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第2章

プロローグ

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 ここは迷宮都市アドリウム。
 希少な鉱物や美味なる食材、そして数多の財宝が眠る神々の迷宮が鎮座する都市だ。
 セレド大陸の西方に位置し峻嶮な山々に囲まれた天然の要害の地であるが、高低の差が激しく悪路の様な道を通らなければ辿り着けない場所にある。
 迷宮が無くなれば瞬く間に荒廃し廃墟と化すであろうことは想像に難くないが、数百年という年月を経てもなお富を吐き出し続け、人々を魅了して止まない。今日もまた多くの人々が迷宮の恵みを得ようと、多大な労力を費やしこの辺鄙で急峻な地に訪れることだろう。

 だが、迷宮の宝を手に入れるのは容易なことではない。
 迷宮を徘徊し、冒険者の到来を舌なめずりして待ち構える凶悪な魔物達と対峙しなければならないからだ。しかも、貴重な宝を得ようとすればするほど迷宮奥深くに潜り、強大な敵と渡り合わなければならない。幾多の冒険者達が魔物との闘争に敗れ骸となり、その命を迷宮に捧げてきた。迷宮の探索は正に命を賭した試練であり、その報酬として莫大な富を得られるのである。

 しかし、時として迷宮は冒険者達に無慈悲なほどに過酷な試練を課す。
 天災にも似た人間では抗い難い脅威が哀れな冒険者達に降り掛かるのだ。
 もしきみがそんな天から降り注ぐかの様な災いに直面したらどうするだろうか?
 青雲の志を胸に辺境の寒村から訪れたきみは冒険者として独り立ちしたばかりだ。
 抗えない魂が凍るような恐怖に遭遇した時、きみは選択を迫られる。
 身を縮めて物陰に隠れ、恐怖が通り過ぎるのじっと待つだろうか?
 それとも恥も外聞もなく全てを捨てて逃げ出すだろうか?
 あるいは敵わないと知りながらも立ち向かうだろうか?
 いずれにしてもどの道を往くのもきみの自由だ。
 ただここ(迷宮)は全てを受け入れるだけなのだから・・・。
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