紀元前0世紀の物語

真田熊

文字の大きさ
10 / 81
第1章:直江津王国から始まった

1-9 王国の形

しおりを挟む
王国の形

住民の移住に成功した春日山の麓の弥生集落では、直江津王国としての形を理解して、新たな集落での支配の構造を調えねばならなかった。

王は、早々に支配層の重鎮を呼び出した。
自身の結論を得ていたが、まだ1人では決断を下せないと思っていた。

会議は、王の執務室で行われることになった。いつもなら、支配層の面々から報告を聴くだけの為の部屋であった。

若い王であったが、民のために良かれと思い移住を決めたことが、こんなに大きなことになるとは、、、

王を担ぎ上げていた宰相が、まず発言した。
「王よ、直江津王国とは、何なのだ?移住は成功して、良かったということではないのか?」

「宰相、よく聞いてくれ」
王は、住民の移住を成功させた移動するグループの若者を指して発言を促した。
「検分役、詳細を話せ」

「王よ、かしこまりました」
恭しく、しかし堂々と移動するグループの若者が続けた。
「宰相の他、皆様方、管理の人間と労働者の移動は、無事に終わりました。新たな領地では、小屋づくり、田んぼの耕作等が進められることになります。しかし、これからが大事なことになるのです。お分かりにならないか?」

問いかけられた宰相を含め集落を治める管理者たちは、何を言っているのだという顔になった。宰相が何が始まったのか分からぬ様子で、
「王よ、何が始まるのですか?検分役とは、その若者は移住を先導したもの、、、」

「宰相、彼はこの度、我の命を受けて、新たな集落の検分役としたのだ」
キッパリと答えられ、皆は静まり返った。
検分役が続けた。

「長野盆地の平地では、縄文の住民は長く住むことがなかったが、この度、そこに移住が成功し、我らの新たな領地として開発されることになります。これからは新たな集落が、新たな田んぼと共に出来上がります。米の苗は一緒に持っていきましたから、秋には、多くのお米が収穫されるはずです」

「良かったではないか?不満のあった若者たちは、これで順調に暮らせることになるだろう」
何が大きな問題なのか、宰相には理解できないと大きく首を振るのであった。

「宰相、よくお考え下さい。いままで王族の方々が移動するグループによる扇動で柏崎や長岡、そして新潟に新たな弥生集落が生まれましたが、それらの動きとは今回は決定的に違うのです。いま、長野盆地に出できる新たな弥生集落には、王族の方はいらっしゃらない。移住した住民にとって、王は、今ここにいらっしゃる王様なのです。」

それは、そうだろうと頷く宰相だったが、やはり何となく理解が追いつかないようだ。

「宰相、移住に伴った管理の人間たちに役職をつけて、新たな直江津王国の領地としての管理の話を進めなければなりません。管理の人間は、新たな領地を作る指導者であり、王様のかわりをすることになるのです。」

直江津王国を支配している宰相だったが、検分役の言葉の「王様の代わり」に、という言葉にハッとした。

「何故なら、彼らは今はまだ管理者でしかないのです。新たな領地ですから、秋に収穫した米の一部を直江津王国に対価として支払う事が必要です。それが新たな領地での長の仕事になります」

そうかと頷く宰相。

「王族様方の移動と同じように考えておったが、これは違うな。対価として米を支払う、、、直江津王国の収入だな」

「王族様方の移住は、新たな弥生集落の誕生でしかない。しかし長野盆地に出来た新たな弥生集落は、直江津王国の新しい領地になるのですよ」

今度はメンバー全員が納得したように頷きあった。

「米を支払う。それは支配させていただいてる新たな領地で暮らすための対価となります。管理者は、新領地の《長(おさ)》となるのです」

「なるほど、こりゃ管理の方法から考えないといけないな。どうしたら良いのじゃ」

宰相は、納得したが、やりようが分からないようだった。すると王が答えた。

「新たな領地を《川前の集落》と名付けることにする。また、管理者は、長野盆地の弥生集落の《長》として、わしの代理であるということになる。米は収穫した量の三分の一程度で良い。移動するグループの若者が見分役となり、運搬も賄ってもらうことになる」

「我らだと移動に苦労しそうだから助かるな、、、」
王は、若者から言われたことを懸命に考え、答えを作っていたのである。

検分役は、
「ははー。了解いたしました。謹んでお受けいたします」
と、答えると、皆は、これから何が始まるのか、よく理解していないようだったが、王がキッパリと答えたので、そのまま納得してしまったのである。
王が王らしく、ゆっくりとしかも大きく頷いていた。

こうして直江津王国は、形ができ始め、王の権力という力を持つことになる。宰相も、何となく大事にならないと感じたのか、ゆっくりと頷くのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

本能寺からの決死の脱出 ~尾張の大うつけ 織田信長 天下を統一す~

bekichi
歴史・時代
戦国時代の日本を背景に、織田信長の若き日の物語を語る。荒れ狂う風が尾張の大地を駆け巡る中、夜空の星々はこれから繰り広げられる壮絶な戦いの予兆のように輝いている。この混沌とした時代において、信長はまだ無名であったが、彼の野望はやがて天下を揺るがすことになる。信長は、父・信秀の治世に疑問を持ちながらも、独自の力を蓄え、異なる理想を追求し、反逆者とみなされることもあれば期待の星と讃えられることもあった。彼の目標は、乱世を統一し平和な時代を創ることにあった。物語は信長の足跡を追い、若き日の友情、父との確執、大名との駆け引きを描く。信長の人生は、斎藤道三、明智光秀、羽柴秀吉、徳川家康、伊達政宗といった時代の英傑たちとの交流とともに、一つの大きな物語を形成する。この物語は、信長の未知なる野望の軌跡を描くものである。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

【短編集】こども病院の日常

moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。 18歳以下の子供が通う病院、 診療科はたくさんあります。 内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc… ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。 恋愛要素などは一切ありません。 密着病院24時!的な感じです。 人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。 ※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。 歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

秘書と社長の秘密

廣瀬純七
大衆娯楽
社内の調査のため、社長・高橋健一はこっそり秘書・木村由紀と不思議なアプリで入れ替わることに。 突然“社長役”を任された由紀と、自由に動ける立場を手に入れた高橋。 ふたりの秘密の入れ替わり作戦は、どの様な結末になるのか?

処理中です...