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9-17.広まった大好きの輪。〈終〉
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『ヤバい。イロ。助けて』
ヘルプコールがスマホに届く。
「なになに? トラブル?」
『舜太郎が婚姻届を取りに行った』
「ほぉぉ。本気を見せつけるんだ。やるねぇ」
『違うんだ。あいつ、昨日、パン屋の君にプロポーズしたんだよ』
「はぇ~? たまげたなぁ~」
『書類揃えろってさ、揃えられるだけ揃えて、今日持ってったらさ』
「ふむふむ」
『たった今入籍した』
「えー! えー! どゆことどゆこと? なんてトンデモ恋愛ノベル? 付き合ってなかったよね? は? よく相手の……パン屋の君も結婚したねぇ。押しに弱いのかな?」
『しっかりしたお嬢さんだよ。俺らオタクとは層が違う感じ。陽キャ体育会系タイプ』
「はぁ……。なんか、ええ? 反応に困って逆に反応薄くなるわぁ」
という、電撃ニュースを超えて。
お互いの忙しさが抜けたゴールデンウィーク。その一日だけ舞衣が埼玉の祖父母に連れられてランドシーに行くので、せっかくなのでしっぽり鎌倉デートに。横浜や中華街もいいが、密に蜜にすごしたくて、ラグジュアリーホテルに篭って一泊子作りの一泊だ。
ちょっと贅沢をして、全室スイートのホテルに。キャンセルがあったため、幸運にも予約が取れた。サービスが隅々まで行き届いていて、気分はお姫さまだ。
窓に広がる相模のきらめく海景色を見ながら、七瀬に抱き寄せられ、キスをする。
「イロ。」
「うん。ここのところお互い忙しかったからえっち三昧ですごそうね♡」
お互い忙しくてここのところ、彩葉は七瀬不足だった。舜太郎のフレッシュな恋愛の話を耳にしているせいか、ちょびっと羨ましいのもある。
「イロの満漢全席」
「ななくんパラダイス~。ね、夕食までのあいだ、お風呂で、して?」
.˚⊹⁺‧┈┈┈‧⁺ ⊹˚.
さて。
舜太郎がパン屋の君こと、藍と結婚してから君島夫婦にはいい事づくめだった。七瀬の仕事が減ったので、帰宅が早い。
なんと、毎週一度、七瀬の平日休暇が追加された。舞衣を保育園に送りに行って、お迎えの時間になるまで、デートをしたり、子作りに励んだりしていた。
(いやぁ、舜太郎くんって恵まれてんわ~。藍さんさまさまです)
五月の下旬頃に新婚さん・湖月夫婦と一緒に食事会をした。
初々しい新婚ふたりの距離感は恋人未満。ちょっと手が重なった程度で真っ赤になっている。中高生か? 羨ましいな! と思う彩葉だった。
不思議人間・舜太郎が惚れて、交際期間なく結婚を許した懐深き新妻・藍は、話に聞いていた以上の健康的美女。たしかに、歌劇の男役みたいな中性的な美を持っている。が、仕草は淑やかで女性的だ。
柔らかな茶髪のショートカットで、身長も高く、凛とした佇まい。黒髪ロング、低身長で根っからのオタクの彩葉とは対極にいる属性だった。
──が。
(ん? んん? あれ? あれあれあれ? 藍さんのリュックのチャーム。〈メリラ〉のジェイとタロウイメージのチャームじゃない?)
原作小説の完結五周年記念のときに、オトナ女子向けのブランドとコラボをしたイメージチャームが、オタクに見えない健康的美女のリュックについている。
これは、一体……。まさかのまさか?
(同士? 同士? だって、ジェイとタロウのチャームつけてんだよ? 逆カプ過激派だったらどうしよう!)
と心配していたが。
後日。湖月邸に遊びに行った彩葉は、それとなく話題をふった。「アニメ観てます?」みたいなのから始まり「今期アニメの〈メリィGOラウンド〉おもしろいですよね?」的な。
「実は、わたし、〈メリィGOラウンド〉大好きなんですっ。原作小説からずっと好きで。アニメ化も楽しみにしていたんです」
「マジっすか! え? タロウとジェイ、どっちが好き? それとも、博士?」
こんな話から展開した会話は、同カプだったところで盛り上がりの頂点を迎えた。
やった! リアル同士ゲットだぜ!
そして、ドキドキしながら交換したSNSのアカウント。「きゃぁぁぁっ!」歓喜の叫び声をあげたのは藍だった。なにかマズったのだろうか? にしては、歓喜している。
藍は泣きながら「神がいた……」と、呟く。すでに彩葉のSNSアカウントをフォローしていたようだ。
それから、彩葉が書いた二次創作の感想を熱く語り始めた。リアルで熱量のある感想を聞くのは面映ゆいを通り越して、嬉し恥ずかし、だ。
「好きです。ずっと、ずっと、カワパヤ先生の作品に元気づけられて生きてました」
「いや、その。しまいきれない愛を二次創作にしただけの、自慰っすから。あと、先生ってつけるの勘弁してくださひ……」
面と向かって好きだと、大賛辞を並べられると照れて困ってしまう。イベントでもファンの人とはあまり言葉が交わせないから、SNSで付き合いの長い書き(描き)手同士で、キャッキャしているほうが多く、長かった。
新鮮だ。
湖月藍。意外性のあるおもしれー女だ。
「藍さんみたいに、読んでくれて、感想もくれる人の存在って、ものすごく大切なんですよね。なんというか、創作はひとりでできるけど、栄養になるっていうか」
「はぁ、謙虚。……はぁ。どうしよう。ほんとにカワパヤさんがいた。しかも目の前に。……嬉しい。夢じゃないですよね?」
「なにも、泣かなくても」
隠れオタクだった藍と原作を語り合い、彩葉が持っていた旧キャストのドラマCDの鑑賞会もふたりでした。カラオケにも行き、お互いのジェイ×タロウのイメージソングを歌った。作品のイメージソングはまさかの一致。奇跡を飛び越えてしまった。
藍が「カワパヤさん」「彩葉さん」と懐いてくれたのも、彩葉は素直に嬉しかった。ちなみに、藍のSNSネームは「ネイビー」だ。なので、オタク会話をするときは「ネイちゃん」と呼んでいる。
短時間で心の友、心友になってしまった。藍が人懐っこいというか、人好きするタイプなのもあるし、趣味が合うのが一番の理由だ。
そんな妻たちの事情を知らない夫たちは、少し首を傾げていた。とくに舜太郎が不思議がっていたのがおもしろかったので、隠れオタクは今しばらく妻たちだけの秘密だ。
笑ってすごすことが多かった六月のある日。生理が来なかった。喜び勇んで妊娠検査薬を買いに行き、テストした。
その夜に舞衣が寝てから、七瀬と一緒のベッドで耳打ちする。
「ななくん。舞衣、お姉さんになるかもだよ?」
七瀬はメガネの奥の目を大きくさせて驚いてから、きらきらと瞳を輝かす。
「マジすか。やった! イロ! よかった! リアル推しが増える!」
「んふふふ。夏コミに合わせて言おうかと悩んだんだけどさ。やっぱ、嬉しすぎたので打ち明けちゃいました、テヘ☆」
「彩葉さん、ゴッドオブゴッド。天使中の天使。受胎告知ありがとう」
ぎゅっと抱きしめてくれると、エアコンの設定温度を間違えたのではないかと、暑くなる。
「ね、しません?」
「りょーかい。明日も仕事だから一回だけ。病院はいつ行く?」
さっそくソファに押し倒されて、笑いながらキスを繰り返す。
「んだねぇ。明日は休診日だから、明後日かな」
「俺も休むよ。舞衣にお子様プレートを作る仕込みする。んで、病院帰りの奥さんにも仕込む」
「あらやだ、お盛んですこと。もう代々受け継がれた秘伝のタレは仕込まれてますよ?」
「職人の仕事は最後まで入念なんです」
「そうだね。入稿前もイベ前も準備に準備を重ねて入念なチェックするし」
「責了しますね」
「ふはははっ。ななくん、えっちする気ないでしょっ。もうっ。笑えてしょうがないよ~」
舞衣には九月のプチオンリー後(舞衣にはオタ活を秘密にしている)に「お姉ちゃんになるんだよ」と打ち明けた。
ちょうど安定期なので、両親と七瀬の養祖父母、岑夫・亜里沙夫妻にも告げ、舜太郎・藍夫婦にも打ち明けるつもりだ。
「ほんと? ねっとぽちして、あかちゃんがとどくの?」
ねっとぽち、とは、ネットで買うことを舞衣なりに理解して使っている言葉だ。
「あー、ネットではお取り扱いないな~。ママのね、お腹にね、とっても小さい赤ちゃんがいるんだよ」
「そうなの?」
舞衣は大きな目をきょときょとさせて、まだぺたんこの彩葉のお腹を触る。七瀬も一緒に触り、愛娘の顔を優しく覗く。
「舞衣、子猫はママから生まれるって本で読んだよね?」
この日のために、七瀬があらかじめ絵本を読んでくれていた。舞衣が好きなファンタジー系の絵本じゃなかったのもあって、舞衣は忘れていたらしい。
「うん。あかちゃんは、ママのおっぱいのむの」
「そうそう」
「まいもあかちゃんにおっぱいあげれる?」
「うーん。それはいっぱい食べて、たくさん寝て、大人になってからね」
「はぁい!」
「そうなる前に婿になる男をぶっ殺しそう」と、夫が小声で呟いたので、気が早いなぁと、彩葉は声を上げて笑った。
家族揃って、七瀬が得意料理のハンバーグとコーンポタージュを作りながら、特大オムレツを器用に焼いている。彩葉は心友の直伝手捏ねパンをオーブンで焼く。
今日はバター香る特大とろとろオムレツがテーブルの真ん中に。ハンバークの隣には緑黄色野菜の温サラダ。気分に合わせて使えるように、ドレッシング、マヨネーズ、ポン酢、醤油など数種類並べる。
さっそくお姉さん気取りの舞衣がランチョンマットを敷いて、三人で食卓を囲む。
幸せな、幸せな、ひととき。
ひとり家族が増えても、きっと幸せが続く。七瀬が彩葉のそばにいてくれるから。
<了>
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