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カシアス 3
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その後まもなく2人は婚約したが、両家の両親を含めた周りの人間には冷ややかな目で見られている。ロゼリアだけは話だけはしてくれるが、誰かがいるとすぐに「ごめんなさい」と逃げられてしまう。すっかり落ち込んだレティシアは「ミリアベル様が私たちを恨んでいるんだわ」と嘆くようになった。
カシアスは必死にミリアベルに会おうとしたが。見張りだけではなく周りの生徒たちにも阻まれてしまう。
焦りだけが募っていく中、学園の馬車停まり場であの日ミリアベルと一緒にいた男を見つけた。人を待っているような男はカシアスを見つけると「ちょうど良い、話がある」と人気のない隅に誘った。
シオン・クフェア侯爵令息と名乗った彼はカシアスが口を開く前におっとりと、それでいて反論を許さない圧をこめて言った。
「キオザリス殿。君と君の婚約者が毎日ミリアにまとわりつくのをやめさせてくれないかな。ミリアは君たちの顔を見たくないぐらいに嫌っているし、現婚約者が元婚約者を追いかけまわして意味の分からないことを怒鳴っているなんて。君とキオザリス侯爵家にとっても醜聞だろう?」
「レティがミリアベルに怒っている? そんなことありえません。むしろ私に婚約を解消されたミリアベルがレティにしつこく嫉妬しているのでしょう!」
カシアスがきっぱりと否定するとシオンは目を細めた。その獲物を見据えるような鋭いまなざしに本能的に恐ろしさを感じて身構える。
「ミリアと妹に聞いていたとおり君は見たいものしか見えないんだね。そんなありもしない心配をしているならば、君があらゆる手を尽くして手に入れた婚約者と周りの状況を見ておいた方が良いと思うよ」
シオンの冷たくもどこか憐れむような口調に怒りで目の前が赤くなる。何よりも自分は一度も呼ばなかった愛称呼びするのが気に障ってカシアスはきつく言い返した。
「あなたに言われなくても私はレティと幸せになります。それに、あなたはミリアベルとずいぶんと親しいようですから、レティと私に関わらないように言っておいてくれませんか」
「ああ、もちろんだ。これだけはお互いに意見が一致して助かったよ。同じ侯爵家の者としてやっと目が覚めたキオザリス侯爵と誠実な夫人と次期侯爵殿を信じているよ。
……それと、私のミリアを名前で呼ぶのもやめてくれ。彼女が嫌がるし婚約者の私も非常に不愉快だ。君たち2人がまたミリアに近づいたら容赦はしない」
なぜか両親の名前が出たことを不審に思うも、それ以上に自分を大嫌いだと言って去っていったミリアベルが彼とあっさりと婚約したと知ってカシアスはなぜかひどくショックを受けた。
冷え切った目をしたシオンは「では、もう会うことはないだろうけれど。お幸せに」と美しく微笑んで去っていった。呆然と見送っているとレティシアがやって来た。
「カシアス、こんなところにいたのね。ずいぶんと探したのよ!」
「あ、ああ。すまない」
「いいわ、遅れちゃったのは私だから。お待たせ。……あ」
カシアスの視線の先にはふんわりと微笑んでシオンを出迎えるミリアベルがいる。それを見たレティシアは愛らしい顔をしかめた。
「ミリアベル様ったらまたああやって新しい婚約者様との仲を見せつけているのねっ!! カシィと別れたばかりなのにもう新しい婚約者がいるなんてなんてはしたない人なのかしらっ! 待っていて、言ってくるわ!」
「ま、待てレティ。彼らには関わらない方が良い」
「まあ、何で? あの人がカシィと別れてから皆ずっと変なのよ。あの人の友だちのイリアベル様は『ミリアを陥れてまで欲しかった婚約者様とこれまで通り仲良くしていればいいでしょう』ってずっと嫌味を言ってくるし。きっとミリアベル様が私たちに嫉妬して皆に悪く言っているんだわ。あの人、最初から私のことを嫌っていたもの」
レティシアがミリアベルが彼女を嫌っていたことを知っていたことにカシアスは胸がずきりと痛んだ。
最後に会ったミリアベルは”嫌い”なことをカシアスにずっと伝えていたけれど、自分は何1つ聞いてくれなかったと怒っていた。
(もし、あの時ミリアの言うことを聞いていたら。今頃は彼女とまだ……)
カシアスの内心に気づいたようにレティシアは燃えるような怒りのこもった目を向けた。
「カシィ。まさかあなた、あの人のことをまだ好きだなんて思っていないわよね? あの人は初めから私からあなたを奪ったあげくああやって幸せな姿を見せつけて嫌いな私を嘲笑っているのよ。私だってあの人なんか大嫌いっ。あなたもそう思うでしょう? ねえ、私が好きならあの人に大嫌いだって言ってやって!!」
カシアスのシャツにしわができるほど強い力ですがって訴える姿には狂気すら感じる。カシアスはミリアベルを罵るレティシアを必死に宥めながらも、愛らしい彼女が自分が嫌って遠ざけてきた嫉妬深い女に変わってしまったことに恐怖を感じた。
それでももう離れられない。今度怒り狂ったレティシアがミリアベルに手を出せば、キオザリス侯爵家よりも力のある侯爵家のシオン・クフェアは容赦なく更なる地獄に叩き落してくるだろう。自分はいつもレティシアと一緒にいて彼女を見なければいけない。
(ああ、なぜこんなことになったんだ。ただミリアとレティ、2人と仲良くしたかっただけなのに……)
カシアスの嘆きは永遠に心を蝕み続け、そのたびに望まない現実を見せつけられる。
――――――――――
ここまで読んでいただきましてありがとうございます!
たくさんの方々に読んでいただいた上に、たくさんのお気に入り、しおり、いいね、エールをいただきまして本当にありがとうございます!
おかげさまでな、なんと、5月26日の日間女性向け恋愛小説ランキング(投稿時1位)と恋愛ランキング(投稿時1位)に入れていただき、喜びと驚きがぶっ飛びすぎて本当にこれ自分が書いた小説なのだろうかと宇宙猫状態になっております(笑)
本当にたくさんの方々に温かい応援をいただきまして心から感謝申し上げます。
また、他の小説も読んでいただいた上に応援していただきましてありがとうございます! 拙い文章ですが少しでも楽しんでいただければ幸いです。
カシアスは必死にミリアベルに会おうとしたが。見張りだけではなく周りの生徒たちにも阻まれてしまう。
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シオン・クフェア侯爵令息と名乗った彼はカシアスが口を開く前におっとりと、それでいて反論を許さない圧をこめて言った。
「キオザリス殿。君と君の婚約者が毎日ミリアにまとわりつくのをやめさせてくれないかな。ミリアは君たちの顔を見たくないぐらいに嫌っているし、現婚約者が元婚約者を追いかけまわして意味の分からないことを怒鳴っているなんて。君とキオザリス侯爵家にとっても醜聞だろう?」
「レティがミリアベルに怒っている? そんなことありえません。むしろ私に婚約を解消されたミリアベルがレティにしつこく嫉妬しているのでしょう!」
カシアスがきっぱりと否定するとシオンは目を細めた。その獲物を見据えるような鋭いまなざしに本能的に恐ろしさを感じて身構える。
「ミリアと妹に聞いていたとおり君は見たいものしか見えないんだね。そんなありもしない心配をしているならば、君があらゆる手を尽くして手に入れた婚約者と周りの状況を見ておいた方が良いと思うよ」
シオンの冷たくもどこか憐れむような口調に怒りで目の前が赤くなる。何よりも自分は一度も呼ばなかった愛称呼びするのが気に障ってカシアスはきつく言い返した。
「あなたに言われなくても私はレティと幸せになります。それに、あなたはミリアベルとずいぶんと親しいようですから、レティと私に関わらないように言っておいてくれませんか」
「ああ、もちろんだ。これだけはお互いに意見が一致して助かったよ。同じ侯爵家の者としてやっと目が覚めたキオザリス侯爵と誠実な夫人と次期侯爵殿を信じているよ。
……それと、私のミリアを名前で呼ぶのもやめてくれ。彼女が嫌がるし婚約者の私も非常に不愉快だ。君たち2人がまたミリアに近づいたら容赦はしない」
なぜか両親の名前が出たことを不審に思うも、それ以上に自分を大嫌いだと言って去っていったミリアベルが彼とあっさりと婚約したと知ってカシアスはなぜかひどくショックを受けた。
冷え切った目をしたシオンは「では、もう会うことはないだろうけれど。お幸せに」と美しく微笑んで去っていった。呆然と見送っているとレティシアがやって来た。
「カシアス、こんなところにいたのね。ずいぶんと探したのよ!」
「あ、ああ。すまない」
「いいわ、遅れちゃったのは私だから。お待たせ。……あ」
カシアスの視線の先にはふんわりと微笑んでシオンを出迎えるミリアベルがいる。それを見たレティシアは愛らしい顔をしかめた。
「ミリアベル様ったらまたああやって新しい婚約者様との仲を見せつけているのねっ!! カシィと別れたばかりなのにもう新しい婚約者がいるなんてなんてはしたない人なのかしらっ! 待っていて、言ってくるわ!」
「ま、待てレティ。彼らには関わらない方が良い」
「まあ、何で? あの人がカシィと別れてから皆ずっと変なのよ。あの人の友だちのイリアベル様は『ミリアを陥れてまで欲しかった婚約者様とこれまで通り仲良くしていればいいでしょう』ってずっと嫌味を言ってくるし。きっとミリアベル様が私たちに嫉妬して皆に悪く言っているんだわ。あの人、最初から私のことを嫌っていたもの」
レティシアがミリアベルが彼女を嫌っていたことを知っていたことにカシアスは胸がずきりと痛んだ。
最後に会ったミリアベルは”嫌い”なことをカシアスにずっと伝えていたけれど、自分は何1つ聞いてくれなかったと怒っていた。
(もし、あの時ミリアの言うことを聞いていたら。今頃は彼女とまだ……)
カシアスの内心に気づいたようにレティシアは燃えるような怒りのこもった目を向けた。
「カシィ。まさかあなた、あの人のことをまだ好きだなんて思っていないわよね? あの人は初めから私からあなたを奪ったあげくああやって幸せな姿を見せつけて嫌いな私を嘲笑っているのよ。私だってあの人なんか大嫌いっ。あなたもそう思うでしょう? ねえ、私が好きならあの人に大嫌いだって言ってやって!!」
カシアスのシャツにしわができるほど強い力ですがって訴える姿には狂気すら感じる。カシアスはミリアベルを罵るレティシアを必死に宥めながらも、愛らしい彼女が自分が嫌って遠ざけてきた嫉妬深い女に変わってしまったことに恐怖を感じた。
それでももう離れられない。今度怒り狂ったレティシアがミリアベルに手を出せば、キオザリス侯爵家よりも力のある侯爵家のシオン・クフェアは容赦なく更なる地獄に叩き落してくるだろう。自分はいつもレティシアと一緒にいて彼女を見なければいけない。
(ああ、なぜこんなことになったんだ。ただミリアとレティ、2人と仲良くしたかっただけなのに……)
カシアスの嘆きは永遠に心を蝕み続け、そのたびに望まない現実を見せつけられる。
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また、他の小説も読んでいただいた上に応援していただきましてありがとうございます! 拙い文章ですが少しでも楽しんでいただければ幸いです。
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