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思い当る節

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酉族全員の羽繕いをしたんじゃないかと感じ始めた頃。僕は木刀を持って模糊さんと向かい合っていた。もちろん喧嘩した訳じゃない。でも模糊さんに向けて木刀を振る事になっている。周囲は警邏隊がずらりと並び、相対する模糊さんは自信満々な表情で僕を見ていた。・・・どうしてこんな事になったんだろうか。

きっかけはこの前の羽繕いの時だと思う。他の種族の街にも行ってみたいと何となく呟いたのを、お客さんだった警邏隊の人に聞かれた覚えがある。その日から警邏隊の仕事の大変さや、警邏所外側の魔物の話を沢山聞いた。今まで大変なんだと、お疲れ様ですとしか思っていなかったけど。あれは他の街に行かないように釘を刺されていたのかもしれない。家まで作ってもらい、安定した生活を送れている。恩もあるので、この街を捨てようとは思っていない。

ただ単に、いろんな種族をモフモフしたいだけだ。

最近魔物を積極的に倒したりトレーニングを始めたのは、警邏隊の話を聞いて強くなりたいと思ったからでもある。
入隊出来なくても、自衛出来る力は欲しい。旅に出ないとしても、この世界では必要だから。毎日欠かさずナイフを振り続け、トレーニングをした。確実に前よりは強くなっていると思う。

午前中にそう自慢げに言ったのがいけなかったのだろうか?

自惚れたつもりはない。ただ前よりは動けるようになりましたと報告のつもりだった。模糊さんは勿論、警邏隊に勝てるとは考えてもいない。お互いに言葉足らずだったと思うので、少し話し合いませんか?

「それでは、模糊対精一の試合を開始します。両者前へ!」
「はい!
「・・・はい」

駄目ですか、そうですか・・・
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