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「貴様、まさか私たちを脅迫しているのか?」
「いいえ。私がこれからの新しい人生を生きていくための準備です」
承諾以外の返事をしたことが癇に障ったのか、短気なブルームが顔を真っ赤にして怒鳴りつけてくる。
ブルームは初めて会った時からオネットを嫌っていて、普段は社交用の王子らしいキラキラした仮面の下に隠している鬱憤をぶつけられてきた。彼にとっては今でもオネットは都合の良い道具なのだろう。
こみあげてくる嫌悪と怒りをぐっとこらえてティアラを見ると、困惑と憐れみが混ざった表情を浮かべた彼女がやわらかな声を出す。
「そうね。あなたはやっと貴族に戻れたのにまた魔力を失うのだもの。それは不安よね。わかったわ、私もできる限りのことをするわ」
「お気遣いありがとうございます。では、さっそくですが話を進めさせていただきます」
オネットはうなずき、魔術師の友人に作ってもらった魔術誓約書を起動した。
魔術誓約書は主に貴族たちが重要な契約を交わすために使う契約魔術を施された紙だ。本来は魔術師の立会いの元で契約を結ぶが、簡易的な契約の場合はこちらを使用する。契約を一方的に破れば罰が下る。
2人はまさかオネットが魔術誓約を持ち出すとは思わなかったのか、不安と不満のこもった顔でテーブルの上の紙を見つめて何か言いたげな顔をしたが。オネットはさっさと話を切り出した。
「1つ目。以前と同じならば、じきに王妃様が我が家に婚約を打診されるはずです。ですので、お2人には早くに婚約を結ぶか、王妃様を説得していただきたきたいのです」
「そんなことはおまえが断ればいいだけの話だろう。第一、魔力を失った無能なおまえなどに打診がいくはずがあるまい」
「ええ、私も婚約などお断りです。しかし、以前に王妃様にフェイド伯爵一族の者が受け継ぐ治癒の素質を見込まれ、婚約を打診したと伺ったことがあります。ですので、私が魔力を失っても一族の血を引き、私よりも魔力量が豊富な妹を婚約者候補に選ばれる可能性は捨てきれないかと思います。
そうなれば、妹を可愛がる父は内心良く思わないでしょう。私は父の陰謀に巻き込まれたくありません。ですので、お2人に手を打っていただきたいのです」
父は治癒の素質を持って生まれたオネットを幼い頃から政略の駒として厳しく躾けた。そして、家の繁栄のために王家に売り込み、溺愛する1つ年下の妹は彼女が望む婚約者の元へ嫁がせた。父は貴族らしい冷酷な野心家だが愛する家族には甘い。愛娘を強引に王太子の婚約者候補にされればありとあらゆる手段で報復するだろう。
「こちらこそお断りだ」とオネットの反撃にむっとしていたブルームも執念深いと名高い父のことを思い出したのか、苦虫を噛みつぶしたような表情を浮かべる。一方、ティアラはふんわりとした笑みを浮かべて何やら考えているようだったが、やがて優しい声で承知した。
「いいわ、この件が済んだらお父様に早急に婚約の話を進めるようにお願いします。あなたの忠告通り王妃様の動きにも気をつけるわ。他は何をすればいいの?」
「2つ目は、以前と同じく報酬をいただきたく思います。そうですね、エヴェニース様が今着けていらっしゃるその宝石のついた髪飾りをいただけないでしょうか」
ブルームはまた文句を言いかけたが、ティアラが笑顔でうなずいたことで渋々口を閉ざした。
「随分と手回しの良いことね。あなた、魔力を失って貴族でいられなくても、平民のようにその実力で王宮の文官になれるのではなくて?」
名前の通り精緻な細工を施したジュエリーのように愛らしい笑顔を浮かべながらも、ティアラの目には昏い炎が燃え盛っている。彼女の圧に押されたようにあえて視線を逸らしてオネットは最後の条件を口にした。
「いいえ。私がこれからの新しい人生を生きていくための準備です」
承諾以外の返事をしたことが癇に障ったのか、短気なブルームが顔を真っ赤にして怒鳴りつけてくる。
ブルームは初めて会った時からオネットを嫌っていて、普段は社交用の王子らしいキラキラした仮面の下に隠している鬱憤をぶつけられてきた。彼にとっては今でもオネットは都合の良い道具なのだろう。
こみあげてくる嫌悪と怒りをぐっとこらえてティアラを見ると、困惑と憐れみが混ざった表情を浮かべた彼女がやわらかな声を出す。
「そうね。あなたはやっと貴族に戻れたのにまた魔力を失うのだもの。それは不安よね。わかったわ、私もできる限りのことをするわ」
「お気遣いありがとうございます。では、さっそくですが話を進めさせていただきます」
オネットはうなずき、魔術師の友人に作ってもらった魔術誓約書を起動した。
魔術誓約書は主に貴族たちが重要な契約を交わすために使う契約魔術を施された紙だ。本来は魔術師の立会いの元で契約を結ぶが、簡易的な契約の場合はこちらを使用する。契約を一方的に破れば罰が下る。
2人はまさかオネットが魔術誓約を持ち出すとは思わなかったのか、不安と不満のこもった顔でテーブルの上の紙を見つめて何か言いたげな顔をしたが。オネットはさっさと話を切り出した。
「1つ目。以前と同じならば、じきに王妃様が我が家に婚約を打診されるはずです。ですので、お2人には早くに婚約を結ぶか、王妃様を説得していただきたきたいのです」
「そんなことはおまえが断ればいいだけの話だろう。第一、魔力を失った無能なおまえなどに打診がいくはずがあるまい」
「ええ、私も婚約などお断りです。しかし、以前に王妃様にフェイド伯爵一族の者が受け継ぐ治癒の素質を見込まれ、婚約を打診したと伺ったことがあります。ですので、私が魔力を失っても一族の血を引き、私よりも魔力量が豊富な妹を婚約者候補に選ばれる可能性は捨てきれないかと思います。
そうなれば、妹を可愛がる父は内心良く思わないでしょう。私は父の陰謀に巻き込まれたくありません。ですので、お2人に手を打っていただきたいのです」
父は治癒の素質を持って生まれたオネットを幼い頃から政略の駒として厳しく躾けた。そして、家の繁栄のために王家に売り込み、溺愛する1つ年下の妹は彼女が望む婚約者の元へ嫁がせた。父は貴族らしい冷酷な野心家だが愛する家族には甘い。愛娘を強引に王太子の婚約者候補にされればありとあらゆる手段で報復するだろう。
「こちらこそお断りだ」とオネットの反撃にむっとしていたブルームも執念深いと名高い父のことを思い出したのか、苦虫を噛みつぶしたような表情を浮かべる。一方、ティアラはふんわりとした笑みを浮かべて何やら考えているようだったが、やがて優しい声で承知した。
「いいわ、この件が済んだらお父様に早急に婚約の話を進めるようにお願いします。あなたの忠告通り王妃様の動きにも気をつけるわ。他は何をすればいいの?」
「2つ目は、以前と同じく報酬をいただきたく思います。そうですね、エヴェニース様が今着けていらっしゃるその宝石のついた髪飾りをいただけないでしょうか」
ブルームはまた文句を言いかけたが、ティアラが笑顔でうなずいたことで渋々口を閉ざした。
「随分と手回しの良いことね。あなた、魔力を失って貴族でいられなくても、平民のようにその実力で王宮の文官になれるのではなくて?」
名前の通り精緻な細工を施したジュエリーのように愛らしい笑顔を浮かべながらも、ティアラの目には昏い炎が燃え盛っている。彼女の圧に押されたようにあえて視線を逸らしてオネットは最後の条件を口にした。
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