10 / 48
第一章 霧雨レイン
第9話 来訪
しおりを挟む
マスターはその麺を、カクテルを作るためのシェイカーに入れる。次に氷、トマトやキュウリ、卵を入れていく。リオンの脳に「冷やし中華」の文字がよぎったが、リオンの思考速度ではもう到底追いつけない。
マスターはその色々な材料が入ったシェイカーを、胸の前で大きく振り始めた。ここだけ、リオンにとってよく見る光景だったが、数秒前の記憶とその光景は合致しない。やはりリオンには理解できなかった。
リオンは、レインの顔を伺う。レインはただ平然として、どこかを見つめて集中しているようだった。現状を把握出来ていないこの弟子に、何か一言だけでも説明してくれないかと、リオンは目で訴えかけるが反応はない。バーを、マスターが機敏に振るそのシェイカーの音だけが包む。まるで普通のバーみたいだ、とリオンは感じた。
「あいよ、おまたせ」
マスターは、いつの間にかグラスにお酒を注いでいて、目の前に出してきた。
(え……?)
リオンは目を疑った。
このお酒は、さっきまでマスターが振っていた物の中身だ。おかしい、とリオンは疑い続ける。麺やらキュウリやらがグラスの中に見当たらない。
リオンはマスターの方を見た。さっきまで使っていたシェイカーを洗っていた。もう何がなんだか分からない。リオンは混乱していた。
チラと、マスターがリオンの方を見る。不敵な笑みを浮かべ、こちらをまじまじと見つめている。
「イッツ、ゴッドパワー」
マスターはリオンにそう唱えた。ふっ、と、レインさんが横で笑う。
「いつ見ても凄いな」
レインはそう言って、出されたお酒を一口飲む。
「……ライム……いや、レモンか? マスター、これは?」
「ん~、惜しいですね。今日はメキシコのコストコで採れた、キーライムを使用しました。日本に滅多に流通していないんですよ」
「ああ、キーライム! 通りで後味が良いわけだ」
リオンはもう度肝を抜き切られた。
本当に麺を入れた物から、これが出来たのか?ゴッドパワーって何? いつライムなんて入れていた? あとマスター、急にマスターしか知らなそうな知識出しすぎ。ビビるよ、その見た目からは。
様々な驚きがリオンの中で生まれる。
リオンはただその二人の、異様な雰囲気の傍観者になってしまった。
麺は酒に上手く溶け込んだみたいだが、彼はこの状況に溶け込めないようだ。
カラン。
「ラッシャッセェーイッ!!」
一人の男が店の中に入ってきた。黒いロン毛で、面長。アメリカでロックやらをやっていそうな、見慣れない顔立ち。身長はレインと同じくらい。黒いコートに身を包み、手には銀色のアタッシュケースを持っていた。
「やあ、レイン。遅くなってごめんよ」
「おお、ラウディ。いいんだ、俺らも来たばかりだ。座れよ」
「……そっちの子は、もしかして」
ラウディは椅子に腰を掛けながら、リオンの方を覗いた。3人、レインを真ん中に挟んで座っている状態だ。
「ああ、弟子のリオンだ」
レインはラウディに紹介する。
「うんうん。話は聞いてるよ」
と、ラウディはリオンの方を見て頷いた。リオンは、「あ、どうも」と返しながら、深々と会釈する。ラウディの声はどこか心地よくて、穏やかで優しい人そうだと、リオンは感じた。
「マスター、俺にもいつもの」
「あいよ」
リオンの顔は、また曇る。リオンはマスターを見ないようにレイン達の方を向くが、それでも視界の端のほうで、麺らしき物を持っているように映る。
リオンはそのしかめっ面で、とうとうヤケクソにそのお酒の一口目を飲んだ。
(……おいしい)
「で、レイン。早速本題に入るが……言われた通りプロミス社の内部地図を盗ってきた。でも何だって? 報酬金はあげないってどういう事だ?」
「言っただろ。情報の等価交換だ。いや、もう俺が持ってるのは、今回の依頼の核心を突く情報だ。内部地図とは比べ物にならないかもな。」
「……ほう?」
レインはラウディに、例の書類を見せた。
マスターはその色々な材料が入ったシェイカーを、胸の前で大きく振り始めた。ここだけ、リオンにとってよく見る光景だったが、数秒前の記憶とその光景は合致しない。やはりリオンには理解できなかった。
リオンは、レインの顔を伺う。レインはただ平然として、どこかを見つめて集中しているようだった。現状を把握出来ていないこの弟子に、何か一言だけでも説明してくれないかと、リオンは目で訴えかけるが反応はない。バーを、マスターが機敏に振るそのシェイカーの音だけが包む。まるで普通のバーみたいだ、とリオンは感じた。
「あいよ、おまたせ」
マスターは、いつの間にかグラスにお酒を注いでいて、目の前に出してきた。
(え……?)
リオンは目を疑った。
このお酒は、さっきまでマスターが振っていた物の中身だ。おかしい、とリオンは疑い続ける。麺やらキュウリやらがグラスの中に見当たらない。
リオンはマスターの方を見た。さっきまで使っていたシェイカーを洗っていた。もう何がなんだか分からない。リオンは混乱していた。
チラと、マスターがリオンの方を見る。不敵な笑みを浮かべ、こちらをまじまじと見つめている。
「イッツ、ゴッドパワー」
マスターはリオンにそう唱えた。ふっ、と、レインさんが横で笑う。
「いつ見ても凄いな」
レインはそう言って、出されたお酒を一口飲む。
「……ライム……いや、レモンか? マスター、これは?」
「ん~、惜しいですね。今日はメキシコのコストコで採れた、キーライムを使用しました。日本に滅多に流通していないんですよ」
「ああ、キーライム! 通りで後味が良いわけだ」
リオンはもう度肝を抜き切られた。
本当に麺を入れた物から、これが出来たのか?ゴッドパワーって何? いつライムなんて入れていた? あとマスター、急にマスターしか知らなそうな知識出しすぎ。ビビるよ、その見た目からは。
様々な驚きがリオンの中で生まれる。
リオンはただその二人の、異様な雰囲気の傍観者になってしまった。
麺は酒に上手く溶け込んだみたいだが、彼はこの状況に溶け込めないようだ。
カラン。
「ラッシャッセェーイッ!!」
一人の男が店の中に入ってきた。黒いロン毛で、面長。アメリカでロックやらをやっていそうな、見慣れない顔立ち。身長はレインと同じくらい。黒いコートに身を包み、手には銀色のアタッシュケースを持っていた。
「やあ、レイン。遅くなってごめんよ」
「おお、ラウディ。いいんだ、俺らも来たばかりだ。座れよ」
「……そっちの子は、もしかして」
ラウディは椅子に腰を掛けながら、リオンの方を覗いた。3人、レインを真ん中に挟んで座っている状態だ。
「ああ、弟子のリオンだ」
レインはラウディに紹介する。
「うんうん。話は聞いてるよ」
と、ラウディはリオンの方を見て頷いた。リオンは、「あ、どうも」と返しながら、深々と会釈する。ラウディの声はどこか心地よくて、穏やかで優しい人そうだと、リオンは感じた。
「マスター、俺にもいつもの」
「あいよ」
リオンの顔は、また曇る。リオンはマスターを見ないようにレイン達の方を向くが、それでも視界の端のほうで、麺らしき物を持っているように映る。
リオンはそのしかめっ面で、とうとうヤケクソにそのお酒の一口目を飲んだ。
(……おいしい)
「で、レイン。早速本題に入るが……言われた通りプロミス社の内部地図を盗ってきた。でも何だって? 報酬金はあげないってどういう事だ?」
「言っただろ。情報の等価交換だ。いや、もう俺が持ってるのは、今回の依頼の核心を突く情報だ。内部地図とは比べ物にならないかもな。」
「……ほう?」
レインはラウディに、例の書類を見せた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる