賞命首

じゃったん

文字の大きさ
9 / 12
第1章 ゲーム開始

第8話 誠 賞命首③

しおりを挟む
  誠は急な出来事に困惑した。何故自分が賞命首だとバレたのか、その要因を、思考を巡らせ考える。時計と話している様子が見られたのでは、と誠は考えたが、それは誠自身の憶測にすぎない。誠はその男に恐る恐る質問した。

「何で……分かった……?」

「あ……へぇ。すぐ認めるんだね。不思議だ」

  男は喋りながら間合いをジリジリと詰めてくる。

「君の行動、明らかにおかしかったんだよね。客観的に考えてる?  自分のやってること。センドウ行きの電車に乗ってる所から尾けてみたけどさ、電車から降りて外うろついて、また電車に乗っては降り、外では何もしない……賞命首が取る典型的な行動だと思わない?」

  誠はまず、その男の洞察力に脱帽した。確かに顔がバレにくい服装で、それらの行動をこのご時世にやるというのは、ほとんどが賞命首の人間だと決めつけてもおかしくない。

「それでも、君に聞いた時点でまだ俺は確証を持てなかったけどね。違ってたら違ったで、今の世界は無法地帯になりつつあるから、金でも盗ってたかな」

  誠はその男の言動に憤りを感じた。今の世界が無法地帯だと?  だったら、どんな犯罪を犯してもいいのか?  誠は、鋭い目つきで男を睨んだ。

「あ?  なんだよ。賞命首さんはなぁ、さっさと俺に命を献上してくれればいいんだよ!」

  男はナイフの切っ先を誠に向け、渾身の力で突いた。が、男のナイフはいとも容易く折れてしまう。

「……は?」

  男は折れたナイフと、突然現れた誠と男を隔てる謎の壁に目を往来させ、混乱した。誠は至って冷静沈着に、背中のリュックに右手を伸ばし金属バットを取り出した。

「お前みたいな奴には眠ってもらわないとな」

  壁が消えるのを見計らって、誠は男の脳天に重い一撃をかました。鈍い音と、短い叫び声が辺りに響き、男は誠の足元に倒れた。

『対象の殺意が消えました。防御プログラムを停止します』

「ありがとう、ナビ。助かったよ」

『誠様、ここに留まるのは危険です。別の場所へ移動してから、次のスポットについて検討しましょう』

  傍から見たら、誠は一般人に暴力を振るったことになる。誰かに見られたらまずい。

「分かった」

  誠はすぐにその場から離れ、人気のない工場の廃墟に場所を移した。そこで誠は、また次の三つ目のスポットをナビに教えてもらう。

「アグタ区画シド町の……パン屋『杉谷』か……」

  シド町は、アグタ区画東部に位置する。ちょうど、今いるサクラ町から北上した場所にある。

『制限時間は11時37分までとなります。誠様、すぐ行かれますか?』

「……いや」

  誠は、このゲームがいかに危険か、その本質を捉えて噛み締めていた。さっき男から言われた「賞命首の典型的行動」を、自分が無意識に取っていたことにショックを受け、そしてこのままでは、今後生き延びられるか分からないという絶望を誠は味わっていた。それと今、誠の頭にはあるフレーズが引っかかっている。

「なぁ、ナビ」

『はい』

「今、本当に世界は無法地帯なのか?」

  さっき、男が誠に言った言葉だ。

『誠様、薄々気付いてらっしゃるんじゃないんですか?  お母様もおっしゃってましたよね?……誠様のお父様は、警察の人に殺された、と。今、殺人を犯した人の大半は警察の手から逃れられています。市民も警察も皆、酷い混乱に陥っているのです』

  誠は思わず、手で顔を覆った。世界はもう少しまともだと思っていた。こんなにも簡単に秩序が崩れ去るものなのか、と失望した。
  その時、

「や、やめてくれえぇぇっ!!」

  湿気た木材の陰に隠れていた誠の後ろで、突如男の悲鳴が上がった。

「殺さないでくれ!  お願いだ!!」

  その男は目に涙を浮かべ、泣き喚きながら地に尻をついていた。見た目四十代ほどのおじさんだ。そのおじさんが懇願している相手の姿が、誠の覗く木材の隙間から徐々に見えてくる。その相手は、右手に銃を持っていた。

「うるせえな、人が寄って来ちまうだろ……!」

  男の声。銃を持っている者の声だった。誠はその二人を凝視し、ある事に気付く。泣いているおじさんの左手首に、ライフウォッチが着けられていることに。誠は一瞬、胸が掴まれた感覚がした。誠の額に汗が垂れてくる。

「じゃあな、おっさん。自分の運の悪さを恨めよ」

  下卑な笑みを浮かべながら、男はおじさんに銃口を向けた。誠は、咄嗟に行動を取っていた。

「!……痛って……!!」

  誠は立ち上がり、男に木の板を投げつけていた。男は突然の出来事に思わず怯む。だが誠の姿を確認するとすぐに、男は叫んだ。

「誰だよテメェ!  邪魔すんじゃねえ、こいつは俺の獲物だぞ!!」

  男の銃口が誠に向いた。男に近づこうとした誠の足が、一瞬止まる。

「お、おい……銃弾は、守れるのか?」

  誠は囁き声でナビに訊いた。

『大丈夫です。任せてください』

  誠は歩き出した。瞬間、工場内に轟音が響き、男の銃から火花が散った。男は、俺に逆らえばこうなるんだ、と言わんばかりの優越感に浸っている様子だった。だが、撃たれたはずの誠は、いまだにズカズカと男に迫っている。

「……?  何でっ……!」

  男はもう一発、そしてまた一発と引き金を引いた。片手で格好つけて撃つのではなく、男はしっかりと両手で銃を握って撃った。それでも、誠と男の距離は縮まるばかり。銃弾は誠に一つも当たっていなかった。ついに、男の銃の弾が切れる。動揺する男の隙を突いて、誠は金属バットで男の頭を打った。呆気なく、男は地面に倒れた。
  暫く、誠がその気絶して倒れた男を見ていると、後ろから声がした。

「あ、ああ……ありが、とう」

  命が狙われていたおじさんの、感謝の声だ。誠が振り向くと、反射的におじさんは左手首を右手で覆い隠す。

「殺さないんで、大丈夫ですよ」

「……え?  本当に、かい?」

「俺も『賞命首』なんで、一緒です」

  誠は左手首のライフウォッチをおじさんに見せた。そして、

「殺されないように、頑張りましょう」

  誠はそう言い残し、そこから立ち去るつもりだった。だが、

「わ、私を殺せば、命が貰えるんだぞ……?」

  おじさんはそう誠に投げ掛けた。「本当に殺さないのかい?」と続けてきた。
  誠は、おじさんの言動が不思議でならなかった。助かりたいのか、殺されたいのか、どっちなんだと。誠は今持つ自分の考えで返答した。

「それ、世界が今騙されているハッタリじゃないですか。そんなのを理由にして、俺は人を殺さないんで」

  誠は、今度こそこれで会話は終わると思った。だがおじさんは立ち上がり、誠の元に駆け寄って肩を掴む。

「危ない。それは。君は……危ないぞ」

  おじさんは首を横に振りながら、誠に何らかの警鐘を鳴らした。

「……どういうことですか?」

  誠は訊く。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

処理中です...