2 / 6
序章
1
しおりを挟む
薬液を吸い上げ、中指一本で注射器の押し子を引いていく。目盛りの指定の数字まで薬液を満たすとアンプルの薬瓶から抜き、注射針にキャップをする。
「終わりました。次、皮下注射にいきます」
ラティアは声を発しながら患者役のケンを見る。オレンジ色の短髪の男子、ケンは患者として椅子に座って待っていた。注射器を乗せたワゴンを引き、ラティアはケンに近付く。
「こんにちは、ケンさん。これから薬の注射をしますね。準備するので、そのままお待ち下さい」
「分かりました」
消毒液で手を濡らしている間、ケンは真剣な表情でラティアを見ていた。
「ラティア、その注射……本当に打つのか?」
「え?」
ケンの声に振り向くラティアの手には、肌色のスポンジ製の物を持っていた。
「何だ? それ」
「これは注射練習用パッドだよ」
そう言うとラティアはケンの腕にそれを取り付けた。
「ここに打っていくんだよ。直接はまだ出来ないよ? 見習いだからね」
「あっ、そうか! そうだった! ……あー、良かった!」
ほっ、と息をつくケンだった。
「……また先生の話、聞いてなかったのか。ちゃんと聞いといた方がいいぞ。……ラティアも困るだろ」
「いや、私は…… 」
「シルヴァに言われなくても分かってる!」
同じ班のシルヴァにケンは声を張り上げた。今は皮下注射の練習で四人一グループになっている。茶髪で長身のシルヴァはラティア達の班長として動いていた。
お互い注射を打つ流れや声掛けを確認し、授業が終わるとそれぞれ服を着替えに更衣室に向かった。女子更衣室の個別ロッカーでラティアは青のナース服から私服に着替える。団子状に一つに纏めていた髪を下ろすと金の髪が揺れた。
「ラティア。シルヴァ達と何か言ってたけど、どうしたの?」
「どうせ、またケンが人の話を聞いてなかったんじゃない?」
黒髪で耳下に二つ縛りのユリカが訊ね、茶髪でポニーテールのイルが的を射て話に入ってきた。
「本当に注射を打つんだとケンは思ったみたい」
「ほらね」
イルは肩をすくめた。その後イルとユリカが話を続けるけど、ラティアは別の方に意識が向いていた。視界の端に突然光が灯ったのだ。無意識にその光へ顔を向けると、その光は規則性なく動き回り、でも確実に近付いてきていた。
(何だろう、あれは)
ふと周りの着替えてる女子を見てもその光に見向きもしない。話しているイルとユリカも気付いていなかった。
(誰も気付いてない……え? 今、あの人見たよね? まさか、見えていない?)
光を見たと思えるような、顔を確実に向けている人がいたのに、その人は表情変えることなく過ごしていた。
「どうしたの? ラティア。ぼーっとして」
イルが訊ねる。
「えっ……ううん、何でもないよ」
「そう? なら先に行っちゃうよ」
イルとユリカは支度を終えて次の教室へと歩を進める。そして、光の前を通りすぎた二人。
(やっぱり見えてないんだ)
ラティアは慌ててロッカーの扉を閉めて二人の後を追う。
「待ってよ、二人ともっ」
光を一瞥し、横切ろうとした時だった。
「痛っ!」
ズキッと鋭い痛みが頭を襲う。
「……ラティア?」
イルとユリカが振り返ると、そこにラティアの姿はなかった。
「終わりました。次、皮下注射にいきます」
ラティアは声を発しながら患者役のケンを見る。オレンジ色の短髪の男子、ケンは患者として椅子に座って待っていた。注射器を乗せたワゴンを引き、ラティアはケンに近付く。
「こんにちは、ケンさん。これから薬の注射をしますね。準備するので、そのままお待ち下さい」
「分かりました」
消毒液で手を濡らしている間、ケンは真剣な表情でラティアを見ていた。
「ラティア、その注射……本当に打つのか?」
「え?」
ケンの声に振り向くラティアの手には、肌色のスポンジ製の物を持っていた。
「何だ? それ」
「これは注射練習用パッドだよ」
そう言うとラティアはケンの腕にそれを取り付けた。
「ここに打っていくんだよ。直接はまだ出来ないよ? 見習いだからね」
「あっ、そうか! そうだった! ……あー、良かった!」
ほっ、と息をつくケンだった。
「……また先生の話、聞いてなかったのか。ちゃんと聞いといた方がいいぞ。……ラティアも困るだろ」
「いや、私は…… 」
「シルヴァに言われなくても分かってる!」
同じ班のシルヴァにケンは声を張り上げた。今は皮下注射の練習で四人一グループになっている。茶髪で長身のシルヴァはラティア達の班長として動いていた。
お互い注射を打つ流れや声掛けを確認し、授業が終わるとそれぞれ服を着替えに更衣室に向かった。女子更衣室の個別ロッカーでラティアは青のナース服から私服に着替える。団子状に一つに纏めていた髪を下ろすと金の髪が揺れた。
「ラティア。シルヴァ達と何か言ってたけど、どうしたの?」
「どうせ、またケンが人の話を聞いてなかったんじゃない?」
黒髪で耳下に二つ縛りのユリカが訊ね、茶髪でポニーテールのイルが的を射て話に入ってきた。
「本当に注射を打つんだとケンは思ったみたい」
「ほらね」
イルは肩をすくめた。その後イルとユリカが話を続けるけど、ラティアは別の方に意識が向いていた。視界の端に突然光が灯ったのだ。無意識にその光へ顔を向けると、その光は規則性なく動き回り、でも確実に近付いてきていた。
(何だろう、あれは)
ふと周りの着替えてる女子を見てもその光に見向きもしない。話しているイルとユリカも気付いていなかった。
(誰も気付いてない……え? 今、あの人見たよね? まさか、見えていない?)
光を見たと思えるような、顔を確実に向けている人がいたのに、その人は表情変えることなく過ごしていた。
「どうしたの? ラティア。ぼーっとして」
イルが訊ねる。
「えっ……ううん、何でもないよ」
「そう? なら先に行っちゃうよ」
イルとユリカは支度を終えて次の教室へと歩を進める。そして、光の前を通りすぎた二人。
(やっぱり見えてないんだ)
ラティアは慌ててロッカーの扉を閉めて二人の後を追う。
「待ってよ、二人ともっ」
光を一瞥し、横切ろうとした時だった。
「痛っ!」
ズキッと鋭い痛みが頭を襲う。
「……ラティア?」
イルとユリカが振り返ると、そこにラティアの姿はなかった。
0
あなたにおすすめの小説
使い捨て聖女の反乱
あんど もあ
ファンタジー
聖女のアネットは、王子の婚約者となり、瘴気の浄化に忙しい日々だ。 やっと浄化を終えると、案の定アネットは聖女の地位をはく奪されて王都から出ていくよう命じられるが…。 ※タイトルが大げさですがコメディです。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
本物の夫は愛人に夢中なので、影武者とだけ愛し合います
こじまき
恋愛
幼い頃から許嫁だった王太子ヴァレリアンと結婚した公爵令嬢ディアーヌ。しかしヴァレリアンは身分の低い男爵令嬢に夢中で、初夜をすっぽかしてしまう。代わりに寝室にいたのは、彼そっくりの影武者…生まれたときに存在を消された双子の弟ルイだった。
※「小説家になろう」にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる