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5.片隅の美しき日々

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 狭いベッドルームには、すっかり熱に浮かされた男女の息。安物のスプリングが軋む音のあいだに、時々わたしが甘えた猫のように鳴く。

 ホテルでしたキスとはまったくヴァレリーの違うキスは、わたしをすっかり蕩けさせた。
 ヴァレリーに愛されたい、愛して。もっと愛して。もっともっと欲して。それだけしか考えられないキス。こんなの初めてて、処女のように震えてしまう。

 身体のどこもかしこ、すみずみ、爪の先、髪の先、足の指の先までヴァレリーにキスをされ、啄まれ、舐められ、撫でられて、触れられた場所が性感帯に塗り替えられていった。
 甘い酩酊ではなく、感覚を研ぎ澄まされていく愛撫のせいで、心臓が、感覚が、息が、狂おしいほど、彼を欲している。

 ヴァレリーが触れていない少しの場所。そこは彼に触られたがって、ひどく熱を孕んでピリピリしている。

「も……お願い。ヴァル……我慢しないで。わたしはもう、我慢できない」

 ショーツがびしょ濡れになっていて、淫乱さながらなのが自分でもわかって恥ずかしい。それでも、熱く疼くそこを彼は触ろうとしないから、触ってほしくて恥じらいを捨てて懇願した。

「上書きが終わったらね」

 わたしの膝を割り、ヴァレリーがショーツをゆっくり焦らすように脱がす。オリーブの瞳がそこをしっかり見ている。見られておかしくなりそうなくらい、身体の熱がぐんぐん上がる。

「ああ、さっきの僕のをすっかり出しきってるよ。ディケーの蜜しかもう出てない」

 ヴァレリーは実に愉快そうに熱に浮かされた表情をしている。彼の余裕はいったい何?

「……、言わないで」

「さっきはこんな恥ずかしがらなかったよね。いい傾向だ、ディケー。もっと恥ずかしがる姿を見せてもらうよ」

「信じられない。わたしのヴァルがそんなこと言うなんて……!」

「信じられないのは僕も同じだ」

 ショーツを脱がされた足は、ヴァレリーによって閉ざされた。わたしはしかたがなく、ずぶ濡れの太腿を擦り合わせてしまう。……足りない。こんなのじゃ、足りない。

「こんなに女性らしいラインに僕のディケーがなってる」

「は……、ぁあ……っ」

 ヴァレリーの十本の指がわたしのお腹をつうーっと撫であげて、自然に抱き起こす。
 背中にヴァレリーの体温を感じるだけで、イッてしまいそう。

「胸だって」

 乳房のまるみを撫でていた指は、手のひらに変わり、柔らかさを楽しむようにやわやわ動く。
 気持ちいい。だけど、足りない。

「ヴァル」

「ふふ。うるうるの目。ディケーの瞳が青く蕩けてて、すてきだ」

 シャープな顎を見上げると、頬にぽろりと涙が零れた。ヴァレリーはその涙をキスで受け止め、それから頬に、瞼にキスをしてくれる。
 彼の五指はわたしの敏感になった乳首をかすめて、くすぐるように優しく扱きはじめる。

「あ。あ……っ、ん」

「ここは上書きしたから、僕だけを感じていいよ、ディケー」

「……ん、ぅ。……あ、は。ヴァルの、指……、きもち、いい」

 胸だけでどうにかなりそう。じんじんとした官能が、いやらしさが、わたしをすっかり支配している。
 彼のせいでひどく火照った乳首から、身体中に淫らな痺れが駆け抜ける。わたしはヴァレリーの引き締まった太腿を握りしめ、爪を立ててしまった。

「……あぅ。ヴァル、ごめ……、足に……んぅっ」

「いいよ。ディケー付けられるなら、勲章だ」

 ぐずぐずの太腿を擦り合わせながら、わたしは背中に感じるヴァレリーの体温と、乳首を嬲る指に夢中になっていく。

「乳首だけでこんなにいやらしくなるなんて、僕のディケーは淫らだね。妬けちゃうな」

 少し拗ねた言い方に恥ずかしさを煽られ、目の周りがジンとして涙が出てきた。

「ちが、うのこんなの、初めてで……。わたし、こんなのじゃ、ない……あっ」

「ほうとうに?」

 喜んだ彼の声には熱が篭っていて、気をよくしたのが耳元でわかる。なにが、よかったの?
 耳を肉厚な舌でねぶられ歯を立てられ、背中から腰にかけてゾクゾクとした熱が這い降りる。心地よいくすぐったさがわたしの身体をくねらせ、息を上げさせる。

 ──逃げられない。逃げたくない。捕まえて。わたしをもっと翻弄して。もっと愛して。わたしを欲しがって。
 どんどん欲深くなって、願いが強くなる。

「ほんとうになるのは、僕が初めて? きみのこの姿を見たのは僕だけ?」

 乳首をいやらしく扱く指に力が込められ、胸先から身体を巡る快感が下腹部をより熱くする。擦り合わせていた太腿は、ヴァレリーが足で開いてしまって、わたしの秘所は勝手にひくんひくん蠢き、腰を浮かしてしまう。

「ほ、んとう、に……、ヴァル、だけ……ぁ、ぁ──ああっ!」

 ギュッと強く乳首をひねられて、ヴァレリーがわたしの首筋に食らいついた。その瞬間、瞼の裏がチカチカ光り、急に浮上させる。
 快感が、わたしをおかしくさせている。これ以上されたら狂ってしまう。でも、やめてほしくない。

「は、……ぁあ……イイっ。ヴァル。……はぁっ。わたし、へんなの」

「ディケーは変じゃないよ。淫らでセクシーだ」

「やめて……。わたし、こんな……、ちがうの」

 彼の手が、腹を下り、腰と太腿を丁寧に撫でる。その先にある行為へわたしの期待が高まる。



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