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「……最後の条件ですが。このままでは私は以前と同じく父に貴族籍を抜かれてただの平民になるでしょう。今世では未熟な子どもの身で放り出される分、貴族の華やかな生活に未練が生まれるかもしれません。その誘惑を断ち切るためにも、唯一私が縁を持つお2人には私との一切の関わりを断っていただきたいのです」
友人に指導してもらった通りいかにも悲し気なフリをして言うと、ティアラは探るようにじっとりとオネットを見つめた。
以前の彼女は誰をも魅了する可憐な笑みの裏で王太子妃候補として周りから期待を寄せられるオネットを憎悪していた。自分のために魔力を失ったオネットが婚約解消され周りから失望と嘲笑を浴びせられた時にはうっすらとほくそ笑んでいたものだ。
やり直した今もなお以前の人生の記憶と感情を引きずっている彼女はオネットの凋落を喜び、手を貸すだろう。
案の定、ティアラは同情するような表情を作りながらも獲物をいたぶるような愉悦を湛えた目を向けてきた。
「まあ、それはそうね。でも、命の恩人のあなたを見捨てるなんてできないわ。お父様に頼んで良い修道院を紹介してあげるわ」
オネットにしか見えないようにティアラが歪んだ笑みを浮かべると、ふいにブルームが鼻息荒く口を挟んできた。
「ふんっ、わかったぞ。おまえは以前の人生で俺の婚約者候補の栄誉を与えられながらも何1つ役に立てなかったことを恥じいり、今世でもその身に余る治癒の力をティアラに捧げて逃げ出したいのだな。
ふっ、気難しい母上の機嫌をとるだけのかわいげのない奴だと思っていたが、なかなか健気なところもあるではないか。
良い、俺が母上にかけあって俺の侍女見習いにしてやろう。俺の慈悲に感謝して尽くすように」
うすら笑いを浮かべるブルームに悪夢がよみがえってきて思わず身震いすると、ブルームに媚びていると勘違いしたのかティアラは悪霊のような顔でオネットをにらみ、恋人の手に自分の手を重ねた。
「ブルームは優しいのね。でも、それはいけないわ。オネットは魔力を失って貴族としていられなくなるのだもの。そんな訳ありの人間を正当な理由もなく傍に置いたら公平な王太子であるあなたの評判に傷が付くわ。
寂しいけれどやっぱりここはオネットの希望を叶えてあげましょう」
「ん、んん、わかった。ティアラの言う通りにしよう。……おい、おまえ。例えおまえに流れるその血は希少なものだ。ティアラの優しさに免じて逃げ出すのは許してやるが、俺の目の届く場所にいろ」
ブルームはティアラの上目遣いに笑みを浮かべるとオネットに冷たく命じた。その言葉にこめられた真意におぞましさを感じたが、気づかれないように謝意を表すフリをしてうつむいた。
2人はようやくオネットをいたぶることに満足したのか、魔術誓約書にサインをしていく。それを確認するとオネットもまたサインをし、契約が完了するのを見届けると内心笑った。
以前のオネットは修道院の人々と幸せに暮らしていた。しかし、捨てたはずの過去は忘れた頃にオネットを襲って命を奪った。
――後悔の記憶を持ったまま時を戻ったのはオネットも同じ。だから、今度は嘘を吐いてでも忌まわしい過去を捨てて自分の幸せを守り抜く。
「契約は成立しました。……お望み通りお幸せに」
――後日、伯爵家の令嬢が行方不明になった。彼女は突然の病によって貴族には欠かせない魔力を失い、療養のために馬車で修道院に送られる途中だった。
彼女の生家と友人の公爵家、王家も加わって彼女を探したが本人も御者も見つからず。とある森で壊された馬車と血だまりが見つかったことで野盗か魔獣に襲われて殺されたと判断された。社交界ではしばらくの間悲劇のご令嬢として噂されたがしだいに忘れられていった。
――そして、一部の者は彼女を密かに探していたが見つからず。3人は以前と少し違う人生を歩むことになった。
友人に指導してもらった通りいかにも悲し気なフリをして言うと、ティアラは探るようにじっとりとオネットを見つめた。
以前の彼女は誰をも魅了する可憐な笑みの裏で王太子妃候補として周りから期待を寄せられるオネットを憎悪していた。自分のために魔力を失ったオネットが婚約解消され周りから失望と嘲笑を浴びせられた時にはうっすらとほくそ笑んでいたものだ。
やり直した今もなお以前の人生の記憶と感情を引きずっている彼女はオネットの凋落を喜び、手を貸すだろう。
案の定、ティアラは同情するような表情を作りながらも獲物をいたぶるような愉悦を湛えた目を向けてきた。
「まあ、それはそうね。でも、命の恩人のあなたを見捨てるなんてできないわ。お父様に頼んで良い修道院を紹介してあげるわ」
オネットにしか見えないようにティアラが歪んだ笑みを浮かべると、ふいにブルームが鼻息荒く口を挟んできた。
「ふんっ、わかったぞ。おまえは以前の人生で俺の婚約者候補の栄誉を与えられながらも何1つ役に立てなかったことを恥じいり、今世でもその身に余る治癒の力をティアラに捧げて逃げ出したいのだな。
ふっ、気難しい母上の機嫌をとるだけのかわいげのない奴だと思っていたが、なかなか健気なところもあるではないか。
良い、俺が母上にかけあって俺の侍女見習いにしてやろう。俺の慈悲に感謝して尽くすように」
うすら笑いを浮かべるブルームに悪夢がよみがえってきて思わず身震いすると、ブルームに媚びていると勘違いしたのかティアラは悪霊のような顔でオネットをにらみ、恋人の手に自分の手を重ねた。
「ブルームは優しいのね。でも、それはいけないわ。オネットは魔力を失って貴族としていられなくなるのだもの。そんな訳ありの人間を正当な理由もなく傍に置いたら公平な王太子であるあなたの評判に傷が付くわ。
寂しいけれどやっぱりここはオネットの希望を叶えてあげましょう」
「ん、んん、わかった。ティアラの言う通りにしよう。……おい、おまえ。例えおまえに流れるその血は希少なものだ。ティアラの優しさに免じて逃げ出すのは許してやるが、俺の目の届く場所にいろ」
ブルームはティアラの上目遣いに笑みを浮かべるとオネットに冷たく命じた。その言葉にこめられた真意におぞましさを感じたが、気づかれないように謝意を表すフリをしてうつむいた。
2人はようやくオネットをいたぶることに満足したのか、魔術誓約書にサインをしていく。それを確認するとオネットもまたサインをし、契約が完了するのを見届けると内心笑った。
以前のオネットは修道院の人々と幸せに暮らしていた。しかし、捨てたはずの過去は忘れた頃にオネットを襲って命を奪った。
――後悔の記憶を持ったまま時を戻ったのはオネットも同じ。だから、今度は嘘を吐いてでも忌まわしい過去を捨てて自分の幸せを守り抜く。
「契約は成立しました。……お望み通りお幸せに」
――後日、伯爵家の令嬢が行方不明になった。彼女は突然の病によって貴族には欠かせない魔力を失い、療養のために馬車で修道院に送られる途中だった。
彼女の生家と友人の公爵家、王家も加わって彼女を探したが本人も御者も見つからず。とある森で壊された馬車と血だまりが見つかったことで野盗か魔獣に襲われて殺されたと判断された。社交界ではしばらくの間悲劇のご令嬢として噂されたがしだいに忘れられていった。
――そして、一部の者は彼女を密かに探していたが見つからず。3人は以前と少し違う人生を歩むことになった。
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