氷の貴婦人

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第四章 マックスの学園生活

初めての運動会

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 体育祭の日は晴天だったので、観覧席も満員になっていた。

 生徒達も張り切っていて興奮気味だ。
 演目は午前中が綱引きと、騎馬戦、リレー、借り物競走、障害物競走、午後が馬術競技で三時頃には終る。

 寮単位の対抗戦で、三つに分かれて勝敗を争う。

 僕は脚が速いので、リレーの選手に選ばれた。他には騎馬戦と馬術競技に出る。
 ここは都会なので、馬に乗り慣れているのは、もう少し年上の生徒たちで、三年生からの出場は珍しいらしい。

 領地で育った僕には馬は身近なものだったが、大きい馬に乗り始めたのは、十一歳からのことだった。

 キースも出場すると言っていたが、馬に乗り始めたのは、十二歳くらいからだそうなので、僕のほうが有利だ。

 馬術競技では無理だが、騎馬戦では彼と戦えそうだ。それが楽しみで、ワクワクしている。
 公式にケンカが出来るわけだもの、力比べが出来る。王女様の見ている前で落馬させるのもいいかも。

 競技は一年生と二年生の混合リレーで始まった。
 応援合戦も声援も派手だった。一族郎党を連れた親達が、メガホンを持って大騒ぎしている。

 結果は僕の属するイースト寮が一番。サウス寮が二番、キースのいるウエスト寮が三番だった。

 俄然、周囲の生徒たちが盛り上がり始め、帰って来た選手を拍手で迎えている。

 次の競技は障害物競走だ。
 これは全学年から参加する。運動が苦手な人が参加するせいか、モタモタしていて笑える。これは、笑いを取るための競技だな。思いっきり笑わせてもらった。

 同室のマーキスがこれに出ていて、麻袋を腰まで引っ張り上げて走るとき、前にビタンと転んだ。顎を擦りむいたようだ。
 やれやれだ。
 ゴールした彼に、救護班が駆け寄って、負傷者テントに引っ張って行った。
 かっこ悪い奴だ。

 次は三年から四年生のリレーだ。ようやく出番が回って来た。
 走る順番は、あらかじめ決めてある。
 僕のチームは、最初と最後に四年生の特に早い選手が走り、それ以外は三年と四年が順番に走るよう、くじ引きで決めた。

 僕は四番目だ。

 キースは、と探すと、アイツ!

 先頭走者としてトラックに並んでいた。
 他の二チームは四年生なのに!

 すでに観客席から歓声が上がっている。
 ハッピーと呼ぶのが結構聞こえる。

 先頭の走者は目立つものさ。女の声がうるさいが、こっちの走者は速いのだ。この歓声の中で赤っ恥をかいてしまえ、と思っているうちにスタートが切られた。

 速い。なんだ、あいつめちゃくちゃ速いじゃないか。
 コースの途中でスタミナ切れし始めたのか、少しスピードが落ち、同着1位でバトンを渡した。相手は4年生だった。

 やられた。どんどん差が開いていく。
 他二チームは3年生だ。

 四番の僕にバトンが渡った時には、こっちのチームはだいぶ離されてのビリだった。
 頑張って差を縮めたけど、これでは全く目立てない。くたびれもうけというものだ。
 結果は、がっかりな三位に終わり、皆でしょんぼりと座席に戻った。

 チームが温かく迎えてくれて、この仕返しは、借物競走で返す、というリーダーの叫びに、皆と一緒にオーッと叫んだ。

 借物競走は運だよね。
 運ならハッピーが最強だな。という声が、どこからか聞こえた。え、それも出るの?

 出ている。横に座っている奴に聞いてみた。

「なあ、これ幾つ出てもいいの?」

「うん。出たいのに立候補するんだ」

 出る気はなかったけど、またアイツが目立つのはムカつくな。

 嫌な予感がする。また格好良く目立ちそうな。

 スタートと同時に、キースが先頭を切って飛び出した。箱から出した紙を広げ、読んでいる。
 周囲の応援の声が凄い。

「お姫様の人形か、お姫様にちなんだ物を持っている人いますか?」

 観客席に向かって走りながら、キースが叫んでいる。

 女の子がぴょんっと立ち上がり、良く通る高い声で叫んだ。

「はい、はい。私、お姫様です」

 えー、本物のお姫様、有りですか?
 特設テントの貴賓席から女の子が走り出ようとする。

 キースが駆け寄り、断っている? 雰囲気だ。
 王妃様が、行っていらっしゃい、というようなジェスチャーをすると、キースが恭しくお姫様の手を取って一緒に走り始めた。
 拍手の中を二人で走り、見事一等賞を勝ち取った。

 他の選手は探し物に苦労している。かつらを引いた奴は、かつら着用者に声をかけることもできず諦めていた。同チームの奴だった。
 もう一人はサーベル、もう一人はプードルだった。うちのチームは運に見放されている。

 他の出場者は花の刺繍のハンカチ、黒いネクタイ、白い帽子、赤い靴などの比較的ありそうなものだったので、次々にゴールしていった。

 借物競争は進み、イースト寮は何とか二位を勝ち取った。

 選手が待機する場所に、キースがスツールを運んできて王女を座らせ、話し相手になっている。確かに王女は他の者には目もくれず、キースを見つめていた。
 すごくきれいな女の子だ。そしてキースとはお似合い。それなら僕でも同じことなのだ。

 結果が発表されて、バラバラと選手たちが席に戻ると、次は高学年のリレーで、
 騎馬戦の次に盛り上がる競技だ。

 会場の熱気が盛り上がって来る。
 声援の仲、選手がトラックの中に集まっていく。

 その中を逆の方向へ、キースが王女様の手を取ってエスコートしていく。
 まるで王と王妃を騎士が取り巻いているように見えた。それだけ二人は存在感が別格だった。

 僕の周囲も観客席も、何の反応も見せないのは慣れているのだろうか。当たり前な事のように見ている。

 また横に座っている生徒にこっそり聞いてみた。

「キースと王女様がすごく親しげだけど、貴族達からの反発はないの?王女に取り入りたい家門も多いでしょ」

「ああ、そういうのはあるかもしれないけど、王女様がああだもの。何か言ったら嫌われてしまうよ。
 それにまだ幼いし、キース自身はお守り役程度にしか考えていないからね」

「そんなものなんだ。緩いね」

「それに王女様の友人はキースの妹達なんだよ。妹たちと三人で飛びついて来るから、キースにとったら三人の妹、かな?
 大変だよね。かわいそうに」

 キースの妹と言えば、侯爵家の双子か。
 まだ会ったことが無い。母が父を奪った相手の子供達だもの。従妹弟だけど、縁は薄い。
 キースの側にいれば、その内顔を合わせることもあるだろう。
 その時どんな対応をされるか分からない。あからさまに無視されるだろうか。

 なにせ、ソフィ叔母は、今でもキースに関わっていないそうだ。
 そこまで徹底しているなら、僕のことなんか、あからさまに避けて通りそうだ。

 ぼんやりとリレーを眺めている内、もうアンカーにバトンが渡っていた。

 次の騎馬戦の用意で、そろそろ厩舎に行かなくてはいけない。

 競技に参加するのは三年生以上で、三、四年生は馬術部の持っている馬を、借りることになっている。
 上級生は自分の馬を使うことが許可されているので、選手は馬を連れてきてもらっている。

 早く行かないと良い馬が取られてしまう。周囲に断ってから、急いで厩舎に向かった。まだ良い馬が残っているのでホッとし、その中から一番立派な馬を選んで鞍を置いた。

 軽く歩かせて調子を確かめる。いい感じだ。そのまま歩かせて、会場へと向かうと、やはりキースと間違える人が声をかけてくる。体操服だと、更に見分けがつかないと、よく言われる。
 適当に返事をして、会場の自陣に停止させた。

 自陣では、大将役の最上級生が待ち構えていて、上着と鉢巻を渡された。
 メンバーがはっきり分かるようにチームカラーが分けられているそうで、イーストは赤色のものだ。
 馬の前垂れも渡されたので、首に掛けた。赤地にイーストの紋章が描かれていてかっこいい。

 一番小さいサイズのジャケットを受け取り、着てみたらぴったりだった。
 鉢巻は、これまた派手な刺繍が施された広幅のもので、ジャケットとお揃いの赤色だ。眉の上くらいから額に巻いて、頭の後ろできつめに結ぶよう言われた。

 間違っても、動いているうちに落としてはいけない。その場合も失格になるそうだ。そんなことになれば、まぬけと呼ばれるぞ、と脅された。

 選手が揃ったところで、最終打ち合わせが始まった。あらかじめ打ち合わて戦法を決めていたので、調整程度だ。

 だが馬を引き連れ、衣装を着込み、剣を手にしたメンバーで集まると、緊張感が全然違った。

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