皆が望んだハッピーエンド

木蓮

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 朝食を作り終えたフィオナは朝のタスクの最難関ポイント、寝起きの悪い家族を叩き起こすべく白猫のクリームちゃんを抱っこして彼の部屋に向かった。
 ノックをして入ると艶やかな銀色の髪をした美しい青年がベッドに仰向けになって眠っていた。まぶたは閉じているが付き合いの長いフィオナには寝ているフリだとわかる。

「シフレ、ご飯できたよ。起きて」
「……ぐぅ~。すやすや」

 声をかけるとわざとらしい寝言が返ってくる。フィオナはもう一度声をかけて無駄だと悟ると「クーちゃん、お願い」とシフレのにやつく口元めがけてクリームを投げた。
 無の表情のまま飛んでいったクリームは微調整して見事に顔の上に着地し、慌てて起き上がったシフレにがしっとしがみつく。しばらくの格闘の末にクリームを引きはがしたシフレは紺碧色の瞳に涙を浮かべて訴えた。

「こらっ、フィー!! 寝ている人様にいたずらをしちゃダメだって言っただろう!! そんな悪い子になって俺は悲しいぞ!!」
「いくら呼んでも聞こえていないふりをしている人の方が時間を無駄にしている分悪いと思う」
「くうぅぅぅ、フィーが冷たい!! ちょっと前までは仕事から帰ってくると『一緒に寝よう』って甘えてきてたのにっ」
「そ、そんなことない!! クーちゃんと一緒に寝たかっただけで、シフレはおまけだもん!」
「2人とも、せっかくの朝ごはんが冷めるぞ」

 呆れたようなクリームの声に我に返ったフィオナは黒歴史を持ち出したシフレをじろりとにらむとクリームを抱えて部屋を出た。しばらくしてやって来たシフレは大好物のオムレツを見て破顔する。

「お~、おいしそ~。やっぱり仕事のご褒美にはフィーの作るご飯だなっ」
「ふふっ、いつも喜んでくれてうれしいよ」

 手放しで喜ぶシフレにフィオナもくすぐったくなって微笑んだ。
 シフレは各国の高位貴族や王家から依頼を引き受けている凄腕の魔術師だ。見た目は20代前半ぐらいだが、実年齢は3桁を軽く超えているらしい。時を戻ったオネットは約束通り迎えに来たシフレに助けられて隣国に移り住み、フィオナと名前を変えてシフレと猫精霊のクリームとともに暮らしている。
 長生きで独特の考えがある彼にとってフィオナは17歳になってもまだまだ幼い子どもに見えるのか、兄ぶってかまってくる。今も面倒な依頼を片付けてご機嫌なシフレは食後のコーヒーを飲みながら良いことがあると笑顔を見せた。

「そういえば、ザック男爵の領地に最近温泉とかいう大浴場ができたんだってさ。何でも地底から湧き出たお湯に浸かると疲れがとれて、お肌もぷるぷるもちもちになるらしい。フィーの好きなプリンもあるらしいぞ。行ってみるか?」
「ザック男爵様が……。そっか、あの方は面白いことが好きだもんね」

 良く修道院を訪れていたゆで卵のようなフォルムと人懐っこい笑顔をした人好きな男爵の顔が思い浮かんできてフィオナは懐かしさを感じた。同時に過去を思い出してももう心が痛まないことに安心した。
 以前の人生でティアラを深く愛していた王太子ブルームは突然亡くなった愛妻ともう1度会うために王家に伝わる”時戻しの秘宝”を使いその生贄としてフィオナを利用した。

「おまえがもったいぶらずにもっと早くにティアラの弱った身体を治していれば助かったんだ。おまえがティアラを殺したんだ。おまえがまた失敗したら次は修道院の奴らを同じ目に合わせてやる」

 残忍な笑みを浮かべるブルームに脅され、フィオナは家族を人質にとられた恐怖と理不尽な逆恨みへの怒りを感じながらもなすすべもなく秘宝に命を吸い取られた。そして、時戻しが始まった時に自分もまたその対象だと知って絶望した。
 もしそのまま1人で時を戻っていたら。きっと自分の幸せを奪ったブルームとティアラへの憎しみと恐怖に捕らわれ、すべてを投げうってでも2人と自分を利用する生家の人々に復讐し、自らの命を絶っていただろう。
 でも、シフレが「必ず助ける」と約束してくれたから。フィオナは自分の本当の願い自由になりたいを思い出していらない過去自分を縛る鎖を捨てた。そして、また生きる喜びを知ることができた。

(シフレと皆がいてくれて良かった)

 以前の人生で一緒に暮らしていた修道院の皆とは手紙を通じてやりとりをしている。
 新しい人生を歩み始めても故国のことを聞くと辛い思い出ばかりを思い出してしまい、親しかった彼らと直接会うのも避けていたが。穏やかな気持ちでいられる今ならば会いたいと思う。

「うん、行ってみたい! それと、できたら修道院の皆にも会いたいな」
「決まりだな。じゃあ、さっそく出かけるか」
「えっ、ちょ、ちょっと待って。留守にするなら日持ちしない食材を片づけないと。あと、家のことをルーナさんたちにお願いして……」
「よし、俺はまた2度寝を楽しんでくる。後は頼んだ」
「もう! 寝すぎて身体がコチコチに固まっても知らないんだから!!」

 手をひらひらさせながら逃げる家族にフィオナは文句を言うと、楽しい旅行のために準備を始めた。

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