仁義なき野球

千三十四六

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勝利のためでなく

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 3回裏、東京マルボウズの先頭打者カレーパンは、豪快なポーズでレフトスタンドへ向けてホームランを予告した。その姿にスタンドが沸き立つ中、大阪ヤーサンズの2番手投手「千人殺し」のブルも負けじと対抗心を燃やし、予告申告敬遠を試みる。しかし、ヤーサンズベンチからはその指示が出なかった。

 ブルが投じた初球、カレーパンはまさかのセーフティバントを決め、出塁する。その瞬間、スタンドの声援が一段と高まった。続く打者が送りバントを成功させた。次の打者はタマの飼い主。ブルの初球をしっかりと捉え、センター前ヒットを放つ。カレーパンは一気にホームへ突っ込んだ。

 腹巻きゴンドウがバックホームを試みる。レーザービームのような速さでボールが返るが、際どいタイミング。審判は一瞬の沈黙の後、判定を下す。「セーフ!」スタジアムは大歓声に包まれ、マルボウズファンが盛り上がる。

 しかし、ここでマルボウズのデカチョウ監督がベンチから立ち上がり、両手で空に大きな長方形を描いてリプレイ検証を要求する。スタジアムが一瞬静まり返る中、スローモーションでプレーが再生される。すると、画面にはアウトのタイミングが映し出される。観客は驚きと悲鳴が交錯し、再度静寂が訪れる。

 判定がアウトに覆ると、マルボウズファンからは自軍が不利になるリプレイ検証をしたことに不満の声が上がった。「ふざけんな!」「なんでこんなことに…!」といった怒号が飛び交い、スタジアムの空気が一気に重苦しくなる。

 その時、デカチョウ監督が静かにマイクを手に取り、場内の注目を集めた。彼は深い呼吸をし、毅然とした表情で語り始める。「オレにはアウトだとわかっていた。後々スロー再生してこのシーンが実際はアウトだったとわかると、お互いしこりが残る。禍根を残さぬよう、今この場でアウトにしておいたのだ。」

 監督の言葉に、スタンドは一瞬静まり返った。ファンたちはその意図を理解し始め、心の中に込められたフェアプレー精神に感動する者も多かった。徐々に拍手が起こり、次第に大きな喝采へと広がっていく。涙を流すファンもおり、感情が高ぶった場面に心を揺さぶられる。

 一方、ヤーサンズのマッチ箱の戦車監督は独り言をつぶやいた。「いや、オレがリプレイ検証要求するつもりだったんだけど…」
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