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第一章 霧雨レイン
第8話 Gods guidance
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リオンがプロミス社の資料を見てから、数日後。リオンは、レインとある店に来ていた。夜の街の、裏道を抜けた先のまた奥の奥。辺りはほとんど真っ暗で、その着いた店の看板のネオンが、チカチカと不規則に紫色に照っているだけの場所。その看板には英語で、“Gods guidance”と書かれている。意味は「神々の導き」。とても怪しい、胡散臭い、とリオンは思った。
「で、レインさん。ここで何をするっていうんですか?」
もちろんリオンはそんな疑心を口にせず、レインと話す。
「ん、ああ、言ってなかったな。情報交換の取引さ。この店の中で待ち合わせだ」
レインは人脈が広い。リオンやサニばかりを利用するのではなく、他の優秀なパートナーとも協力して動いている。今回レインは、アジトには居ない外部の人間とコンタクトを取る予定だ。
……でも、それなら何故僕まで連れてこられたのだろう。いつもなら、アジトの留守番を頼まれている筈なのに。と、リオンは考えていた。
カラン。
レインが先に、そのバーのドアを開け、店の中に入っていった。リオンもバーの前で立ち尽すのをやめて、やや足早にレインの後について行く。
中は、しつこく光っていた店の外見とは裏腹に、厳粛な暗さを保っていた。入って左手に、手前から奥に伸びる黒いカウンター。右手には、壁にピシッと並べられた複数のテーブルとイスがある。天井の丸い照明の力は、やや弱々しくも、それでいて穏やかな雰囲気を感じさせる。
さすがレインさん、大人の店を知っている。
リオンの胸に、静かな躍動感が生まれ始めていた。霧雨レインという偉大な男の側面に、今、触れようとしている。リオンにとって、この良い雰囲気が漂うこの店に、レインと一緒に踏み入ることが出来ただけで大きな幸せを感じられるのであった。
早いものだが、もう彼の頭からはここに来る目的が取り引きであるということが、既に消え失せようとしていた。
リオンが、その店に一歩大きく踏み出した時だった。
「ラッシャッセェーイッ!!」
カウンターをまたいだ場所から、大きい声がした。反射的に左を向いたリオンの目には、想像もしえないものが映り込む。
店の雰囲気に似合う、キマったスーツを着た、顔がダンディーで渋くて、エレガントな髭を生やし、優雅に紅茶やらワインやらをたしなみながら夜の流浪人を待つマスターの姿……などを、リオンは想像していた。
だが、目の前にいるのは、おそらく使い古されたのであろうハンドタオルを頭に巻いている、40代の小太り中年で、髭など全くエレガントとは程遠くチリチリに生え、服装も肌に白いTシャツと、その上から羽織りのようなものを着ているマスターの姿……だった。
リオンの想い描いていた理想郷が崩れていく。
「今日は、二人?」
この店のマスターだとは信じ難いその男が、いかにもマスターらしい質問を二人に投げかける。
「いや……」
レインは店内をキョロキョロと見回した。男の先客が一人、店の奥のテーブルで座っているが、レインの目はその人には置かれずに流れていった。
まだ、レインが待ち合わせている人は来ていない。
「あともう一人来る」
そう言って、レインはカウンターの椅子に腰を掛けた。リオンは、マスターの姿を見て茫然としていたが、ハッと微かに気を取り直し、レインの右の椅子に座る。
「マスター、いつもの」
ついにレインさんの口から、『マスター』の言葉が出てしまった。と、リオンは驚きを隠せない。
リオンの口は、さっきから開いたままである。
「あいよ!」
そう返事をしたマスターは、後ろに並べてあるワインボトルの棚の方を向き、レインの言う『いつもの』を探し始める。
待て、リオン、よく考えろ。店自体は、バーとしてとてもレベルが高いのかもしれない。何しろ、レインさんが選ぶ店なんだ。その店の人の見た目だけで戸惑うのは失礼すぎる。
と、リオンは自分に言い聞かせた。だが……
(嘘……だろ……?)
リオンの期待はことごとく裏切られる。
そのマスターが数々のワインボトルの中から取り出したのは、ひと玉の麺であった。
「で、レインさん。ここで何をするっていうんですか?」
もちろんリオンはそんな疑心を口にせず、レインと話す。
「ん、ああ、言ってなかったな。情報交換の取引さ。この店の中で待ち合わせだ」
レインは人脈が広い。リオンやサニばかりを利用するのではなく、他の優秀なパートナーとも協力して動いている。今回レインは、アジトには居ない外部の人間とコンタクトを取る予定だ。
……でも、それなら何故僕まで連れてこられたのだろう。いつもなら、アジトの留守番を頼まれている筈なのに。と、リオンは考えていた。
カラン。
レインが先に、そのバーのドアを開け、店の中に入っていった。リオンもバーの前で立ち尽すのをやめて、やや足早にレインの後について行く。
中は、しつこく光っていた店の外見とは裏腹に、厳粛な暗さを保っていた。入って左手に、手前から奥に伸びる黒いカウンター。右手には、壁にピシッと並べられた複数のテーブルとイスがある。天井の丸い照明の力は、やや弱々しくも、それでいて穏やかな雰囲気を感じさせる。
さすがレインさん、大人の店を知っている。
リオンの胸に、静かな躍動感が生まれ始めていた。霧雨レインという偉大な男の側面に、今、触れようとしている。リオンにとって、この良い雰囲気が漂うこの店に、レインと一緒に踏み入ることが出来ただけで大きな幸せを感じられるのであった。
早いものだが、もう彼の頭からはここに来る目的が取り引きであるということが、既に消え失せようとしていた。
リオンが、その店に一歩大きく踏み出した時だった。
「ラッシャッセェーイッ!!」
カウンターをまたいだ場所から、大きい声がした。反射的に左を向いたリオンの目には、想像もしえないものが映り込む。
店の雰囲気に似合う、キマったスーツを着た、顔がダンディーで渋くて、エレガントな髭を生やし、優雅に紅茶やらワインやらをたしなみながら夜の流浪人を待つマスターの姿……などを、リオンは想像していた。
だが、目の前にいるのは、おそらく使い古されたのであろうハンドタオルを頭に巻いている、40代の小太り中年で、髭など全くエレガントとは程遠くチリチリに生え、服装も肌に白いTシャツと、その上から羽織りのようなものを着ているマスターの姿……だった。
リオンの想い描いていた理想郷が崩れていく。
「今日は、二人?」
この店のマスターだとは信じ難いその男が、いかにもマスターらしい質問を二人に投げかける。
「いや……」
レインは店内をキョロキョロと見回した。男の先客が一人、店の奥のテーブルで座っているが、レインの目はその人には置かれずに流れていった。
まだ、レインが待ち合わせている人は来ていない。
「あともう一人来る」
そう言って、レインはカウンターの椅子に腰を掛けた。リオンは、マスターの姿を見て茫然としていたが、ハッと微かに気を取り直し、レインの右の椅子に座る。
「マスター、いつもの」
ついにレインさんの口から、『マスター』の言葉が出てしまった。と、リオンは驚きを隠せない。
リオンの口は、さっきから開いたままである。
「あいよ!」
そう返事をしたマスターは、後ろに並べてあるワインボトルの棚の方を向き、レインの言う『いつもの』を探し始める。
待て、リオン、よく考えろ。店自体は、バーとしてとてもレベルが高いのかもしれない。何しろ、レインさんが選ぶ店なんだ。その店の人の見た目だけで戸惑うのは失礼すぎる。
と、リオンは自分に言い聞かせた。だが……
(嘘……だろ……?)
リオンの期待はことごとく裏切られる。
そのマスターが数々のワインボトルの中から取り出したのは、ひと玉の麺であった。
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