7 / 123
シャノワール・王妃様の相談所 :第一章 やせ細っていく婚約者
相談したら怖い答えが返ってきた 1
その夜、急だが伯母を訪問する許可を取った。
ヘレン様とチェスをしているところにお邪魔し、しばらく二人の勝負を見守っていると、ヘレン様がチラリとこちらに目くばせした。
チェスの勝負はヘレン様が大きく優勢で、このままだと負けず嫌いな伯母が、もう一回と言い出すのが目に見えている。
つまり、割り込んで止めろ、ということだ。
「ごめんなさい。勝負の途中でお声掛けして申し訳ないのですが、急いでご相談したいことがあるので、この勝負が終わったら、少し時間をいただけないでしょうか」
「急ぎなの?仕方ないわねえ。
お行儀悪いわよ」
伯母が文句を言いながら、勝負をお流れにした。
負けそうだったものね。
ヘレン様が澄まして援護射撃をしてくれる。
「まあ、何かしら。よっぽどのことね」
「はい。ビクター様からの依頼が思っていたより緊急度が高くて、お二人の知恵をお貸し願いたいのです」
「いいわよ。ちょっとワインでもいただきましょうか。辛口の白がいいわね」
伯母が侍女を呼び、ワインと軽食を言いつけた。
キリッと冷した白ワインと、摘まみやすいカナッペと一口サイズのサンドイッチが盛られた皿が届けられる。夜でも暑いので、冷たい白ワインが喉に心地よい。
薄い胡瓜を挟んだサンドイッチが白ワインによく合う。ここの料理長は小さいころからイリスをかわいがってくれ、イリスの絡んだ依頼の場合、大抵本人が作ってくれる。
すると、どんな簡単な料理でも、他と一味違うものがサーブされるのだ。
よく従弟達に文句を言われたが、こちらの皇室には女の子がいないからかな、と思っている。
グラスからクイッと大きく一口飲んで、
「で、どんな状態なの」と聞いてきた。
イリスは、今まででわかった事をかい摘んで話した。
二人共黙って最後まで聞いていたが、途中から顔付きが変わっていった。
熟年美女二人の厳しい顔を前に、自分が叱られているような気分になってくる。
伯父様はいつもどう感じているのかしら。もう慣れた?でも怖いわよね。
今度、聞いてみよう。
「それで、あなたはこの問題、どう対処するつもりなの」
「まずはアンヌ嬢を王宮に引き取って、体を回復させてあげたいと思います。何かしら理由を付けてこちらに呼ぶことはできませんか」
「ヘレン。あなたはカイン伯爵家のサーラ様と親交があったわね。その伝手で、私の臨時の侍女としてアンヌ嬢を推薦して頂戴。病で急に辞める侍女の代わりが来るまでの繋ぎということでね。明日すぐに、使者を送って」
話が早いわ。さすが、頼りになる。
「彼女の安全が確保できたら、ビクター様に事実を伝えて、どうするか決めてもらいます。それによってアンヌ嬢の身の振り方が変わりますので。内容に関しては絶対の秘密保持を誓約してもらいます」
伯母様が頷いた。
「婚約解消するなら、アンヌ嬢には王宮内で病気になってもらって時間を稼ぎ、先のことを考えます。
もし結婚を望んだら、侯爵邸に逃げ込ませて、そのまま事実婚に持ち込んでしまおうと思っています。強引な手ですが、婚約者で結婚間近なので、摩擦は少ないかと思います」
「そうね。そのまま結婚まで住み込んで、婚家の家風に慣らすのはよくあるものね。その手配はあなた方で充分に出来るでしょう。何を相談したいの?」
「アンヌ嬢の気持ちの問題です。
令嬢にとって瑕疵が付いたわけだし、そこの負い目が痛々しいほどで、どうしたらいいのか、いい案が浮かばなくて」
ブルーシャドウの皆にも考えてもらったのだが、大雑把すぎた。
忘れろ、とか、記憶を消そうか、とか。
記憶が無くなれば、兄が危険人物だということも忘れてしまうので、余計に危ない。
ケインに期待したけど、恋愛方面は苦手分野だと言って白旗を上げられてしまった。
「そうねえ、ヘレン、どうかしら」
「そういう王妃様こそ、何かしら思い付いたのではありませんか。その目付きは」
「嫌だわ。今はリセルと名前で呼んでよ」
「では、リセル様。良い案がありますわよね。何年前だったかしら? のあれとか」
「あなたが言ってよ」
「お譲りしますわ」
「若い頃から意地悪なのよ、この人。王妃命令を発令しちゃおうかしら」
「わかりました。じゃあ、二人からのとっておきを教えますね。あのね、処女を失ったのなら、他の初めてをあげたら良いと思うの。ちょっと別の方の」
? ナンノコトカシラ。
ヘレン様とチェスをしているところにお邪魔し、しばらく二人の勝負を見守っていると、ヘレン様がチラリとこちらに目くばせした。
チェスの勝負はヘレン様が大きく優勢で、このままだと負けず嫌いな伯母が、もう一回と言い出すのが目に見えている。
つまり、割り込んで止めろ、ということだ。
「ごめんなさい。勝負の途中でお声掛けして申し訳ないのですが、急いでご相談したいことがあるので、この勝負が終わったら、少し時間をいただけないでしょうか」
「急ぎなの?仕方ないわねえ。
お行儀悪いわよ」
伯母が文句を言いながら、勝負をお流れにした。
負けそうだったものね。
ヘレン様が澄まして援護射撃をしてくれる。
「まあ、何かしら。よっぽどのことね」
「はい。ビクター様からの依頼が思っていたより緊急度が高くて、お二人の知恵をお貸し願いたいのです」
「いいわよ。ちょっとワインでもいただきましょうか。辛口の白がいいわね」
伯母が侍女を呼び、ワインと軽食を言いつけた。
キリッと冷した白ワインと、摘まみやすいカナッペと一口サイズのサンドイッチが盛られた皿が届けられる。夜でも暑いので、冷たい白ワインが喉に心地よい。
薄い胡瓜を挟んだサンドイッチが白ワインによく合う。ここの料理長は小さいころからイリスをかわいがってくれ、イリスの絡んだ依頼の場合、大抵本人が作ってくれる。
すると、どんな簡単な料理でも、他と一味違うものがサーブされるのだ。
よく従弟達に文句を言われたが、こちらの皇室には女の子がいないからかな、と思っている。
グラスからクイッと大きく一口飲んで、
「で、どんな状態なの」と聞いてきた。
イリスは、今まででわかった事をかい摘んで話した。
二人共黙って最後まで聞いていたが、途中から顔付きが変わっていった。
熟年美女二人の厳しい顔を前に、自分が叱られているような気分になってくる。
伯父様はいつもどう感じているのかしら。もう慣れた?でも怖いわよね。
今度、聞いてみよう。
「それで、あなたはこの問題、どう対処するつもりなの」
「まずはアンヌ嬢を王宮に引き取って、体を回復させてあげたいと思います。何かしら理由を付けてこちらに呼ぶことはできませんか」
「ヘレン。あなたはカイン伯爵家のサーラ様と親交があったわね。その伝手で、私の臨時の侍女としてアンヌ嬢を推薦して頂戴。病で急に辞める侍女の代わりが来るまでの繋ぎということでね。明日すぐに、使者を送って」
話が早いわ。さすが、頼りになる。
「彼女の安全が確保できたら、ビクター様に事実を伝えて、どうするか決めてもらいます。それによってアンヌ嬢の身の振り方が変わりますので。内容に関しては絶対の秘密保持を誓約してもらいます」
伯母様が頷いた。
「婚約解消するなら、アンヌ嬢には王宮内で病気になってもらって時間を稼ぎ、先のことを考えます。
もし結婚を望んだら、侯爵邸に逃げ込ませて、そのまま事実婚に持ち込んでしまおうと思っています。強引な手ですが、婚約者で結婚間近なので、摩擦は少ないかと思います」
「そうね。そのまま結婚まで住み込んで、婚家の家風に慣らすのはよくあるものね。その手配はあなた方で充分に出来るでしょう。何を相談したいの?」
「アンヌ嬢の気持ちの問題です。
令嬢にとって瑕疵が付いたわけだし、そこの負い目が痛々しいほどで、どうしたらいいのか、いい案が浮かばなくて」
ブルーシャドウの皆にも考えてもらったのだが、大雑把すぎた。
忘れろ、とか、記憶を消そうか、とか。
記憶が無くなれば、兄が危険人物だということも忘れてしまうので、余計に危ない。
ケインに期待したけど、恋愛方面は苦手分野だと言って白旗を上げられてしまった。
「そうねえ、ヘレン、どうかしら」
「そういう王妃様こそ、何かしら思い付いたのではありませんか。その目付きは」
「嫌だわ。今はリセルと名前で呼んでよ」
「では、リセル様。良い案がありますわよね。何年前だったかしら? のあれとか」
「あなたが言ってよ」
「お譲りしますわ」
「若い頃から意地悪なのよ、この人。王妃命令を発令しちゃおうかしら」
「わかりました。じゃあ、二人からのとっておきを教えますね。あのね、処女を失ったのなら、他の初めてをあげたら良いと思うの。ちょっと別の方の」
? ナンノコトカシラ。
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています
かきんとう
恋愛
王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。
磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。
その中心に、私は立っていた。
――今日、この瞬間のために。
「エレノア・フォン・リーベルト嬢」
高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。
私は貴方を許さない
白湯子
恋愛
甘やかされて育ってきたエリザベータは皇太子殿下を見た瞬間、前世の記憶を思い出す。無実の罪を着させられ、最期には断頭台で処刑されたことを。
前世の記憶に酷く混乱するも、優しい義弟に支えられ今世では自分のために生きようとするが…。
偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて
奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】
※ヒロインがアンハッピーエンドです。
痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。
爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。
執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。
だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。
ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。
広場を埋め尽くす、人。
ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。
この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。
そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。
わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。
国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。
今日は、二人の婚姻の日だったはず。
婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。
王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。
『ごめんなさい』
歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。
無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。
あなたのおかげで吹っ切れました〜私のお金目当てならお望み通りに。ただし利子付きです
じじ
恋愛
「あんな女、金だけのためさ」
アリアナ=ゾーイはその日、初めて婚約者のハンゼ公爵の本音を知った。
金銭だけが目的の結婚。それを知った私が泣いて暮らすとでも?おあいにくさま。あなたに恋した少女は、あなたの本音を聞いた瞬間消え去ったわ。
私が金づるにしか見えないのなら、お望み通りあなたのためにお金を用意しますわ…ただし、利子付きで。
あなたの妻にはなりません
風見ゆうみ
恋愛
幼い頃から大好きだった婚約者のレイズ。
彼が伯爵位を継いだと同時に、わたしと彼は結婚した。
幸せな日々が始まるのだと思っていたのに、夫は仕事で戦場近くの街に行くことになった。
彼が旅立った数日後、わたしの元に届いたのは夫の訃報だった。
悲しみに暮れているわたしに近づいてきたのは、夫の親友のディール様。
彼は夫から自分の身に何かあった時にはわたしのことを頼むと言われていたのだと言う。
あっという間に日にちが過ぎ、ディール様から求婚される。
悩みに悩んだ末に、ディール様と婚約したわたしに、友人と街に出た時にすれ違った男が言った。
「あの男と結婚するのはやめなさい。彼は君の夫の殺害を依頼した男だ」
愛とオルゴール
夜宮
恋愛
ジェシカは怒っていた。
父親が、同腹の弟ではなく妾の子を跡継ぎにしようとしていることを知ったからだ。
それに、ジェシカの恋人に横恋慕する伯爵令嬢が現れて……。
絡み合った過去と現在。
ジェシカは無事、弟を跡継ぎの座につけ、愛する人との未来を手にすることができるのだろうか。