終セい紀

昔懐かし怖いハナシ

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ゆーとぴあ

二八

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「すると、死んだのか。この様子だと、結構前にだな。」
爺は石に近づき、よくよく観察した。
「これが、、」
マルは言葉にならなかった。泣きじゃくりて、下をうつむいたままだった。
「泣くな!」
爺は、初めて大声で怒鳴った。マルはなぜ怒られているのか分からなかった。そして、反抗心がマルに取り憑いた。
「うるせぇ。ずっと一人で生きてきて、やっと会えたんだ。そしたら、死んでるんだぞ。顔は覚えていない。だから、悲しいんだ。それが分からないお前に言われたくない。」
マルは、爺の顔を見た。目は真っ赤になり、怒りを表していた。
「だからこそだ。お前の父母からしても、あんまり覚えてないはず。今、やっと会えた息子だぞ。なのに、下向いてちゃ分からないだろ。」
マルは言い返す言葉がなかった。
 “ママとパパは死んでんだ。そんな事分かるかよ。”と反論したかったが、それは二人に悪い。そうマルは感じた。
「とにかく。」
爺はマルの髪を持ち、むりやり顔を上げた。いきなり髪を引っ張られ、怒りがますます込み上げて来たが、二つの石を見るとその気は失せた。
「手を合わせろ。」
トンネルでした行為。それを、もう一度しろ、という事らしい。
「分かったよ。」
マルと爺は、手を合わせ、爺だけは目を閉じた。そのまま、何分か時間が過ぎた。水の流れる音とドームの外で鳴る風、それだけが彼らを取り巻いていた。
 爺とマルは共々、不器用であり、お互いの扱い方が全く分からなかった。だが、手を合わせるという行為、それは素直な意思はあるという事。
 本当は、彼らは心を許したいのだろう。だが、この世界で共に生きるということは死を意味する。それが、怖いのだ。
「悪いな。髪、引っ張って。」
目を開けた爺は、冷静さを取り戻しそう謝った。
「まあ、別に怒ってない。」
マルは、自分に嘘をついても爺を許したかった。
「それより、これからどうするか。」
マルは、緑の上に腰をおろした。カサカサと音を立てて、細長い緑がマルの手を擦る。少し、気持ちがいい。
 爺はマルと違い、ゆっくりと腰をおろした。腰に負担をかけないようにと。
 “あぁ、風があったらな”と一言。そして、寝転がり再び目を閉じた。
 マルもそれを真似して。

 
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