年下の彼は性格が悪い

なかむ楽

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8、番外編(年齢、時列ばらばら)

8-7-08.八千代19歳、菊華25歳─冬・終

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⑧【抱擁─愛しくて】 
 
 
 身体をおざなりに拭いたふたりは、場所をベッドに変えて絡み合う。
 八千代の素肌のぬくもりに、菊華の心は安らぎとときめきが綯交ぜになったもの――心地よさに支配された。
 
 胸元も乳房も八千代がいいように愛撫する。足りなかったものが満たされていくのを、菊華は声を抑えずに悦んだ。
 八千代がコンドームの袋を持ったのが見えた。ふわふわの酩酊感の中、菊華はこくりと頷いた。
 
「やっくん……。いいよ、着けなくても」
 
 ふわふわ菊華が微笑むと、八千代は眉を上げた。少し考えた様子からすぐにニヤリ意地悪げに笑った。
 
「たいへん魅力的なお誘いだけど、近い将来、嫌ってほどしてやるからいいよ。菊華がピルを今すぐやめて妊娠出来るのなら着けない」
「へ?」
 
 なるほど、それでさっき『ぬか喜び』って言ったんだ。
 菊華は嬉しくてへにゃりと笑う。
 
「私とやっくんは、年齢の壁みたいなのがあったでしょう? 今もあるし、これからも年齢の差はなくならないよね」
「うん」
「留学で距離も隔てられちゃって。ネット越しにやっくんと時間を過ごして……。考えたの」
「隔てられたくない?」
「うん。もっともっと近くでやっくんと……その……一緒にいたいなって。……だからね、そのままのやっくんの体温がほしいの」
 
 八千代が持っていたゴムのパッケージを菊華が手にした。そして、首に腕を絡め引き寄せてキスを軽くした。
 
「私の切なさを……やっくんでなくして? それとも、こんな風に言っちゃダメだっかな?」
 
 妊娠はしないにせよ、コンドームをつけないでしようと女から誘うなんて幻滅されて当然だろう。けれど、いつかは……いや、近い将来、確実にそうするから。
 ――やっくんのなにもかもほしいの。
 
「菊華。きっと優しくできない」
 
 少しだけ困った表情の八千代は、菊華を押し倒してクスリと笑う。
 
「嫌ってほどなくしてやるよ」
 
 くちづけられた菊華は、うんと返事をした。
 
 
 
「っ……あ」

 ぐずぐずの秘所の中心に八千代の熱を感じると、新しく愛液が溢れた。

「は……ぁ、んんぅ」

 熱くて固い熱の、先が入ってきたかと歓喜したのに、奥に来てくれない。浅いところもゾクゾクとしていいのだけれど、余すところなく埋めてほしくて焦れてしまう。
 腰が勝手にくねり出してねだっているのに、八千代は浅い場所を刺激するだけ。
 
「ね……。やっくん。もっと……」
「なに? きちんと言えよ」
 
 意地悪そうに笑う八千代と目が合うと、身体中を蝕んでいた甘い痺れがねじ切れたように暴れだした。
 
「あ……。お、おく。おくが、いいの。お願い。やっくん、もっとして? もっと突いて……」

 ずっと我慢してきた状況だからか、羞恥の欠片も情緒もない。だけど、偽るのこそ、悦楽の虜になっている今の菊華にはできなかった。

「素直でエロかわいい。菊華」
 
 確かな質量がゆっくり入ってくると、圧迫感で苦しいのにキュンとするのがとめられない。声を長く吐きながら小刻みに震えた。
 
「あ、ああぁ……――――っ」
 
 仰け反る菊華の首筋を八千代がくちづけた。どんな小さな触れ合いでも快感にすり替えてしまうと、なかで脈打つ八千代の一部をリアルに感じてしまう。
 狂おしいほど気持ちが昂るのは、なにも隔てていないからか。
 
「そんなに奥がいいんだ」
 
 熱い塊にぐりぐり奥を穿たれると、内側が喜悦で戦慄き、足の先まで力が入ってしまう。
 
「ん、……んんっ。い、いいよぅ。やっくん……。や……くん」
 
 ようやく繋がった。
 初めての時よりもそう思えるのは、八千代のぬくもりが恋しいからほかない。
 足を肩に担がれただけ、八千代がぐいぐい近くに来ている。望んだ場所がみっちり満たされて歓喜の涙が零れた。
 
「すき……。やっくん……すきよ。はな、さない、で」
 
 折り畳まれた姿勢は苦しいのに、快楽が勝っている。いや、もっと近くに来てほしい気持ちが強いのだ。
 おくに熱を刻むよう擦りつけられ、菊華は喘ぎ泣いた。
 
「もう、絶対に、離さない」
 
 くちづけられ舌を絡ませ合う。身体が離れてしまう限界が近くて、菊華の目の前はちかちかしてきた。
 
「い、いっちゃ……っ」
 
 考えるのも言葉を発するのも難しい。
 八千代がいっそう突き上げてくる。彼も限界が近いのだ。
 
「ん……。菊華。なかに……」
「やっくん、やっくんっ。だして。なか、に。いっぱいにして……!」
 
 ぎゅっと抱きしめられ、なにもかもが収縮した。膣内の熱が更なる絶頂をさせるように穿つ。
 歓喜の声をあげた菊華に、八千代は低く唸った。同時に身体の奥にだくだくと熱が注がれた。待ち侘びていたそれは、今まで体験したことのない恍惚を菊華に与えた。
 
「菊華」
「……んぅ」
 
 満足気な息を吐いた八千代が倒れ込んできた。その重みすら擽ったくて愛おしい。
 
「愛してる」
 
 掠れた声と額の汗を拭ってくれる優しい手に、菊華はうっとりと目を閉じた。
 
 
  □
 
 

 翌朝。バターの香ばしい匂いに誘われるように、菊華は目を覚ました。隣に八千代がいないのが残念だなぁ、なんて思いながら、あちこち軋む身体を伸ばした。
 
 この匂いはオムレツかな。チーズがたくさん入ってるといいな。
 
 菊華が教えた八千代のふわとろオムレツは、菊華が作ったのよりもとても美味しいのだ。
 涼やかなベランダで、美味しいオムレツをふたりで食べられたらきっと素敵だ。そう思って、ベッドから降りた。
 ぶかぶかの八千代のTシャツしか着ていないのに気づいた菊華は、ちょっと恥ずかしいな、なんて笑った。
 その後で大変恥ずかしいことが菊華に起こった。
 
「や、やだ……!」
 
 慌てていると、静かにドアが開き、Tシャツとハーフパンツ姿の八千代が顔を出した。
 
「起きたんだ。菊華……?」
 
 八千代は首を捻った。起きがけの菊華が真っ赤な顔で座り込んでいるのだ。
 
「ややややっくん……!」
「おはよ」
 
 背中に八千代がのしかかった。重みは嬉しいのだけど、今はありがたくない。
 
「やだー。やっくん離れて!」
「なにかあった?」
「なんにもないからっ! なんでもないの!」
「そう? じゃあ、立てよ。朝ごはん、できてるよ」
「後で行くから……! きゃーっ! 立たせないでぇっ!」
 
 脇に手を入れられ、無理やり立たされてしまった。泣きたいぐらい恥ずかしくて、オタオタしながら太腿を隠そうとした。
 しかし、遅かったようだ。八千代はノーリアクションだが、菊華が必死に押さえている場所を見ている。
 死ぬほど恥ずかしい。消えてしまいたい。
 
「…………見てないよね?」
「……見た」
 
 菊華は叫びたかった。
 だって、昨夜の残りが零れて太腿を濡らすなんて思っていなかったのだ。
 しっかり混ざった粘度が低いそれは、経血のように足を伝う。しゃがんだのも悪かったのだろう。
 
「もう……。やっくん、あっちいって……」
 
 俯いて消えてしまいそうな声で言ったのに、八千代は肩を抱きしめて首筋に軽くキスを繰り返してきた。
 ――なぜ!?
 
「やばい」
「……だからっ。だから……え?」
 
 八千代の手がTシャツを捲り、素肌を擽る。その行動に菊華は目を白黒させた。
 
「今日の予定は午後からでいいよな」
「なんで……あっ、やん。コアラ抱っこしよう? それからクルージング……んん」
 
 見上げた八千代からキスの雨。嬉しいけれど、シャワーを浴びたい。
 
「コアラよりも菊華がいい」
 
 逆戻りしてベッドに押し倒されてしまった。
 
「えっと、ほら! やっくんの朝ごはんが冷めちゃう! 私お腹が減ったなぁ」
「ブランチ、食べさせてやるよ」
「ちがうちがう! 朝ごはんんん……」
 
 キスで口を塞がれてしまえば、菊華は簡単に八千代を受け入れてしまう。
 だけど、どうして朝から八千代がこうなってしまったのかわからない菊華だった。
 
 
 
 

おわり。
 
 
 
 


 
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 After.年下の彼は少し悩む
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そんなわけで菊華のオーストラリア旅行は、マリンスポーツのない味気ないものだった。だけど、コアラも抱っこして、ホエールウォッチングもして、イルカも土蛍もふたりで見られた。時間がぎゅっと濃縮したように思えたのも、いい思い出になった。


帰国後すぐに生理になってしまった菊華は、ソファに寝転んで不貞腐れていた。週末は日帰りで温泉に行く予定だったのだ。

「水辺に縁がない……」

ジンジャーティーをテーブルに置いた八千代がソファに腰を下ろし、菊華を抱き寄せた。

「身体を冷やすなってことだろ?」
「まあ、そうなのかも……」
「頭やお腹は痛くない?」
「ありがとう。薬のおかげで平気だよ」
「ち」
「え? ……舌打ち?」
「なんでもない。……周期的にオーストラリアでなると思ってた」
「ん?」
「…………」
「どういうことかな?」

これだけ一緒にいるのだから、生理周期を知られているだろうと、前々から菊華でも気づいていたが、どういう意味なのか。
八千代は菊華の肩に額を乗せてスリスリし始めた。

「……さあ?」

できれば漢方薬に戻してほしい――なんて勝手に八千代は思っている。
というのも、ボクサーパンツではなくトランクスなのも、生理周期の把握も、近い将来への布石なのだ。けど、こんなわかりにくい妊活など菊華が知る由もないから、ピルを服用している。

どうやって重たい愛のアピールをしてやろうか――。ほんの少しだけ悩む八千代だった。

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