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1章.嘘つきたちの想い。

10.代替のカミサマ

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  ✰⋆。:゜・*☽:゜・⋆。



 1度射精したセキは、ガチガチになるのは早いけれど、2射目はなかなか出さない。

 おしっこを漏らしてびしょ濡れになったベッドで、わたしは伏せられ、後ろから挿れられた。もちろん、縛られたままの不自由で卑猥なかっこうだ。人類なのに隠すべきところを惜しげもなく晒している。
 セキの卑猥な反り具合は、膣壁をどうしようもなく気持ちよく抉る。そうしながら彼の骨ばった指は後ろの穴をくちゃくちゃに刺激してくる。もう片方の手の指が充血してえらいことになっているクリをさすって扱く。
 セキはずいぶん器用で、余裕がある。
 わたしは人語を忘れ、はひはひ喘いでいる。さよなら、現生人類。


そして。
 以後を明瞭に覚えていない。
 なにをされたか、なにをしたか。
 しっかり覚えているのは、三点同時攻めセックスをしたという事実。いや、この場合は三点同時受けセックスなのか? 否、どうでもいい。
 わたしはお兄ちゃんじゃなくて、セキとセックスをした。わたしのことを好きだと、愛していると抜かすセキと。好き勝手にされて。



 翌日はダルかった。だけど、午前と午後に外せない単位の授業があったから、這うようにして大学へ行った。腰も排泄器官も痛かった。


 午後の講義までゼミ室のいつもの席に着き、机に突っ伏していると、

「キューちゃん、カゼかね? すこぶるダルそうだよ」

 在学7年だか8年目だかのゼミのヌシ、不破さんがわたしの顔を覗いた。不破さんはシャーマンの家系の濃ゆい顔をした縄文系美女だ。わたしとは違い、目鼻立ちがはっきりしていて芸能人顔負けだが、お釣りが来るほど変人だ。
 しかし、変人だとて、未明まで続いた後輩の変態プレイなど聞かされたくないであろう。思慮深いわたしは、ゲンドウポーズで「生理前かも」とちっぽけな嘘をついた。

「それはよくないね。邪眼に魅入られたのかい?」

 邪眼という世界共通の悪いモノ、悪霊。日本でも邪眼を避けるために、軒下に目の粗い竹編みのカゴを下げる地方もある。
 という、誰が得するのかわからない知識がついてしまうのが、文化人類学・猪沢ゼミの良きところでもあり、残念なところだが、わたしは気に入っている。

 不破さんは紅茶にしょうがの砂糖漬けを入れてくれた。優しくされて、ちっぽけな嘘をついた胸がギシギシ軋む。
 やや異常なブラコンを演じていた嘘や、お兄ちゃんを好きなのに他の男に好きだって囁いた嘘に比べれば、こんなもの些細で塵芥なのに、だ。
 どうして今日はこんなに過敏なのだろう。

「ファルスでも持っとく? それともリンガ?」
「ぶふぉっ」

 ファルスは古代ローマの。リンガは古代インドの陽根的なシンボルのお守りだ。普段ならのらりくらりと笑ってかわせる下ネタは、今日のわたしにはダイレクトアタックだった。ジンジャーティーも勢いよく吹き出る。
 恐るべし、シャーマン一族。

「生娘でもあるまい」

 たとえ処女でなくとも、机に並べられた男性のシンボリックなお守りの数々に戸惑う。大小かたち材質、色艶さまざまな御物さまが雨の後の筍のごとく机の上ににょきにょきしている。

「これなんか新潟で買ってきた甲斐があったお守りだよ。見よ、この逞しき反り返り。これは愛知ので、こっちは岩手。それから岡山と島根のだ。このネックレスはローマ、インド、エジプト……それから」
「各地のご神体自慢、やめてくれます?」
「御珍宝さま、または御物と呼ばんかね。これらはありがたきものだよ?」
「そう呼ぶのは一部でしょう。ファルス・男根信仰は、いわゆる世界宗教の前では邪教です」

 なかには明らかにディルドもある。不破さんがなにゆえこんなにシンボル的なお守り持ってるのか理解できないし、理解してはいけない。
 不破さんを始め、ゼミに来る現役からOB・OGにいたるまで、不思議で奇抜な人が多い。ゼミ1年生のわたしがまともな人間に思えるくらい、みんなイカれているし、イカしている。

「あのね、キューちゃん。あらゆる神話は近世になって未開のものだと研究がなされ、現在は隠匿する必要がないの安全なモノガタリになりさがった。そのおかげで我々は世界各地の神話を知ることができる。けれどもね、その前から隠匿するものオカルトとして影や暗闇で連綿と受け継がれてきたのだよ」
「悪魔崇拝や錬金術師ですね」

 信仰の裏。縋りたいもの。困った時の神頼み。ご利益が細分化された異教の神にすら頼みたくなる困ったこと。
 古代の石板・文書や文献は、かたちを変えて魔術書や悪魔を呼び出す秘儀ために受け継がれてきた。こんにちヒエログリフや楔形文字が読めるのは、読めるように聖書や隠匿される物として文字が受け継がれてきたからだ。
 知識欲を満たすために。救われたいために。エロチシズム漂う絵画のインスピレーションとして。神ではない神を知る。信仰とは別のモチーフ。代替品、代理のカミサマ。

「そう。我々が神話や古代文字が読めるのは、そういった者がいたからだよ。文字を持たなかったフン族やそれ以前(中略)。王朝や民族が潰えた時、歴史は潰え風化していく。豊かで高度な文化は忘れ去られていき、統率や信者を得るために利用され(中略)。文字は一部の特権階級や高位に位置する信徒に受け継がれ民のほとんどは満足に教育を受けることなく文化の価値を知らずに生かされた。価値がわからなくなった歴史書は焼かれ、神殿は──……」

 不破さんが彼女なりの説を一方的にマシンガンのように繰り出した。腰と排泄器官を痛めているわたしは、いつものように逃げられずに相づちを適当に挟みながら聞いていた。

 よき後輩を演じているその実、別のことを考えていた。



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