっすか?」
「そこなんだが⋯⋯」
そう言って レイジ は ミサキ と ハクレイ を順に見つめる。
(進行途中を狙った奇襲するか? だが、通路は広くはない。一人二人位なら殺れるかも知れんが最悪二人が孤立する可能性もある⋯⋯)
「へ? 自分がどうかしたっすか?」
「⋯⋯はずかしい」
レイジ に見つめられ自分の顔をペタペタと探り変じゃないかを確認する ハクレイ。
一方、ミサキ は頬を若干赤くし レイジ からの視線を逃げる様に視線だけを下に向けた。
(そもそも勇者達を相手に一体多数になるのは危険だ。なら奇襲は止めておくか⋯⋯ん?)
他に打てる手を考えている時 レイジ はふと疑問を感じた。
(勇者、騎士、聖女、賢者、斥候が主軸として、他にもいると考えれば7、8人くらいか?だとすると、どういうことだ?)
レイジ は目を凝らし何度か侵入者を示すマークを数える。
しかし、どんなに数えても数が合わない。最悪、他に来る人間の数を抜いても主力である五人に届いていない。
(ちょっと待て⋯⋯コイツら——)
レイジ は背中に嫌なものを感じた。
今までずっと勇者だとばかり思っていた侵入者。しかし、今となって己の知性がそれを真っ向から否定する。
(——誰だ?まさか、勇者達じゃ⋯⋯ないのか?)
レイジ の額から一筋の粒が地面へと自由落下する。
「⋯⋯ハクレイ」
「どうかしたっすか?」
「ちょっと下行って映像を確認して来てもらえるか?」
「へ? 何をっすか?」
「今『暗黒』階層にいる奴等だ!」
想定外の事態に語尾を荒げてしまうレイジ。
びくり、と体を硬めるハクレイ。しかし、画面を見ていないのでレイジの焦る要因に見当がつかない。
「 それって勇者じゃないんっすか?」
「わからない⋯⋯ただ、何かが違う気がするんだ」
「え? そ、そうなんっすか!?」
「だから急いでくれ!」
「りょ、了解っす!」
ようやく緊張感が伝わったハクレイ はすぐに行動した。
技能の瞬間移動により『暗黒』階層に移動する。そして、暫くすると瞬間移動の時に起きるモーションの一種なのか、鎖が地面から生え、中心に ハクレイ が現れた。
「た、大変っすっ!」
その表情は驚きと焦り。
額には大粒の汗をいくつも付け、事の重大さを伝えようとしているのか手をブンブン振って現れる。
「やっぱり勇者じゃなかったか?」
「そ、それどころじゃないっす!」
「落ち着いてください ハクレイ様」
「お、落ち着いてられないっす!」
宥めるレイジ達を置いてけぼりに、ハクレイは続ける。
「お兄さんの言ってた通り今この階層にいるのは勇者じゃなかったっす!」
「じゃあ、何者だったんだ?」
「ダンジョンマスターっす!この階層に向かってるのはダンジョンマスターなんっす!」
「⋯⋯は?」
興奮気味のハクレイから発せられた意外な侵入者。
あまりの想定外の事態にレイジはもちろん、他のメンバーも開いた口が塞がらない。そして、侵入者の決定的根拠をハクレイは告げる。
「ゼーレ先輩も確認してもらったっす! しかもいるのは三人! 上の階層の方も確認したら魔物同士で戦っている状況っす!」
「ど、どういう事だ!?」
進行が早い侵入者にばかり気を取られていた レイジ の目が開かれる。
向かってくる三人のダンジョンマスターと、同時に侵入してきた魔物の軍勢。信じ難い状況に レイジ の頭の回転に拍車がかけられる。
(ダンジョンマスターがここに来てるだと!?それも三人!?と言うことは今回攻めているのは魔物を引き連れたダンジョンマスター? 何の目的だよ?!)
「ちょっと待て、その三人の特徴はどんなだ?!」
「え、えっと⋯⋯黒い髪の女の人と緑色の女の人、それに獣人の男の人がいたっす!あ、あと人型の魔物を連れてたっす!」
「黒髪⋯⋯」
ダンジョンマスターの特徴を聞きながら レイジ の頭の中にあある人物達の面影が浮かぶ。
(まさか立花達か⋯⋯? 男一人に女二人なら数が合うな)
そう考え、見下ろすのは自分の姿。
ダンジョンマスターになる前とは大きな変化は感じないものの肌や髪が明らかに白くなっている。
(多少の変化はあると考えれば獣人や緑の肌は判断材料にはならないと考えるべきだろう)
「ど、どうするっすか?」
事情を知らない ハクレイ は不安な表情で レイジ を見つめた。他の面々もレイジの次なる言葉に不安を寄せている。そして——、
「⋯⋯一度会ってみよう」
レイジとしてもこれが正しい判断なのかはわからない。しかし、もし向かってきているのが同郷の者達なら、危険を冒してまで来るにはそれなりの理由があると思った。
当然、この判断に仲魔達は反発する。
「あ、会うんっすか!?」
「貴方様それは⋯⋯」
「⋯⋯きけん⋯⋯かも⋯⋯」
「ああ、わかっている。だが、そいつらは俺の知り合いの可能性がある」
「え!? お兄さん知り合いいたんっすか!?」
ここへ来てハクレイ が妙な場所で反応した。
「⋯⋯ハクレイ⋯⋯それは⋯⋯」
「何ということを⋯⋯」
「ハクレイ⋯⋯どうか無事でいてくださいねぇ」
「え? なんのことっすか?」
話の流れを見守っていた少女達は ハクレイ を哀れな目で見る。
当の本人は状況を飲み込めず少女達を見回すばかりだ。そして——、
「なぁ、ハクレイ⋯⋯その言葉は戦争の合図か?」
「へ?⋯⋯あっ! 」
レイジ の言葉と表情を見てようやく気づく ハクレイ。
さっきまで興奮し赤くなっていた顔は冷や水をかけられたかの様に一気に血の気を引かせた。
「そ、そそそう言う意味じゃ無いっすよ!」
「⋯⋯この件が片付いたらお仕置きだな」
「そ、そんな!?」
「⋯⋯あわれ」
「こういう時、ゼーレ様が確か⋯⋯そうですわ! なむなむ⋯⋯」
「そうですのぉ? では、私も⋯⋯なむなむ」
「いっ!やああああああああああああああああああああああああああああああっっっっっすっ!!」
己の愚かさと大いなる過ちに叫ぶ ハクレイ。
パンドラ と エイナ がそんな ハクレイ に向かって憐憫の気持ちを込めて両手を合わせた。
緊迫していた空気は何処へやら、レイジ達に緩みが生まれたとき——ギィィ、と扉の片方がゆっくりと動き出した。
「失礼するわ」
そう言って黒い髪を綺麗に短く切り揃えた氷のような少女が顔を覗かせた。
◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾
ー『暗黒』階層ー
デコボコした足場にしっとりとした空気、そして一寸先が見えない暗闇はお世辞にも過ごしやすい空間ではなかった。
そんな洞窟の中を零たち三人は懐中電灯を頼りに進んでいた。
「ダンジョンの割に魔物に合わないね」
静まり返り、足音だけの時間に飽きたのだろう 香 がポツリと呟いた。
「先行して魔物を倒してもらっているのよ」
「えっ!そうだったの?」
「そうよ」
「知らなかった~!ありがとうね!」
「気にしなくていいわ」
香たちが戦わなくてもすむのは配慮なのか手間を省きたかったのかわからないが、香は嬉しかった。
そして、話題が切れて間もなく 零 の前に機械仕掛けの少女が戻ってきた。
「マスター、進行方向の魔物の討伐が終了しました」
「そう。エネルギーの方は?」
「問題ありません」
「なら急ぐわよ」
「承知しました」
零 と 機械仕掛けの少女 の短い会話が終わる。すると、零はある提案⋯⋯というより、手段を強制した。
「これから速度を上げるわ」
「速度を上げる? 走るの?」
「いいえ、私が皆様を連れて行きます。捕まってください」
そう言うと、少女は背中を向けた。疑問に思う香と響だが、次の瞬間に少女の背中から左右一対の腕が這い出てきた。
「ええっ!?」
「⋯⋯は?」
いきなりの光景に驚く 香 と 響。
まさか服か腕に捕まるかと思っただけに、腕そのものが増えるとは予想だにしなかったのだろう。
「失礼します」
「え? え?」
「あ、ちょっ⋯⋯!」
まるで阿修羅の一歩手前のように左右二対の腕を持つことになった少女は、香 と 響 の戸惑いを他所に二人の手を片方ずつしっかりと握った。そして——
「では、参ります」
バンッ!、と言う大きな音と共に四人はまるでジェットコースターのような速度で疾走することになった。
「きゃああああああああああああああああっっ!!??」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!??」
「離しませんので気をしっかり持ってください」
あまりの急発進と高速に 香 と 響 は叫びの声を上げる。
強い風圧をできるだけ軽減しようと少女は自身の体を壁にするような形で二人を釣れているがそれでも叫び声は止まらない。
「きゃはははははははははははっっ!!」
「ぬおおおおおおおおおおおおおっっ!!」
間もなくして慣れてしまったのか 香 の叫びは笑い声に、響 はより奮闘するような声を上げるようになった。
そして、少女の報告通り魔物に会うことなく、大きくそびえ立つ両開きの門の前にやって来た。
「うわ~!ここがボスの部屋? 神ノ蔵君がいるのかな?」
修学旅行のような気分で門の前で飛び跳ねる 香。
その場にそぐわないその様子をよそに 零 はスタスタと門の片方に手をつくと——
「失礼するわ」
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