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02 壊す勇気
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眼が覚めると、私は布団の中にいた。
おかしい、昨日の最後が思い出せない。
そんな風に、頭を捻りながら、いつもの様に道場の掃除をする。
いつもの日常が、今日も始まった。
世界が変わるその瞬間
02 壊す勇気
朝餉の支度をしていると、兄弟子の龍之介が珍しく起きて来た。
「お前、疲れてんなら、さっさと寝ろよ」
私は意味が分からず、首を傾げた。
「昨日、いつもの縁側で寝こけてただろ」
そう、昨日の最後の記憶が縁側だった。
だから、不思議に思っていたのだが、どうやら龍之介が運んでくれたらしい。
礼を言うと、
「……っ!!…んな、事より!!お前、軽すぎ!!ちゃんと飯食ってんだろうな!?」
何故か顔を真っ赤にさせ、怒られた。
確かに私の油断で、彼に手間を取らせてしまったが、そこまで怒られる事だっただろうか?
それに、一緒に朝昼晩と共に食事をしているのに、その言い方はなんだ?
私もつい、カッとなって言い返してしまった。
「あ、っそ!!じゃあ、今度変なトコで寝こけたって俺は知らねぇからな!」
と、いう事で、ちょっと喧嘩をしてしまった。
私は、朝餉の支度の続きをしながら、考えていた。
うーん、未熟にも程がある。
もう、私も龍之介も良い歳で、師範代にまで昇格し、今は教える側の立場。
尚且つ、門下生達の模範にならなければならないと言うのに…。
小さくため息をついた。
所を、配達に来てくれた八百屋の娘さんが見ていた。
「ごめんよ、ちょっと面白い事になってると思って、入るのを遠慮したんだ」
と笑いながら話す娘さんは、悪意しか感じられない。
残りの荷物を一緒に中に運び、お茶と昨日の茶菓子の残りを出した。
すると、珍しく父も顔を出した。
「おや、道場の親父さん!」
「今日は若いのじゃないんだな」
「ウチの腰やっちゃって」
と、豪快に笑う彼女を見て、私もつい釣られて笑ってしまった。
そういえば、と私に、女田楽師の一座の話を振った。
昨日はバタバタと、忙しく話していない事を言うと、彼女が
「明日、お兄さん借りて行っても良いかい?」
と、彼女が父に直接確認を取ってくれた。
父は、女田楽師の一座と聞き、少し顔を青くさせ…深く深く悩み、絞り出す様に
「………許可、……しよう」
そう言った。
何をそんなに悩む事があるのだろうか?
私は、少し体調悪そうな父を見ながら、昨日の異様な雰囲気の父を思い出した。
時間も時間だったので、娘さんは急いで帰り、私も朝餉の支度を急いだ。
朝餉も終わり、稽古も終わり、昼餉の用意をしていた。
「師範代、あの…?」
門下生の一人が話しかけてきた。
今は皆稽古中の筈だが、台所まで来るなんてどうかしたのだろうか?
「龍兄と、何かあったんですかい?」
龍兄とは、龍之介の愛称で、私と違って彼は人付き合いがとても上手い。
だから、皆から慕われ、龍兄と呼ばれている。
斯く言う私も、昔はそう呼び、彼を本当の兄の様に慕っていたのは事実だ。
「いやね、ちょっと…いや、物凄く…龍兄の機嫌が良くないんですよ」
何か知ってます?と聞かれたが、心当たりはあったので、頷いた。
何かと問われ、簡潔に口喧嘩をした。と答えると、門下生は笑った。
「なんでぃ、師範代と口喧嘩なだけですかい」
師範である父も調子が悪いのか、今回の稽古に顔を出していない。
今は龍之介一人で教えてる様なものだ。
「じゃ、大丈夫です」
戻ります。と言って、彼は道場に戻った。
確かに、龍之介と喧嘩をするのは、今回が初めてという訳ではい。
と言うか、昔は事ある毎に喧嘩していた記憶がある。
だが、どうやって仲直りしていたか…覚えていない。
確か…あの頃は、
――――― 「今日は二人の好きな出汁巻き卵よ。」
そんな母の一言で、私達は喧嘩をしている事も忘れて、一緒に食べた。
母の出汁巻き卵はとても柔らかく、程良い甘さが大好きだった。
少し考え、棚に卵がある事を確認すると、煮干しを取り出した。
そして、昼餉の時間
「お!師範代!今日は出汁巻き卵ですかい?」
「久しく食ってなかったからなぁー」
門下生達は嬉しそうに話しながら、席に着いていった。
「…………。」
龍之介はそれを見て立ち尽くしていた。
父が入ってきた。
その出汁巻き卵を見て、稽古にはとても厳しい父だが、懐かしむ様に顔を綻ばせ、
私の前を通り過ぎる時に、頭に手を置いた。
「お前達はまだまだ子供だな」
そう小さく笑うと、席に着いた。
どうやら見透かされていた、母もそれを分かって出汁巻き卵を作っていた様だった。
私は下を向いて、恥ずかしさを隠した。
全員が席に着き、父が箸をつけた後に私達も食べ始める。
食事を終えた皆は、父の食事が終わって立ち上がった時に一緒に立ち上がって
次の稽古の為に、食休みをする。
私は、食器などを片付けを始めた。
すると、今日は珍しく龍之介が手を貸してくれた。
「…母君の出汁巻き卵、食べているみたいだった」
恥ずかしそうに、俯き加減で話す龍之介を見ながら私は笑った。
龍之介もそれを見て、同じ様に笑う。
歳を重ねても、変わらないものと言うものは存在するのだなと、思った。
きっと、龍之介は私が女だと知っても、変わらず弟分として接してくれる。
そう思うと、私は嬉しくなった。
その日の昼稽古は、逗留組の門下生達は調子が良く、通い組達は不思議そうに見ていた。
斯く言う、龍之介も父も…そして私も、調子が良かった。
その日の夜は、母が植えていた花があった場所に水を撒いてみた。
もう、五年も経てば枯れて根などもなくなっているだろう。
分かってはいるが、何か母に感謝を伝えられないか、そう考えた結果だった。
何もない所に水を撒き、しゃがみ込んで少し母に話をしてみた。
昨日はあんな事があった。
今日はこんな事があった。
そして、明日はそんな事がある。
昔はよくそうして、その日の報告を母にしていた。
優しい膝の上で、母に頭を撫でられながら。
懐かしい思い出ばかりが思い出される。
「何の花だったか?」
龍之介が縁側から声をかけてきた。
忘れた。と答えると、龍之介は「薄情だなぁ」と笑う。
「ま、俺も憶えてはいないんだがな」
それでも、母が毎朝水を撒いていたのを憶えている。
そして、綺麗な花を咲かせていたのも憶えている。
だが、何の花だったかは憶えていない。
憶えているのは、咲いた花を優しく愛でる母の姿。
夏の暑い日でも、可憐に咲く花は、母によく似ていた。
「やっぱり、お前さんは母君に似てきたよ」
龍之介はそう呟くと、中に入って行った。
私はそれを見送り、空を見上げた。
月が丸い。だが、少し欠けている。
明日が満月だな、と思いながら、私は部屋へと戻った。
次の日の朝は、少し早めに目が覚めた。
道場の掃除や、洗濯をして、母の花に水を撒く。
母におはようございますと、声をかけながら。
そして、朝餉も稽古も、昼餉もあっという間に今日は過ぎた気がする。
八百屋の娘さん迎えに行き、女田楽師の一座の舞台へと足を運ぶ。
「いや~、楽しみだねぇ」
嬉しそうに話をする娘さん。
私もそれを見ながら、話を聞いていた。
「いやだよ~、そんな見ないどくれ!ウチのが霞んじまう!」
微笑ましいと思いながら見ていたのだけど、娘さんはよくコトリがする癖と同じ動きをしていた。
これは、娘子全体の癖なのか?
そんな事を思いながら、舞台が行われる場所へと向かった。
そこでは、酒屋の夫婦も来ていた。
「あんた、羨ましいねぇ!こんないい男引っ掛けて来てさ!」
「ウチのが、男を誘うなら道場の兄ちゃんじゃなきゃ許さないって言うもんだから」
「龍じゃない所をみると、龍だとあんたの旦那は取られると思ったのかねぇ」
女子同士、話に花を咲かせていた。
酒屋の若旦那は、二人の元気さに微笑んでいた。
私の視線に気がつき、優しい笑顔を向けられた。
「師範代もお元気そうですね」
昔はよく、ウチに習いに来ていたのだが、彼は根っから優しく、争いを拒む。
だが、剣技は人一倍美しく筋が良いのだが、打ち込みが甘く、強くはなかった。
嫁を取り、店も本格的に継ぐ事になった為、ウチの門下生ではなくなったが
今でも、たまに顔を見せに来てくれる。
父も客人が来る時に出す酒は、ここでないと認めないと言う。
「ほら、お前さん達!始まるよ!!」
そう言われ、私達は客席からそれらを見る事になった。
同じ日々が続く日常とは、飽きが来る。
だが、日々が鍛錬であり、毎日が修行なのだ。
この数日は、今まで送ってきた日常とは違うものがあった。
だが、昨晩見た月…やはり、空に穴が開いている様にしか見えなかった。
ぽっかりと開く穴は、私の心を映している様で…少し、怖ろしい。
だが、この日常が嫌いなわけでは無い。
日々の積み重ねが、私と言う人間を作ったのだから。
日々の鍛錬が、私の剣を作ったのだから。
……いや、違うな。
現状に満足し、結局それは向上心を持っていないのと同じだ。
どこか怖がっているのだろう、この日々の暮らしが無くなってしまうのを。
改善される保証もないこの日常を、壊す勇気がないだけの話だ。
いつも同じように流れていく景色を、ただ眺めながら生きていた。
私も予想だにしていなかった。
この舞台が、私の日々も日常も、運命さえも変えてしまうのを。
私の中で、日常が壊れる音がした。
おかしい、昨日の最後が思い出せない。
そんな風に、頭を捻りながら、いつもの様に道場の掃除をする。
いつもの日常が、今日も始まった。
世界が変わるその瞬間
02 壊す勇気
朝餉の支度をしていると、兄弟子の龍之介が珍しく起きて来た。
「お前、疲れてんなら、さっさと寝ろよ」
私は意味が分からず、首を傾げた。
「昨日、いつもの縁側で寝こけてただろ」
そう、昨日の最後の記憶が縁側だった。
だから、不思議に思っていたのだが、どうやら龍之介が運んでくれたらしい。
礼を言うと、
「……っ!!…んな、事より!!お前、軽すぎ!!ちゃんと飯食ってんだろうな!?」
何故か顔を真っ赤にさせ、怒られた。
確かに私の油断で、彼に手間を取らせてしまったが、そこまで怒られる事だっただろうか?
それに、一緒に朝昼晩と共に食事をしているのに、その言い方はなんだ?
私もつい、カッとなって言い返してしまった。
「あ、っそ!!じゃあ、今度変なトコで寝こけたって俺は知らねぇからな!」
と、いう事で、ちょっと喧嘩をしてしまった。
私は、朝餉の支度の続きをしながら、考えていた。
うーん、未熟にも程がある。
もう、私も龍之介も良い歳で、師範代にまで昇格し、今は教える側の立場。
尚且つ、門下生達の模範にならなければならないと言うのに…。
小さくため息をついた。
所を、配達に来てくれた八百屋の娘さんが見ていた。
「ごめんよ、ちょっと面白い事になってると思って、入るのを遠慮したんだ」
と笑いながら話す娘さんは、悪意しか感じられない。
残りの荷物を一緒に中に運び、お茶と昨日の茶菓子の残りを出した。
すると、珍しく父も顔を出した。
「おや、道場の親父さん!」
「今日は若いのじゃないんだな」
「ウチの腰やっちゃって」
と、豪快に笑う彼女を見て、私もつい釣られて笑ってしまった。
そういえば、と私に、女田楽師の一座の話を振った。
昨日はバタバタと、忙しく話していない事を言うと、彼女が
「明日、お兄さん借りて行っても良いかい?」
と、彼女が父に直接確認を取ってくれた。
父は、女田楽師の一座と聞き、少し顔を青くさせ…深く深く悩み、絞り出す様に
「………許可、……しよう」
そう言った。
何をそんなに悩む事があるのだろうか?
私は、少し体調悪そうな父を見ながら、昨日の異様な雰囲気の父を思い出した。
時間も時間だったので、娘さんは急いで帰り、私も朝餉の支度を急いだ。
朝餉も終わり、稽古も終わり、昼餉の用意をしていた。
「師範代、あの…?」
門下生の一人が話しかけてきた。
今は皆稽古中の筈だが、台所まで来るなんてどうかしたのだろうか?
「龍兄と、何かあったんですかい?」
龍兄とは、龍之介の愛称で、私と違って彼は人付き合いがとても上手い。
だから、皆から慕われ、龍兄と呼ばれている。
斯く言う私も、昔はそう呼び、彼を本当の兄の様に慕っていたのは事実だ。
「いやね、ちょっと…いや、物凄く…龍兄の機嫌が良くないんですよ」
何か知ってます?と聞かれたが、心当たりはあったので、頷いた。
何かと問われ、簡潔に口喧嘩をした。と答えると、門下生は笑った。
「なんでぃ、師範代と口喧嘩なだけですかい」
師範である父も調子が悪いのか、今回の稽古に顔を出していない。
今は龍之介一人で教えてる様なものだ。
「じゃ、大丈夫です」
戻ります。と言って、彼は道場に戻った。
確かに、龍之介と喧嘩をするのは、今回が初めてという訳ではい。
と言うか、昔は事ある毎に喧嘩していた記憶がある。
だが、どうやって仲直りしていたか…覚えていない。
確か…あの頃は、
――――― 「今日は二人の好きな出汁巻き卵よ。」
そんな母の一言で、私達は喧嘩をしている事も忘れて、一緒に食べた。
母の出汁巻き卵はとても柔らかく、程良い甘さが大好きだった。
少し考え、棚に卵がある事を確認すると、煮干しを取り出した。
そして、昼餉の時間
「お!師範代!今日は出汁巻き卵ですかい?」
「久しく食ってなかったからなぁー」
門下生達は嬉しそうに話しながら、席に着いていった。
「…………。」
龍之介はそれを見て立ち尽くしていた。
父が入ってきた。
その出汁巻き卵を見て、稽古にはとても厳しい父だが、懐かしむ様に顔を綻ばせ、
私の前を通り過ぎる時に、頭に手を置いた。
「お前達はまだまだ子供だな」
そう小さく笑うと、席に着いた。
どうやら見透かされていた、母もそれを分かって出汁巻き卵を作っていた様だった。
私は下を向いて、恥ずかしさを隠した。
全員が席に着き、父が箸をつけた後に私達も食べ始める。
食事を終えた皆は、父の食事が終わって立ち上がった時に一緒に立ち上がって
次の稽古の為に、食休みをする。
私は、食器などを片付けを始めた。
すると、今日は珍しく龍之介が手を貸してくれた。
「…母君の出汁巻き卵、食べているみたいだった」
恥ずかしそうに、俯き加減で話す龍之介を見ながら私は笑った。
龍之介もそれを見て、同じ様に笑う。
歳を重ねても、変わらないものと言うものは存在するのだなと、思った。
きっと、龍之介は私が女だと知っても、変わらず弟分として接してくれる。
そう思うと、私は嬉しくなった。
その日の昼稽古は、逗留組の門下生達は調子が良く、通い組達は不思議そうに見ていた。
斯く言う、龍之介も父も…そして私も、調子が良かった。
その日の夜は、母が植えていた花があった場所に水を撒いてみた。
もう、五年も経てば枯れて根などもなくなっているだろう。
分かってはいるが、何か母に感謝を伝えられないか、そう考えた結果だった。
何もない所に水を撒き、しゃがみ込んで少し母に話をしてみた。
昨日はあんな事があった。
今日はこんな事があった。
そして、明日はそんな事がある。
昔はよくそうして、その日の報告を母にしていた。
優しい膝の上で、母に頭を撫でられながら。
懐かしい思い出ばかりが思い出される。
「何の花だったか?」
龍之介が縁側から声をかけてきた。
忘れた。と答えると、龍之介は「薄情だなぁ」と笑う。
「ま、俺も憶えてはいないんだがな」
それでも、母が毎朝水を撒いていたのを憶えている。
そして、綺麗な花を咲かせていたのも憶えている。
だが、何の花だったかは憶えていない。
憶えているのは、咲いた花を優しく愛でる母の姿。
夏の暑い日でも、可憐に咲く花は、母によく似ていた。
「やっぱり、お前さんは母君に似てきたよ」
龍之介はそう呟くと、中に入って行った。
私はそれを見送り、空を見上げた。
月が丸い。だが、少し欠けている。
明日が満月だな、と思いながら、私は部屋へと戻った。
次の日の朝は、少し早めに目が覚めた。
道場の掃除や、洗濯をして、母の花に水を撒く。
母におはようございますと、声をかけながら。
そして、朝餉も稽古も、昼餉もあっという間に今日は過ぎた気がする。
八百屋の娘さん迎えに行き、女田楽師の一座の舞台へと足を運ぶ。
「いや~、楽しみだねぇ」
嬉しそうに話をする娘さん。
私もそれを見ながら、話を聞いていた。
「いやだよ~、そんな見ないどくれ!ウチのが霞んじまう!」
微笑ましいと思いながら見ていたのだけど、娘さんはよくコトリがする癖と同じ動きをしていた。
これは、娘子全体の癖なのか?
そんな事を思いながら、舞台が行われる場所へと向かった。
そこでは、酒屋の夫婦も来ていた。
「あんた、羨ましいねぇ!こんないい男引っ掛けて来てさ!」
「ウチのが、男を誘うなら道場の兄ちゃんじゃなきゃ許さないって言うもんだから」
「龍じゃない所をみると、龍だとあんたの旦那は取られると思ったのかねぇ」
女子同士、話に花を咲かせていた。
酒屋の若旦那は、二人の元気さに微笑んでいた。
私の視線に気がつき、優しい笑顔を向けられた。
「師範代もお元気そうですね」
昔はよく、ウチに習いに来ていたのだが、彼は根っから優しく、争いを拒む。
だが、剣技は人一倍美しく筋が良いのだが、打ち込みが甘く、強くはなかった。
嫁を取り、店も本格的に継ぐ事になった為、ウチの門下生ではなくなったが
今でも、たまに顔を見せに来てくれる。
父も客人が来る時に出す酒は、ここでないと認めないと言う。
「ほら、お前さん達!始まるよ!!」
そう言われ、私達は客席からそれらを見る事になった。
同じ日々が続く日常とは、飽きが来る。
だが、日々が鍛錬であり、毎日が修行なのだ。
この数日は、今まで送ってきた日常とは違うものがあった。
だが、昨晩見た月…やはり、空に穴が開いている様にしか見えなかった。
ぽっかりと開く穴は、私の心を映している様で…少し、怖ろしい。
だが、この日常が嫌いなわけでは無い。
日々の積み重ねが、私と言う人間を作ったのだから。
日々の鍛錬が、私の剣を作ったのだから。
……いや、違うな。
現状に満足し、結局それは向上心を持っていないのと同じだ。
どこか怖がっているのだろう、この日々の暮らしが無くなってしまうのを。
改善される保証もないこの日常を、壊す勇気がないだけの話だ。
いつも同じように流れていく景色を、ただ眺めながら生きていた。
私も予想だにしていなかった。
この舞台が、私の日々も日常も、運命さえも変えてしまうのを。
私の中で、日常が壊れる音がした。
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