ようせいテレビ

昔懐かし怖いハナシ

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過去の話

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「これ。こうき君たちの分。」
二人は缶のオレンジジュースを渡された。
「あ、ありがとう。」
あんまり飲む気はなかったが、さちはもう飲んでいた。
 画面の向こうでは、部屋に戻ってきた背の高い女の子が、床の足跡に驚いていた。
「あ、私サンダルだった。」
その足跡は、みつねが履いていたサンダルだった。だが、詫びる様子はなかった。
 すると、
「私が、いじめられても誰も助けてくれないの。だから、ずっと一人で我慢してきたの。」
みつねは突然飲みかけの缶を置き、座り込み泣いてしまった。
「でも、このテレビの中に来て、友達もできて嬉しかった。やり返し出来て良かった。」
さちはそっと寄り添って、みつねを慰めた。
「いじめられても、大丈夫。私達ずっと友達だよ。」
そして優しく頭を撫でた。まるで、お母さんのようだった。
「そうだよ。大丈夫。」
みつねは、多くの辛い事を我慢してきたらしかった。それを今、涙とともに出したのだった。
 しばらく三人は座り、黙ったままジュースを飲んだ。ただしばらく、みつねのヒクヒクとした声が響き続けていた。
「行こう。」
「大丈夫?」
「うん。」
さちは、心配そうに聞いた。
 再び立ち上がり、先へと進んで行った。途中近くの画面をふと見ると、夕方に近くなっていた。もうそろそろ帰らなきゃならないと思った時だった。
「あれ?おかしいな。」
いきなり、画面が全くない空間に出たのだった。また、今までの真っ白い空間、そこから先は緑の芝生となっていた。殺風景だったものがいきなり野原となり、三人は驚いた。
 と、突然
「ようこそ。テレビの世界へ。」
優しそうな若い男の人が向こうから段々と近づいてきたのだった。正装の黒服でハットを被っていた。
「だれ?」
さちは聞き返した。
「ここの世界の人です。ここは、時代など関係なしに繋がる、選ばれた子供しか来れない場所。」
「なぜ、選ばれたの?」
「運が良かったからでしょうね。」
三人は、不思議な感覚に陥ったのだった。
「三人はここ、中心となる場所にたどり着いた。でも普通の子供はここには来ない。怖がって来ない。」
すると、優しい風が吹いたのだった。まるで、おじいちゃん家の近い山にいた時のように気持ちが良かった。
「何か、望みありますね?」
すると、みつねはそう言い放った。
「私、強くなりたい。他の子に嫌だと言える強い心がほしい。いじめられない、そんな人になりたい。」
「分かりました。こちらに来てください。」
みつねは男の人の所へ駆け出した。
 二人は、その様子を静かに見守っていた。今なら、本当に叶えて貰えそうと思ったからだ。叶えてもらい、みつねを救ってほしいと思ったからだった。
 男の人は頭に手を乗せると、風が強く吹いたのだった。
「帰りなさい。そうすれば、変わってますよ。」
二人からはよく見えなかったが、男の人とみつねは微笑んでいた。
「変わったのかな。」
「変わったと思う。みつねちゃんの雰囲気、違うもん。」
さちは何か感じていた。
「そこの女の子。何か、願いはないか?」
「ないです。」
さちはそう答えた。が、
「今まで辛かっただろうに。これからは我慢しなくていい。家へ帰りなさい。そしたら、良い方向へ変わってるはず。」
男の人はみつねを連れ、近づいてきた。そして、さちの腕を掴むとあざが全て消えたのだった。
「魔法だ。」
広義は思わず叫んだ。
「ありがとうございます。」
さちは、丁寧に頭をペコリと下げた。
「そこの男の子の番だね。
 これからは、楽しくなる。再び二人で遊べるようになる。もう少しの辛抱だよ。」
「本当に?」
「もちろん。私が社会を変えてあげる。
 そして、もう一つみんなに。」
男の人のポケットから、三つの小さなコンパスを取り出した。
「これは、今から行先を指し示すもの。一人一人方向は変わるから、絶対失くさないこと。いいね。」
「はい。」
三人は元気よく返事をして、それを受け取った。ぐるぐる赤い矢印は回っていたが、手に取った瞬間、方向を決めたのだった。
「この世界は、誰にも言わないこと。三人だけの秘密。」
男の人は、そう言うと一瞬で消えたのだった。ただ残るのは、永遠と続く芝生だけの空間だった。
「ありがとうございました。」
聞こえるか分からないが、風に乗せてそう言った。届くといいなぁと広義は思った。
「帰ろう。」
「うん。」
三人の矢印を元に、それぞれ進んだ。

「この画面、家のテレビだ。」
みつねの矢印は、ある画面の向こうを指し示していた。
「また、会おうね。ありがとう。」
「うん。元気で。」
「いじめてる子に勝ってね。」
二人は励まし、みつねは寂しそうに画面の中へと溶け込んで行った。その画面の中では、元気よく母親に笑いかけている様子が写っていた。
 二人の矢印は、全く同じ方向を向いていた。広義のおじいちゃん家のテレビだった。










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