皆が望んだハッピーエンド

木蓮

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 ティアラ・エヴェニース公爵令嬢の自室には幼い頃から遊びに来るいとこの王太子に加えて、先日開かれたお茶会で仲良くなった伯爵令嬢が訪れていた。王太子に「3人で話がしたい」と命じられたメイドと王太子の従者が部屋の外に出ると、オネット・フェイド伯爵令嬢は念のために防音魔術を展開した。

「これで外に会話が聞こえることはございません」
「さすがね、オネット。子どもの姿になってもその素晴らしい魔術の腕はそのままなのね」
「それはそうだろう。私もこうして時を戻る前にティアラと過ごした時間はすべて覚えている。出会った時から君と結ばれた時の喜びもね」

 王太子ブルーム・ロンハートは赤くなったティアラの頬にキスをした。見た目は10歳の子どもだが、その隙間なくぴったりと寄り添う仲睦まじさはオネットが最後に2人と会った時と変わらない。
 オネットたち3人は同一人物として生きた記憶を持って人生をやり直している。
 オネットはフェイド伯爵家に受け継がれる治癒の魔力を持って生まれた。栗色の髪に深緑色の瞳、華やかな自分たちとは似ても似つかない地味な長女を両親は我が子として認めず、唯一の取り柄といえる治癒の魔力を鍛えて家のために役立つように命じた。両親の執念が実ったのか、オネットは王妃に気に入られて王太子ブルームの婚約者候補に選ばれた。その後、19歳の時に命を落とし、婚約者候補に選ばれる直前の10歳の頃に戻った。
 それからは前の人生の記憶を活かして生家と縁を切って自由になるべく動きだした。それは目の前の2人も同じだったようで、密かに連絡をとりあい”以前と同じ人生をやり直す”ために集まった。
 再会を喜びあう2人の会話が途切れた隙にオネットは素早く口を挟んだ。

「殿下、エヴェニース様。さっそく話を始めさせていただいてもよろしいでしょうか」
「忙しない奴だな。まあ、良い。わざわざおまえを呼んでやったのは、以前と同じく真の王太子であるティアラにその治癒の力を捧げるためだ」
「きっと私たちがまだ婚約を結ぶ前に人生をやり直せたのは、偉大な王として国を導くブルームを支える魔力と資質を持つ公爵令嬢の私が今度こそは国のために尽くすためだと思うの。
 オネット、以前の私を知るあなたもわかってくれるわよね」

 王家の血を引くティアラはまばゆい金色の髪に王族の澄んだ空色の瞳をした華やかな少女だ。甘い美貌で女性をとりこにしている国王にそっくりなブルームと対で作られた人形のように見える。
 ティアラは国一番の魔力量を誇る王太子ブルームに匹敵する魔力量を持っており、ブルームは幼い頃から彼女を正式な婚約者として迎えると決めていた。しかし、皮肉にもその膨大な魔力がティアラの身体を蝕み、その病弱さを不安視した王妃によってオネットと共に婚約者候補にされた。
 正式な婚約を結ぶ16歳になってもその病弱さは改善せず。王妃と重臣たちは息子の猛抗議を跳ねのけてオネットを正式な婚約者に指名しようとした。ティアラはそのまま儚くなってしまうのではないかと思う程に嘆き悲しみ、それを見たオネットはティアラに提案した。

 ――これまで貯めた私のすべての魔力を使えば、お身体が癒えるかもしれません、と。

 ブルームとエヴェニース公爵家の協力の下、オネットはティアラに治癒を施し、成功した。
 代償として魔力を使い果たしたオネットはエヴェニース公爵から娘を助けた褒美として莫大な慰謝料を貰い、自分を蔑む生家と縁を切って平民となって修道院に身を寄せた。
 王宮医師から健康体と認められたティアラは晴れてブルームと正式に婚約し、18歳で結婚した。
 しかし、元々の病弱さが祟ったのか、ある日ティアラは風邪をこじらせてあっけなく亡くなった。早すぎる死に王家、特に愛し合っていたブルームは気が狂ったように悲しんだ。
 人生をやり直した2人はオネットに「ティアラの身体を治癒の力で癒し、王太子妃候補の座を退くように」と望んだ。それを聞いたオネットも自分の幸せを叶えるために承知した。
 ――いらない過去は全部捨ててこい。信じる友人の言葉を胸に抱いて。

「もちろんです。3つの条件を受けいれると魔術誓約を結んでいただけるのならば、引き受けましょう」

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