終セい紀

昔懐かし怖いハナシ

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四話

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 裏道へ、二人は戻った。相変わらず、鉄の塊がそこら中に落ちていて、歩きにくい。そして、人も横たわっている。
「どうして、こんな街になったんだ?」
爺は、帽子のキャップを掴みながら言った。普通の厚いコートを着ていて、寒そうだった。
「分からない。僕が、生まれるずっと前から、こんな感じになっていたと思う。
 父が生きていた頃は、話をしてくれた。こんな人の黒い部分だらけの世界で、母は、大事な事をしていたと。人の大切な部分を復活させようとしていたらしい。しかし、母と父は、出ていったきり、帰って来なかった。父の友達は、最後まで僕を育ててくれた。
 そして、その人は死んで、一人で生きてきた。それだけさ。知っていることは」
そう言い放すとマルは、樽から水を汲み上げ、ある機械に入れた。すると、ボタンを押しただけなのに、きれいな澄んだ緑の水になった。
「どうぞ。その人に教えてもらった、お茶と言う飲み物。信用出来る相手にしか、渡せないものだけど、あなたなら、」
爺は、はっとした。まだ子供なのに、一人きりの彼は、誰も頼ることなく生きてきたんだと。そして、もしかしたら初めて、自分を信じてくれたのかもしれない。
 それを信じて、お茶を飲んだ。香りが、この地上の薄汚い空気が変わったように、爽やかな物が鼻を覆った。そして、気分が晴れるような風味が口の中に広がった。これは、今まで感じたことのない、素晴らしいものだった。
「美味しい。ありがとうな。」
マルは笑いながら、壁の方を向いた。どうしても、顔を見られたくないらしい。長い間、顔や話を向けなかった。
 爺は、言葉を発した。とても、短くて、わかりやすい言葉を。
「旅に出ないか?」
え??マルは、机の上の物をいじるのを止めた。
「その人の造ったコロニーを、離れたくない。外は危険だから、ここにいた方が絶対に良い。」
「じゃあ、お前さんは、ずっと何も知らずに、生きていくのか?」
何を知るんだ?そう、思った。
「ここにいても、自分は知ることはできないぞ。お前はまだ、生きる時間が長い。私は、いろんな所を巡って、経験してきた。その経験が、この先自分を見つける鍵となるんじゃないか?」

 確かにそうだった。自分を守る、そして生きる事だけ精一杯な生活。それは別に苦しいことではなかったが、自分はそれとは違う使命感を持っている気がする。何か、知るべき事があるような気もした。
「ちょっと考える。」
そして、地下へとエレベーターで降りていった。チリンチリンと、警報がなり、ゆっくりと下がって行くのを、爺は興味津々で見ていた。その音は、何かマルの心を表している。
 お茶は飲み終わっていた。
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