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1章.嘘つきたちの想い。

09.裏切りを上回る

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「シャツも脱ぐよ。汗まみれだから」

 セキの匂いをお兄ちゃんのシャツに着けずにすんで、ホッとした──のもつかの間、ちょうどいい温度の固い肌が密着してきた。
 拘束されたままのわたしには拒絶することも拒否権もない。すでにメスと化しているので、セキの素肌が皮膚に擦れるだけで、ビクビクしてしまう。

「は……。きゆのぬくもり。やすらぐ……」

 あんたの股間はちっとも安らいでいないようですが? と言いたいが、あまりにもぎゅうぎゅう抱きしめられて、肺からは絞り出した息しか出てこない。拘束されていてタップすらできない。

「……くるし……、せき、くるしぃ」
「あ、その発音、すきだな」

 誰がいつ発音の話をした。だいたい、現在の日本人にセとスとラの発音は難しい。現代日本人は江戸の人間の発音すらできず、時代が下り平安奈良となれば聞き取ることすらほぼできないであろうといわれている。ふの発音は、ファフィフュフェフョとよりどりみどりだし、江戸っ子ならば訛ってヒとシは逆になる。
 こういう明日使えない知識を大学で得て、せっせと頭に入れている。
 というのは今、関係ない。
 大昔の発音ではなく、現在のわたしがどうなっているかが一大事ではないか。
 力を緩めたセキは非常に機嫌がいいのか、顔や身体のあちこちにキスを繰り返ししてくる。それはもう鳥のグルーミングように。

「精液、拭いてよ……」

 と言ったのを後悔した。そう、後に悔いると書いて後悔。
 セキがなにかで拭ってくれた。その布は……。

「まさか、お兄ちゃんのシーツ……?」
「そう。譲のシーツで俺の精液を拭いたよ」

 うっとりと微笑む。齢三十のセキは夢見る少年のように。もしくは満願成就したかのように。こちとら青ざめている。てやんでい。

「今すぐ洗ってきて!」
「だめ。今すぐは聞けないよ。きゆがおしっこ漏らしたら困るでしょ」
「漏らさない」
「ダイジョーブ。漏らさせてあげる。漏れた分、後ろの穴も俺でいっぱいにして満たしてあげるから、安心してね」
「……やだ」

 ふるふると頭を振る。それくらいがわたしにできる精一杯の反抗だ。後ろは満たすな。えらいことになる。死ぬ思いをしてしまう。排泄器官は正規な性器ではない。

「こう話してるだけできゆの中からいっぱい蜜が溢れてくるのにいやなの? 思い出して反応してるの、素直でかわいいよ」

 持ち上げられた胸にちゅっ、ちゅっ、と繰り返され、またちゅくちゅくと先っぽを吸われる。満たされたいお腹に熱がぐるぐる回って、あそこがじんじんと疼いて、入口がひくひくする。言葉が幼稚になってきた。本格的にヤバい。

「ああ、そうだ、きゆ」

 急に目の前が眩しくなった。
 彼の濡れた指がわたしに絶望を教えようとしている。
 ぷらんと下がったアイマスクの下。柔らかい色の髪と瞳のセキがいる。おいしそうにぺろぺろとわたしの胸を舐めている。

「挿れるからしっかり俺を見ていて」
「…………いれ、る?」

 尻をぐっと持ち上げられた。ひどく熱い先っぽが、わたしのグズグズを通り越した秘部に当てられ、肩が跳ねる。
 嫌悪。不安。苛立ち。裏切り。
 ネガティブな気持ちを上回る期待と悦びで、悶えるお腹の奥がひどくせつない。

「せき。やめてよ。アイマスク……して……。ん、ぅ……ふ」

 くぷり。ぬるぬるの中にはっきりとした自分とは別の熱を感じ、腰がぞわぞわする。やたら興奮して、熱も息も上がり汗が頬を伝う。
 待ち望んでいたソレ。もっと奥に、もっといいところに、来てほしいと勝手に身体の内側がねだってうごめく。

「3週間でこんなに狭くなるんだね。……は、キツ。きゆはつらくない?」

 熱くて太いソレにみちみちと拡げられる──のが、気持ちよすぎる。勝手にガクガク震えて、声が出ない。ヨダレ混じりのひいひいとした息しか出てこない。
 そんなみっともないわたしを見ているセキは、すこぶる機嫌がいい。その柔らかな色の目元が優しく綻ぶ。
 ────このふんわりとした笑顔。憎たらしい。

「抜いちゃおうか」

 慣らされていない場所を大きな引っ掛かりが出ていこうとして、口からヨダレとともにようやく声が出た。

「あ、アっ、ああ────ぃ…………ぁ……!」

 先っちょを抜かれた瞬間、わたしはセキの目を見ながらイッてしまった。
 これ以上はされたくない。やばい。本格的にマジでやばいって。わかってるのに、もっとほしい。しないで。して。
 セキでわたしを満たして。セキじゃなきゃ、埋まらない。満たされない。

挿入はいてないときにイッちゃうなんて、きゆは教え甲斐あるね。これからもっとイイコト教えてあげるよ。俺がね」

 震える膣内にぐぷっと、しっかりとした質量の熱い亀頭が容赦なく挿入はいってきた。絶頂している時に、浅い所を刺激しないで。もっとして。やめて。
 セキ。せき。せき。
 溺れちゃうよ。助けて。せき。

「せ、き。……あっ、あっ」
「絞めてないと漏れるよ、きゆ。ん?」

 柔らかい色の瞳。年齢より若く見える整った顔。柔らかい色の髪。それらが涙で滲んでいく。
 内壁を丹念に気持ちよぉく擦られて、身体から力が抜けていく。手足と節々は力が入っているのに。お腹だけ、ううん、お腹と頭がゆるゆるになる。

「おひ……、これちゃ、ぁあ、あ。やめ……ほん、とに……あ、くふっ。また、いく、いっちゃう」
「かわいいね、きゆ。すきなだけイッていいよ。たっぷりイかせてあげるからね」
「や……ぁ、せきぃ。やめ……ぇ、あ、あはっ」
「もっと俺の名前を呼んで、きゆ」
「も、わか……な……ぁ。せき。せき。もうだめ……、……ッ」

 膣の浅い場所を執拗に何度も擦られて、だけどお腹の奥もめちゃくちゃにしてほしくて、でもしてくれなくて、だけど、どうしようもなく気持ちよくて────。



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