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7-14.春ですね ①
しおりを挟む.˚⊹⁺‧┈┈┈‧⁺ ⊹˚.
冬コミが終わり、無事に家族で年越しをして、松の内まで家族でまったりすごす。もちろん、自作の高額転売は運営通報をしてちみちみぷちぷち潰しながら。
冬休みが終われば通販組対応がある。自家通販はしないで倉庫サービスを使っている。ジャンル縮小のため壁サーから外れているもの、お誕生日席は伊達じゃない。冬コミは〈トリガーロック〉団長×騎士隊長で出た。その席で、来年は待ちに待った〈メリィGOラウンド〉のアニメ化があるからと、〈メリィGOラウンド〉プチオンリー委託の薄い本だけでなく、書き下ろしオンデマンド本を突発で作って配布した。ジェイ×タロウはほぼ公式カップリングというか、もう実質夫婦のためかコミケ開始後二時間で売り切れてしまった。恐るべし、アニメ化効果。島は別だったのに。〈トリガーロック〉の薄くてアツい本も完売。買い物を頼んだ七瀬が無事に全制覇してくれた。神か。天使か。
来月の〈メリィGOラウンド〉のイベチケ当選もしたし、仰げば尊死している場合ではない。生きろ、そなたはオタクらしい。
(個人サイト時代の〈メリラ〉の作品、Elephantにあげ直そぉ)
Elephantというのは、大手投稿サイトである。一次創作よりも二次創作が強いので、ほとんどのオタクはElephantと他のサイトを併用している。Elephantでイベントお品書きを流すか流さないかで頒布数も変わってくる。ちなみに、〈メリラ〉は〈メリィGOラウンド〉の公式の略称である。
過去作をサルベージしつつ、読み返した作品はどれも若気の至りと勢いしかない。誤字もあった。なんなら、書き直したいくらいだった。
(は! ず! か! し! い! なぁ!! 死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!!! オーバーキル!! ヒィン!!)
立ち上げたテキストを顔を隠して指のあいだから読む。
〈メリィGOラウンド〉。原作は小説で文庫十二作で完結してしまった。メディアミックスするかと思ったら、コミカライズの人気が出なくて中途半端に終わってしまった。掲載誌と層が合わなかったのだろうと言われているし、当時新人だったコミカライズ担当マンガ家の筆力がなかったと言われていた。が、コミカライズを手がけたたマンガ家は今では人気マンガ家のひとりだ。
初めから上手にできる人間は稀有だ。鳥だって羽ばたくのを練習するし、人間だって初めはよちよち歩きだ。
創作は、植物に似ていると彩葉は思う。人間全員に種がある。それをどこに埋めてどう成長していくのか、どんな花を咲かせたいのか。また、花じゃなくて草かもしれないし、裸子植物、被子植物と違うように文系理系体育会系のように違った分野で芽吹くかもしれない。大樹や長寿に育つのは植物も一部だけ。才能もそう。
そして、好きなものを広げるように新たな種を作り、根や枝葉を広げる。
(あたしはタンポポかな。ななくんは人を支えるのが得意だから、藤の花? ……青い花がいいんだけどな。イメージカラー青だし? 舜太郎くんは……ファンタジー世界にありそうな、樹……ううん、月桂樹、かな。アポロンの逸話思い出しちゃうけど。月桂樹に寄り添える人かぁ。どんな花なら似合うのかな)
「はゎっ! こんな時間! アニメのPV第一弾の時間だ!」
リアタイでハッシュタグをつけつつ、動画の方にもコメントをするため、スマホとタブレットPC、パソコンのふたつの画面をつけてすでに待機している。
今回のアニメを手がける制作スタジオは、『動きのデリンジャー』と言われるハイセンスなアニメスタジオ『スタジオ・デリンジャー』。キャラクターデザインもスタイリッシュで有名な人気マンガ家。監督もその他スタッフ、音監も有名どころからネットで活躍する新人が揃えられた。
まだOPとEDと声優の発表はされていないが、ドラマCD版キャストではないだろうと予測されていて、界隈では日々レスバトルされている。
旧声優もいいが彼らはもう初老だ。新しい風や新しいファンが語り継いでくれるために、総入れ替えでいいと彩葉は思う。思い入れもたくさんあるけれど、アニメ版はアニメ版だと割り切って新規ファンと楽しんだほうが絶対に得だし、心が豊かになる。
そう、作品は作者のものだが、ファンのものでもある。ファンが楽しまず誰が得をするというのか! 全オタクよ、得をして徳を積むのだ!
そして始まったPV第一弾。発表された声優の名前とともにOPソングが流れ、OPと第一話の見所がミックスされた、たったの二分弱。彩葉の世界が〈メリィGOラウンド〉一色になる。
「ぎゃー! う! ご! い! て! る! ジェイの声優さん、真知近さんじゃん! 合う合う~。えすっぽいところがグッ! タロウは美弥くんだ~!! どちゃくそイメージですわ。ワンコっぽい~。かわいいー! えー、部長、牧夫だぁ! すごーい! はわー! キャストも豪華すぎて昇天する……。はぁ……生きててよかった……」
根強い人気のある原作ラノベ小説〈メリィGOラウンド〉。ふらっと寄ったアニメショップの小説コーナーに平積みされていた一冊を手に取り、運命の歯車が回った。
二次創作というものは高校の時にクラスメイトに教えてもらったが、書いてみよう、書いてみたいと思ったのは、〈メリィGOラウンド〉が初めてだった。
単身アメリカ暮らしをしている時も〈メリィGOラウンド〉の原作とElephantにアップされていた数少ない二次創作が寂しさを紛らわせてくれて、萌える心をくれた。
個人サイトの時代ではなくなり、原作が終了して久しい〈メリィGOラウンド〉の人気も下火になってしまった。そもそも小説原作というジャンルはマンガやゲームに比べれば、ファンが少ない。伝説級の小説なら話は別だが。
有志が毎年〈メリィGOラウンド〉の初刊行月の九月に少ない販売スペースのプチオンリーを開催し続けてくれている。そこで同士たちが語り合い、戦争をする。クラスタがあるし、逆カプ反対過激派、ニッチカップリングなどあるから、みんながみんな仲良しではない。
それに、学校じゃあるまい、作品が好きだからみんな一緒に仲良くしましょ、は、ありえないと彩葉は思う。
人間だもの、合う合わないがある。
二次創作をとおして様々な出会いと別れがあった。
(個人サイト時代、初めて感想もらって嬉しくって感想を読み返してはニチャァニチャァしたなぁ。長文感想くれた人もいたっけ)
〈メリーGOラウンド〉は好きだ。ずっと好きでい続けているけど、その後に〈猟犬の輪舞曲〉に移り、ふらふらとジャンルを渡り〈トリガーロック〉で活動すること四年。同人をするようになって十四年。来年は〈メリィGOラウンド〉十五周年。
(いいことばっかりじゃなかったけれど、書いてアップするのが素直に楽しかった)
帰国してからリアルイベントに初サークル参加したのも〈メリィGOラウンド〉だった。
(その頃から島は小さくなってたし、ジェイ×タロウも少なくて)
タロウは熱血ワンコ主人公で、ジェイはクールな天才肌だった。他にも魅力的なキャラが多い作品で、いろんなカップリングもあった。彩葉はジェイ×タロウだが、逆カプもおいしく読める。
(クール×ワンコってその頃から好きだったんだ。矯正できない嗜好はまさしく性癖だわ。生まれ持ったものだわ)
──思えば。好きなアニメやマンガでどハマりするタイプの傾向はクール×ワンコである。幼少期にケーブルテレビで見ていたアニメのせいのような気がする。
「アー! アーッ! もー! 第一弾のPV最ッ高ゥ!! 寝室のプロジェクタでも何回も観ようっと!」
懐かしい言葉で、床上ローリングというものがある。まさしくその状態だ。いや、甘える犬のようにゴロゴロ~! と狭い自室を転がっている。
「ふぅ。SNSも投稿したし、レスはあとで返すとして」
マウスを動かして、文書ファイルを再度開く。
(過去作……恥ずかしいところが多々あるけれど、このときにしか書けない話なんだよね。恥ずかしいけど、自作おもしろい。なんたって自分に刺さるように書いてるのが素晴らしいわ。過去のあたし、えらいよ!)
二次創作を読んでくれた人たちがネットの世界の向こうにいる。ひとりじゃない。続けられてきたのは、その人たちや仲間のおかげでもある。
感謝ァ! と、手を合わせる。
「よし! このまま……誤字だけ直してアップしよー!」
(何人読んだやイイネ、感想は期待しない。今だって、『トリロ』で反応もらってんだもん。……そうだ! アニメ化カウントダウンSS買いちゃおっかな! あたしが盛り上がるためにやろうかな? かな? それともハッシュタグ作ってフォロワーさん巻き込んじゃう? そうしたらフォロワーさんの作品も読めて一石二鳥じゃん?)
大好きだった作品。今でも大好きで原点だ。読み返せば読み返すほど、大好きが溢れてくる。
(ななくんみたい)
結婚する前、偶然巡り会うたびに七瀬を思った。そばにいるのになんの恋愛アクションをしない七瀬だったけれど。付き合うようになって彼なりの好意が見えてくると、もっと好きになった。
他愛もないことでケンカして、泣いて、笑って。夫婦になって、舞衣がいても変わらずに愛を向けてくれる。家族になったことで、家族としても愛してくれている。今だって妻として、ひとりの女として愛してくれている。もちろん、彩葉も同じだ。
月日を重ねても、七瀬の新しさや変わらないところを見つけると愛しくて、優しい気持ちになれる。
「あたしって恵まれてるゥ」
いつもかっこよくて優しい、オタクな夫。スーツ姿も似合うし、普段着(彩葉のイメージで選んでいる)もかっこいい。そして、可愛らしくてちょっとワガママだけど誰よりも思いやり深い娘。
埼玉の両親は、七瀬の両親の分も舞衣を可愛がってくれる。後見人だった岑夫のところに行けば、舞衣はちょっとお淑やかになる。それに、七瀬の養祖父母たちは、曾孫だと言ってそれはもう舞衣も愛してくれるし、嫁だと彩葉も可愛がってくれる。
七瀬が彩葉の両親を敬い、岑夫を尊敬し、養祖父母を愛しているから、家族の輪が広がっているのだ。
「ちょースパダリと結婚できた強運の持ち主でよかったわい。ななくんが宇宙一尊いからだよね」
キーボードを叩いて、頭の中にある創作メモを作っていく。シチュエーション、セリフ。タロウならこう言う、ジェイならこう返す。そのうちに夢中になって、頭の中で彼らが動き出す。PVを観たことで、解像度が上がっている。
(やっぱ、二次創作ってやめられまへんなぁ。ぐひひ)
休憩にSNSを覗いて、〈メリィGOラウンド〉のハッシュタグを眺めてはニヤニヤする。こんなにも〈メリィGOラウンド〉が好きな人がいる。なんて心強いんだろう。
(来月のイベ、なに着てこ~)
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