氷の貴婦人

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第四章 マックスの学園生活

騎馬戦の結果

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 イーストは他の二チームから狙われているため、人数が減ってしまい、大将も戦っている。

 慌てて馬を返し、大将の側に向かうが、邪魔されてなかなか近づけない。

 迂闊に近づくと、こちらがやられてしまう。けれど、大将が帽子を取られたらお仕舞いなのだ。

 大将はさすがに強く、立て続けに二人を倒した。
 この時ほど、あの馬鹿げたLOVEマークの帽子が尊く見えたことはなかった。

 隙間を見つけ、打ちかかってくる剣を叩き返しながら側に馬を寄せる。
 ジャケットの腕の部分が頑丈に作られていて、腕でも剣を防げた。

「よお、マックス、やるなお前。見どころあるよ」

 大将に褒められた。なんだか心臓がドキンとした。

 その時、金色の髪が視線の横をちらっとかすめた。
 キースが突っかかってきている。あいつ、笑っているじゃないか。もしかして、僕より性格、悪いんじゃないのか?

 そう思いながら、キースの剣をはじいて、その場を離れた。
 馬の首を回して、ぐるっとイーストの後ろに回り込み、走り寄った。

 全く後ろ側を意識していない奴がいたので襲い掛かった。剣で叩いて体勢をくずし、後ろから鉢巻を引いた。すると騎士が落馬した。
 これはどうなるんだろう。鉢巻は取れていない。

 戸惑っていると、突然、ワーッと歓声と悲鳴が上がった。
 見回したら、イーストの大将が帽子を取られたところだった。

 あ~、やられた。

 ものすごく、ガクッと気落ちした。こんな気分は初めてだった。この短時間で、こんなに気持ちが上がったり下がったりしたことは、今までない。

 残ったイーストチームの騎士数名と、大将がフィールドの外に向かい、僕にも声を掛けてきた。

「マックス、お前よくやったよ。いい戦いぶりだった」

 口々にチームメイトに言われ、なんとなく泣きたいような気分になった。
 大将に肩を叩かれた。

「来年、リベンジしてくれよ。期待しているからな」

 そうか、最上級生は、来年はいないんだ。
 はあ~、なんだか感情のコントロールが難しくて疲れる。

「早くフィールドから出て、観戦しようぜ。きっとおもしろいぞ」

 急いで待機場所に行き、馬から降りて、皆で観戦した。
 広がった陣容のイーストは、丸く集まったサウスをドーナツのように取り囲んで戦っている。

 両陣営とも、数が減っているので、その形もばらばらになりつつあるようだ。そこここで、一対一の戦いが繰り広げられている。
 さすがに大将の王子様は守られているだろうと思ったら、他の騎士と同じように戦っていた。

 相手はキースだ。まずくないのか? いいのか、それ。
 まあ、キースだからいいか。自然にそう思ってしまい、ぎょっとした。
 周りの生徒にも聞いてみたら、同じように思っているのが分かった。

「キースだからなあ。いいんじゃないか?俺にはできないけど」

「そうだな。キースなら殿下に勝っても問題ないな」


 二人は楽しそうに、結構過激にやり合っている。おまけに二人共、腕がいい。
 紙の剣が折れない程度で、お互いの体勢を崩そうと狙い合っている様子だ。
 ただ、馬自体の能力がジョンの馬の方が断然良く、キースの馬は小回りが利かない感じだ。あれは、最後に残った馬じゃあないか?
 そういえば、厩舎でキースの姿を見なかった。

 実は、キースは貴賓席に王女を送り届け、挨拶しているうちに準備が遅くなり、一番最後に厩舎に行ったのだった。

 次々に勝負が付き、騎士達が打ち取られ、数騎が残った状態になった。
 やっぱり目立つ。キースも目立つが、ジョンも目立つのだ。その二人がいい勝負をしていれば、そりゃあ目立つし見ごたえがある。

 黄金の騎士対白馬の王子様だ。どっちが主役なんだろう。
 まあ、白馬の王子様が白いバラの盛られたつば広帽子をかぶっているので、黄金の騎士対白馬の王女様にも見える。

 観覧席の応援も、キャーという声と、ウォーという声が飛び交ってうるさいこと。どっちがどっちを応援しているかは謎だ。キースも美しいもんな。僕も同じ顔だけど。

 そうするうちにウエストの大将が討ち取られ、サウス寮チームの勝利で幕が降りた。

 全員で一緒にフィールドを一周し、拍手に送られ、厩舎に向かった。
 僕はとにかく疲れ切っていた。体もきついけど、メンタルが更にきつかった。

 そこから一時間が昼食の休憩に充てられていた。
 観覧席を探すとランス伯爵達が手を振っていた。興奮で目が輝いている。

「マックス、すごいじゃないか。馬の扱いが巧みで驚いたよ。すごくかっこよかった」

「楽しそうで、チームメイトとも仲が良くて、よかったわ。」

 侍従達が木陰に簡易テーブルとイスを運び食事の用意をしている。彼らも楽しそうでにこにこしている。サンドイッチとジュースという簡単な食事だけど、すごく美味しい。お腹が空いているし、気分が疲れているので、オレンジジュースが最高にうまいし、食後のチョコレートがあちこちを癒してくれる。

 目いっぱい食べた。満腹して満足して、満たされるってこういうのを言うんだろうな、と思った。

 ふと、先ほど疑問に思った事を聞いてみた。

「キースがジョン王太子に打ちかかって行ったけど、あれは大丈夫なんでしょうか」

「ああ、問題ないよ。昔のサイラス殿下にも、グレッグが全く遠慮なく接していたからね。懐かしいな」

「お父様は、どうだったのですか?」

「アトレーは少し遠慮していたかな? それが逆にサイラス殿下には寂しかったらしいけどね」

 はあ、ということは、キースのあれはグレッグ伯父さんに似たということか?
 まだまだ、キースの事が全然わかっていないことが、わかった。
 でも、僕もグレッグ伯父さんと血の繫がりがある。僕とキースはとても血が近い存在なんだな。

 近くを通りかかる人々が僕を見ている。見られることには慣れているので、気にならないが、今までの容姿に目を留めると言う以上の何かが感じられる。
 キースとの関係についてか、今日の活躍についてか、色々混ざっているんだろうな。

 そこに、男性が二人の娘と息子を連れて近付いて来た。
 礼儀正しく、ランス伯爵達に挨拶し、紹介を頼んだ。

「マックス。こちらはお前の叔母のソフィの夫で、モートン侯爵家のニコラス殿だ。
 ご挨拶して」

「はじめまして。マックス・ハリルです」

「僕の事はニコラス伯父さんと呼んでくれると嬉しいな。
 この子たちは君の従妹弟だよ。マリベルとルース、ハーレイだ。これからよろしくね」

 子供たちが、順番に挨拶をしてくれた。一番小さい男の子が一番うれしそうにしている。女の子たちは、不審顔というか、不思議な表情をしていた。

 娘たちの様子を見て、ニコラスが言った。

「キースと似ていすぎて、変な気分になるんだろうね。僕だって、戸惑うよ。本当に似ているんだね」

 それにはランス伯爵が答えた。

「双子でもないのに不思議なことですね。でも、大人になれば変わるでしょう。生活と性格が容姿を変えていくものだから」

 なんとなくすっと気分が落ち込んだ。生活はキースより下になるし、性格は彼にかなう気がしない。それが容姿に表われると、どうなるんだろう。

 ニコラスがにこにこしながら言った。

「そうですね。今でも、マックスの方がキースより落ちついた雰囲気を持っている。まったく同じじゃあないですね」

 僕の方が落ち着いている?ああ、そういう風に言われると悪くないかもしれない。
 なんとなくこの男性の言葉は気持ちよく心に届く気がした。
 今日は気持ちの上がり下がりが激しい。やはり疲れる日だ。
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