終セい紀

昔懐かし怖いハナシ

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ゆーとぴあ

二五

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「これからどうする?」
爺は、マルに聞いた。マルは、腹が減っており、その場にへたれこんだ。
「ちょうどいい。食事にするか。朝から何も食べてないしな。」
爺もテーブルのそばに座り、マルは近くにあった古い椅子に座った。鉄の棒で背もたれが作られており、少し背中が痛かった。
 マルは箱から機械を出し、何か液体の入ったボトルを取り付け、管のようなものも取り付けた。しっかりと取り付けてる事を確認すると、その管を口に入れた。
 それが、マルの食事だった。爺はというと、その光景を眺めていた。
「食事も、色々だな。ほら、これも食ってみ。」
「嫌だよ。この液体は、一日もつんだ。それに、他のもの食べて、死んだらどうするんだ。命には、変えられん。」
マルは、地下室に来てから『命』という言葉を使うようになった。あの男の影響で命を重んじるようになったのか、それは成長というべき瞬間なのではないのか。爺はそう感じていた。
「まあ、気持ちは分からないわけではないが…。」
爺の手には、トンネルで見つけた保存食があった。あの男から、その時に密かに少し貰ったものだった。しかし、マルは多分どこかに捨てたんだろう。その保存食を見るだけで、嫌がっていたから。
「そんなものばかりでは、食料の美味しさ、わからんぞ?それは味ないだろ?」
「味?なにそれ。これは直接腹に入れるんだ。」
「これは、そのまま口に入れるんだ。そうすると、良い味が広がるんだ。しっかり噛むんだ。」
マルは、とても嫌がっていた。訳の分からないものを口に入れるのは、戦場に突っ込むよりも拒否反応が凄かった。
「分かった。俺が食ってみよう。腐ってなければいいが。」
「分かった。もし、食えたら食う。」
爺も半分恐かった。なにせ、保存食と言いつつもトンネルに分からない年月も放置されていた。腐ってても、小さな生き物がいてもおかしくない。
 爺は少し間を置き、深呼吸をしてから、一口分に噛み切ってから口の中でも噛んだ。歳を重ねており、歯は強くはなかった。奥歯が痛んだ。
 しかし、その痛みも忘れるぐらいの、久々の甘みが身体の隅々まで行き渡るように美味しかった。甘みだけではない。爺は分からないだろうが、旨味もあり、熟成されていたものだった。
 マルは、おかしな顔で爺の涙を見た。なぜ、目から涙を流すのだろうか。それが不思議でならなかったからだ。
「美味いぞ。本当に美味い。」
「恐いから、いいや。」
「約束は守れ!!ほら、」
「え、あ…うん。」
ためらっている。だが、それは無駄な足掻きだと分かり、同じように一口サイズに噛み切り、口を少しずつ動かした。
「飲み込むなよ。しっかり噛むんだ。」
マルは、その後こう反論した。
「噛んた事ないんだ。今まで。」
「歯と歯を合わせて、磨り潰すように。」
マルは、ぎごちない動きで噛んだ。顎を上下左右に動かし、舌で保存食を移動させた。
 すると、マルの表情が変わった。
「なにこれ。これが…味なのか。すごい。美味い。」
マルは思わず、視線を爺の顔から食べかけの保存食に変えた。目はつり上がって丸くなっていた。
その後すぐに、目を細めた。
「すごいだろ。これが食料の力だ。」
爺は、まるで食料というのを生み出したように言った。それほど、二人は興奮していた。
 爺は時々、マルが見せる白い小さな歯が羨ましく思えた。
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