ダンジョンマスターは魔王ではありません!?

静電気妖怪

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4章〜崩れて壊れても私はあなたの事を——〜

97話「崩壊の招き人10」

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 ーレイジ、ミサキ、???、??? vs アレックスー

「よぉ、だいぶ賑やかじゃねぇか」

 全ての光を吸収しているかのように、違和感のある立体的な影を纏い、男は口をニヤリと歪めてそう言った。

「なんだよ⋯⋯助けてくれるのか?」
「お前がここで死ぬとダンジョン自体が消えちまうからな」

 男は レイジ に背中を向けた状態、アレックス に面を向かわせた状態でそう言った。

「⋯⋯ゲッケイ」

 マーダ——古き名を ゲッケイ——をアレックス は苦々しく呟き睨みつけた。

「赤髪の嬢ちゃんの所へ行ってやんな。まだ生きてるはずだからよ」
「 そうだ! ミサキッ!」

 レイジ は身の危険と思いがけない人物の登場に忘れかけていた現状を思い出し、直ぐ様壁に叩きつけられた ミサキ の元を目指した。

「⋯⋯どういうことだ?」
「ん? 何がだ?」

 レイジの行動を見逃しているアレックス。
 彼にとって、いつでも殺せるレイジよりも、殺したはずなのに生きているマーダの方が重要であった。

「何故、貴様が生きている! 貴様は確かに俺と クロロス で殺したはずだ!」
「何で生きてるって言われてもなぁ。生きてるから生きてる、じゃあだめか?」

 飄々とした態度で答えるマーダ。その態度はアレックスを煽るには十分である。

「答える気はない、ということか。まあいい。貴様が生きていることには驚いたが、以前ほど魔力も感じない」
「昔のことは忘れたよ」
「しかも貴様はあのダンジョンマスターを助けるあまり俺への暗殺をしなかった。それは貴様にとって致命的だ!」
「まぁ、確かに必殺の一撃で仕留めなかったのは俺の落ち度だ。けど、あのままお前にアイツを殺させるのはちょっと頂けないんだよねぇ」

 外見に変わり映えはない。魔力から衰えていると察せられる。しかし、マーダから溢れる不気味さが拭えない。

「相変わらず読めない奴だ。貴様の目的は俺を殺すことだろう。だがその様子だとそれ以外にも何かあるな?」
「んー、どうだろねぇ⋯⋯言うと思う?」
「思わないな。だから——」

 アレックス は言葉を続けながら剣を構えた。

「貴様を殺し、全てを葬るッ!」

 言葉の終わりと同時に アレックス は地を蹴る。蹴られた地上はその足型を残しつつ幾筋の亀裂を作り出されていた。

「相変わらず短絡的だな」

 迫り来る破邪の光を纏った剣を マーダ は影を幾重にも重ねることでその刃を止めた。

「貴様は楽観的だッ!」

 止められた剣を更に押すのではなく左手を離し、剣と身体の隙間を小さくすることで マーダ との距離を保ちつつその場で一回転。

 そして、その遠心力が乗った刃を再度、正確に同じ場所に立てると、パリン、と子気味の良い音と共に重なった影は割れたガラス細工の様に散乱した。

「獲ったッ!」

 そして影の向こう側、マーダ がいる場所に必殺の刃を押し込んだ。しかし——

「な!? いない!」

 影一枚が隔てていた向こう側には、いたはずの マーダ の姿は影も無かった。

「だぁから短絡的って言ってるでしょう、がッ!」

 声がしたのは アレックス の頭上。
 アレックス が回転を始めてから全てを読んでいたのか死角ができたその一瞬で既に マーダ は移動していた。
 そして繰り出されるのは回転からの踵落とし。ただし、狙いは後頭部のため正確には落とす、ではなく薙ぎ払いに近い。

「ガハッ!」

 ドゴッ! と、とても人が人を蹴ったときになるような音ではない音と共に アレックス は少し離れた広場の壁に叩きつけられた。

「あぁ、マジかい。どんだけ強くなってんだよ」

 ボリボリと頬を齧りながら蹴飛ばされた アレックス の方を見つめた。
 あまりの威力に壁が崩壊し、瓦礫の山を作った。そして、その場所は突如下からの力によって瓦礫が吹き飛ばされる。

「この感じ⋯⋯小手先の技は健在か」

 瓦礫の下から這いずり出てきたのは蹴飛ばされた アレックス。しかし、その顔や体、動きには目立った傷や不自然さは無い。

「おいおい、アレ喰らったら少しは体が動かしにくいとか、視界が悪くなるとかなるんだぞ? どうなってんだお前の体」
「貴様の軟弱な蹴りなんて効かない。俺はあの頃とは違う」
「ああ、確かに違うな。俺の知ってるお前はもっと柔らかかったもん」
「今の俺なら貴様を殺すのに クロロス の力は必要——無いッ!」

 再度、愚直に突進をする アレックス。その速さは一度目を優に超えているが マーダ は冷静にその動きを見据えた。

「貴様がいた頃は三つまでしか開放できていなかったからな。見せてやるよ。まずは四つ目だッ! 『人を導ける信仰マン・グラオベ』ッ!」


 ——アレックスが解放したのは『信仰』。

 人の信仰とは何を指すだろうか。
 神か? 天使か? 悪魔か? 人か? それ以外か?
 だが、どんな高貴で高潔なモノであっても祈る全ての者が同じ気持ちで同じ存在を祈ることはない。

 金銭、恋愛、出世 という物欲から始まり、贖罪、復讐、赦し という願望にまで至る。
 故に、信仰とは様々な形、様々な意志によって生み出され、時に壊される。そして、ある時には交わり、次第に分化する。

 ——閑話休題。今、アレックス の身に信仰そのものが宿った。
 大きく変わってはいないその姿。唯一にして変わったのは背中から生まれた一つの球体が アレックス の背後に浮いていることだけだ。

「今度こそ貴様を亡き者にするッ!」
「これは⋯⋯ヤバイな」

 アレックス の微妙な変化に大きな危機感を感じた マーダ は離脱を試みた。自身の足元に影を広げ、逃走、最低でも回避を試みるが——

「逃がすかッ!」

 何かが球体から飛び出し逃げようとする マーダ の腕に巻き付いた。巻き付いたそれは丈夫な縄を更にまとめ上げ、その縄を更に丈夫にするようにまとめ上げられた縄。
 神聖なる領域を区切るその縄は注連縄しめなわ。まるで生き物のように巻き付いたそれはもがく マーダ の力に負けることなく食らいついている。

「畜生、取れねえじゃねぇか⋯⋯!」
「まだ終わらんぞッ!」

 次に現れたのは上空から。
 一種の門として扱われる石材でできたようなそれは アレックス と マーダ を囲むようにいくつも並んだ。

「これは⋯⋯鳥居?」
「安心しろ。この鳥居自体には攻撃性能はない。だが代わりに絶対的な結界を作ることができる。もう逃げられないぞゲッケイッ!」

 完全に退路を断たれた マーダ。
 腕に巻き付いていた注連縄をようやく力技で解いた。そして、足元に影を展開するが移動ができない。そこでようやく自分が完全に閉じ込められたのを感じた。

「あぁ、マジか。これ完全にヤベぇわ」

 そう言いながらも マーダ は懐から懐中時計のような物を取り出し確認した。

「残り⋯⋯5分ってとことか? 逃げ切れるかねぇ」

 マーダ の誰に聞いたかわからない疑問は誰にも聞こえぬまま虚空を彷徨って——消えた。

 ◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾

「ミサキッ!」

 マーダ に嗾けられた レイジ は ミサキ の元にたどり着いた。

「⋯⋯ま、す⋯⋯たー⋯⋯?」

 普段よりも切れる箇所が多い台詞から相当な深手を負ったのだと思い知らされる。

「待ってろ今回復薬を渡すから!」
「⋯⋯たた⋯⋯かい⋯⋯は?」
「大丈夫だ。少しの間なら奴が何とかしてくれるはずだ」
「⋯⋯や⋯⋯つ⋯⋯?」
「マーダ だ。それよりも先にコイツを飲め」

 そう言って レイジ は購入した超回復薬を ミサキ に手渡した。

「⋯⋯ん」

 ミサキ は何の抵抗をすることなくその便に口をつける。そして、飲む終わる頃には体の傷や痛みは引いていった。

「⋯⋯もう⋯⋯へいき⋯⋯ごめん⋯⋯なさい」
「何で謝るんだよ」
「ますたー⋯⋯めいわく⋯⋯かけた⋯⋯」
「気にするな。それよりも、勇者を——」
「お兄様ぁッ!」

 ミサキの回復を確認したレイジはマーダの加勢に行こうとするが、思わぬ人物が現れた。

「え、エイナ!?」
「お兄様大丈夫ですかぁ? お怪我はされてませんかぁ?⋯⋯って ミサキ その手に持っているのは回復薬? それにこの威力はずいぶん手痛いですねぇ」

 笑顔で詰め寄ってきた エイナ だったが ミサキ とその手に持っている回復薬の瓶、更には今いる場所を見て現状を理解し目を開く。

「それより エイナ、お前の相手はどうした?」
「それでしたらガッツリ、ボッキリ、ヌッ殺しましたわぁ」
「⋯⋯そうか」

 言い方には一つ物申したい気持ちがあったが敢えて レイジ はそれを口にしない。
 それよりも、エイナ が早目に倒し駆けつけてくれたことの方が朗報であり、重要であった。

「これで エイナ が加わって四人⋯⋯ミサキ、倒せると思うか?」
「わかんない⋯⋯でも⋯⋯ゆうしゃは⋯⋯なにか⋯⋯かくして⋯⋯る」
「これでもまだ微妙って⋯⋯勇者はとんだ化け物だよ⋯⋯」
「お、お兄様、アレを!」

 悩める レイジ に注意を向けるように エイナ が叫ぶ。
 注意の先は マーダ と勇者の戦い。そして、その上空から鳥居が幾つも降り注ぎ マーダ と勇者を囲うように並んだ。

「こ、これは一体⋯⋯?」

 今まで見たいこともない不思議な光景にエイナが感づいた。

「お兄様ぁ、これは恐らく結界の一種ですぅ」
「結界?」
「えぇ、外側から内側への干渉を遮断するタイプですぅ。多分⋯⋯やっぱり、どうすることもできませんねぇ」

 説明しながら影を伸ばし、鳥居に触れるエイナ。影は鳥居に触れると、バチリ、と火花を散らし拒絶されてしまった。

「つまりあれは中からも外からも閉じ込めているのか?」
「えぇ、中で戦っている方と勇者の完全なる1対1の戦いになります。それも逃げられないもの」
「奴が負けるとも思いたくはないが⋯⋯本当に方法はないのか?」

 戦いの冒頭しか見ていなかったが、マーダはアレックスを圧倒している気がした。しかし、それで安心できるほど勇者は甘くないとレイジは思った。
 思案顔になるエイナだったが、可能性を持っている一人に心当たりがあった。

「もしかしたらハクレイ なら干渉できるかもしれませんねぇ」
「ハクレイ が?」
「あの結界、空間を隔てていると言っても大元の空間はこのダンジョンですのでぇ。ダンジョン全ての場所に干渉できる ハクレイ ならあの結界にも干渉できるはずですぅ」
「なら先に ハクレイ を連れてくるぞ!」
「はいぃ!」
「⋯⋯ん」

 レイジ達は立ち上がり、ハクレイ の戦っている場所まで目指した。

「⋯⋯ハクレイ 無事でいろよ」

 レイジ の不安の呟きは今もなお激闘を繰り広げられている戦場へ向けられた。
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