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1章.嘘つきたちの想い。

07.そいつはスパイダー

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「いつもはそんなこと言わないじゃん。濡らしてたほうが使いやすいでしょ?」
「それ、さっとき同じ言葉か?」
「さあ? ○やく○ンニャクがあればよかったね」

 20世紀を超え21世紀になっても、22世紀の便利で頼れるお友達はいない。
 便利な機能の棒と手はここにあるのだが、友達じゃなくてオナニーのオトモだ。

「もう濡れてんの?」
「……湿っているのが常の場所。梅雨の夏場所の大相撲さながら」
「なんで大相撲? じゃなくて、俺のしゃぶって濡らしたのかってきいてんの」
「……そーです。3週間ぶりにセキのをしゃぶって濡らしました。なんならアレも半勃ちしてるって自己申告しておきます」

 正直にいう。だって、お兄ちゃんじゃない。偽物だからなんでも言える。好きとか、愛してるとか、愛してって。だって、偽物だから。
 ここにいるはお兄ちゃんじゃない。

「じゃあ、触れないようにしといてあげる」

 しばらくもしないうちに、コード的ななにかで手首と足首と結ばれてしまった。右手首は右足首に、左手首は左足首に。なんというひどい仕打ちだ。

「膝も縛っちゃおうか?」
「そういうひどいのじゃないのがいい。乱暴的なやつ」

 セキは優しくしたいって言ったけど、じゃんけんでこの時間を制しているのはわたしだ。王権を持っているのはわたしである。

「ビンタとか?」
「そんなのじゃなくて」
「SMごっこも暴力もいやなのに酷くされたいの?」
「うん。いつもより物みたいに扱って」
「そうしながら愛を囁くのって難易度高いよ」

 本物から愛は囁かれない。だから、偽物に囁いてもらう。そうやって空洞を虚しさでいっぱいにする。心の傷を広げて保って、痛い痛いって転げ回りたい。

の自傷に付き合えないんだけどな」

 それはセキの発音だった。
 セキに自傷だって言われ、心の端がふつりと泡立つ。

「は? なにいってんの?」
「だってそうでしょ。きゆは精神的にいつも傷ついていたいんだ。だから物みたいに扱われて捨てられたいんだよ。そうやって愛してほしいって無言で転げ回るんだ」

 カーッと怒りに似た感情がわく。
 自傷? そう思ってたの? 見透かされていたの? セキも同じじゃないの?
 わたしたちは癒すために傷を舐め合うのではなく、傷を小さくしないようにしていたのではないのか?

「セキのままで言わないでよ」
じゃなくて悪かったね。俺はきゆの自傷が見ていられない。もう傷つかないでほしい」

 セキの手がわたしの胸を容赦なく掴む。痛みで小さく悲鳴をあげそうになったが、腹が立っているので奥歯を噛み締めて耐えた。
 ああ、ムカつくムカつく。腹が立つ。なんなら蹴飛ばしてやりたい。

「興ざめだよ。もうやめる! しない! はなせ、ばか!」

 わたしは手首を動かそうとするけれど、しっかり結ばれている足首がギリギリ痛くなる。

「きゆ、かわいいショーツ履いてるんだね。ガーリーテイストでフリフリだ」
「見るな、セキ! あんたに見せるもんじゃない!」
「もう見ちゃったよ。不思議の国のアリスのアリスが履いていそうなショーツだね。真ん中の色、濃い水色になっちゃってるのもかわいい」

 じたばた動くと余計にカットソーがめくれてしまう。だけど動かずにいられようか。

「動くとケガするよ」
「それならはずして」
「外さないよ。せっかく失恋したきゆを離すと思ってるの? この2年弱、ずっとこの時を待ってたんだよ」
「…………は?」

 せっかく失恋した? 待ってた?

「なにいってんの? セキはお兄ちゃんが好きだったんでしょ?」
「初めはね。譲だから好きになっただけで、男が好きなんじゃない。17年以上も譲に恋をした。けれど、たった数回きゆと肌を重ねて、鞍替えしたんだよ。
 俺はきゆがいい。きゆじゃなきゃ、だめなんだ」
「そんなこと、1回も言ってないじゃない」
「1度でもボロを出たら、きゆは俺から遠ざかるだろ? きみは愛してほしいと言うけれど、他人から愛を向けられるのを極端に嫌がる」

 その分析はわたしを怒りの頂点へ昇らせた。怒髪天だ。カッカッした頭皮からしゅうしゅうと湯気が出ていく。

「好きな人じゃなきゃ、誰だって他人の好意はいらないよ」
「普通はね。だけど、自分の世界にこもりがちのきゆは、より顕著だ。細心の注意をはらって、きゆを抱いていたんだよ。
 この2年弱で、今まで譲の代わりに付き合ったっていう男の痕をすべて俺が塗り替えたし、教えた。譲を想っていても俺が触れば反応する身体にしてあげたんだ」

 真っ暗な世界の中、セキがわたしの耳元でいう。ほんの少し上擦って掠れた声は愛でも囁いているよう。
 晒した濡れた場所は空気で冷える前に、セキの熱を押し付けられて熱くなる。ぐりぐりと押し付けられる硬く逞しいソレ。わたしの身体は意に反してほしがって、ヒクヒクと動いては飢えたヨダレをたらたら零す。

「ちょっと動きにくいな」
「はなせ、やめ……、きゃっ」

 尻を持ち上げられた浮遊感は少しだけ。降ろされた場所はアイマスクをしていたってわかる。セキの股ぐらだ。
 足首をバタバタさせてもどうにもならない。
 お兄ちゃんの匂いがするセキの首元を噛みついてやろうかと口を大きく開けた。が、それはセキの口におおわれて、舌をねじ込まれて、セキの体温と唾液でいっぱいになってしまった。



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