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アトレーの家族たち
未来の伯爵夫人と嫡男
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アトレーがロビーに行くと、マーシャが侍従長とお茶を用意している侍女に文句を並べ立てていた。
荷物が玄関先に積まれている。スーツケースが六つほどだ。
「マーシャ。ゲート伯爵邸でみっともない態度をとるのはやめてくれ。ところで、なぜここにいる。
約束ではこちらへ出てくるのはもっと後のはずだ」
「アトレー、この失礼な執事を辞めさせてちょうだい。次期伯爵夫人の私を邸内に案内しようともしないのよ。ありえないわ」
「ありえないのは、君だ。連絡もなく勝手に何しに来た」
マーシャはぽかんとした顔をして口をパクパクさせている。
母の代わりにマックスが言った
「お父様を手助けしようと思って出かけてきました。何かとご不自由かと思いまして」
アトレーは冷たい顔でマックスをみやり、言い返した。
「明日には領地に戻ってもらう。今夜はホテルを手配したので、そこに泊ってくれ。今、馬車を用意させている」
メアリーは端の方の椅子に座って大人しくしている。
侍女がお茶を彼女に渡し、甘いお菓子も一緒に勧めている。それに対し、ありがとうと言ってにこやかに受け取っている。
やはリこの子は、この二人と引き離さないといけない。この時それだけは、はっきりと決めた。
「なぜですか。次期伯爵夫人の母と、嫡男の僕がどうしてこの家で遠慮しないといけないんですか?」
「何を勝手なことを言っている。今の当主は父だ。私達はその係累に過ぎないんだぞ。当主に対する敬意も礼儀もわきまえないなら、この場に足を踏みいれることは許されない。お前たちは招かれていない」
めったに見ない、アトレーの怒りに満ちた様子に、マックスとマーシャもたじろいでいた。
「これ以上の恥を、この場でさらさないでくれ。任官も取り消されるかもしれない。それでもいいのか」
マックスが本当にわからないという顔をして突っかかって来る。
「でも、なぜです?わからない」
「何がわからないんだ」
「だって、僕はこの家の将来の主人です。自分勝手にふるまって何が悪いのですか」
その言葉に対し、思い違いも甚だしいと返し、マーシャに向かって言った。
「マーシャ。領地の屋敷は今どうなっているんだ。引き継ぎなどは終わっているのか?」
突然聞かれ、マーシャは驚いたようだ。
「引き継ぎってなんのですか?」
「屋敷の管理に関してのだ。当たり前だろう」
「知りませんわ。そんなの私の仕事じゃあ、ありませんから」
これには、アトレーが驚いた。屋敷の管理は、女主人の仕事だ。家政の切り盛りはマーシャがしていると思っていたのだ。
「じゃあ、今まで誰が屋敷の采配を振るっていたんだ?」
「さあ、誰でしょうね?私達が行く前にやっていた人が、そのままやっているのじゃあないですか?」
そう言って、首をかしげている。本当に知らないようだった。
「お前は、引き継がなかったのか? じゃあ、いったい領地で何をしていたんだ」
え、と目が泳いでいる。
ああ、たぶん碌な事をしていないな、やはり調べなければいけない。
これは、考えていたよりもずっとまずい状態になっているのかもしれない。嫌な予感が心を暗くした。
馬車が到着したと、侍従長が連絡にやってきた。
「奥様とお子様方、皇都一のホテルを予約いたしました。
本日は、そちらにお泊りいただくのがよろしいかと思います。馬車を呼び、荷物もそちらに積み終えましたので、どうぞこちらへ。明日、ご連絡を差し上げます」
そう言って、すっと三人を馬車に案内してくれた。
行先のホテル名を告げ、さっさと馬車を向かわせた。
そして言った。
「アトレー様、ご連絡が必要な先がございましたら、受けたまわりますが」
良い使用人がいるのはありがたい事だ。
「申し訳ないが、グレッグに連絡を入れて欲しい。なるべく早く会いたいと」
「早速」
はあ~ッと溜息をついた。領地でのマーシャの素行調査が急ぎ必要だ。そして領地の屋敷の管理が今どうなっているのかについても。
邸でパーティーや茶会を開く事も無かったので、屋敷の維持、管理は簡単だし、維持費用もあまり高額ではない。
使用人の数も少ない。だから、マーシャに任せきりだった。毎年の維持管理費が上がって来るが、それはチェックしているし、問題は見当たらない。
マーシャも一応伯爵家の息女だ。淑女教育を受けているので、領地や、館の采配については学んでいる。
邸の采配は女主人の第一の仕事だ。それが、全くのノータッチだったとは!
自分自身は書斎と自室とくらいしか使わなかったし、食事も書斎に簡単な物を運ばせていた。家政には手も口も全く出していなかった。
両親たちが待っている部屋に戻ると、今のマーシャ達の様子や話の内容をそのまま話した。
隠し立てせずに、ちゃんと周囲に相談しないといけない。
今回は仕事が絡むし、問題があるなら全てをはっきりさせてか進めないと、周囲に迷惑を掛ける。
そして、勝手に次期伯爵夫人と名乗る女と、嫡男と名乗る子供もいる。その二人が、実際にその権利を現在持っていることが恐ろしくなった。
明日、グレッグに相談して、対応すると両親とキースに話しておいた。
見ない振りをしていた八年間が急にのしかかってくるようだった。
荷物が玄関先に積まれている。スーツケースが六つほどだ。
「マーシャ。ゲート伯爵邸でみっともない態度をとるのはやめてくれ。ところで、なぜここにいる。
約束ではこちらへ出てくるのはもっと後のはずだ」
「アトレー、この失礼な執事を辞めさせてちょうだい。次期伯爵夫人の私を邸内に案内しようともしないのよ。ありえないわ」
「ありえないのは、君だ。連絡もなく勝手に何しに来た」
マーシャはぽかんとした顔をして口をパクパクさせている。
母の代わりにマックスが言った
「お父様を手助けしようと思って出かけてきました。何かとご不自由かと思いまして」
アトレーは冷たい顔でマックスをみやり、言い返した。
「明日には領地に戻ってもらう。今夜はホテルを手配したので、そこに泊ってくれ。今、馬車を用意させている」
メアリーは端の方の椅子に座って大人しくしている。
侍女がお茶を彼女に渡し、甘いお菓子も一緒に勧めている。それに対し、ありがとうと言ってにこやかに受け取っている。
やはリこの子は、この二人と引き離さないといけない。この時それだけは、はっきりと決めた。
「なぜですか。次期伯爵夫人の母と、嫡男の僕がどうしてこの家で遠慮しないといけないんですか?」
「何を勝手なことを言っている。今の当主は父だ。私達はその係累に過ぎないんだぞ。当主に対する敬意も礼儀もわきまえないなら、この場に足を踏みいれることは許されない。お前たちは招かれていない」
めったに見ない、アトレーの怒りに満ちた様子に、マックスとマーシャもたじろいでいた。
「これ以上の恥を、この場でさらさないでくれ。任官も取り消されるかもしれない。それでもいいのか」
マックスが本当にわからないという顔をして突っかかって来る。
「でも、なぜです?わからない」
「何がわからないんだ」
「だって、僕はこの家の将来の主人です。自分勝手にふるまって何が悪いのですか」
その言葉に対し、思い違いも甚だしいと返し、マーシャに向かって言った。
「マーシャ。領地の屋敷は今どうなっているんだ。引き継ぎなどは終わっているのか?」
突然聞かれ、マーシャは驚いたようだ。
「引き継ぎってなんのですか?」
「屋敷の管理に関してのだ。当たり前だろう」
「知りませんわ。そんなの私の仕事じゃあ、ありませんから」
これには、アトレーが驚いた。屋敷の管理は、女主人の仕事だ。家政の切り盛りはマーシャがしていると思っていたのだ。
「じゃあ、今まで誰が屋敷の采配を振るっていたんだ?」
「さあ、誰でしょうね?私達が行く前にやっていた人が、そのままやっているのじゃあないですか?」
そう言って、首をかしげている。本当に知らないようだった。
「お前は、引き継がなかったのか? じゃあ、いったい領地で何をしていたんだ」
え、と目が泳いでいる。
ああ、たぶん碌な事をしていないな、やはり調べなければいけない。
これは、考えていたよりもずっとまずい状態になっているのかもしれない。嫌な予感が心を暗くした。
馬車が到着したと、侍従長が連絡にやってきた。
「奥様とお子様方、皇都一のホテルを予約いたしました。
本日は、そちらにお泊りいただくのがよろしいかと思います。馬車を呼び、荷物もそちらに積み終えましたので、どうぞこちらへ。明日、ご連絡を差し上げます」
そう言って、すっと三人を馬車に案内してくれた。
行先のホテル名を告げ、さっさと馬車を向かわせた。
そして言った。
「アトレー様、ご連絡が必要な先がございましたら、受けたまわりますが」
良い使用人がいるのはありがたい事だ。
「申し訳ないが、グレッグに連絡を入れて欲しい。なるべく早く会いたいと」
「早速」
はあ~ッと溜息をついた。領地でのマーシャの素行調査が急ぎ必要だ。そして領地の屋敷の管理が今どうなっているのかについても。
邸でパーティーや茶会を開く事も無かったので、屋敷の維持、管理は簡単だし、維持費用もあまり高額ではない。
使用人の数も少ない。だから、マーシャに任せきりだった。毎年の維持管理費が上がって来るが、それはチェックしているし、問題は見当たらない。
マーシャも一応伯爵家の息女だ。淑女教育を受けているので、領地や、館の采配については学んでいる。
邸の采配は女主人の第一の仕事だ。それが、全くのノータッチだったとは!
自分自身は書斎と自室とくらいしか使わなかったし、食事も書斎に簡単な物を運ばせていた。家政には手も口も全く出していなかった。
両親たちが待っている部屋に戻ると、今のマーシャ達の様子や話の内容をそのまま話した。
隠し立てせずに、ちゃんと周囲に相談しないといけない。
今回は仕事が絡むし、問題があるなら全てをはっきりさせてか進めないと、周囲に迷惑を掛ける。
そして、勝手に次期伯爵夫人と名乗る女と、嫡男と名乗る子供もいる。その二人が、実際にその権利を現在持っていることが恐ろしくなった。
明日、グレッグに相談して、対応すると両親とキースに話しておいた。
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