終セい紀

昔懐かし怖いハナシ

文字の大きさ
15 / 33

一五

しおりを挟む
「待てよ。確か、この袋に。」
薄汚れてうすい茶色となっていた、その布の袋から半円の物が出てきた。たしかに、爺が持っていた半円と同じ、大きさに模様だった。ただ違ったのは、高価な鉄で作られていた点だった。
「それだ。そう、それ。」
爺は大きく目を開け、それを取ろうとしていた手が震えていた。
「待て、」
マルは、そう一言を放った。
「これは、価値のあるものだ。いくらあんたでも、簡単に渡せるものではない。」
マルはもう一度袋へと入れた。
「分かった。ではな、それが必要な所に来たら、渡してもらおう。それが、歴史の鍵となる。その時まで」
「その時が来たら…な。」
マルは箱の中へと戻し、爺はついて来い、と言うかのように目配せをした。

 二人は、ある場所へとたどり着いた。“ライン”へとつながる、水の流れのある場所。この時代には、川というものは存在しない。砂やがれき、岩などが水の流れをせき止めるかのように、その場所には散らばっていた。
「この先へと行こうか。」
「おう。」
「この水の中ヘは入るなよ。ここには、小さなやつがいる。」 
「それは?」
「体内に入るほど小さい。すると、腹が痛くなってやがて死ぬ。今となっては対処方法がない。歴史に埋もれてしまった。」
「そうか。歴史ってやつはそんなにひどいのか。」
マルは、岩の上から飛び降りて、爺の平たんな道へと変えた。落ちると、いけないから。
「歴史は、悪くてもいいもんだ。過去を振り返ることで、いいことも悪いことも思い出せる。それは、人にとって何よりも大切なことなんだ。生きているうち…ではね。死んだらそんな価値はないさ。本人だけの物語だね。
 まあそれは歴史というか、思い出みたいなもんだね。その思い出をたくさん集めたものが、歴史って感じ。」
爺の背中を見ながらマルは、なるほどと思った。そんなにいい思い出はないマルは、これから良い思い出を作りたい。本気でそう思った。
 少しの坂道でさえ、険しかったが爺のアドバイスだけで楽に歩けることができた。爺の選んだ道をついていくだけ、それだけで大分楽できた。
「この先だ。」
マルは、ある事に気がついた。
「こんなにも静かで人もいない。水さえ手に入れれば良い所なのに。」
「そうだな。だがな、お前だってこんな場所知らなかっただろ?
世界を知らなかったら、この場所も知らなかった。そうだろ?」
「たしかに。」
「あんな街の中でおびえて暮らすよりも、もっと旅をしたほうがいい。そっちの方が面白いだろうよ。」
爺は、ニヤリと笑った。
 マルは、旅をする人はみんな楽しく生きてるんだろうなと思ってしまった。
「ま、今度はここに住もうかな。水は、地下水でいいだろうし。」
「地下水なら飲めると思う。その時は、たまに遊びに来るよ。」
「おう。立派な家にするぜ。」


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに!ついでに、女の子とVチューバー始めました

グミ食べたい
ファンタジー
 現実に疲れ果てた俺がたどり着いたのは、圧倒的な自由度を誇るVRMMORPG『アナザーワールド・オンライン』。  選んだ職業は、幼い頃から密かに憧れていた“料理人”。しかし戦闘とは無縁のその職業は、目立つこともなく、ゲーム内でも完全に負け組。素材を集めては料理を作るだけの、地味で退屈な日々が続いていた。  だが、ある日突然――運命は動き出す。  フレンドに誘われて参加したレベル上げの最中、突如として現れたネームドモンスター「猛き猪」。本来なら三パーティ十八人で挑むべき強敵に対し、俺たちはたった六人。しかも、頼みの綱であるアタッカーたちはログアウトし、残されたのは熊型獣人のタンク・クマサン、ヒーラーのミコトさん、そして非戦闘職の俺だけ。  「逃げろ」と言われても、仲間を見捨てるわけにはいかない。  死を覚悟し、包丁を構えたその瞬間――料理スキルがまさかの効果を発揮し、常識外のダメージがモンスターに突き刺さる。  この予想外の一撃が、俺の運命を一変させた。  孤独だった俺がギルドを立ち上げ、仲間と出会い、ひょんなことからクマサンの意外すぎる正体を知り、ついにはVチューバーとしての活動まで始めることに。  リアルでは無職、ゲームでは負け組職業。  そんな俺が、仲間と共にゲームと現実の垣根を越えて奇跡を起こしていく物語が、いま始まる。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

処理中です...