世界滅亡の因子たち

じゃったん

文字の大きさ
1 / 48

プロローグ

しおりを挟む
 プロミス社。日本を代表する化学メーカーで、基本的に医療薬品、健康食品などを開発、生産している。日本国民の身体を思ってくれる会社だ。
   だがそんな会社に、黒い裏があることを、世間は知らないーーーー

「おい、コアは吸収し終わったか」

「いや、まだっすね」

   東京都内。東京湾を近くに高くそびえ立つ、プロミス社のビルの地下深く。綺麗な白衣と七三分けがキマっている学者たちが、立方体の大きな作業場で忙しくあちらこちらと動き回っていた。山積みの書類を運ぶ者、複数名でボードの前で話し合う者、パソコンでデータを打ち込む者、雑巾がけをする者、滝に打たれる者、彼らはここで重大な仕事を遂行していた。

「何、まだ出来ていないのか」

   一人のお偉い学者が、一人の下っ端に問う。

「いや、何か、よく分かんないすけどなんか」

   下っ端は、コアと呼ばれる巨大なカプセルに入った赤茶色の球体と、その前に置かれてる無数のボタンとを指差し、首を傾げながら何とか説明しようとする。

「ボタン効かないんすよぉ……ぱっさぁん」

「その名前で呼ぶなと言っただろう、どれ、見せてみろ」

   下っ端は後ろに下がり、その前で先輩学者ことぱっさんが、その無数のボタンをポチポチと押してみる。が、何の反応もない。ぱっさんも同様に首を傾げ始める。

「おかしいな、お前、何もしてないよな?」

「ハイ!  何もしてないっす!  ハイ!」

   ぱっさんは振り返って下っ端に確認するも、どうもそいつは何もやっていないらし……!
   ぱっさんは自然と下っ端を二度見した。

「お前、何で服濡れてんだ?」

「あ、いやさっき滝に打たれてきたんで……ウィッス」

   下っ端がさっきまで立っていたその床には水たまりが出来ている。

「え、……水没すか?」

「当たり前だろう。それ以外何がある」

「ちょっと待ってくださいよ! 防水してないんすかコレぇ!!  弁償すか!?  ぱっさんオレ弁償すか!?」

「うるさい!!  めっ!」

   ぱっさんは強く袖を引っ張ってきた下っ端の手を引っぱたいた。下っ端は今にも泣き出しそうだったが、我慢しているのか、顔が全面的に震えている。そこに、

「すんませーん!  抜けてましたー!」

   遠くから二人を呼びかけたのは、部屋の隅で雑巾がけをしていた山本だった。左手に古く黒ずんだ雑巾、右手で、おそらくさっきまで機能しなかったボタン装置のコンセントをブラブラと上げている。

「何だ……そういうことか。雑巾班気をつけろよー!」

「「「ウイーッス」」」

   ぱっさんの注意に、雑巾班は遠くで返事する。山本もコンセントを元通りに刺したようで、ボタン装置が音を立てて再起動し始めた。

「良かったな、水没じゃなくてな」

   ぱっさんは優しく下っ端の背中を叩く。

「ぱっさぁん……、俺アイツら嫌いっす。何なんすかもォ……!」

   鼻をすすり、身体を震わせる下っ端の目から何かが滴っているような気がしたが、それは滝の水と混ざり合い見分けが付かなかった。
   ぱっさんはそんなそいつの体をそっと抱き寄せる。

「寒いだろ、俺があっためてやるよ」

「ぱっさぁん……オレ、怖かったっす……!  またぱっさんに怒られると思って……!」

「よーしよし、分かったから泣くな、カズ、な?」

   ぱっさんはカズの体を、雑巾を絞る時のように強く抱きしめる。水が次々としたたる。

「今度、一緒に滝に打たれような」

「……うん」

「……服は脱いでな」

「……ん」

(water) fall in love…☆☆

   ブツッ-----

「最後のは何だね……?」

「いやこれは! 本当に誠に申し訳なくお思っている所存でして! この度は不適切な内容を映像にお流ししたことをお詫び申し上げると同時に……!!」

「すみません、こちらの不手際です。申し訳ありません」

   早口で、体を前後に大きく振りながら謝る部下を、1人の上司が庇った。
   上司はプロジェクターの電源を切り、パソコンを閉じる。

「後半部分は除いて、前半の映像にあった通り、ようやく地球との契約が終了し、コアの抽出も可能になりました。これからは仕事の効率化向上を目指し励む予定になっております。途中経過は以上です」

「うむ……ご苦労」

   プロジェクターを見終わったその大男は、椅子から立ち上がり、高級なふかふかの絨毯をゆっくりと踏みしめながら、部屋の窓へ歩む。男は一つ、溜め息をつくと、

「……もうすぐだ……ふふ」

   と、不敵な笑みを浮かべて、窓の外に広がる低い東京の街を見下ろし、眺めるのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...